side ユラナ・ウェリス
ホグワーツに戻って来てから一週間が経った。日々の授業に追われながら、私は三人組の特訓の成果を見せてもらった。真面目なハーマイオニーは夏休みの間、かなり勉強してきたらしく、めちゃくちゃ上達していた。ハリーとロンも既に二年生のレベルははるかに超えているのではないだろうか。
そんな中、私も分身術に代わる新たな魔法の練習を行うことにした。蝙蝠に分身術が効かないならば、別のやり方を見つけるしかない。しかし、お兄ちゃんの様子はどうもおかしかった。練習にもほとんど来なくなり、私ともあまり話さなくなった気がした。念話呪文を使っても返答はない。私に飽きちゃったようなら、ヤンデレになる必要があるだろうか。
〔その様子なら全然大丈夫だね〕
私に脳内に住み着く女神クリファナが言う。
〔相変わらず辛口なのね、あなたは。ねぇ、蝙蝠を倒す新たな武器に心当たりあったりする?〕
〔うーん。私もあいつらが何者なのか把握できてない点が多すぎてさ。どうすればいいのか分からないかなぁ〕
クリファナもダメならできることはあらゆるものを調べて使えそうな魔法を見つけ出すか、新しく自作の魔法を作り出すかのどちらかだろう。しかし、どちらともめちゃくちゃ難易度は高い。
そんな中、事件は起きた。グリフィンドールとスリザリンでクィディッチの練習場の取り合いとなってしまったのだ。これは避けては通れないイベントではあるが、フォイフォイ、もといマルフォイに「穢れた血」という言葉を発させる訳にはいかない。これは原作を壊す可能性があるが、後に味方になるであろうマルフォイと余計な不和を生む必要はないからだ。
そう思いながら、私が見つけたのはマルフォイがグリフィンドールチームに新しい箒を見せびらかしているところだ。
それに対してハーマイオニーが反論する。
「グリフィンドールの選手は誰一人お金で選ばれたりしてないわ!」
マルフォイが鼻で笑う。
「君みたいなマグル生まれに何が分かる。この生まれそこないのーーー」
「そこまでよ」
マルフォイの言葉を遮ったのは、沈黙を守っていた私である。
「あなたが何を言おうとしたのかはだいたい分かるけど、それを言わせる訳にはいかないわ。もしまだごちゃごちゃ言うんであれば、実力行使も辞さないけど、どうする?」
私が杖を取り出し、軽く睨む。もちろんここでドンパチする気はまったくないが、こうすればロンがナメクジを吐く展開も避けることができるはずだ。
そう考えていると、頭上からチョップが降ってきた。お兄ちゃんの登場である。
「そこら辺にしとけ、アホンダラ。なあ、ここは俺とユラナに免じてなかったことにしてくれないかな?」
スリザリンチームのキャプテンがそれに答える。
「いや、しかしな……」
それに対してお兄ちゃんは軽く笑みを浮かべた。
「ここでなかったことにしてくれれば、俺とグリフィンドールに借りを作ることができる。これならどうだ?」
相手は黙ってしまった。というか、お兄ちゃんどんだけホグワーツで影響力高めてんのよ。
「……分かった。帰るぞ、お前ら」
スリザリンチームのキャプテンがそう答えて、彼らは去っていった。マルフォイは私とハーマイオニーを睨んでいるような気がした。ちなみに、私はショタコンロリコンのW属性持ちだが、睨まれて興奮するような趣味はない。
その後、多少の後味の悪さはあったものの、どうにか原作よりかは誰も傷つかない結果で、グリフィンドールチームは練習を始めることができた。
それを眺めながら、ハーマイオニーが私に聞く。
「ねぇ、ユラナ。さっきマルフォイが何を言おうとしたか分かる?」
私は軽く頷く。
「うん。でも、私としては教えたくないかな。具体的には『例のあの人』の本名と同じくらい言いたくない。特にハーマイオニーには」
ロンも頷く。
「そうだね。僕としても言いたくはないかな」
伝えるべきか否か迷っていたところで、お兄ちゃんが答えた。
「……穢れた血、だろうな」
その小さな呟きをハーマイオニーは聞き漏らさなかった。
「穢れた血?」
ロンがそれに答える。
「マグル生まれに対する最大限の蔑称だよ。だから、言いたくなかったんだ」
そして、お兄ちゃんは答える。
「だがな、これはあくまでも俺の想像だ。マルフォイが必ずしもこの最悪な言葉を言ったとは限らない。だから、そんなに気にするな」
その言葉に対してハーマイオニーは軽く頷き、私に微笑んで、
「ありがとう、ユラナ」
と言った。その笑顔、実年齢30前のお姉さんには効果バツグンだわ(おばさんとか言ったやつ、表出ろ)。
「気にしないで。私のためにやったことだから」
これでグリフィンドールとスリザリンの不和は軽減されることはなくても、悪化することはなかったようだ。でしゃばった甲斐はあったかな。
(お兄ちゃんもありがとうね)
念話呪文で礼を言う。
(気にすんなよ。お互い様だ。あと、恥ずかしいのは分かるが、兄としては直接礼を言って欲しかったなぁ)
お兄ちゃんがぼやく。私はそれを軽くあしらって、穢れた血の事件は幕を閉じたのだった。
前述した事件からしばらく経った日の晩、私はより強い魔法を探しながら、クリファナと話していた。
〔ねぇ、クリファナ。死神の牙について何も知らないというのは本当なの?〕
〔何も知らないとは言ってないよ。いくつか知っていることはある。だが、それを教えるのは今じゃないという訳だ〕
〔どうして? あらかじめいろいろ伝えてくれた方が対策とかも練れるんだけど〕
〔確かにそれはそうかもしれない。でも、それはサスペンス小説をネタバレした状態で読むようなものだよ。それはあまりにつまらないことなんじゃないかな〕
私はそこで話を切った。彼女の言うことも一理あるからだ。それに今の私はそれを論破するほどの言葉も出せない。
そのときハリーとロンが談話室に戻って来た。二人は今日、車で暴れ柳を粉砕してサプライズ登校したことの罰則を受けていたのだ。
「お疲れさま、二人とも。ん? 何かあったの?」
二人ともどこか浮かない顔をしているように感じられた。
「ちょうどよかった、ユラナ。さっき変な声を聞かなかった?」
「声?」
「うん。『引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる』こんな感じだった」
パジリスクが動き始めたかぁ。それを分かってても、今の段階で私ができることはそんなにないかなぁ。
「一応聞くけど、ロンはそれは聞いた?」
「ううん。まったく聞こえなかったよ」
だろうね。私も蛇とコミュニケーションがとれる訳ではないから聞き取れなかった。
「私も聞いてない。でも、一つ言えるのはこれ以上ハリーに訳の分からない声を聞かせるんであれば、八つ裂きにされるのはその狂人だってことかな」
ハリーがおずおずと言う。
「ユラナ、目が怖いよ……」
「ダンブルドアとお兄ちゃんと私がいる限り皆には手を出させないわ。それだけは安心していいわよ」
そう言って微笑む。さてと、ハリーをどこまで守りきれるか、私の脳内という特等席で見てなさいよ、クリファナ。
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