side ユラナ・ウェリス
空飛ぶ車に乗って、イギリスの空を飛行していると、
「ねぇ、ユラナ。今までどこにいたんだい?」
とロンが聞いてきた。
「もしかして、心配かけてた? だったらごめんね。日本の東京というところにいたのよ」
「旅行?」
お兄ちゃんに拉致されたとか言ったら、ドン引きされるだろうなぁ。一応お兄ちゃんの名誉のためにも嘘ついとこう。というか、拉致されたのにこんなにすぐ許しちゃうとか私も大概ブラコンだなぁ。
「まあそんなとこ。けっこう忙しくてお土産とか忘れてた。ごめんね」
「ううん。気にしなくていいよ。それより東京ってどんなところなの?」
それを言われると説明しにくいなぁ。なんかマグルの世界はごちゃごちゃしていて、魔法界は二分されていたぐらいしか正直分からないし。
「東京についてはまた今度ね。それよりハリーは大丈夫なの?」
私が言うと、フレッドが小さく笑った。
「大丈夫かどうか分からないから、迎えに行くのさ。俺たちのことは心配するな」
まあね。実年齢29の大人もいることだし、そこまで心配しなくてもいいかも。でも、いざ魔法省にバレたときにいくら渡せば黙ってくれるかな。
腹黒いことを考えていると、ハリーの家が近づいてきた。この家で虐待されてるとなるとちょっと私も実力行使したくなっちゃうなぁ。
車を近づけて窓に寄せる。あと少しでハリーは救える。しかし、彼を助けようとする前にダーズリー一家が起きてしまうだろう。けど、そこまでは想定内。問題はハリーと荷物を載せてしまったら、この車は人数的な限界がきてしまう。そうなったときはどうすればいいだろうか。
そんなことを考えていると、ロンとジョージがハリーの寝室に入って、荷物の搬入をし始めた。
「ユラナ!?」
「やっほー、ハリー。久しぶりだねー」
私もハリーの部屋に入って荷物を片付ける。さてと、私はどのタイミングで離脱しようかなぁ。
(ハリーポッターか。美味しそうな獲物だなぁ)
今まで聞いたことのない若い男の声が耳元で響いた。周りを見るが、誰もそんなことを話した様子はない。というか、実際のところダーズリーが起きてしまうため、大きな声は出せないのだ。
だとすればこの声はどこから……
(分からないかなぁ。上だよ上。まあ、こちらは忙しくないから、ゆっくりしてもらって構わないよ。……ま、最終的にはすべていただくけど)
上……。上空にいるのか……。何者なんだろうか。
「どうしたの、ユラナ。急がないと、ダーズリーが起きちゃうよ?」
とハリーが言い、私は我に返る。
「あー。ちょっと言いにくいことなんだけど、ちょっと急にやるべきことを思い出した。だから、悪いけど、ここで離脱させてもらうよ」
「離脱?」
「うん。どちらにせよ、あの車に五人は入らない。ちょっと早いとこ片付けたい用事がね……」
私が言うと、鷹揚にジョージが言う。
「オッケー分かった。じゃあ、ここは俺たちに任せとけよ」
それに頷き、私はハンドバッグから小さな羽を取り出す。この羽は食べると背中に羽が生えて、自在に飛び回れるようになるという箒いらずの便利グッズだ。ちなみに、製作者は私の母である(母は父の秘書官をすると同時に魔法の便利グッズの製作にも携わっているのだ)。その代わり少し魔力を吸われることになるのだが、魔力的にタフな私にはそんなことは関係ない。
「うん。分かった。もうすぐダーズリーが起きてくると思うから、急いでね。それじゃ、新学期にまたね」
私は小さく手を振って、窓枠から外に出る。小さな羽を羽ばたかせて私は上空に向かう。どんな相手だろうと私たちに危害を加える相手なら関係ない。徹底的に叩きのめすまでだ。
side マーティン・ウェリス
「やれやれ。行ってしまったみたいだね。君にとってはそれは問題ないのかい?」
ユラナがイギリスに戻ってしまった直後、日本の首都東京のとある料亭で食事をしていると、同席している秋野裕介が聞いてきた。
「いや、別に構わないさ。どちらにせよ、鈴野さんをあいつに紹介できただけでも十分ノルマは達成できたさ」
鈴野舞子は申し訳なさそうに答える。
「もしかして怒らせちゃったかな」
「いや、気にしなくてもいい。むしろ、あいつは俺に怒ったんだと思うよ」
俺が答えると、秋野裕介がクスリと笑う。
「確かにそう見えたな。それでなんで俺をここに呼んだのかな?」
「あー。ユラナが暴走したときの万が一の保険として来てもらっただけだ。まあ、話を円滑に進められたから、来てもらって助かったよ」
秋野裕介は苦笑する。
「仕事が終わったからよかったけど、わざわざそんなことで呼び出すとはね。なんとも君は肝が太いね」
「誉められてるように聞こえないな、それ」
俺も笑って答える。
「それで、鈴野さん。今日は何が聞きたい? 魔法のこと? それともホグワーツのこと? それとも俺のこと? あるいは、人生相談? どれであれ、オーケーだよ」
彼女は俺が言うと、口を開く。そんな無邪気に質問してくる彼女は俺が息子として見てきた母親としての姿とどこか重なるように感じられた。
今回は少し短いですが、ここで終了です。次回は謎の声の持ち主が明らかになります。前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、まだまだこの作品は続きます。これからもどうぞよろしくお願いします。