帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者   作:竜の蹄

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quest7 幻獣と対話 後編

 戦いより少し前に遡る。テトムは1人、崩れ掛けた遺跡の祭壇に居た。此処は古代、ガオの戦士とオルグの古戦場となった場所だ。今では忘れ去られ、人々の記憶からも消えつつあるが、ガオの戦士と縁ある者にとっては特別な場所である。

 テトムは祭壇に佇み、石碑に刻み込まれた文字の解読を試みていた。

 

「……駄目だわ。殆ど風化しちゃって、読めない……」

 

 テトムは眉を顰める。文字は、古代のガオの文字で書かれている為、テトムにも読めない事は無いが……所々が崩れてしまい、読む事が困難だ。

 だが文字の上に描かれた3つの絵に、テトムは目を見張る。

 

「……これは……!」

 

 石碑半分を占領する様に3匹の獣が……鷲の頭に、獅子の身体の獣……角を携えた馬に似た獣……真紅の身体と翼を持つ巨大な竜……彼等が、オルゲットと思しき者達を追い回している様が描かれていた。

 

「レジェンド・パワーアニマル……‼︎」

 

 テトムが壁画の一部に触れると、岩苔に覆われていた部位が崩れ落ちる。其処には、比較的に風化して居ない古代文字と、3つの宝珠が置かれていた。

 テトムは文字を読み上げる。

 

 

「……我、古より生くる牙吠ノ戦士ナリ。星ニ災イヲ齎ス鬼、戦士ノ牙ヲ封ジシ時、星ヲ守ル最後ノ希望トシテ、遺スナリ……」

 

 

 読み終えた後、テトムは3つの宝珠を手に取る。その刹那、宝珠は浮かび上がり、テトムの横を掠め飛び出して行った。

 

 

 

 とある山中の中に潜んでいたのは二体のレジェンド・パワーアニマル達だ。

 

 

 〜ガオグリフィンが行った様だな……〜

 

 竜の姿をしたレジェンド・パワーアニマル、ガオドラゴンが首を上げる。

 

 

 〜あの人間を助けに行った様ですね〜

 

 

 続いて、一角獣の姿をしたレジェンド・パワーアニマル、ガオユニコーンも応えた。

 

 

 〜何故、人間を庇うのか? 人間等、取るに足らぬ存在なのに……〜

 

 

 ガオドラゴンは人間に対する侮蔑を隠さなかった。人智を超えた存在である、パワーアニマル。彼等からすれば、たかだか数十年足らずしか生きられ無い人間は、羽虫のそれと変わらないのだ。

 

 

 〜人間が、大地を汚し海を汚し空を汚し、地球の命さえも汚すが為、オルグが生まれる……。人間を守った所、また新しいオルグを人間が生み出し、人間をオルグが襲う……。それの繰り返しだ……〜

 

 

 ガオドラゴンの言葉には人間への諦念が強く込められていた。長く人類の発展、衰退、其処から何一つ変わらないまま、同じ事を繰り返すだけの人間に対し、既に愛想が尽きていたのだ。

 仮に自分達が人類の為に戦っても結局、人間は私利私欲の為に生き、地球を破壊しオルグを際限なく生み出し続けるだろう……。ならば、人間の為では無く地球を守る為に力を使えば良い、と言う結論に至ったのだ。

 

 

 〜……確かに人間は過ちから何も学ばない。そう言った人間が地球に蔓延っているのも事実……。だが、そうでは無い人間も僅かに居るのでは?〜

 

 

 頑なに人間を拒絶するガオドラゴンに反し、ガオユニコーンは人間には、まだ可能性がある、と信じている口振りだった。ガオドラゴンは沈黙したまま、傾聴する。

 

 

 〜私も貴方と同じで、人間を信じていない……けれど、人間もまだ捨てたものではない。そう信じているからこそ、天空島のパワーアニマル達は、人間に力を貸した……少なくとも、私はそう思います……〜

 

 

 〜……くだらぬ……。人間はエゴの塊だ。信ずるだけ、無駄だ……〜

 

 

 ガオドラゴンは飽くまで、人間そのものを醜い種族だと断じ取り付く島が無い。ガオユニコーンも、硬骨な姿勢を崩さない彼に、とうとう閉口した。

 その刹那、ガオドラゴンは首を持ち上げる。

 

 

 〜如何やら、オルグがまた暴れているらしい……。人間等、知った所では無いが、地球を奴等の好き勝手にさせる訳には行かぬ。行くぞ〜

 

 

 そう呟くと、ガオドラゴンは翼を広げ飛び上がる。彼等は地球を守る為、戦う使命がある。ガオユニコーンも、それに続いた。

 

 

 だが……頑なに心を閉ざすガオドラゴンに僅かな疑念が生じていた事を、ガオユニコーンは気付いていた。

 あの人間……ガオゴールドは他者の為に力を使い、人間に対して怒りを抱く自分達に、真っ向から否定して来た。先の戦いでも、自分の身を顧みずに小さな命を守ろうとした彼の姿に、ガオユニコーンは希望を抱いていた。ガオドラゴンは完全に、人間を見限っていない。だからこそ、ガオドラゴンが人間に力を与えたのでは無いか……? 人間こそ悪か、守るべき対象か……レジェンド・パワーアニマル達は今一度、ガオゴールドと対話を果たすべきじゃ無いか……高度な自我を持つ幻獣達は、そう考えつつあった……。

 

 

 

 一方、ガオレンジャーとパイプオルガンオルグの戦いは、熾烈を極めていた。今迄、戦ってきたオルグと異なり力尽くに攻めて来ず、オルゲットを嗾けてくる所謂、統率タイプのオルグだ。

 それ故、パイプオルガンオルグに決定打を与える事が出来ない。ガオゴールド、ガオシルバーは攻めあぐねる事となった。

 

「オホホホ‼︎ このアタクシの右腕を斬り落とした罪は重くてよ‼︎ 骨も残さず、すり潰してあげるわ‼︎

 オルグ交響曲第三番『進撃の鬼神』‼︎』

 

 パイプオルガンオルグが破壊された鍵盤を邪気によって再生し演奏を始める。重々しい旋律が空間を支配する。すると、体色が赤く角が整ったオルゲットが召喚された。

 

「このオルゲットは、さっき迄の雑兵とは違うわ‼︎ 豊潤な邪気に浸透された強力な個体‼︎ そこへ、アタクシの演奏による強化が加われば……」

 

 オルゲット達は陣を組んで襲いかかって来る。ガオゴールド、ガオシルバーは攻撃を受け流すが、確かにさっき迄の攻撃と違い一撃 、一撃が重い。

 

「くッ‼︎ 手強い‼︎」

 

 ガオゴールドは力の付けたオルゲットに舌を捲く。数の暴力により、着実に追い詰められていく。

 その時、ガオグリフィンが鋭い爪をかざしながら、急降下して来た。

 オルゲット達を掴み上げ投げ飛ばし、翼から光弾を放ち一斉に、オルゲット達を撃ち抜き全員、泡となって消えて行った。

 

「まただ⁈ どうして⁈」

 

 ガオゴールドは、ガオグリフィンに驚愕の目を向ける。レジェンド・パワーアニマル達は自分達との共闘を拒んだ。それなのに……。

 

 

「ふん……梃子摺っているのか?」

 

 

 突如、パイプオルガンオルグを遮る様に炎が立ち昇る。炎の中から、別のオルグが姿を現した。

 

「お前は⁉︎」

 

 ガオゴールドは、このオルグを知っている。2度目の戦いの際、ゴールドの前に現れ圧倒的な強さを見せたデュークオルグ、メランだ。

 

「久しぶりだな、ガオゴールド。少しは目鼻が付く様になったかと思ったら……まだ、この程度とはな」

 

 メランは呆れた様に笑う。以前、戦った時は辛うじて痛み分けに持ち込んだが、あの時は、かなり際どい勝負だった……。

 

「そんな事を言う為に来たのか⁉︎」

 

「まさか。我が望むは貴様との拮抗した勝負だ。半端者の貴様に五分五分で引き分けたままでは、我の沽券に関わる。付け損なった決着を付け様では無いか」

 

 メランはそう言いながら、右手から炎の剣を創り出す。パイプオルガンオルグは不満気に喚いた。

 

「ちょっと‼︎ こいつ等は、アタクシの敵よ⁉︎ 邪魔しないで頂戴‼︎」

 

 

「黙れ」

 

 

 パイプオルガンオルグの不平に、メランは殺気を露わにする。

 

「卑劣な手段で勝利を掴み取らんとする貴様に加勢する気は無い。ガオゴールドは我の獲物だ。邪魔立てするならば……斬り捨てるぞ?」

 

 メランの放つ殺気に、パイプオルガンオルグは後ずさる。手に握られた剣から火の粉が散る。

 

「場所を移すぞ、フゥン‼︎」

 

 メランが剣を振るうと、ガオゴールドと共に炎に包まれる。2人の周囲を覆う其れは、さながら炎のリングだ。

 

「さァ、これで邪魔は入らん。始めるぞ‼︎」

 

 飽くまで、ガオゴールドとの一騎打ちに拘るメランは態々、戦力を分断して迄、戦いに挑む。オルグとは言え生粋の武人たる思想を持つメランにとって、共闘や謀略を好む者を蔑む兆候がある。彼に言わせれば勝利とな即ち、一対一の拮抗した戦いを制した者こそが真の勝者と考えているのだ。

 

「貴様……一対一に持ち込まれ、自分が勝てる等と甘い期待を寄せているな? ならば、其れは大きな間違いだ。あの時、我は力の半分も出し切っては居ない。だが……今回は違う‼︎」

 

 メランが剣を構えると以前とは比べ物にならない強力な闘気が立ち昇る。ガオゴールドは直感で感じた。

 間違いなく前回以上に強い、と。

 

「お前が強かろうと……どんなに圧倒的な力を振りかざそうと……僕は戦う‼︎ 僕が負ければ涙を流す人が後ろに居るんだ‼︎ 負ける訳には行かないんだ‼︎」

 

 ガオゴールドは戦いを経て、守る為に戦う戦士としての矜持を身に付けるに至った。脳裏には祈、友達の笑顔が浮かぶ。皆を守る為にも……攻める為に戦う戦士であるメランに負ける訳には行かないのだ。

 

「ククク……守護の戦士か……。平和に惚けた若造が中々どうして、戦士の器に自覚しつつあるらしいな。しかし、その覚悟とやらは貴様の実力が伴わなければ、ただの詭弁に過ぎんぞ?

 貴様が負ければな‼︎」

 

 メランは素早い動作で剣を振り下ろして来る。ガオゴールドも、負けじとドラグーンウィングで防ぐ。

 

「見せてみろ! 貴様の覚悟の力を‼︎ 其れが我の力を上回ると言うならば、我を倒して見よ! 我を超えて見せよ‼︎」

 

 メランはまるで、自分以上の力を示せと言わんばかりに、しきりに挑発してくる。ガオゴールドも剣を分割し、二刀流で攻めに入った。だが、刃は悉く切り返されてしまい、メランの間合いには届かない。

 

「クハハハ‼︎ どうした、其れが限界か⁉︎ 貴様の覚悟とやらは、我の首を掻き切るには脆すぎる様だな‼︎

 見せてやろう、上には上があると言う世の真理をな‼︎」

 

 そう叫ぶと、メランは剣を天に翳す。刃から炎が天を衝く様に燃え上がる。炎はやがて一振りの大太刀へと姿を変えた。

 

「力を超えた力は小手先の技をも凌駕する‼︎ 貴様の付け焼き刃で、どうこう出来るものではない‼︎」

 

 メランの放つ剣がガオゴールドの眼前に迫る。防ぎきれる規模では無い。このオルグの強さは、今のガオゴールドを遥かに上回っていた。容赦なき斬撃は、ガオゴールドのマスクを叩き斬る。

 

 

「うわぁァァァッ!!⁉︎」

 

 

 ガオゴールドは剣戟に押され弾き飛ばされる。叩き割られたマスクから素顔が覗き、流血が流れ落ちていく。

 

「これが強さだ! 人が限りある生の中で絶え間無く己を鍛え、初めて手にするであろう力! しかし悲しいかな、人の脆弱な身体では、この境地に達する迄、保たぬ! 生に限界が無い我等、オルグだからこそ初めて知る事が出来る‼︎ 限界を突破した力に‼︎」

 

 ガオゴールドは這々の態で立ち上がる。ドラグーンウィングを杖代わりにして、やっと立てる体たらくだ。

 

「見ろ! 其れが貴様の限界だ! 貴様如きでは我等、オルグを倒せぬ! 諦めろ!」

 

 

「い……嫌だ……!」

 

 

 ガオゴールドは苦し気に吐き出す様に呟く。

 

「僕は……諦めない……! 祈の笑顔は……僕が守る‼︎」

 

 今、既に限界を迎えた少年の身体が雄叫びを上げた。指先から身体の芯まで雄叫びは行き届き、力を与え始める。

 メランは、その様子を肌で感じる。そして、それを自分が期待している事を……。

 

「(此奴、化けようとしている……)」

 

 最初は平和な日常から無理やり引っ張り出された素人同然だった。だが今、目の前に立つ若き戦士は、極限に置かれた状況より新たなステップへと進み始めている。メランは、ゾクゾクと沸き起こる愉悦に身を震わせる。自分を倒し得る存在を、自分の目で見定める……だから、オルグは止められない。

 

「覚悟なら決めた。死なない覚悟だ‼︎ お前にも誰にも負けない、生き抜いて全てを守りきる‼︎」

 

 ガオゴールドは両手のドラグーンウィングの刃を肩から後ろ向きに寝かせる様に構えた。

 

「(何だ、あの構えは……?)」

 

 攻めとも守りとも似つかぬ独特な構えを見せたガオゴールドに訝しみながらも、メランは剣をかざした。炎が立ち昇り、先程の態勢に入る。

 だが、これこそガオゴールドが即興で編み出した我流剣術だ。九州の鹿児島に住む叔父から直伝され身に付けた、鹿児島が薩摩藩と呼ばれていた時代より受け継がれる必殺剣。叔父は幼い陽に教えた。

 

 

『数ある剣術の中でも敵を一刀の下に臥す剣術とは……戦乱の世にて薩摩で編み出され、初太刀にて全霊を込め敵を斬る。「一の太刀疑わず、二の太刀要らず」の極意を忘れるな』

 

『一の太刀疑わず……?』

 

 叔父の熱弁に幼い陽は首を傾げる。

 

『そうだ。幕末の世に於いて、かの新撰組局長をして「薩摩の初太刀は受けるな」と隊士に教える程、この技を幕末最強の剣術と謳う武人も要る程だ。

 しかし忘れるなよ、陽。初太刀を受けるな、と言うのは刀を叩き折る事だけでは『上』止まり。使い手に刀を抜かせる前に相手を屈服させ融和を果たす事が『極上』だ。「鞘の内で勝つ」気構え……そして、この剣術の名を覚えておけ。剣術の名は『示現流』‼︎』

 

『じげん……りゅう……』

 

 

 まだ幼かったあの頃は理解出来なかった。だが今なら分かる。生憎、今のガオゴールドは師匠の言う『極上』の域には達していない。何より、鞘の内で勝つ事が不可能な敵も居る事を熟知している。ならば『上』の剣で、立ちはだかる敵を倒すのみ!

 ガオゴールドは駆け出し飛び上がる。

 

「竜牙……墜衝!‼︎」

 

 高度から直滑降に舞い降りながら、ドラグーンウィングを振り下ろした。メランも剣で受け太刀するが、落下時の重力が剣に掛かり、常人では腕が粉砕し兼ねない威力となっていた。

 

「ぐ……ぬ……‼︎」

 

 メランは剣で押し返そうとするが、重力に逆らえない。このままでは逆に弾き返されてしまう。遂に、メランは剣を炎に戻し後退した。

 

「……く‼︎ 我が逃げを選ばざるを得んとは……‼︎」

 

 メランは忌々しげに唸る。落下したガオゴールドの周りには中規模のクレーターが出来る程だった。あのまま踏ん張っていたら、間違い無く斬られただろう……。

 

「ふん……貴様は不思議な奴だ。会えば会う程に、強くなって行く。なれば、次に会う時は、どれ程に強くなっているのだろうな?」

 

 不覚にも力比べでは押し負けられた。だが、其れでも自分の領域で渡り合えた訳では無い。メランはパチンと指を鳴らし姿を消す。同時に周りの炎も消えた。

 

 

「もっと強くなれ……我を楽しませれる程にな。ハッハッハッハ………」

 

 

 虚空に木霊するメランの声と高笑い……。今回も引き分けに終わった。だが次に会う時は……必ず! ガオゴールドは密かに胸に誓う。

 

 

「あらあら〜、出て来たの〜? メランに殺られたと思ったけど案外、しぶといわねェ?」

 

 

 ガオゴールドは振り返る。パイプオルガンオルグがイヤらしい笑みを浮かべながら、ズタボロとなったガオシルバーを足蹴にしていた。

 

「シルバー‼︎」

 

「く……スマない…‼︎ 」

 

 ガオシルバーは口惜しそうに呻く。だが、周囲に倒れ伏すオルゲット達を見れば、激しい戦いであった事は一目瞭然。メランに梃子摺っている間に、たった1人で苦戦を強いられていたに違いない。

 

「ホホホ‼︎ 後は、金のガオレンジャーだけねェ? アタクシを舐めた報いを受けなさい‼︎ さあ、武器を捨てるのよ! さもないと……」

 

 パイプオルガンオルグは悪辣に笑いながら、ガオシルバーの腹を踏み付ける。

 

「グオォッ⁉︎」

 

 苦しげに叫ぶ、ガオシルバー。パイプオルガンオルグは更に追い討ちを掛ける様に、シルバーの腹を蹴り続ける。

 

「……ゴールド……俺に…構うな……オルグ……を……ガハァッ⁉︎」

 

「オホホホ‼︎ さあ、どうする⁉︎ 仲間を見殺しにして、アタクシと戦う⁉︎」

 

 ガオゴールドは苦悩する。ガオシルバーを顧みずに戦うのは簡単だ。だが、今はシルバーを人質に取られている。悩んだ末、ガオゴールドは、ドラグーンウィングを手放す。

 

「……ゴールド⁉︎」

 

「許して下さい、シルバー! 僕には仲間を見捨てる事は……」

 

「オホホホ‼︎ 美しい仲間愛だこと! さぁ、何時まで寝ているの‼︎ やっておしまい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグは演奏を始めた。すると倒れ伏していたオルゲット達が立ち上がり、ガオゴールドに迫る。

 

「楽に死なさないわよ? じっくり痛め付けて嬲り尽くして、苦しんだ末に殺してあげるわ‼︎ 絶叫と苦悶の奏でるハーモニーを聴かせてちょうだい‼︎」

 

 オルゲット達が、ジリジリと近付いてくる。ガオゴールドは追い詰められた。武器を捨て、メランとの戦いで傷付いて抵抗も出来ない。どうすれば……‼︎

 

 

 〜呆れた奴だ。仲間を庇い己を追い詰めるとはな……〜

 

 

「? 何なの、この声は⁈」

 

 突如、響き渡る低い声にパイプオルガンオルグは混乱する。だが、ガオゴールドは、この声を知っている。

 その時、天から3つの宝珠が舞い降り、ガオゴールドの前に集結した。

 

「これは⁉︎」

 

 

 〜ガオゴールド……貴様は甘い。一を重んじるあまり全を見ない……そんな奴が、戦士を名乗る等、片腹痛い〜

 

 

 紅い宝珠が厳しく叱る。続いて青い宝珠が語り掛けて来た。

 

 

 〜だが、貴方は我々が見てきた人間達とは違う……他者を思いやり、命を尊ぶ。でなければ、ガオグリフィンは助けには行かなかったでしょう〜

 

 

 更に、黄色の宝珠も語り掛ける。

 

 

 〜我々の力……お前に預けたい。もう一度、人間を信じさせて欲しい……〜

 

 

 〜お前が、ガオの戦士を名乗るならば、我等の力を使いこなして見よ‼︎〜

 

 

「ちょっとちょっと‼︎ 何なのよ、邪魔するんじゃ無いわよ‼︎ 構う事は無いわ、殺りなさい‼︎」

 

「オルゲットォォ‼︎」

 

 オルゲット達が一斉に飛び掛かって来る。その時、宝珠は光を放ちながら、ガオゴールドの右手に収まった。オルゲット達は光に跳ね返されてしまう。

 

「こ、これって……‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。右手にはドラゴンの横顔、ユニコーンの角、グリフィンの翼を模した大型のリボルバー銃が握られていた。

 

 

 〜我々の力を集結し生み出した破邪の爪……ガオサモナーバレットだ‼︎〜

 

 

「ガオサモナー……バレット……」

 

 

 〜3体のレジェンド・パワーアニマルの力が合わさりし時、邪悪なる者を狙い撃つ獣の銃が生まれます

 

 

 ガオゴールドはオルゲット達を狙撃した。竜の口に似た銃口から放たれる金色の光弾が、オルゲット達に直撃し一瞬で消滅する。

 

「す…凄い…‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。これは凄い威力だ。パイプオルガンオルグも引き腰になる。

 

「な、何よ! 銃だなんてズルいわよ‼︎」

 

「お前にだけは……言われたく無いな……‼︎」

 

 油断したパイプオルガンオルグの隙を見たガオシルバーは脱出を果たす。慌てて、体勢を戻すも既に手遅れだ。

 

「これで……終わりだ‼︎」

 

 ガオシルバーの安全を確認したガオゴールドは、パイプオルガンオルグに標準を合わせる。竜の目が発光し、ゴールドはトリガーに指を掛けた。

 

 

「邪気…焼滅! 破邪聖火弾‼︎」

 

 

 銃口から巨大な竜を模した炎の弾が放たれた。竜は大口を開けながら、パイプオルガンオルグの身体を飲み込んだ。

 

 

「イヤァァァァッ!!!!」

 

 

 パイプオルガンオルグは悲鳴を上げながら大爆発した。あまりの火力ゆえに肉片残さず焼き尽くしてしまった。

 

「や、やった……‼︎」

 

 ガオゴールドはフラフラと立ち上がるガオシルバーに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「ああ、心配するな……。それより……何故、攻撃を躊躇った? 一歩間違えば、お前までやられていたぞ……」

 

 ガオシルバーは怒った様に、ガオゴールドを問い詰める。ゴールドはバツが悪そうに肩を落とした。

 

「けど……貴方を見殺しになんて…」

 

「全く、底抜けにお人好しだな、お前は……。でも、助かった。ありがとう……」

 

 ガオシルバーは素直に礼を言った。ガオゴールドも、また照れ臭そうに笑う。

 

 

 しかし、その様子を遠方からツエツエ、ヤバイバが見ていた。

 

「このままじゃ終わらないわよ‼︎ 鬼は〜内、福は〜外‼︎」

 

 ツエツエがオルグシードを燃えカスとなったパイプオルガンオルグに投げ付け、呪文を唱えた。

 すると、見る見る間にパイプオルガンオルグは巨大化し、復活した。

 

「し、しまった……‼︎」

 

「心配……するな‼︎ 俺がガオハンターで……クッ‼︎」

 

 ガオハスラーロッドを構えようとするが、ガオシルバーはさっきの暴行で酷く傷付き、立っているのがやっとだ。

 

「無茶ですよ、そんな身体で⁉︎」

 

 ガオゴールドはガオシルバーを支える。だが、グズグズしていたら、パイプオルガンオルグによって被害が甚大化してしまう……。その時……。

 

 

 〜我々の出番だ。ガオサモナーバレットを天に掲げて3回、撃ち『幻獣召喚‼︎』と叫べ‼︎〜

 

 

 ガオドラゴンの声だ。ガオゴールドはガオサモナーバレットの弾倉を確認する。それぞれ、3つの宝珠が装填されていた。ガオゴールドは意を決して、ガオサモナーバレットを天に掲げる。

 

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 

 銃口から3発、宝珠が射出される。宝珠は雲を貫き、天を割り3体の獣に姿を変え地上に召喚された。

 

 

「グオォォッ!!!」

 

 

 ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンと3体の幻獣達は、ガオゴールドの想いに応じ、変形を始める。精霊の騎士王ガオパラディンが降臨した。

 ガオゴールドも、ガオパラディンの体内に吸収され、コクピット状に空間に降り立つ。

 その瞬間、ガオパラディンの頭部を覆う竜の形を模した鉄仮面がせり上がり、精霊王の顔面が露わになった。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎」

 

 

 〜幻獣のパワーアニマルとガオの戦士が心を通わし力を一つにした時、真の精霊の騎士が誕生するのです〜

 

 

『小癪な‼︎ アタクシの旋律の前に、パワーアニマル等、無力なのよ‼︎』

 

 

 パイプオルガンオルグは、演奏を始める。旋律が超音波と化し、ガオパラディンに襲い掛かる。

 

「グリフシールド‼︎」

 

 ガオゴールドの指示に応え、左腕となったガオグリフィンの翼を掲げる。超音波は全て防がれてしまう。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ガオパラディンは右腕となったガオユニコーンの角を突き出す。ユニコーンランスが高速回転し、パイプオルガンオルグの身体を抉り斬った。

 ガオゴールドと一心同体をある為、今まで以上の出力を発揮している為、近接攻撃を持たないパイプオルガンオルグは反対に追い詰められていく。

 ヤケになったパイプオルガンオルグは狂った様に鍵盤を叩く。すると、耳のつん裂く様な不協和音が流れ始めた。

 

「オホホホ‼︎ アタクシの曲を聴けェェ‼︎」

 

 既に追い詰められていたパイプオルガンオルグは四方八方に不協和音を撒き散らす。ガオパラディンも迂闊に踏み込めない。

 その時、パイプオルガンオルグの背後から衝撃が走る。

 

「ガオハンター‼︎ シルバーか⁉︎」

 

 何時の間にか、ガオハンターが背後に回り、パイプオルガンオルグの背中を斬りつけたのだ。その為、不協和音を鳴り止む。胸部のガオドラゴンが雄叫びを上げた。

 

「よし、行くぞ‼︎」

 

 ガオドラゴンの合図に合わせ、ガオゴールドは構えに入る。

 

 

「聖火波動・ホーリーハート‼︎」

 

 

 ガオドラゴンの口から金色の光線が放たれる。聖なる光線はパイプオルガンオルグの強靭な身体を吹き飛ばし、遂に大爆発を起こした。

 

「やったァァ‼︎ 大勝利だ‼︎」

 

 ガオゴールドは喜ぶ。それに応える様に、ガオパラディンはユニコーンランスで、ガオハンターはリゲーターブレードでハイタッチした。

 

 

 〜遂に和解を果たしたレジェンド・パワーアニマル達と、絶大な力を見せつけたガオパラディン。

 これより、ガオゴールドの真の戦いが幕を開けたのです〜




ーオリジナルオルグー


 −パイプオルガンオルグ
 古くなったパイプオルガンに邪気が宿り、オルグと化した魔人。

 オネエ口調で話し、勝つ為なら卑劣な手段を使う事を辞さない。
 胸部の鍵盤を弾いて、対象を操ったり潜在能力を引き出させる曲を奏でる。

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