大洗の提督には目的がある   作:岡本切葉

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オリジナル艦娘のようなものが出てきます。苦手な方は注意が必要です。



大洗鎮守府に来た訳ありの艦娘長月、彼女はそこで何を見る?


長月ノ章

 彼は頭を抱えていた。

 

 理由は一人の艦娘、それをこれからどうするのか、だ。

 

 彼女には提督殺害の前科があるため、どの鎮守府でも引き取ろうとはしなかった。それは自身も同じであった。

 

 しかし、その能力には目を見張る物があるため、なんとか前線に復帰させたかった。

 

「……仕方ない」

 

 彼は腹をくくり、ある鎮守府に電話をし、指令を出す。

 

「私だ。君の鎮守府に引き取って欲しい艦娘がいる」

 

 電話の相手はニ、三個の質問をした後、快く引き受けた。

 

「では、くれぐれもよろしく頼む」

 

 電話を切り、ため息をつく。

 

「[陸の孤島]に送ることになるとは……すまない。どうか死なないでくれよ……」

 

 艦娘を大切に思う中将は祈ることしかできなかった。

 

 厳しすぎる提督がいると噂されているその鎮守府で生きていくことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大洗鎮守府は大洗港の西部にある大洗フェリー乗り場を取り壊し作られた。深海棲艦の侵攻により制海権を失った彼らに海路はつかえないため、不要となってしまったのだ。

 

「ここか……」

 

 艦娘が一人、その入り口に現れる。名前は長月といった。

 

 彼女は中に入ると鎮守府内の地図を取り出す。

 

「忙しいから自分で執務室まで来てくれとはな……ここの提督は厳しいという噂だったな。楽しみだ」

 

 彼女が執務室の前まで来たときだ。中から提督と秘書艦の声が聞こえた。

 

『新しく来る子ですか?』

 

『そ。なんか問題児扱いされてる子』

 

 その言葉に彼女の手が止まる。

 

『えーと、提督を無能と罵り、殺害って来てる』

 

『……え、それどこまで本当ですか?』

 

『嘘はないんだと思うよ。言ってないことがあるだけで。あ、でもこの優秀なって部分は嘘かも』

 

『そう……ですか……』

 

 長月は二人の話が終わるのを待ち、扉をノックする。

 

『どうぞー』

 

 気の抜けた声、その声を聞き、荒々しく扉を開け、中に入る。

 

「失礼する」

 

 早足で提督の前に立つと、敬礼する。

 

「今日よりこの鎮守府の所属となった長月だ。よろしく頼む」

 

「よろしく。俺がこの鎮守府の提督の橋本建(はしもとけん)だ。こっちは秘書艦の電」

 

「電です」

 

「……何?」

 

 長月は噂と違う提督を前に、警戒する。

 

「私は鬼提督がいると聞いたんだが?」

 

「騙して悪いが……ってやつかな。場合によっては正解になるぞ」

 

「……どうだか」

 

彼女の視線を他所に、彼は鎮守府のルールを説明する。

 

「1、お風呂はドックのを使うこと。ドックの使用は自由である。

 2、訓練は訓練時間及び自由時間のみ可能。

 3、三食しっかり食べる事。

 以上の三つだ」

 

「……本気で言っているのか?」

 

 彼女の目つきが更に険しくなる。

 

「本気も本気。大真面目」

 

 彼がそういった瞬間、長月は艤装を展開し、建にその主砲を向けた。

 

「……ほぉ?」

 

「呆れたものだ。こんな奴が噂の提督とはな。もう少し有能だと思っていたんだが……」

 

「なるほど、無能には付き合えないってわけか」

 

「そういうことだ!」

 

 その言葉と同時に主砲を撃つ。打たれた弾丸は建のいた場所を爆風で包む。

 

 だが、彼女は気付いていなかった。秘書艦である電が、なんのリアクションもしていないことにだ。

 

「下克上精神が強くていいねぇ。おまけに己の正義を貫く覚悟がある。気に入った」

 

「!?」

 

 後ろからの声。長月はすでに建に背後を取られていたのだ。

 

「いつの間に……!」

 

「ついさっき。ところで電さんや、もう少し心配してほしいなー俺」

 

 建は気にせず電に話を振った。

 

「司令官さんならあの程度の攻撃に当たるはずありませんから」

 

「わーお、信頼されてるぅ」

 

 建少し悲しそうにそう言って、長月に一枚の紙を渡す。

 

「俺のやり方が弱いと言うならその中の艦娘から好きな一人を選びな。そいつに勝ったら甘んじて受けてやるよ」

 

 彼はそれだけ言って椅子に座り直す。

 

 その時、彼女は気付いた。

 

(……待て!?どうして椅子が、いや、部屋が無事なんだ!?)

 

 彼が攻撃を避けたのであれば、砲撃は壁に当たったはずであり、艤装の攻撃力があれば部屋の壁は吹き飛び、椅子や机は破壊されているはずだった。

 

 しかし、目の前には先程と同じ、撃つ前の状況があった。

 

「お前が勝ったら疑問にも全部答えていいぜ」

 

 彼女がなぜ、と聞くより早く釘を刺された。

 

 書類を見ると、そこに書かれている名前は五つあった。

 

「……よし、なら、こいつだ」

 

 長月は一番下に書いてある名前を指差す。

 

「一番下ね…………………………あ」

 

 その名前を見て、彼は固まる。

 

 電も慌て始めた。

 

「あー……えーっと……本当にいいの?」

 

「どういう意味だ?」

 

「一応それにも書いてあるけど、[艦娘かどうか不明]なのよそいつ?」

 

 彼女が選んだ欄は[氷麗]という名前だけが書かれており、写真やステータスはなく、それどころか艦種すら書かれていなかった。

 

「私は構わん。それにこいつがこの鎮守府で一番強そうだったからな」

 

「……いやまあそうなんだけど……」

 

 これ以上言っても無駄と感じた彼はため息とともに立ち上がる。

 

「とりあえず探してくるから出撃ゲートで待っててくれ。電、案内頼んだ」

 

「わ、わかりました!」

 

 彼が部屋を出ていくと、電は机から紙とペンを取り出し、長月を出撃ゲートまで案内する。

 

「探すとはどういうことだ?無線で呼び出せばいいではないか」

 

 その途中で彼女は疑問を口にする。

 

「あの人は基本的に無線を聞いていないのです。しかも、いたりいなかったりするので、探すところから始まるのです。……あの人が書いていないものを用意していたはずなのですが……」

 

 彼女はため息をつく。

 

「……艦隊には加わっているのだろう?」

 

「ええ、まあ」

 

 どこか歯切れの悪い答えが帰ってくる。

 

 二人が出撃ゲートに到着すると、そこにはすでに人影があった。

 

 胴体から肩にかけては緑色のアーマー、腰にはベルトが巻かれ、足にはブーツのような装備がつけられている。アーマーの無い部分は黒いタイツによって肌は見えなくなっており、顔も氷の結晶のような形のフェイスカバーの付いたフルフェイスマスクによって隠されていた。

 

「誰だ……?」

 

氷麗(つらら)さん、ここにいたのですね」

 

「こいつが……?」

 

 氷麗は右手を上げ、手を振る。そして、長月を指差し、首を傾げる。

 

「ちゃんと紙とペンを持ってください。今日からこの鎮守府に配属になった長月ちゃんです」

 

 電から渡された紙にペンで何かを書き、書き終わるとそれを長月に見せる。

 

『氷麗と書いて[つらら]だ。すまないが喋ることが出来なくてな。これで我慢してくれ』

 

 少し下手くそな字でそう書かれていた。

 

「あ、ああ。長月だ。よろしく頼むぞ」

 

 しゃべれないということに疑問を持った彼女だったが、電が話を進めたため、聞く機会を逃してしまった。

 

「えっと、それでなのですが……」

 

 電が事情を説明すると、氷麗は頷く。

 

『いいよ。彼の教え方を一番理解しているのは私だからね。手加減しないよ』

 

「無論だ。全力で来い!」

 

 二人は海上へ出ると、互いに距離を取り、構える。

 

(何だあの艤装は……?)

 

 長月は氷麗の艤装を注意深く観察した。しかし、観察するも何も、氷麗は先程から着ている鎧のみを装備し、武器もまるで剣の持ち手部分を九十度折り曲げたような形のボウガンひとつだけだった。

 

(艤装はあれだけ……空母型か?いや、艦載機を持っているような素振りはなかった。ならあれが主砲か?……見たことのない装備だ。気をつけなければ)

 

 警戒を強めた時、電の始まりの合図が聞こえた。

 

「はぁ!」

 

 同時に、長月は主砲を放つ。

 

 砲弾はまっすぐに氷麗へと吸い込まれる。

 

 しかし、氷麗は身体を半分だけ動かし、最小限の動きでそれをかわした。

 

「何!?」

 

 もう一度砲撃する。しかし、それもかわされる。

 

 今度は氷麗がボウガンを長月に向ける。

 

「っ!」

 

 氷麗がトリガーを引く直前、彼女は大きく右へとかわす。先程まで自分のいた場所を三発の弾が通り過ぎる。もし最小の動きでかわしていたなら、その攻撃に当たっていただろう。

 

(あの一瞬で三発も撃ったのか……!?それに、砲撃の音はしなかった。何なんだ一体!)

 

 長月は氷麗の方へと視線を戻そうとした。

 

「!!」

 

 しかし、彼女の本能が彼女の体を前へと出す。刹那、後ろから何かが空を切る音がする。

 

 振り向くと、氷麗がいつの間にか後ろにいて、先程まで持っていたボウガンが剣となって薙ぎ払われていた。

 

(変形武器だと!?一体何なんだこいつは!)

 

 彼女が距離を取ると同時に氷麗の動きが変わっていることに気が付いた。

 

 先程まで試すような動きだったが、今はこちらの動きを注意深く観察し始めているのだ。

 

「……どうやら認めてはもらえたようだな。だが、勝つのは私だ!」

 

 副砲を連射し、牽制しながら逃げ道をなくしていく。

 

 氷麗は副砲をかわしながら主砲を撃つギリギリのタイミングで体を不規則に動かし、狙いをつけられないように動いていた。

 

「ならば……!」

 

 長月は副砲を撃ちながら接近していく。

 

 それを見た氷麗は副砲を避けつつ、同じように接近する。

 

 そして、二人がある距離まで近づいた時、長月が動く。

 

「おもい知れ!」

 

 魚雷だ。彼女の足の発射管から合計六本の魚雷が発射された。

 

「この距離なら避けられまい!」

 

 さらに、氷麗の左右に向かって砲撃し、逃げ道をなくした。

 

 そして、魚雷が氷麗に当たる……はずだった。

 

 氷麗の体が宙へと舞う。

 

「なんだと!?」

 

 それはただの跳躍であったが、[艦娘は水上では跳躍できない]と思っていた彼女にとって、それは想定外の行動だった。

 

 その一瞬の驚愕の内に目の前に降り立った氷麗は、長月が動くより早く、彼女の首元に剣を突きつけた。

 

「……私の負けか」

 

 両手を上げ、降参を示す。

 

『では、そこまでです。氷麗さんの勝利なのです』

 

 電のアナウンスによって、模擬戦は終わりを告げた。

 

 

 出撃ゲートに戻ってきた二人は電と合流する。

 

「お疲れ様なのです」

 

『お疲れー』

 

「いい勝負だった。ありがとう」

 

『礼には及ばない。ここでは固定概念から崩していくからね』

 

「……そう、だな。水上では跳躍できないものとばかり思っていたよ」

 

「私もここでそれを教えてもらうまで出来るとは思っていませんでした。不思議ですよね、やれば出来ると気付けるのに思いつかないなんて」

 

「…………確かにそうだな」

 

 もしかしたら他にもあるのではないか、と考えたところで、氷麗が文字を見せる。

 

『では用事があるのでこれで』

 

「む、用事だと?」

 

『うん。ちょっと役場の方に』

 

「……その格好でか?いや、そもそもいいのか?」

 

 肌の全く見えない格好では目立って仕方ない。しかも、艦娘は軍事機密であり、そのような事が許されるはずはないと考えるのは普通だろう。

 

『この街の人々は艦娘の存在を知っているし、深海棲艦を倒していることに感謝をしてくれているからね。まあ提督の頑張りもあって、今じゃ街ぐるみで艦娘の支援と交流をしているのさ』

 

「……」

 

 長月はそれを聞いて首を傾げる。

 

(それに何の意味があるんだ……?)

 

 しかし、それを聞く前に氷麗は外へ出てしまう。

 

「へい、何やってんだテメェ」

 

 しかし、建にアイアンクローをされた状態で戻ってきた。

 

『おや、提督。なぜ私はこれを受けているんだい?』

 

「いるならいると言えって言ってあったよな?」

 

『ああ、忘れていただだだだだだだだだだだだ!!』

 

 氷麗の頭から何かが軋む音が聞こえた。

 

「し、司令官さん!死んじゃうのです!」

 

「ったく、次から気をつけろ」

 

 氷麗の体は投げ飛ばされ、海の中へと消えた。

 

「さて、うちの強さはわかったか?」

 

「……ああ。少なくとも、いい育て方をするということはわかった。すまなかったな、失礼なことをして」

 

「別にいいさ。久方振りに殺気を感じられたしな。さてと、それじゃあこの鎮守府の設備説明をしないとな」

 

 歩き始めた建の後ろを二人はついていく。

 

 その時、長月は先程まで氷麗が持っていた紙束をみつける。

 

 ふと気になって中を見ると、先程までの会話の内容と、[おっはよー]や[さいならー]といった挨拶のようなものが書かれていた。

 

「定型文……というやつか」

 

 彼女は氷麗が戻ってきたら渡そうと思い、それを折りたたんでポケットに入れた。

 

「長月ちゃん!行くのです!」

 

「今行く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、まさか氷麗殿の攻撃をかわすとは」

 

「初見であれを避けるのは流石だね」

 

 海岸線、そこに[初春]と[響]はいた。

 

 二人は自分たちが氷麗と戦った時を思い出す。

 

「それにしても、潜れるだけでは無いとはのぉ」

 

「私の時は踊ってるみたいな動きだったよ。……何というか、何でも出来るよね」

 

「本人は出来ることしか出来ないと言いそうですけどね」

 

 振り返ると、そこにはピンク色の髪の少女がいた。

 

「おや、[不知火]ではないか。そっちはどうじゃ?」

 

「無論完璧です。私に落ち度はありませんから」

 

 不知火は紙の束を二人に渡す。

 

 内容に目を通すと、二人は息を呑む。

 

「なるほどのぉ……なかなかのじゃじゃ馬……いや、意思がはっきりしておると言うべきかの」

 

「殺された司令官も、これだと文句は言えないね……それにしてもこんな事が罷り通っているのかい?」

 

「その様です。他の鎮守府についても、司令官から調べるよう言われていますが、今のところ似たような感じですね」

 

 三人はしばらく無言になる。

 

「……とりあえず、これは司令官に渡すので」

 

「おお、すまんの」

 

спасибо(ありがとう)

 

「では、これで」

 

 不知火は踵を返し、その場から去る。

 

 しばらくの沈黙の後、響が口を開く。

 

「……もしかしたら、司令官のしようとしていることは間違っていないのかもしれない。[代わりがいるからいくらでも殺せる]なんて、私は受け入れられない」

 

「……だとしても、わらわ達艦娘は人を、人間を守る存在じゃ。そう簡単に裏切って良いものではない」

 

「なら……」

 

「別にこのままで良いとは思っとらん。あくまで対立以外の道もあるはず、と考えておるだけじゃ。……無論、その考えを見つける時間はほしいがの」

 

 二人は視線を合わせなかった。分かっているのに納得のいかない自分がいる、その事が彼女たちを困惑させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、訓練時間が終わり、シャワーを浴び終えた長月は食堂へ向かう。

 

「伊良湖さん、今日の献立はなんだ?」

 

「今日はオムライスですよ!」

 

「おお!本当か!」

 

 長月は嬉しそうにお皿を受け取る。

 

「もうここの生活には慣れましたか?」

 

「ああ。なんだか動きのキレも良くなった気がするよ」

 

 彼女はウキウキしながらテーブルに皿を置く。

 

 そして、座る直前に狙撃された。

 

「はい当たり」

 

 扉がゆっくりと開き、黒いリボルバーを持った建が入ってくる。

 

「このタイミングもか……!」

 

「食事中に来ることもあったんだぞ。まだ甘いさ」

 

 彼はオムライスを取り上げ、代わりにおにぎりを置く。

 

「確かに厳しい訓練だ……!」

 

「さ、いっただっきまーす」

 

 その様子を他の艦娘は遠目に見ていた。

 

「……あれが[特別訓練]とやらか?」

 

「はい。司令官さんのお師匠さんのやり方を真似しているそうです」

 

「司令官の師匠ですか……どんな方か気になりますね」

 

 不知火は電に聞く。

 

「私も会ったことはありません。司令官さん曰く……『あの人は…………なんだろ、悪魔?鬼?とりあえず一番敵に回したくない相手』とのことです」

 

 全員の間に沈黙が流れる。

 

「……気にしないことにしよう」

 

「……会うことはないはずだからのぉ……」

 

 その後、建と長月は執務室へと向かった。

 

「今手の空いてるやつがいなくてな、書類の整理を手伝ってほしいんだ」

 

「ああ。構わんぞ」

 

 二人は書類の山と戦い始める。

 

「西の鎮守府の書類も請け負っているのか……」

 

「まあ事務仕事を押し付けられてるようなもんだけどな。そのおかげで向こうの情報がたんまり入ってくるし」

 

「……黒いな……っと、これはこっち……む?」

 

 サインの書かれた書類を置こうとして手が止まる。

 

 書類には[提督]と漢字で書かれているのだが、その[督]という字は上の部分が大きくなってしまい、下の部分がかなり窮屈に書かれていた。

 

(……この文字の書き方、最近どこかで……)

 

 長月がどこで見たか思い出そうとしていると、

 

「そういや、司令官殺したって聞いたけどそんな無能だった?」

 

「あ、な、なんだ?」

 

 声をかけられ、書類を置き、次の書類を手に取る。

 

「いや、どこまで無能だったのかなと思って」

 

「……ああ、前の司令官のことか」

 

 彼女は手を休めず答える。

 

「そうだな。作戦は全て机上の空論、一つでも上手くいかなかったらパニックを起こす、あげく作戦の失敗は私達にあると言い出してな」

 

「……他の奴らは反対しただろ?」

 

「口だけだったがな。結局は皆、開放されたかったんだ。だから私は自分がしていることは間違っていないと思っている」

 

「……なるほど」

 

 違う方向を向いていたため、建が笑ったことに彼女は気付けなかった。

 

「んじゃ、俺も気を付けないと寝首を掻かれちまうな」

 

「……出来る気がしないのだがな。それに、今の司令官なら信頼できる」

 

「して、その理由は?」

 

「氷麗や他の艦娘を見ればわかる。あんなに楽しそうに毎日を過ごし、訓練も見たが、腕もかなりいい。司令官の采配が見事でなければ、彼女達も信頼しないだろうからな」

 

「新手の褒め殺し?」

 

「素直に受け取れないところが少し残念だが」

 

 彼女はクスクスと笑う。

 

「長月の考えはよくわかった。俺としてはぜひとも続けてほしいな」

 

「止めないのか?」

 

 同僚が殺されているというのにドライな対応をする彼に驚いて聞く。

 

「別に。そいつが俺の親友なら考えるが、生憎今の俺には海軍に親友と呼べるような奴はいないからな。そいつらがどこで死のうが恨まれようが俺には関係ない」

 

 手をひらひらと振り、あっけらかんとした様子だった。

 

「それに、俺は自分の正義を貫く奴が好きなんだ。他人の言葉に惑わされず、自分の信じる道を突き進む奴がな。方法は何でもいい。電のように誰かを助けることを諦めないでもいい、ムカつく奴は全員ぶん殴るでもいい、そういう奴が俺は好きだ。そして、嫌いでもある。逆に言えば意志のないやつはどうでもいい存在だ」

 

「己の正義……か」

 

 彼は長月の目を見る。

 

「そのままでいな。お前の信じるそれが、勇気となり、正義となる」

 

「……ああ。ありがとう」

 

 書類の整理を終えると、二人は自室へと戻った。

 

「さて……昨日は寝ているところにも来たからな……」

 

 彼女は入り口近くにロープを張り、その先に空き缶を幾つか括り付けた。

 

「気休めだがしないよりはマシだろう……っと、ゴム鉄砲……」

 

 机から建の持っていたリボルバー銃に似た拳銃を取り出し、ゴム弾が入っていることを確認する。

 

 その時、同じ引き出しに入れていた氷麗の定型文が目に入る。

 

「……あ!」

 

 そして気付く。文の中にあった[提督の頑張りもあって]という部分、そこの[督]の字が、あの書類の字と同じだったのだ。

 

「確かこれは私の目の前で氷麗が書いたはず……まさか、司令官が氷麗……!?」

 

 思わず叫んでしまう。しかし、

 

「……いや、それはないか。氷麗と司令官は私の目の前に同時に現れていたではないか。それに艦娘でもないのにどうやって海の上に立ったというのだ」

 

 馬鹿馬鹿しい、そう呟いて紙を戻す。

 

「それよりも今夜こそ避けなければ……そろそろ伊良湖さんのオムライスをもう一度食したいところだ……!」

 

 布団に横になり、寝る準備に入ると、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 なお、この日は一発目を避けることができたが、二発目に当たったとか。

 

 

 そして、長月が大洗鎮守府を去る日が来た。

 

「長月の要望通り、西の方の出来るだけマシな司令官の鎮守府に行けるよう手配しといた。んじゃ、向こうでも元気でな」

 

「ああ。すまないな。あんなに扱かれたんだ。死んでしまっては失礼だからな」

 

 二人は握手を交わす。

 

「お体に気をつけてくださいね」

 

「電もしっかり司令官を見てくれよ」

 

 二人も握手をし、長月はちょうど来た電車に乗る。

 

「では、また会おう」

 

「またな」

 

「またなのです!」

 

 扉が締まり、電車は走り出す。

 

(まったく、面白い鎮守府だったな。出来る事ならまた来てみたいものだ。結局二回しかオムライスにありつけていないしな……!)

 

 楽しそうに思い出に浸りながら、彼女の乗った電車は進む。

 

(……っと、司令官が最低の人物だと他の艦娘や司令官には言わないといけないのだったか。今のうちに嘘の内容を考えておこう)

 

 そう考え、彼女はノートを取り出し、書き始める。

 

 

 二人は長月を見送ると駅を後にし、バイクに跨る。

 

「とりあえず毒にも薬にもなりそうだな」

 

「……ですが、一人だけではどうにもなりませんよ」

 

「そうだな。対話にしろ圧力にしろ、今は変化を嫌う奴が上にいるからな、茨だらけだ。……さあ長月、お前はその技術で何を目指す?」

 

 スロットルを回し、バイクを走らせる。

 

 何が起こるかという事に心を踊らせながら。




長月 己の行動にさらなる自信を持つ
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