帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest6 幻獣と対話 前編

 場面は変わる。森林や山脈が立ち並ぶが、所々の大地が抉られ、樹は薙ぎ倒され焼け野原に等しい有様となった場所であった。

 此処は天空島アニマリウム……。かつて、パワーアニマル達の加護により護られた聖地だが、今や見る影も無い。

 島の中心地にて進撃を続けるのは有象無象のオルグ魔人の大群。彼等は樹を焼き払い、花を踏み躙り前へ前へと進軍する。

 

「フハハハハハハ‼︎ 思い知ったか、ガオレンジャー‼︎ これが、オルグの力よ‼︎」

 

 オルグを率いるハイネスデューク、テンマは高笑いを上げながら、オルグ魔人達の中心にて大股で歩んでいた。

 

「無駄な抵抗は止めよ‼︎ この数、この戦力差、貴様等には万に一つも勝機は無い‼︎ 今の貴様等には、パワーアニマルも居ない‼︎ 我等の勝ちだ‼︎」

 

 テンマは、ほくそ笑みながら島を見渡す。周りには、パワーアニマル達が虫の息となって倒れ伏していた。

 さしもの精霊達も、物量作戦を展開したオルグ達の多勢の前には及ばなかった。

 

「くっくっく、隠れても無駄よ! ゆっくり、炙り出して料理してくれるわ‼︎」

 

 そう言いながら、テンマは背中の掌を広げる。すると、10本の指先から光線が発射され、天空島を攻撃し始めた。

 

 

 

 その様子を、ガオレンジャー達が岩陰から見ていた。全員、ガオマスクも砕け、スーツもズタボロだ。如何に凄まじい激戦であった事を物語っていた。

 

「くそッ……このままじゃ嬲り殺しだ……」

 

 物陰に隠れながら、ガオイエロー/鷲尾 岳が様子を伺う。

 

「……最早、此れ迄か……」

 

 ガオブルー/鮫津 海は口惜しそうに地面を殴る。

 

「パワーアニマル達も皆、やられてしまった……。ガオスーツにも変身出来なくなるのも時間の問題か……」

 

 ガオブラック/牛込 草太郎も落胆した様に天を仰ぐ。

 

「……悔しい……。私達の力でも及ばないなんて……」

 

 ガオホワイト/大河 冴も嘆いている。

 

「………」

 

 ガオシルバー/大神 月麿が無言のまま立ち上がる。

 

「シルバー?」

 

 ガオシルバーの様子に異変を感じたガオホワイトは声を掛けた。

 

「……俺が囮になる。その隙に皆は、ガオズロックで脱出しろ」

 

「なに馬鹿な事を言ってんだ‼︎」

 

 ガオシルバーの発言に、ガオイエローは怒声を上げる。囮役を買って出る……九分九厘、助かる見込みは無い。死にに行く様なものだ。

 

「無茶よ、シルバー‼︎ 貴方、死ぬつもりなの⁉︎」

 

 テトムも必死に止めた。だが、ガオシルバーは止まらない。

 

「俺は1000年前の人間だ。今更、死ぬ事に恐怖は無い。それに……俺が死んでも誰も……」

 

「『誰も悲しむ奴は居ない』なんて言ったら殴るぞ、シルバー」

 

 それ迄、沈黙を通してきたガオレッド/獅子 走が口を開いた。口調こそ静かだが、怒りが滲み出ているのが分かる。

 

「お前、また1000年前と同じ真似をする気か? 俺達に先代の戦士達と同じ思いをさせるのか?」

 

 ガオシルバーは1000年前も当時の仲間たちを救う為、自らを犠牲にしたのだ。その身をオルグに変えて……。

 

「俺達は仲間だろう? お前が死んだら俺達が悲しいさ。それに医者として、ガオレンジャーのリーダーとして命を粗末にする奴を見過ごせるか」

 

「レッド……」

 

 ガオレッドとガオシルバーは相対する。ガオレッドは意を決した様に、テトムを見た。

 

「テトム……一つ考えていた事がある。ガオレンジャーは、ここに居る6人以外に今後、現れないのか?」

 

「……パワーアニマルに選ばれれば可能性は……でも、パワーアニマルは全て……」

 

 ガオレッドの質問に、テトムは力無く返す。だが構わず、ガオレッドは続けた。

 

「俺は思うんだ。まだ、パワーアニマルは全員、揃っては居ないって。ガオレンジャーとなる宿命を待っている奴は居るんじゃ無いかって」

 

 そう言いつつ、ガオレッドの言葉は確信を突いている様だった。

 

「だから……俺達がやられてしまっても、ガオレンジャーとなる人間は必ず現れる‼︎ 俺達が未来に繋ぐんだ‼︎」

 

 ガオレッドは獣皇剣を携え、立ち上がる。

 

「囮役は俺達全員だ。俺達でオルグの注意を引いている間に、テトムは地上に脱出してくれ」

 

「レッド……‼︎」

 

「大丈夫。俺達は死なない。時間を稼ぐだけだ。皆、それで良いか?」

 

 ガオレッドは仲間達を振り返る。ガオイエローは

 

「俺達の意見が必要か? お前がやりたい様にやれば良いさ、リーダー」

 

 やや悪態を吐きながらも、全幅の信頼の意を表すイエロー。ガオブルーは

 

「あんな奴等に負けねェよ、何時だってネバギバだ‼︎」

 

 追い詰めながらも、ポジティブに応えるブルー。ガオブラックは

 

「どんな時だって全力で突っ張るのみだ‼︎」

 

 力強く、そして頼もしく意気込むブラック。ガオホワイトは

 

「苦楽も共に分かち合って来たんだから。最後まで付き合うわ‼︎」

 

 決して折れぬ事の無い、不屈の闘志を見せるホワイト。

 

「皆……ありがとう……テトム、行ってくれ‼︎」

 

 ガオレッドが促す。テトムは迷っていたが、仲間達の覚悟を汲み取り、強く頷く。

 

「分かったわ……。だけど約束して。誰一人、死なないで‼︎ 」

 

 

『応‼︎』

 

 

  ガオレンジャー達は全員、立ち上がる。何時だって、彼等は絶望を糧に立ち上がって来た。今回も、そうだ。覚悟を決めた戦士達が、其処に居た。

 

「皆、俺も戦わせてくれ‼︎ ガオレンジャーとして戦いたい‼︎」

 

 ガオシルバーも、また自らの意思を表明した。だが……。

 

「シルバー、お前は、テトムと一緒に逃げてくれ。オルグの追求から、彼女を守る役割も必要だ」

 

「何を言ってる⁉︎ 俺だって、ガオレンジャーだぞ‼︎」

 

 今度は、ガオシルバーがガオレッドに食って掛かるが……。

 

「シルバー‼︎ テトムに万が一の事があったら、どうする⁉︎ それこそ、俺達の完敗だ‼︎」

 

「く……しかし……‼︎」

 

 ガオレッドの説得に、ガオシルバーは押し黙る。彼の言わんとする事は分かる。だが、死地に赴く仲間達に背を向けて逃げる事は彼のプライドが許さない。

 

「お前は、いざという時の為に必要なんだ。分かってくれ……‼︎」

 

「……レッド……‼︎」

 

 

「見つけたぞ‼︎ 」

 

 

 野太い怒声が響き渡る。オルグ魔人達に見つかってしまった。もう一刻の猶予は無い。

 

「シルバー、早く行け‼︎」

 

 ガオレッドは背を向けながら仲間を急かす。遂に、ガオシルバーは渋々ながら頷いた。

 

「……分かった……必ず、生きて会おう‼︎」

 

 ガオシルバーはテトムの手を引いて走る。後ろでは、ガオレンジャー達とオルグ達の戦いが始まった。

 テトムは、走りながらも仲間達に叫ぶ。

 

「皆‼︎ きっと助けに来るから‼︎ 待ってて‼︎」

 

 彼女の言葉に、ガオシルバーの胸は締め付けられそうになる。仲間を見捨てて逃げる……だが、ガオシルバーは誓った。必ず、助けに来ると……。

 

 

 深夜の中、大神は目を覚ました。全身、寝汗でびっしょり濡れている。

 

「また、うなされてのね、シロガネ……」

 

 テトムは心配そうに、大神を見下ろす。

 

「皆の事を考えていたのね」

 

「…ああ…」

 

 大神は沈痛な面持ちで俯いている。彼等は無事なのか? 今頃、どうしてるのか? ただ、身を案じるばかりだ。

 

「大丈夫。きっと皆、無事よ。彼等を助け出す方法は必ずあるわ。私達は今、出来る事をやりましょう。それに、ガオゴールドが力になってくれるわ」

 

 焦燥に駆られる大神を、テトムは宥める。だが、大神は眉間に皺を寄せながら、溜息を吐く。

 

「あいつは……優し過ぎる。戦士には不向きだ」

 

 大神は先の戦いを思い出す。オルグの襲撃から猫を守る為、身を挺したガオゴールドの姿を。いつか、あの優しさが彼自身の首を絞める結果になり兼ねないか、彼は心配していた。

 

「あら? だったら、仲間達を守る為に一番に囮役を買って出た貴方は優しく無いのかしら?」

 

 テトムは茶化す様に大神を諌めた。話の腰を折られた大神は「風に当たってくる」と言って、外へ行ってしまった。そんな彼の背を、テトムは優しく微笑んでいた。

 

「貴方達は、よく似てるわ。不器用だけど、優しい所がね」

 

 

 

 翌日、陽は学校へ通学していた。何時も通り制服に着替え、祈と一緒にだ。

 本来、ガオレンジャーとなる際は、オルグの奇襲や彼等が出現する地域に直行する為、ガオズロックで生活するのだが、今回のオルグ達は、この竜胆町を標的にしているらしい。テトム曰く、自分がガオレンジャーである事を含め『鬼門』と呼ばれる出入り口が、この町からオルグ達の本拠地を繋いでいるらしい。その鬼門を見つけ出し塞がない限り、オルグは際限なく町に現れる。あわよくば、オルグ達の本拠地を炙り出す手掛かりにもなる。テトム達も、オルグ達の動向を探る為、竜胆町に滞在している。

 陽は用心深く日常生活を送る必要があった。テトムの話では、オルグは器物に邪気が宿り自然発生する例や力のあるオルグ達に直接、生み出される例がある。また、人間に擬態して人間社会に溶け込んでいる個体も居るらしい。つまり、自分達の隣にオルグが潜伏している可能性は無きにしも非ず、だ。

 まず、ガオレンジャーである自分達の任務はオルグ襲撃の際の撃退と、オルグ達が浸入して来る鬼門の捜索だ。鬼門は民間人には目視も接触も出来ない為、ガオレンジャーが捜索、破壊するしか無い。

 

「……兄さん、兄さんったら⁉︎」

 

 隣に歩く祈が、陽に話し掛けて来る。彼女の声で陽は我に返る。

 

「大丈夫? ボーッとしてるけど……」

 

「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をね……」

 

 陽は誤魔化すが、祈の顔は曇ったままだ。

 

「兄さん……やっぱり学校、休んだ方が良かったんじゃ無い? 朝から、ずっと上の空だし……」

 

 祈が訝しむのも無理はない。陽は、この2日間、まともに夜も寝れてないのだ。オルグとの戦い、ひいてはオルグを斬り捨てた際に手に感じる生々しい感触が、消えてくれないのだ。相手は人間じゃない、オルグだ。だが、曲がりなりにも生き物を斬ったと言う事実と断末魔を上げながら倒れ行く敵の姿が脳裏にこびりつき、陽を罪悪感に苛める。

 だが、それは正常な思考である。戦前の学徒動員ならともかく、最も平和な日常を生きて来た世代の高校生には、この2日間の経験は強烈過ぎた。

 これからも戦いを続けていなければならないのに、このままでは陽の精神が参ってしまうだろう。

それ以上に陽を悩ませているのは、レジェンド・パワーアニマル達の存在だ。彼等は、オルグを倒すと言う想いこそ一緒だが、人間を侮蔑し力を貸してくれているとは言えない。今のままじゃ駄目だ……。何とか、彼等と対話する切っ掛けを作らなくては……。

 

「おーーい、陽‼︎」

 

 後ろから猛、昇、舞花が歩いてくるのが見えた。3人共、いつもと変わらない様子で接してくる。

 

「昨日、休みやがって‼︎ 逢いたかったぜ‼︎」

 

 猛は、バンバンと背中を叩いて来る。陽は煩わしそうに手を払い除ける。

 

「つー訳で、ノートを写させて‼︎」

 

 そう言いつつ、馴れ馴れしく擦り寄る猛を引き離しながら陽は苦笑する。

 

「またか……。昇に写させて貰えよ」

 

 陽の言葉に、猛は眉を吊り上げる。

 

「ケッ‼︎ こいつに頭下げるなんて死んでも願い下げだ‼︎」

 

 そう言って、猛は昇を睨み付けるが、昇はウンザリした風に溜息を吐く。

 

「どうしたんですか? 喧嘩?」

 

「違うわよ、バカ兄貴の何時ものアレ」

 

 心配そうに気遣う祈を舞花が目配せした。陽も、呆れながら猛を見る。

 

「……またか、猛?」

 

「ああ、まただ‼︎」

 

 猛は酷く憤慨している様子だが、昇は素知らぬ振りだ。

 

「また、知り合った女の子が昇さんに惚れちゃったの。まともな女の子なら当たり前な事なのに、バカ兄貴は気に入らないんだって」

 

「ルセェ‼︎ コレが一度や二度なら良いが、毎回だぞ‼︎ どうして、コンパで俺がアタックしようとした子は、こいつに惚れるんだ‼︎」

 

 ブツブツと恨み言を漏らす猛を、陽は同情に満ちた目で見る。昇はクールな面持ちで異性から人気がある。加えて猛も黙っていれば、イケメンの部類に入るのだが所謂ムードメーカーかつ、お調子者な性格故に、どうしても損な三枚目の地位を甘んじていた。

 

「……ま、大丈夫さ。その内、良い事あるって」

 

「ありがとう、陽‼︎ お前だけが、俺の味方だ‼︎ という訳で、ノートを見せてくれ‼︎」

 

「分かったよ……後でな」

 

 どうせ断っても、しつこく付き纏ってくるんだろう。陽は仕方無いな、と言わんばかりに言った。猛は抱きついてくる。

 

「陽、サンキュー‼︎ 愛してるぜ‼︎」

 

「気持ち悪い事、言うな」

 

 猛の頭を掴んで押し返す陽。そんなチープなコントさながらの風景を呆れながら見る3人。

 

「相変わらず優しいね、陽さん。私なら、放っとくのに。ねェ、祈」

 

 舞花は小さく溜息を吐きながら祈に話を振る。

 

「……そうだね……」

 

 祈は、塞ぎ込んでいた。その様子に舞花は察した様に耳打つ。

 

「(昨日の事、陽さんに言ってないの?)」

 

「(言える訳無いよ……大体、何て説明するの?)」

 

「(ま、そりゃそうね……当事者の私だって信じられ無いのに……)」

 

 昨日、怪物に襲われた、なんて人に言ったって信じて貰える訳が無い……そもそも、その怪物から救ってくれたのが陽その人である事を、2人は知る由も無いが……。

 

「2人共、何をヒソヒソ話してる? 」

 

 昇が舞花達の様子を訝しみ、顔を挟んできた。

 

「い、いや⁉︎ 何でもない、何でもないよ! ねェ、祈⁉︎」

 

「う、うん……!」

 

「そうか?」

 

 どう見ても何でもない訳が無いが、敢えて昇は口を挟まなかった。

 

「ほら、猛。いい加減に離れ……!」

 

 そう言いかけた時、左腕のG−ブレスフォンが、けたたましく音を鳴らした。

 

「ん? 何の音だ?」

 

 猛が音を聞き付けて眉を顰めるが、陽は駆け出した。

 

「おい、どこ行くんだよ、陽! 学校は、コッチだろ⁉︎」

 

「ご、ごめん! 忘れ物した! 先に行って!」

 

 猛の言葉を振り切り、陽は走り去る。その背に猛は叫ぶ。

 

「あ、陽! ノート、どうなるんだよォ⁉︎」

 

 そんな悲痛な言葉を無視し、昇と舞花は怪訝な顔だった。

 

「どうしたんだ、あいつ?」

 

「さァ?」

 

 全く状況が飲み込め無い2人は、ポカンとするばかりだ。しかし、祈は疑惑の目で走って行く兄の背を見続けていた。

 

 

「何ですか⁉︎ 今から学校ですよ⁉︎」

 

 少し離れた場所で、陽はG−ブレスフォンに怒鳴る。

 

『そんな場合じゃ無いわ‼︎ オルグが暴れているの‼︎ 急いで‼︎』

 

 電話先のテトムも、陽に負けず劣らずの声で怒鳴り返し声は途切れた。陽は頭が痛くなる。

 

「全く、コッチの都合を考えてくれよ……‼︎」

 

 陽は天を仰ぎながら、ボヤく。度々、こんな事じゃ、オチオチ学校にも通えない。

 

「これで停学になったら、オルグの奴等の所為だ……‼︎」

 

 そう言いつつ、テトムから告げられた場所へ陽は急いだ。

 

 

 

 現場は、とある廃ビルの屋上。其処には30人を上回る人だかりが整列していた。

 誰もが、ぼーッとした虚ろな表情で、まるで白昼夢を見ている様な感じだ。

 その様子を、さも愉快な調子で眺めているのは、ツエツエとヤバイバだ。

 

「ホホホ! 今度こそ、ガオレンジャーを倒してやるわ‼︎」

 

 ツエツエは自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。隣には、ヤバイバが不安そうに、ツエツエが見る。

 

「しかし大丈夫か? 次は無い、って言われた手前、失敗続きの俺達だぜ? 今度、しくじったら……」

 

 そう言いつつ、ヤバイバは、ブルッと肩を震わせる。ツエツエは、ニヤリと笑う。

 

「心配無いわよ‼︎ こっちには、30人の人質が居るのよ‼︎ 如何に、ガオレンジャーと言えど手も足も出ない事、間違い無しよ‼︎ ふふふ、あの小生意気な小娘の、ぐうの音も出無い顔が目に浮かぶわ‼︎

 さあ、パイプオルガンオルグ‼︎ 死のコンサート開幕よ‼︎」

 

 ツエツエが叫ぶと、ビルの天辺に居たパイプオルガンの姿をした巨軀のオルグ魔人、パイプオルガンオルグが演奏を始める。

 

「では始めますわよ‼︎ 絶望と叫喚が織り成す甘美なる死のコンサートを‼︎ オルグ交響曲第一番『死出の行進曲』‼︎」

 

 そう言うと、パイプオルガンオルグの身体に備わる鍵盤が動き出す。すると背部にある多数のパイプから陰気臭い曲が演奏され始めた。その曲を聴いた人達は、何かに取り憑かれた様に虚ろな表情のまま歩き始めた。

 

「ホホホ‼︎ そーよ、進みなさい‼︎ 貴方達の進む先にあるのは死‼︎ あらゆる苦痛も悩みも開放し、穏やかに死になさい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグは甲高い女口調で叫ぶ。その言葉に従い人々は只々、前へ前へ足を動かす。このままでは、ビルを飛び降りてしまう。

 

 

「止めるんだ‼︎」

 

 

 演奏を引き裂く様に、ガオゴールドが乱入して来た。ツエツエは、待っていたと言わんばかりに、パイプオルガンオルグに命令する。

 

「来たわね、ガオレンジャー‼︎ 構う事無いわ、そいつらを地べたに叩き付けてやるのよ‼︎」

 

 其れに従い、パイプオルガンオルグの奏でる音楽が更に強まると、今まさに人々はフェンスを乗り越え、ビルの縁から飛び降りてしまった。

 

 

「ダメだァァァ!!!」

 

 

 ガオゴールドが絶叫するが、もう遅い。全員の姿がビルの陰に消えた。

 

「ヒャハハハ‼︎ 全員、プチュッと潰れたトマトになってるぜ‼︎」

 

 ヤバイバは狂喜しながら騒ぐ。だが下に落ちた音がしない。様子が変だと、ガオゴールドは恐る恐る覗き込む。すると下から、落ちた筈の人達がせり上がってき来た。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

 ヤバイバが事態を飲み込めずに焦る。人々、ガオズロックの背中に乗って全員、無事だった。

 

「ガオズロック! テトムか‼︎」

 

 ガオゴールドは安堵した。すると中から、ガオシルバーが飛び降りて来た。

 

「オルグ‼︎ これ以上の悪事は許さん‼︎」

 

 ガオシルバーは果敢に言い放つ。ガオゴールドも左に立ち、身構えた。

 

「キィィィ‼︎ アタクシの演奏を邪魔するとは無礼千万‼︎ この罪は重くてよ‼︎」

 

 パイプオルガンオルグも飛び降り、パイプと融合した右手で殴り掛かる。ガオレンジャーは連携を乱され、その瞬間に再び演奏を開始した。

 

「オルグ交響曲第二番‼︎『破壊と暴力のパジェント』‼︎」

 

 先程とは打って変わり重々しく力強い曲を奏でる。すると姿を現したオルゲット達が攻撃を仕掛けて来た。

 だが、このオルゲットは、いつも以上に連携を取っており何より強い。

 

「ゲットゲット‼︎」

 

「何だ強いぞ⁉︎ 」

 

「ご覧あそばせ‼︎ アタクシの曲の真髄は肉体と魂の支配‼︎ さっきの様に操るだけじゃ無く、力を限界まで引き出せますのよ‼︎ こんな風に‼︎」

 

 パイプオルガンオルグの曲に合わせ、オルゲット達は益々、強くなる。このままじゃ数で押し切られてしまう。ガオゴールドは、オルゲット達を防ぐに手一杯で反撃に手が回らない。ガオシルバーも同様だ。

 

「ホーホホ‼︎ コンサートには合唱が必要よ‼︎ 貴方達の苦悶に満ちた叫喚の合唱を聴かせてちょうだい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグの曲調は段々と強くなって行く。それに呼応し、オルゲット達の攻撃は激しくなる一方だ。その時、ガオゴールドは気付いた。1人だけビルの縁に残された女性を。彼女はフラフラしながら立っており、今にも落ちそうだ。

 

「危ない‼︎」

 

 ガオゴールドが叫ぶも遅く、オルゲットの放つ砲撃の余波で足を踏み外し落ちてしまう。ガオゴールドはフェンスを乗り越え彼女の身体を支えた。右腕で彼女を支え、左手でビルの縁を掴み辛うじて、ブラ下がる。

 

「クッ…!」

 

 何とか腕を上げようとするが女性の体重が右半身に掛かり、力が入らない。其処へ、ツエツエとヤバイバがやって来た。

 

「ヒャハハハ‼︎ 言い様だな、ガオゴールド‼︎ おら、おっ死んじまえ‼︎」

 

 ヤバイバはガオゴールドの左手の指を踏み付ける。掴んでいるのが手一杯のガオゴールドには、反撃さえ出来ない。

 

「オホホホ、良いわね良いわね‼︎ 格好の的とは、この事ね‼︎」

 

 ツエツエも杖で、ガオゴールドの手を叩き付ける。どんどん指先の感覚が無くなって行く。遂に限界を迎え、ガオゴールドは手を離してしまった。

 

「ゴールド‼︎」

 

 ガオシルバーは、オルゲットの攻撃をいなしつつ、落ち行くガオゴールドに向かい叫んだ。だが、ガオゴールドと女性は大地へ落ちて行く。この高さでは、ガオレンジャーと言え一溜まりも無い。

 

「最早、これまでか……!」

 

 落ち行く景色を見ながら、ガオゴールドは覚悟した。が、何かに受け止められた感覚がして、ガオゴールド下を見ると、グリフィンのパワーアニマルがガオゴールドを受け止めていた。

 

「き、君は⁉︎」

 

 ガオゴールドは目を疑う。昨日、自分達に従わないと言ったパワーアニマルの片割れが助けた。グリフィンは空中を旋回した後、ガオゴールドを背に乗せたまま、翼を振るう。すると、オルゲット達は次々と吹き飛ばされてしまった。

 

「キィィィ‼︎ また邪魔を‼︎ オルグ交響曲第三……‼︎」

 

 最後まで言い切る事なく、ガオシルバーによる反撃を喰らい、パイプオルガンオルグの鍵盤を撃ち抜かれてしまった。

 

「イヤァァ‼︎ 何て事してくれるの⁉︎」

 

 パイプオルガンオルグは叫ぶも、グリフィンに屋上に届けられたガオゴールドは、ほんのお返しにと言わんばかりに、パイプオルガンオルグの右腕を斬り落とした。

 

「イタァァァイ‼︎ アタクシの右腕がァァァ⁉︎」

 

 痛みに転げ回るパイプオルガンオルグを尻目に、ガオゴールドは剣を構えた。

 

「ゴールド、大丈夫か⁉︎」

 

「あぁ、何とかね‼︎」

 

 すんでの所で助かったガオゴールドは、ドラグーンウィングを構える。ツエツエ、ヤバイバは悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

「チキショウめ‼︎ もう少しだったのに‼︎」

 

「パイプオルガンオルグ‼︎ アンタの力はまだ残っているでしょう‼︎ 私達は引き上げるから、あとは頑張るのよ‼︎」

 

 そう言って、2人は姿を消した。残されたパイプオルガンオルグは、たった1人で対峙するしか無かった……。

 

 

 〜まさかの、ガオレンジャーを味方と考えないレジェンド・パワーアニマルの一対が、ガオレンジャーを助けた‼︎ これが意味を成すのは一体、何なのでしょうか?〜

 


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