side ユラナ・ウェリス
真っ暗な世界で誰かが叫んでいる。私は死神の牙の一人にめちゃくちゃにやられてしまった。それで瀕死の状態になっているならば、ここで叫んでいるのがお兄ちゃん、あるいはハリーやロンというのが典型的なパターンだろう。そして、気がついたら見知らぬ天井だとなるまでがお決まりのはずだ。さて、誰が私に近づこうとしているのか、見てみようじゃないか。
しかし、私の目に映ったのはまったく見たことのない銀髪の女性であった。しかも、私がいたのは湖に囲まれた島の上である。
「おや、やっと目を覚ましたかい、お嬢様」
彼女は穏やかに言う。
「ここは……どこ?」
「ここは私が作った庭だよ。世界のすべてを自由に操る神々の領域とも言えるかな?」
「言えるかなって言われても……。私には分からないし。そもそもあなたは誰?」
「私はクリファナ。世界を、そして死ぬであろう人を別の形で生き返らせる神の一人だよ」
「神? 正直、ピンと来ないんだけど……」
クリファナは笑顔で答える。
「それはそうだよね。なら、私が世界を書き換えられるという証拠を見せよう。というか、君はもう見てると思うんだけどね」
「証拠?」
「そう。説明に少し時間がかかると思うから、ここに座ってよ」
彼女は椅子を二つ作り出した。そして、話し始めた。
「さあ、君が先ほど見た死神の牙。それはあの世界にはそもそも存在しなかったモノだ。原作を知ってる君ならよーく分かっているだろう? そんなものがなぜいるのか、それは私が君と君のお兄ちゃんをあの世界に送ったためにそれの代償で私が作り出したモノだ。なぜ、そんなものを私が作り出したかって? 人を生まれ返らせるというのは、案外難しいことでね。うっかりすると、世界そのものを破壊してしまうかもしれない。そうならないようにバランスを取るためにそのようなものを加えたんだ」
「バランス?」
「そう。チートスペックを持つものがあまりにも楽にこの世界を攻略してしまっては私が送り込んだ意味がない。そう簡単にはクリアできないように作ってあるんだ」
「うーん。あまりにも急な話で理解しにくいかな。でも、結論からいうと、私はあの世界に戻れるんだよね?」
「もちろん。私が責任をもって戻してあげるよ。その前にいくつか聞きたいことがあるんじゃないかなぁ?」
私としては早めに彼らの元に戻りたい。いつあの化け物が皆に襲撃を仕掛けて来るか分からないからだ。あれの強さを考えたら、敵うのはダンブルドアかヴォルデモート、あるいは父さんくらいだ。早めにあれがいるのを伝えなくては。
「今は特にないかな。それより早く戻してもらえる?」
「はぁ!? せっかくすべて知識を持ち、あらゆる力を持つ私と話せているのに。馬鹿か? 馬鹿なのか君は!? 私と話す機会なんてもう二度とないかもしれないというのに……」
クリファナが叫ぶ。神でありながら意外にも表情豊かだなぁ。
「そんなに慌てることないじゃない。またいつか来てあげるから。だから、そんなにうなだれないで」
「そんな簡単なことじゃないんだよ。生きている人をここに呼びつけるのは……」
そう言われても、私は神が何をどうするとか知らないから困ってしまう。
「でも、ここでの暇な時間も君と話しててかなり潰れた。また、来てくれると約束してくれるなら、君に一つプレゼントをあげよう」
「プレゼント?」
「ああ。本来なら神しか用いることができない力だ。でも、私からしてみれば君はそれを持つに値する者だと思ってね。その力とは、あらゆる世界に自在に行くことができる力だ」
「あらゆる世界?」
「そう。君が望む世界にどこでも連れていってあげよう。目的は自由、どこに行くのも自由さ。もちろん、今君が持っている能力も全部セットで」
それが本当なら、それこそチートに近しいものではないだろうか。
「いいの? そんなものを与えてしまって」
「いいさ。君は私の期待に応えてくれるに違いないからね。ちなみに、使い方は簡単だ。どこの世界のどの場面に行きたいのか強く念じるだけさ。あとは私に任せておけばいい。言語などはこちらでどうにかする」
そう言うと彼女は指をパチンと鳴らし、人が一人入るくらいの穴を作った。
「ここに入れば元の世界に戻れる。早々に帰ってしまうのは残念だけどね」
「だから、そのうち会えるって。それじゃ、神様よ。その高みから私が足掻く様を見守っててね」
私はそう答えて、再び暗闇に足を踏み入れた。
……見覚えのある天井だ。ほんの数ヶ月前もここのベッドに寝ていたはずだ。
「……派手にやられたなぁ。大丈夫か?」
横で言うのはお兄ちゃんだ。
「おはよ、お兄ちゃん。ここって……」
私はゆっくり体を起こす。多少腹部に痛みが走るが、だいぶ治りつつあるだろう。
「ここはホグワーツの医務室だ。組分けの二、三時間前さ。二週間くらい寝てたんだよ、お前は」
二週間って……。それはエグいなぁ。
「また、心配かけたよね?」
「そりゃあな。正体不明の怪物にウェリス家長女が襲われたんだ。魔法界全体が大騒ぎだったよ。特にハリーたちは気が気でなかっただろうな」
「お兄ちゃんは?」
私が聞くと、彼はなぜか目に涙を浮かべて答えた。そして、私に抱きついた。
「……馬鹿、お前。心配したに決まってんだろ。しかも責任の一端は俺にある。気が狂いそうだったよ」
「ごめん」
謝ることしかできない。皆を悲しませた罪はかなり重そうだ。
「……何にやられた?」
私を抱きしめたまま、お兄ちゃんは言う。
「ごめん。それは言えない」
お兄ちゃんはより私を強く抱きしめて答える。
「なんでだよ。俺はお前を殺そうとしたやつに一発かまさないと気が済まない。頼む、教えてくれ」
私は首を横に振る。
「お兄ちゃんでもダメだよ、それは。あいつと会ったら絶対に殺される。私もそんなのは、嫌だよ」
「でもっ!」
「ねぇ、お兄ちゃんはさ、分かる? 自分のお腹が抉られる瞬間。自分の内臓を自分で見る瞬間。あんな痛みは誰も味わって欲しくない。なんで、それを自ら味わおうなんて考えるの?」
お兄ちゃんは私から離れて呟く。
「分かったよ。お前が教えてくれないなら、自分で探してやる」
そう言い残して、彼は医務室から出ていってしまった。それと入れ替わりで今度はダンブルドアが入ってきた。
「君の兄君が鬼のような形相で出ていったみたいじゃが、喧嘩でもしたのかね?」
ベッドサイドに腰かけて聞く。
「まったく面目ない話です」
「気持ちは分からぬでもない。本当に大事な人は何があっても守るべきじゃからのう」
私は頷いて、答える。
「先生にはお話ししてもいいかもしれませんね。まあ、それが狙いで来たのでしょうが」
校長は小さく微笑む。
「相変わらず勘が鋭いのう。それでは何が君を襲ったのか、教えてくれるかね?」
「私が襲われたのは『死神の牙』の一人『蝙蝠《こうもり》』というものです。それだけは話せます。しかし、今どこにいるかも分からない。さらに言うなら、どんな魔法を使ってくるのかも理解できてないんです。どちらにせよ、先生には行動していただきたくないんです」
校長は黙っているので、私は続ける
「校長にはホグワーツを守る義務がある。ですが、それ以上にあの敵だけは私が倒さなくてはならないんです」
「無粋かもしれぬが、なぜそこまで思えるのか聞いてもいいかね?」
「一つは私の成長のため、強くなったその先に何があるのか気になるんです。そして、もう一つが大きい理由なんですが、もう誰も死なせたくはないんです。私自身がどれほど苦しんだとしても」
校長は小さく頷いた。
「話してくれてありがとう。それでは、パーティーの準備に取りかかるとするかのう」
立ち上がった校長に私は言う。
「今話したことはくれぐれも内密にお願いします。特にお兄ちゃんには」
校長は再び頷き、今度こそ去っていった。彼のことを完璧に信用できる訳ではないが、恐らくお兄ちゃんに言うようなことはしないだろう。だとすれば、あの怪物は私がなんとかしなくてはならない。しかし、今のままだと明らかに力が足りない。どう考えても勝ち筋が見出だせないのだ。
〔それならば、私に頼ってみてはどうかな〕
頭の中で聞き覚えのある女性の声がした。数分前に話したクリファナだ。
〔あなたはどうして私の脳内にいるの?〕
〔さっき言うのを忘れていたよ。君の頭の中に入れるように細工を施したんだよ〕
私は苦笑する。
〔脳内に入られるのって、正直心地よいものじゃないわね。だって考えが丸聞こえなんでしょう?〕
クリファナは笑う。
〔そう思うのはごもっともだよ。さあ、どうする? 君と私であの化け物を倒そう。私は君の脳内にしか存在できないんだ。これは君の親しい人を巻き込むということにはならないはずだ〕
〔そうね。私一人じゃ心もとないからお願いしようかな。それ以外にも相談とかに乗ってくれると助かるけど〕
〔もちろん、いいさ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。それではよろしくね、ユラナ・ウェリス〕
彼女はそう笑った。私一人で勝つことが無理なら、そして他の人を巻き込むことすら無理なら、クリファナに魂を売ってでも自分の力で解決してやる。今年中じゃなくても、いつか必ず決着をつける。そう、ハリーたちがヴォルデモート率いる闇の陣営といつか必ず決着をつけなくてはならないのと同じように。
今回はここまでです。次回からまた、原作通りの話になるかと思います。今後もよろしくお願いします。