帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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今回、また投稿時間が少しズレました。申し訳ありません( ; ; )

また、今回は残酷な表現、不快な描写が多数にありますが、その辺りを理解した上で、お読み下さい。


quest59 人間に潜む闇

 テトムは、空中に現れた巨大な髑髏の顔に戦慄した。

 

「あれが……閻魔オルグ……‼︎」

 

 その姿は、これまでに見てきた全てのオルグの中でもダントツに禍々しく、正に巨悪と呼ぶに相応しい存在だった。

 

「な、何だ…ありゃァァ⁉︎」

「閻魔オルグ……とは、よく言ったもんだな……‼︎ 地獄の支配者に相応しい化け物だ…‼︎」

 

 絵に描いた様な禍々しさを放つ姿に、猛と昇も恐怖を覚える。

 

「見て! 島が⁉︎」

 

 舞花が、鬼ヶ島を指差す。なんと、島全体に亀裂が入り崩れようとしているのだ。

 

「島が崩れて行く⁉︎」

「おい⁉︎ 陽達は大丈夫なのか⁉︎」

 

 千鶴と猛は騒ぎ立てる。その時、テトムは耳を澄まして、青ざめている。

 

「テトムさん、どうしたんだ⁉︎」

 

 ただならない様子に、昇は聞いた。テトムは…

 

「……地球が……叫び声を上げているわ……‼︎ 苦しい、苦しいって……‼︎」

 

 テトムは、ガオの泉を介し、地上の様子を確認した。しかし、泉はドス黒いドブの様に濁り、全く透き通っていない。

 

「邪気の量が異常だわ……‼︎ このままじゃ……地球そのものが死んでしまう……‼︎」

 

 絶望的な様子で、テトムは言った。猛は膝を突いて、祈り始めた。

 

「ちょ、兄貴‼︎ 何してるのよ‼︎ こんな時に‼︎」

「 俺達に出来る事なんか、何も無ェ‼︎ だったら……祈るしか無いじゃねェかよ……‼︎」

 

 猛の言う事も最もである。もう限界の限界にある瀬戸際に立たされてしまった。やるべき事は全てやり、もう出来る事は何もない……。

 あと、できる事はと言えば……祈るだけだ……。昇、舞花、千鶴も其れに続く。

 テトムも膝を突いて、祈りを捧げた。

 

 

「……荒神様……御先祖様……アマテラス様……おばあちゃん……‼︎

 お願いします……どうか、ご加護を……! 皆を護って下さい……‼︎

 地球を……地球に生きる全ての命を……御守り下さい……‼︎」

 

 

 大粒の涙を流しながら、テトムは強く祈りを捧げる。戦いの勝利に……そして、彼等の存命に……。

 

 

 

「……ヤマラージャ……だと⁉︎」

 

 大神は、姿を見せた閻魔オルグに驚愕した。確かに千年前、地上へて侵攻して来た、あの時と全く同じ姿だ。

 佐熊も、その姿に強い怒りを覚える。

 

「閻魔オルグめ……‼︎ 性懲りも無く、また現れたか‼︎」

 

 〜ほゥ……あの時、人身御供となった戦士だな、貴様は……。貴様と巫女の忌まわしい結界の為に、儂は鬼地獄から一歩たりとも、抜け出せなんだ……! だから、儂は力を蓄えてまち続けたのだ! 何れ、封印に綻びが生じる時をな!

 ……しかし、千年だ……如何に我々、鬼地獄のヘル・オルグが不死であるとは言え、無限に続く退屈とは実に拷問だったぞ‼︎

 だが……それも今日までだ‼︎ 邪魔をしていた貴様を三途の川に吐き出させ、鬼還りの儀にて打ち込んだ楔と、各地に植え付けたオルグドラシルの実であるオルグベリー……これらが綻びた結界を完全に破壊して、地上と鬼地獄を繋ぐ道を復活させたのだ‼︎〜

 

 ヤマラージャは高らかに言い放つ。

 

「クッ……やっとの思いで、テンマを倒したと思ったのに……‼︎」

 

 走は、更なる強敵の登場に、悔しげに唸る。だが、それを聞いたヤマラージャは、嘲笑う。

 

 〜テンマ……か……。彼奴は自分が、オルグの王などと宣っていた様だが……所詮、奴はゴズやメズと同様、儂の配下である一介のヘル・オルグに過ぎん‼︎ 少々、力を与えてやり、地上に進出して、ガオレンジャーを倒す迄は良かったが……その事に慢心し、増長し始めよった……‼︎

 挙げ句には、真のオルグの支配者である儂を差し置き、自分が支配者を名乗り始めた……地上に居た有象無象の、下等オルグ共を手下に据えてな……‼︎

 ガオネメシスは、その過程を経て、儂がテンマの下へ寄越したのだ……万が一、彼奴が力を暴走させて、儂の計画する鬼還りの儀が頓挫する結果とならん為の……保険としてな……‼︎〜

 

「な、なんだって⁉︎」

 

 誰もが驚愕した。あの、テンマも四鬼士達も全て、ヤマラージャの計画の内だったなんて……。

 

「もっと良い事を教えてやろう。お前達が倒した、テンマの身体には、鬼地獄を封ずる結界を破壊する最後の鍵が埋め込まれていた……。

 しかし、この鍵は、オルグでは破壊できん……この俺の力を持ってしてもな……。忌々しい精霊達の力を使わん限り、傷を付ける事すら叶わぬ……。詰まる所、お前達は自分の手で、鬼還りの儀を推し進めたと言う訳だ……‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉を聞いて、陽達は絶句した。自分達が命を賭けて倒したテンマは、決して倒してはならない敵を倒してしまったとは……。

 

「……そんな……‼︎ じゃあ、僕達の此れまでの戦いは……⁉︎」

「全くの無駄だったな。いや、無駄では無いな……お前達のお陰で、計画は完遂したのだ……寧ろ、ご苦労だった……と言うべきかな?」

 

 悪びれもせずに嘯くネメシス。愕然とする陽に対し、祈は激昂した。

 

「ご苦労だった⁉︎ 人を散々、利用して……沢山の罪の無い人達の命を奪って……ご苦労だった、で済ませるの⁉︎

 最低よ……‼︎ 貴方達なんか、絶対に許さない‼︎」

 

 ネメシスに、ヤマラージャを啖呵を切る祈。其れを見た、ヤマラージャは小馬鹿にする様に、せせら笑った。

 

 〜……フン……我々を許さない、は良かったな……。実に人間らしい手前勝手な……保身に満ちた考え方よ……。

 なら逆に問うが、娘よ……我々、オルグを生み出したのは誰だ⁉︎ 地球環境を破壊して、人間同士で醜く殺し合い、地球を邪気に適した環境としたのは誰だ⁉︎

 ……そう……貴様等、人間では無いか‼︎ 貴様等が、何もかも自分で蒔いた種が芽を出し、この様な事態となったのだ‼︎

 其れを棚に上げて我々を許さない、とは……片腹痛いわ‼︎〜

 

 ヤマラージャは人間側からすれば痛い所を突いて、反論してきた。確かに、オルグからすれば現代社会は、最も過ごし易い環境と言えるだろう……。陽の脳裏に、かつて、ガオドラゴン達の言った台詞が過った。

 

 

 〜自然を壊し、人間同士で殺し合い、オルグを生み出す格好の状況を作り出す貴様等、人間の方が余程、身勝手では無いか?〜  

 

 

 人間とオルグ……決して相容れない存在でありながらも、切っても切れぬ関係性にある。人間が争えば争う程、オルグは益々、数を増やす。

 そして、新たなオルグが生まれる……正に無限に続く、鼬ごっこだ。

 そして皮肉な事に……そう言う環境を作り上げて来たのは、ヤマラージャの言う通り、他ならない人間達だ。

 かつて、スサノオは、それを知って人間に絶望した……そして、ガオネメシスへと変貌してしまったのだ……。

 

 〜丁度良い……! ガオゴールド、そして、巫女の生まれ変わりの娘よ‼︎ 貴様等に見せてやろう‼︎ 貴様等が護ってきた人間が、守る値打ちすら無い物である事をな‼︎〜

 

 そう叫ぶと、ヤマラージャの口から漆黒の煙が吐き出され、陽と祈、そして、ガオネメシスの身体を包み込んでいく。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 走は、二人を包み込んだ黒煙を凝視する。

 

 〜フッフッフ……奴等に見せてやる迄だ! 人間の本来の姿をな‼︎〜

 

 ヤマラージャは邪悪に、北叟笑んだ……。

 

 

 

 陽と祈は気が付くと、竜胆市の中に居た。周りは、オルグの破壊行為により荒廃している。

 

「私達の街が……‼︎」

「メチャクチャだ……‼︎」

 

 陽も祈も、余りに酷い姿に絶句した。其処へ、ガオネメシスが現れる。

 

「これが人間の犯した罪の姿だ。人間達が地球を、長い年月を掛けて破壊し続けた結果、それが因果応報の形で帰って来たのだ!

 オルグと言う形でな‼︎」

「……勝手な事を言うな‼︎ そんな物、自分達の破壊行為や欲求を正当化する為の口実じゃ無いか‼︎」

「まだ、そんな事を言ってるのか⁉︎ あれを見るが良い‼︎」

 

 ガオネメシスは指を差す。其処には多数の人間達の姿があった。

 

「離せ! 俺は助かりたいんだ!」

「お願いします! 息子が、瓦礫の下敷きになってるんです‼︎」

「知った事か‼︎」

 

 泣きながら縋り付く母親と思しき女性を、中年男性が引き離そうとしていた。

 どちらも負傷しているが、中年男性の方は右頬に1センチ程の切り傷が出来ていたが、脚部に痛々しい裂傷のある母親からすれば、擦り傷に等しかった。しかし、それでも、彼は自分だけ助かろうとして、尚も食い下がる母親を強引に蹴り付けて、泣き叫ぶ彼女に振り返る事なく走り去って行った。

 他では既に動かなくなった被災者の懐を漁り、財布などの金品を火事場泥棒している心無い人間の姿もある。

 

「な、なんて事を……‼︎」

 

 同じ人間が、こんな薄汚い真似をしている事に、陽はショックを受けた。祈も口を両手で抑えている。

 

「クックッ……これが、人間だ」

 

 ガオネメシスが言葉を発した。

 

「……人間とは危機的状況に立たされれば、その本質を露わにする。自分が助かる事を最優先し、中には慌てふためいている周囲の様子を逆手に取り、欲望を満たそうとする愚か者ばかりだ。

 ……どうだ、馬鹿馬鹿しいだろう? こんな者達の為に命を賭けて戦った所で、コイツ等は命の尊さ等、微塵も考えていない……」

 

「違う‼︎」

 

 陽は、ネメシスを振り返りながら叫ぶ。

 

「全てが、そんな人間では無い‼︎ 中には自分の事を一番に考える人間も居るけど……そうじゃ無い人だって居る……‼︎」

「ハハハハ……まだ、そんな事を言ってるのか? ならば……これなら、どうかな……?」

 

 ネメシスが指をパチンと鳴らす。すると場面は移り変わり、今度は荒れ果てた島へと降り立つた。

 

「此処は?」

「今は地図から抹消された名もなき無人島だ。かつて、此処は人間社会から隔絶され、大自然に満ち溢れ動物達が生活する島だった……。

 所が、どうだ⁉︎ 今じゃ島には虫一匹住めず、草一本生えない死の島と化している! 人間共が、自分達の産み出した原・水爆などと下らない物の実験の余波にて、この島は荒れ果てたのだ!

 こんな風に、人間共の為に破壊された場所は世界中に吐いて捨てる程にある‼︎ 此れが人間の本性だ‼︎」

「や、止め…て…‼︎」

 

 祈は耳を塞いで、両眼を固く閉ざす。陽も目に涙を浮かべていた。

 

「人間共が生き続ける限り、この醜い歴史は幾度と無く繰り返されるのだ‼︎ そして、その都度に新たなオルグが生まれ、人間共に災いを齎す‼︎

 其れを食い止める為、第二・第三のガオレンジャーがオルグと戦う……そして、また歴史は繰り返される……キリが無いと思わないか⁉︎」

「だ、黙れ……黙れ……黙れェェェェ!!!」

 

 ネメシスの人類に対する酷評に耐え切れず、陽は叫んだ。と、同時に辺りの景色は歪み始めた……。

 

 

 気が付くと、陽と祈は仲間達の下へと帰って来た。走は陽へ駆け寄る。

 

「大丈夫か、陽⁉︎ 何があった⁉︎」

「さ、触るなァァァ!!!」

 

 陽は汚い物を払い飛ばす様に、差し伸ばした走の手を打ち払った。

 

「……人間は……醜かった……! 僕達が命を賭けて……守る価値は無かったんだ……‼︎」

「何を言ってるんだ⁉︎ 一体、何を見せられた⁉︎」

 

 〜クックックック……そいつは見たのだ‼︎ 人間共の負の歴史をな‼︎ 決して、人間共が後世に残そうとはしない汚らわしい歴史だ‼︎

 ……望むならば、全てを観せてやっても良いのだぞ? 儂の頭の中には、人間共が犯して来た罪の中で、最も残虐で形容し難い映像を記憶してある! ガオネメシスは……いや、スサノオは、其れを観て人間に愛想を尽かした! ほんの一部に触れた、ソイツでさえも、その様だ‼︎

 お前達は、どんな風に変わるか……見物だな……‼︎〜

 

 

「ね…ネメシスゥゥゥッ!!!!!」

 

 

 ヤバイバは折れた魏羅鮫を手に、ネメシスに掴みかかって来た。しかし振り返り様に、ヤバイバの右腕を叩くネメシス。

 途端に、ヤバイバの右腕は粉々に砕け散った。気にする事なく、残った左手でネメシスを殴り付けようとしたが、その左腕を掴み握り潰した。

 ヤバイバは呆然とした様に倒れ伏す。

 

「ふん……その程度で砕けるとは……哀れだな、ヤバイバ……」

 

 嘲りを超えて哀れみに満ちた目で、ヤバイバを見下ろすネメシス。

 

「……大人しく従っていれば、ツエツエと共に飼い殺してやったものを……。オルグに反旗を翻し、人間の肩を持つつもりか?」

「……だ、誰が……‼︎ 俺は……ツエツエの仇を…‼︎」

 

 ヤバイバは見上げながら、ネメシスを睨みつけた。しかし、その顔を、ネメシスは踏み付けた。

 

「違うだろう? ヤバイバ、貴様の本心は見抜いているぞ……貴様の心が、人間に傾きかけている事を……?」

「な、何を……‼︎」

「そもそも、純正なオルグが仲間の仇を、等と酔狂な考えを持つ筈があるまい? 貴様も、あの混血鬼の娘と同じだな……人間如きに飼い慣らされるとは……この欠陥品が‼︎」

 

 吐き捨てながら、ネメシスはヤバイバの顔面を蹴りつける。風に吹き飛ばされる紙切れの様に、走達の下へと投げ出された。

 

「や、ヤバイバ‼︎」

 

 岳は、かつての宿敵の惨め極まりない姿に見るに見かね、歩み寄った。

 

「そんな、ゴミ屑は要らん‼︎ さて……残ったのは、貴様等だけだな……‼︎ 鬼還りの儀の終盤として、貴様等の血を大地に流すつもりだったが……好都合だ‼︎」

 

 ネメシスは、ヘルライオットを取り出し構える。走達は前に進み出た。

 

「そうはさせるか‼︎ お前達を倒して、地球を守る‼︎ それが、俺達の使命だ‼︎ 皆、行くぜ!

 

 ガオアクセス‼︎」

 

 走は再び、ガオレッドへと変身した。他の六人も、それに続く。

 

「レッド! まだ、陽君が…‼︎」

 

 陽は、ヤマラージャの仕掛けた精神攻撃に囚われたままだ。

 

「……仕方ない、俺達だけでやるんだ‼︎」

 

 ガオホワイトの言葉を、ガオシルバーが言った。ハッキリ言って、今の陽では戦いには足手纏いだったからだ。

 

「仕方ないのォォ‼︎ プラチナ、行くぞ‼︎」

 

 ガオグレーも不安げに彼を見つめる、ガオプラチナに呼び掛けた。プラチナは止む無く走り出した……。

 

 

 

「……や、ヤバイバさん……‼︎」

 

 祈は、虫の息と化したヤバイバに近付く。既に両腕を潰されたヤバイバは手の施しようが無い。

 

「……ヘッ……ザマァねェぜ……‼︎ 結局、ネメシスに一矢を報いる事も叶わなかった……」

 

 自嘲気味に笑うヤバイバ。その瞳から涙が溢れ出た。

 

「……や、ヤバイバさん……涙が?」

「……チ……なんてこった……涙を流すなんてな……奴の言う通りだ……。俺は……オルグとして……欠陥品なんだな……」

「涙を流す事は生き物なら、自然な事よ……」

 

 そう言いながら、祈の瞳からも涙が溢れた。ヤバイバは、そんな彼女を見て……

 

「……妙だな……ちっとも悪い気はしねェ……寧ろ、清々しいくらいだ……。

 考えてみたら……俺なんかに、優しい言葉を掛けてくれたのは……ツエツエ以外だったら……お前しか居なかった……。

 時に……お前、料理は何が得意なんだ……?」

 

 こんな時に何を言い出すのか? しかし、祈は優しく答えた。

 

「……味噌汁よ……」

「……そうか……お前の作った味噌汁……食ってみたかったな……」

 

 死期を悟ったヤバイバは、とても穏やかな笑みを浮かべ、祈と語らった。しかし、祈は首を振る。

 

「駄目よ! 死ぬなんて許さない! 貴方は、生きて償うべきよ‼︎ 地球に……そして、地球に生きる全ての人達に‼︎」

「……生きて償う……か……。俺ァ、腐ってもオルグ……骨の髄まで、邪気に染まり切った地球の害悪だ……。

 それにな……そうするのは、俺じゃ無い……そうだろう?」

 

 ヤバイバは、横に蹲る陽に声を掛けた。

 

「……ケッ……なんて姿だ……! お前は地球を守る為に闘って来たんじゃ無いのかよ…⁉︎ そんな所で、グズグズしてる暇があったら……ガオの戦士としての意地を見せてみやがれ……‼︎」

 

 絞り出す様な、しかし、ハッキリとした激を、ヤバイバは陽に投げ掛けた。その時、陽は顔を上げる。

 

「戦士としての……意地……‼︎」

 

 呟く陽。と、其処へ別の声がする。

 

 〜陽さん……私、辛い事しかなかったけど……やっぱり、陽さんや祈さんと出会えた、この世界が好きです……。

 お願い……地球を守って……〜

 

 其れは摩魅の声だ。また、別の声がする。

 

 〜情けない奴め、竜崎陽……我は、そんな弱輩に負けた覚えは無いぞ……‼︎ 逃げる事は許さん。貴様は最後まで戦士として……守るべき物を守る為、戦い続けろ……‼︎〜

 

 陽にとって最大のライバルである焔のメランだった。好戦的である彼らしい激励だった。

 しかし二人は、良くも悪くも陽に成長を促した存在だった。摩魅は人として大切な『慈しみの心』を、メランは戦士として大切な『不屈の心』を陽に教えてくれた。

 

(そうだ……此処で諦める訳には行かないんだ……確かに人間には、助けるに値しない者もいる……。けど……そうだとしても……ガオレンジャーとしての使命を受け継いだ者として……戦い続けなきゃ……‼︎)

 

 そう自分に喝をいれて、陽は立ち上がる。

 

「兄さん?」

 

 立ち上がった陽を見て、祈は尋ねた。彼の顔には一切の迷いは無い。

 

「……ゴメンな、祈……心配掛けて……‼︎ でも、もう大丈夫……!」

「……うん…‼︎ 私、信じるよ‼︎ 兄さんの事……‼︎」

 

 全幅の信頼を寄せる兄に、妹はエールを送った。陽は親指を立てて、サムズアップをした。そして、ガオスーツを身に纏い、戦いの場に走って行った。

 ヤバイバは、力強く走っていく陽の背を見送りながら、自分も立ち上がった。

 

「ヤバイバさん、何を?」

「ヘッ……オルグなら、オルグらしく意地を見せ付けてやろうと思ってよ……‼︎」

(……俺が今からしようとする事……理解してくれるよな……なァ、ツエツエよォ……‼︎)

 

 ヤバイバは痛む身体に鞭を打ちながら、歩み始めた。残された祈は目を閉じ、手を組んで祈り始める。兄の無事を信じ……。

 その時、祈の脳裏に声が響く。

 

 〜スサノオ……聴きなさい……。貴方が最も好きだった歌よ…〜

 

 その時、祈は一人でに口を開き、歌い始めた…。

 

 

 

 

「フン…‼︎ この程度か…‼︎」

 

 ガオネメシスは、ヘルライオットを構えながら冷たく、せせら笑った。

 

「つ…強過ぎる…‼︎」

 

 ガオイエローは膝を突きながら改めて、ネメシスの強さを思い知らされた。テンマとの攻防で疲弊しているとは言え、此処までに差があったとは……。

 

「あ、諦めるな‼︎ 最後まで戦うんだ‼︎」

 

 ガオレッドは押されている仲間達に喝を入れる。だが、その様子を見たネメシスは一層、冷たく笑うだけだ。

 

「貴様等も、つくづく馬鹿な奴だな…! 守る価値も無い、と知った上で、地球や人間共を守ろうとするとは…‼︎」

「……ネメシス……何故だ‼︎ アンタは、こんな真似をして、心は痛まないのか⁉︎ アンタだって、かつては俺達と同じだったんだろ⁉︎ 地球を守る戦士だったんだろ⁉︎」

 

 ガオブルーは悲痛な声で叫ぶ。シルバーから聞かされた。彼もまた、自分達と同様に地球を守る為に命を賭けた戦士だった筈だ。

 其れが今じゃ、守る筈の地球を踏み躙ろうとしている……。ネメシスは忌々しげに唸る。

 

「貴様等と同じ? 一緒にするな、若造が‼︎ 俺が守りたかったのは、地球でも人間でも無い‼︎ ただ一人の姉だけだ!

 しかし……もう守るべき姉さんは、この世に居ない……姉さんは、守って来た人間共に裏切られて死んだのだ‼︎

 だから、俺が復讐してやる‼︎ これは、俺の復讐では無く、姉さんの復讐だ‼︎」

 

 そう叫ぶネメシスは、悲壮に満ちていた。姉アマテラスの死で全てを失い、兄ツクヨミをも、この手で殺めた。この上は全てを壊し、堕ちる所まで堕ちるまでだ。その過程で地球が、人間が如何なろうが知った事では無い。既に、ネメシスは完全に狂っていた。

 

「……哀れだな……ネメシス……‼︎ アンタも、ガオライオン達と出会っていれば……其処まで狂う事は無かったろうに…‼︎」

 

 ガオレッドは憐みを込めつつ、ネメシスに呟く。その言葉に、ネメシスは激昂した。

 

「憐れむ? この俺を? 何故だ、何故だ⁉︎ 俺は……ただ当たり前の事をしているだけだ‼︎ 何故、哀れられなければならぬ‼︎」

 

 激しく慟哭するネメシスに追い討ちを掛ける様に、辺りを歌声が響き渡る。

 

 

 〜耳を澄ませば 聴こえるだろう

  風が運んだ いつかの呼び声

 行きなさい〜

 

 

「この歌は?」

「テトムが歌っているのか?」

 

 此れは、テトムがよく歌っていた、ガオの巫女に代々、伝わる歌『響の調べ』だ。しかし、テトムは、この場に居ない。

 歌っているのは、祈だ。彼女の中に入ったアマテラスが歌っているのだ。と、同時に、ネメシスは激しく苦しみ始めた。

 

「……止めろ……‼︎ その歌を……聴かせるな‼︎」

 

 さっき迄、無双していたネメシスは苦しげに、のたうち始める。頭を抑え、近くにある岩にマスクを打ち付け始めた。

 しかし、尚も歌は続く。

 

 〜そこに在るのは まことのやすらかさ〜

 

 〜時は渡る 祈りのなかで 約束は果たされる

 深く息を 吸い込み 遥かなる魂を

 響かせて 響かせて〜

 

「……頼むゥゥ……‼︎ 止め…て…くれェェ……‼︎」

 

 ネメシスは懇願する様に、叫び続けた。すると打ち付けたマスクの亀裂が広がり始めた。

 と、其処に、後ろから奇襲を仕掛けてくる者が居た。

 

「チィ…‼︎ だ、誰だ⁉︎」

 

 辛うじて躱すネメシスは、其れを見た。奇襲者は、鬼灯隊のくノ一オルグ、リクだ。リクは唯なら無い様子で、ネメシスと対峙していた。

 

「アハァァ……‼︎ みィィ付けたァァァ……‼︎ 私の獲物……‼︎」

 

 既にリクは正気を失っていた。ただ内にあるオルグとしての本能のみに突き動かされているだけだ。折れた刀を構えて、ネメシスに飛び掛かる。

 

「死に損ないの混血鬼が……‼︎ 俺に勝てると思うのか‼︎」

 

 ネメシスは、ヘルライオットでリクに複数発、撃ち込んだ。しかし、痛覚をも麻痺しているリクに、銃撃など無意味だ。

 全身から緑色の血を噴き出しながら、リクはネメシスに攻撃を仕掛ける。

 ネメシスとリクが交戦している時、ガオゴールドが合流した。

 

「皆、ごめん‼︎」

「ゴールド、来てくれたのか⁉︎」

 

 レッドは嬉しそうに叫ぶ。しかし、目の前で起こる戦いに、ゴールドは目を丸くした。

 

「あの娘は……⁉︎ 何故、ネメシスと⁉︎」

「分からないが、この歌が聴こえると同時に、ネメシスは苦しみ出し其処に、あの娘が乱入して来たんだ…‼︎」

 

 レッドの説明に、ゴールドは驚愕しながらも、思わぬ仲間割れが起こった事に、チャンスを見い出す。

 更には両腕を捥がれて口に短剣を咥えたヤバイバも突入して来た。

 

「ネメシスゥゥ‼︎ て、テメェだけは…‼︎ 俺の手で……‼︎」

 

 ヤバイバは口に咥えた短剣をネメシスに刺す。しかし、その攻撃に対し、ネメシスは虫でも追いやる様だ。

 

「雑魚が何度も懲りずに……そんなに死にたいなら……死ね‼︎」

 

 ガオネメシスは、ヘルライオットを乱射してヤバイバを蜂の巣にした。更には、リクの顔を掴み引き離す。

 

「アハッ…‼︎ 私のォォォォ……獲物ォォォォ……‼︎」

 

 正気沙汰では無い様子で、リクは言った。しかし、構う事なくリクの顔を握り潰そうとする。

 だが、ヤバイバはネメシスを背後より羽交い締めにして来た。

 

「また貴様か……離せ‼︎」

 

 ネメシスは、ヤバイバを引き離そうとするが、ヤバイバは離れない。

 

「ガオレンジャー‼︎ 俺諸共、ガオネメシスを斬れェェ‼︎

 

 ヤバイバは、ガオレンジャーに向けて叫ぶ。其れを聞いたゴールドは、レッドに振り返った。

 

「レッド、やるしか無い‼︎」

 

 ゴールドは、ヤバイバの命懸けの行動を見て、其れを無駄にすべきでは無い、と悟った。レッドも、それに同意する。

 

「よし……皆、破邪の爪を‼︎」

 

 レッドの掛け声に、今度はシルバー、グレー、プラチナも加わった九人の戦士達による力を込めた合体武器、破邪百獣剣を展開した。

 

 

「破邪百獣剣‼︎

 邪気……退散‼︎」

 

 

 放たれた正義の一撃が、ガオネメシスへと直撃した。ヤバイバ、リクも其れに巻き込まれて行く。

 だが、最後の刹那、ヤバイバは非常に穏やかな表情。寧ろ、憑き物が取れたかの様だった。

 

(もしよォ……人間に生まれ変われたら……お前が作った味噌汁の食いに行きてェなァ……祈……。

 けど、やっぱり生まれ変わっても、アイツと一緒になりてェ……

 

 ツエツエ……‼︎)

 

 最後の刹那、ヤバイバの脳裏には優しく微笑む掛け替えの無い相棒の顔が浮かぶ。やはり、生まれ変わっても彼女とコンビを組みたい……。

 

 光が収まると、爆心地にはヤバイバとリクの姿は無い。代わりに、ボロボロとなったガオネメシスの姿があった。

 ネメシスは苦しげに身を震わせると、ひび割れたマスクが砕け散り、その下の顔が露わとなる。

 

「ウッ⁉︎」

 

 思わず、ゴールドは目を逸らした。其れは他の仲間達も同様だ。

 ミイラの様に干涸びた老人の顔が、其処にあった。髪の毛も眉毛も髭も無い、両眼は落ち窪み充血した目がギョロギョロと動く。

 肉は無く、骨と皮だけで生きている様な、正しく生きた屍とも言える見るに耐えない姿だ。

 かつて、スサノオと呼ばれた戦士は口角を吊り上げ、不気味に笑う。

 

「……クックック……言葉も出まい……。生きているとは言えず、死んでいる訳でも無い……ただ、僅かに残された生命力と人間共への怨念だけで繋いでいる……其れが、このガオネメシスの真の姿だ……」

 

 そう自嘲しながら、スサノオは笑い続けた。こんな姿となってまで、生き続ける事……最早、一思いに死ねた方が、遥かにマシだろう……。

 

「ヤマラージャよ……‼︎ 今こそ、我等の力を解放する時だ‼︎」

 

 〜良かろう……貴様と一体化し、この地上をオルグの支配下とする‼︎〜

 

 そう言って、ヤマラージャは邪気をエネルギーとして、スサノオの身体に降り注ぎ始めた。

 

「ウオォォォォッ!!!!!!」

 

 スサノオの身体は脈打ち始め、やがて異形の姿へと変異し始めた……。

 

 〜ヤバイバとリクの犠牲を持ってしても、ガオネメシスを倒すには至らなかった……! 其処へ、ヤマラージャと一体化し、新たな姿へと変異を始めたスサノオ‼︎ 果たして、地球の運命は⁉︎〜




※今回は、響きの調べの歌詞を一部、使わせて頂きました。

次は2月21日に掲載します。
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