side ユラナ・ウェリス
私が向かった先にいたのは、見たところこれといった特徴のない黒いスーツを着た青年であった。しかし、ラノベやアニメではこういう一見特徴のない男が意外と猛者であったりするものだ。私は気を引き締めて怪しげな男を睨む。
「こんな時間にわざわざ呼びつけるとか、どれほど非常識か分かってる?」
男は薄ら笑いを浮かべて答える。
「自己紹介すらさせてもらえないうちに文句を言うとは、なんとも性格が悪いねぇ。ま、急に呼び出されたならそう思っても仕方ないよね」
その嘲笑うかのような話し方にイライラしながら答える。
「それでは改めて聞かせてもらう。あなたは何者だ」
「今は亡き死神の王の配下である死神の牙だよ。『蝙蝠《こうもり》』とでも呼んでくれ」
「蝙蝠とやらが、私に何の用だ。私はともかくハリーたちに危害を加えるのなら容赦しない。このウェリス家長女ユラナ・ウェリスがしかるべき罰を与えてやる」
そう私が言うと、蝙蝠はさらに笑う。
「その気概はいいねぇ。でも、今の僕が欲しいのはそれじゃなくて、ハリーポッターの力なんだよね」
「なら、なんで今回私を呼びつけた?」
「彼を食べる上で、一番邪魔なモノは片付けておかなくては、と思ってね。ちなみに、なぜ僕がハリーに目をつけたのかというと、あの死の呪いすら掻い潜った愛の力というものに興味が湧いたからさ。ついでに言うなら彼は分霊箱の一つで一度死ぬ状況であっても死なない。なんともすごい能力だ」
「なぜ、それを……」
そうだ。このことは原作をよく知る私とお兄ちゃんしか気づいていないはずだ。ヴォルデモートやダンブルドアですら知り得なかった情報をなぜこいつが持っているのか。
「あくまでそれは僕の予想さ。でも、その様子だと図星みたいだね」
「……どちらにせよ関係ない。彼に手を出すこと、それだけでもう有罪だ。覚悟しろ」
私は分身術を唱え、三人になる。
「……へぇ、面白い魔法を使うんだねぇ。ハリーポッターを食べるのがいいと思っていたけど、まずは君から味見してみるのが面白いかもなぁ」
彼を黙らせようと私は三方向から失神術を放つ。完全な不意打ちで無言呪文であるため、相手は避けられないはずだ。仮に一本避けれたとしても、その先にまた打ち込めばいい。
決まったかと思ったが、その直後の光景に私は目を疑った。
三方向からの失神術を、その赤い閃光をすべて防いでいるのだ。確かに、一本なら盾の呪文で防げるはずだ。しかし、三本とも防ぐことはできない。そもそも私は彼が反応できない死角から放ったからだ。
蝙蝠はニヤリと笑って呟く。
「それにしても乱暴だなぁ。でも、殺しにかかるってことは殺られる覚悟もできてるってことだよね」
それと同時に腕を大きく振った。何か来ると思い、私は上に避けたが、気づいたときには腹部に激痛が走っていた。下腹部はまるで刀で切られたかのようになっていたからだ。その衝撃で分身の二つも消えてしまった。
「……ぐっ、あぁぁ!!」
私は腹部を押さえて激痛に悶える。治癒呪文を唱えるが、自分の魔力切れもあって今一つ効果がない。
「さて、避けられたのはある意味予想外ではあったけど、これより先の地獄を見せてやろうか。ああ、これでこそ死神の牙の真骨頂だ」
蝙蝠が近いて来る。腹部から止めどなく流れ出る血を抑えながら答える。
「……黙れっ! そんなもんに屈してたまるかぁ!」
そして私はさらに失神術をぶつける。これはさっきよりもずっと魔力を込めた一撃だ。
しかし、それすらも簡単に防いでしまう。
「なるほど。確かに、君は面白い。なら、君にチャンスをあげよう。次、僕が攻撃したら、今プラスアルファの地獄を味わうことになるだろう。場合によっては死ぬかもしれない。その苦しい激痛の選択肢と女としての絶望を味わう選択肢、どちらがいい? ちなみに後者の意味は分かってるよね? これもまた徹底的なまでの生き地獄だけどね」
彼は舌なめずりをしながら近づいてくる。さらにいえば、出血が多すぎて意識が遠のいてしまいそうだ。時間稼ぎもできないらしい。なら、ここは撤退するしかない。
「さて、絶望の選択肢のどちらを選ぶか決まったかな」
私は軽く頷き、答える。
「……こんな状況なら、こうするしかないわね!」
その声と同時に指を鳴らして姿眩ましをする。向かう先は最初に思い浮かんだ「隠れ穴」だ。
それと同時に再び彼は攻撃をぶつける。自分が切り裂かれる痛みが走ったが、ここで止まる訳にはいかない。
「本当に面白いね。次会う機会を楽しみにしているよ」
その冷ややかな声が耳元で響いた。
うるさい。こちらからすれば、二度と顔も見たくない。そう思いながら、息絶え絶えになりながらやっとのことで私はウィーズリー家の前の草むらに着地した。
立ち上がろうとしたが、それはできなかった。
「……痛っ!」
腹部だけでなく、右肩から左腰にかけてを大きく抉られていたからだ。
ここまで来て死ぬのか。私は這いつくばりながら思う。
いや、こんなところで死ぬ訳にはいかない。どこぞの団長さんだって部下に見守られながら、止まるんじゃねぇぞと遺言を言って死んだんだ。このまま何も残さないまま死んでたまるか。というか、どうせなら皆に見守られながら、人差し指を突き立てて倒れて、止まるんじゃねぇぞと言いながら死にたい。
そんな下らないことを考える余裕があるならまだかろうじて大丈夫だ。そう思っていると、後ろから車の音が聞こえてきた。ハリーたちが乗っている空飛ぶ車の音だ。
私はゆっくり這いつくばって、邪魔にならない位置に移動する。
「……ユラナ!」
車から降りてボロボロになった私の姿を見て、ハリーたちが驚く。その姿を見て私は思わず胸を撫で下ろす。いや、だいぶ抉られているから撫で下ろす胸も消えつつあるけど。まぁ貧乳はステータスと言うし、セーフセーフ。
「……ハリー、やられちゃった。てか、眠い。マジで眠い」
細々とした声で私は呟く。皆が何か騒いでいる声が聞こえてくる。しかし、めちゃくちゃそれも遠い。そうか、自分の意識が遠のきつつあるのか。たぶん、死ぬからという意味より、疲れた上に彼らを見て安心したからというのが大きいのだろう。
そう思いながら、最後に小さく微笑んで私は意識を手放した。
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