大洗の提督には目的がある   作:岡本切葉

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大洗鎮守府へと取材に来た青葉、彼女にはある目的があったのだが………


青葉ノ章

 大本営は東京都庁のすぐ横、そこに存在していた。そこにいるのは新日本海軍の中でもトップに近い存在だ。

 

 そして評議会、トップ達の集まるその会議の中、ドン、と机を強く叩く音がする。

 

「くそっ!忌々しい!」

 

「ははは、佐々部大尉ともあろうお方が簡単にあしらわれるとは、この地位についてよかったと思うよ」

 

 佐々部、と呼ばれた男は笑うその男を睨む。

 

「おお怖い怖い」

 

「確かあの男、橋本とか言ったかな?なかなか度胸があるじゃないか」

 

「私の顔に泥を塗るとはいい度胸をしている!」

 

 彼らの話している男は、新日本海軍が自分達の駒とする人間を集めるために一般から集められた[特殊一般人]の一人である。

 

 彼は佐々部の講演中、話を聞かなかっただけでなく、彼を気迫のみで怯えさせたのだ。

 

 その一件によって、彼は海軍内で実はビビリなのではないかという噂をたてられてしまったのだ。

 

「そうだな。東の更に辺境に着任させたが、仕事は出来るようでな。なんでも屋として、よく働いてくれているよ」

 

 クックックというきみの悪い笑い声が響く。

 

「そうだ、使えない艦娘の溜まり場とするのはいかがかな?」

 

「ありだな。ついでに建造されたばかりの艦娘の練度上げでもしてもらうとするか」

 

「いいや!それだけでは収まらん!」

 

 また、机が叩かれる。

 

「奴に吠え面をかかせなければ腹が収まらん!」

 

 彼は荒々しく部屋を出ていく。

 

「……何度も失敗していることは言わなくていいのかね?」

 

「彼の鎮守府にいるのは駆逐艦四隻だというのに、戦艦六隻でも演習で勝てなかったのだろう?」

 

「ああ。引き分けという結果だ。一撃も与えられなかったらしい。まったく、どういうことなのだ」

 

「さあな……少なくとも、飼い殺しにする方が我々に利があるとは言えるだろうな……」

 

 

「おい!青葉はいるか!」

 

 自室に戻ってきた佐々部は一人の艦娘を探す。

 

「は、はい!」

 

 青葉と呼ばれたセーラー服の少女が彼の前に走ってくる。

 

「お呼びでしょうか!」

 

「お前、確か鎮守府に配る新聞を書いていたな?」

 

「え、ええ。書かせていただいていますが……」

 

 彼女は各地に点在する鎮守府の戦果や、必要戦力の呼びかけなどの情報を各鎮守府へ知らせる新聞を書いていた。

 

「ちょうどいい。大洗鎮守府の取材をしてこい」

 

「大洗の……ですか?」

 

 大洗の鎮守府は彼がいつも蔑んでいる鎮守府であり、そこに行けというのは不思議に思った。

 

「最近不穏な噂を耳にしたのでな。その真偽を確かめてほしい。なに、どんな人でも後ろめたいところはある。我々はそれを摘発する義務がある。そういう事だ」

 

 彼は最もなことを言っているように聞こえるが、青葉はその真意を理解していた。

 

(何でもいいから殴れる要素を見つけてよいということよね……まあちょうど私もどんな人か気になっていたし、行ってみるとしましょう)

 

「了解です!」

 

「くれぐれも、よろしく頼むぞ」

 

 

「今日よりお世話になります青葉です!以後お見知りおきを!」

 

 大洗鎮守府の執務室、彼女はそこで提督への挨拶を済ませる。

 

「俺がこの鎮守府の提督の橋本建(はしもとけん)だ。よろしく」

 

 提督服に見を包み、右側にはねた髪を持つ男が提督であった。

 

「秘書艦の電です」

 

 茶色の髪を後ろでまとめ、首に黄色いスカーフを巻いた少女は頭を下げる。

 

「んで、取材だっけ?」

 

「はい!様々な業務を請け負ってるとのことですので、その辺りを詳しく聞けたらなと!」

 

「…………それ誰が読みたがってるの?」

 

「え…………」

 

 そう聞かれ、青葉は一瞬口ごもる。

 

「い、いや〜これまで例に見ない鎮守府なので、個人的に気になりましてね〜」

 

「ふ〜ん…………」

 

 建は疑わしげであったが、

 

「何でもかんでも疑うのは良くないですよ。ただの取材だと思うのです」

 

 電がそう進言する。

 

「…………まあいいや。ご自由にどうぞ」

 

「ありがとうございます!早速ですが、業務の詳細から聞いても?」

 

 彼女は手帳を取り出し、メモを取り始める。

 

「基本は他の鎮守府から来た書類の整理だな」

 

「他の鎮守府ですか?この鎮守府ではなく?」

 

「ここは比較的安全な海域だからな。書く書類がないのさ。建造もしないし、出撃もないから建造報告書も戦果報告書も書く必要がない。時折哨戒する程度さ」

 

「なるほど…………大規模作戦の場合は参加するんですか?」

 

「いんや。うちには駆逐艦しかいないし、四隻だけだからね。資材の提供と、北行く時の中間地点程度かな」

 

 青葉は作戦に消極的とメモする。

 

「なるほどなるほど。ちなみに原則のようなものはありますか?」

 

「そうだねぇ。訓練できる時は訓練しろ、かな」

 

「…………なるほど」

 

 なんとなく、その言葉には裏があるような気がした彼女は言葉の後に[?]を付ける。

 

「そういえば、青葉の鎮守府ではやたらとあなたの悪口が聞こえるんですが、心当たりは?」

 

「………まあ嫌われてるからな、俺。何でもかんでも力でねじ伏せてきたお偉いさんを力でねじ伏せちゃったからね。何とか俺を蹴落としたいんだろうな」

 

 その話を聞き、あの男がやたらと敵視していたのはそのせいか、と気付く。

 

「なるほどなるほど………一度鎮守府を見て回っても?」

 

「いいぞ。せっかくだし俺が案内するよ」

 

「え、よろしいのですか?」

 

 他の鎮守府の仕事を請け負っているならば、忙しいものと思っていた。

 

「どうせ今日の分は終わってるから。電、あの子から電話があったら話し聞いてあげて」

 

「了解なのです」

 

 電は執務室に残り、二人は外に向かう。

 

「あの子?」

 

「前にストーカーに襲われてるとこ見つけて、ついカッとなってそいつを半殺しにしちゃって。その子を働いてるお店まで連れて行ったんだけど、その後ちょいちょい連絡をね」

 

(今さらっと半殺しって言った………)

 

 彼の話に戦慄しながらも、歩みをすすめる。

 

「…………日傘ですか?」

 

 その途中、彼は黒い日傘をさし、それから外へと出た。

 

「ああ。日焼けが怖いからな」

 

 女性っぽいところがある、とメモする。

 

「まずは……あれだな。工廠」

 

 彼が指差したのはレンガ造りの建物だ。

 

 中に入ると、そこには大量の資材と、資源、そして、大きな機械があった。

 

「意外と中はきれいですね」

 

「まあいつも使ってるからな」

 

「何に使っているんですか?」

 

「射撃演習」

 

 工廠の奥にある扉を開くと、そこは射撃場になっており、壁には一丁のリボルバーがかけられていた。

 

「人が相手なら俺が出ないといけないからな。これは欠かせない」

 

 彼はホルスターを腰に巻き、壁のボタンを押す。

 

「ちょっと離れてな」

 

 青葉は彼から少し離れると射撃場の反対側に目を向ける。

 

 そして、ブザーが鳴り、的が起き上がる。

 

 その時にはすでに彼はホルスターから拳銃を抜き、一発目を放っていた。

 

(早い……!)

 

 その後も起き上がると同時に的を貫き、六発を打ち終わると、拳銃をホルスターにしまう。

 

「一応言っとくとあれ、ランダムだから」

 

 的の近くまで行き、的を確認すると、全て頭のど真ん中を抜いていた。

 

「う、嘘……全部真ん中ですか!?」

 

「そんなもんだろ。というかこの位できなきゃ俺は死んでたし」

 

 いつの間にか的には妖精たちが群がり、開いた穴を修復していた。

 

「死んでいた……?」

 

「俺は元々旅人でね。旅の途中で山賊とか盗賊とかに襲われることなんてよくあったから」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 前科あり、彼女はメモにそう書き込む。

 

「………それにしても、資源がかなりありますね……」

 

「さっきも言ったけど出撃が少ないからね。それに艦娘も消費の少ない駆逐艦しかいないし」

 

 彼らはそれを横目に、工廠の中で一番大きな機械、建造機の前に来る。

 

「………妖精さんが沢山いますねぇ……」

 

「ほぼ使わないから手入れだけでいいって言ってるんだけど整備もしてるからね。まあ本人たちがやりたがってるからそれを咎めるのもね」

 

 工廠内には建造機の手入れをする妖精の他に、装備の開発や整備をする妖精、さらには先程彼が使っていた拳銃の整備をしている妖精もいた。

 

「触らせてよろしいのですか?」

 

「俺はガンスミスじゃない。掃除はできるが重心のズレとかバネの弱体化とかを直すのは無理だからな。任せてる。腕は確かなようだし、艤装以外をいじれるのが嬉しいのかいい顔してるしな」

 

 そう言われ、妖精の表情を見ると、確かにおもちゃで遊ぶ子供のような無邪気な笑顔が見えた。

 

(……妖精さんがこんな顔しているのは初めて見たわ……いつもはなんというか真顔が多いし……)

 

「んじゃ、そろそろ次行くか」

 

「あ、はい!」

 

 彼女がそこから出ようとした時、入り口の横に置いてある物に目が止まる。

 

(…………シートがかぶせてある?)

 

 ブルーシートがかけられた何かがそこにあった。これまで何かで覆われたものがなかっただけに、それはかなり目立つものであった。

 

(………気になるなぁ………捲ってみようかな)

 

 恐る恐る手を伸ばし、シートに手をかける。

 

「何しとん?行くぞ〜」

 

 捲る直前、いつの間にか戻ってきていた建に後ろから声をかけられ、驚いて手を離す。

 

「あ、は、はい!行きましょうか!」

 

 何かあると思った彼女はそれを頭の中に留める。

 

 次に来たのは入渠ドックだ。

 

 ドックの中には温泉と娯楽施設、医務室に化粧室、更にはエステサロンもあった。

 

「あなたは女性ですか!?」

 

 中を見て彼女はそう叫んでしまう。

 

「失敬な。れっきとした男じゃ」

 

「サロンって、少なくとも男性は使いませんよね!?日傘といい、って化粧室もあるし!使ってるんですか!?」

 

「多分な。艦娘用だし」

 

「………へ?」

 

 艦娘には入渠用の温泉のみで十分だという佐々部の持論を聞き続けていた彼女には、その意味を理解するのに時間が必要だった。

 

「何を勘違いしてるか知らんがこのドックは基本的に艦娘しか使わんぞ。俺は執務室のある建物の風呂使ってるし。娯楽はすることはあるけど」

 

「…………つまり、艦娘も遊べると?」

 

「そうだな。休憩時間は自由に使わせてる。卓球も出来るし、ダーツもある」

 

「…………」

 

 訓練と称して遊んでいる可能性があるとメモを残す。

 

(そもそもあの人のことだから何かしら持っていかないとまた怒鳴られるだろうなぁ……良さそうな人だけど、申し訳ありませんが探りを入れて少し膨張して書く必要がありそうね……)

 

 彼女はさらに、鎮守府内に娯楽施設を建て、遊んでいる、と書く。

 

「ところでサロンって誰がエスティシャンやってるんです?」

 

「ん?ああ、妖精に任せてる。艦娘の体一番知っているのは彼女たちだからな」

 

「では医務室も……」

 

「基本そうだな。でもあっちはどっちかっていうと俺が使ってる」

 

 医務室の中には薬品棚とベッドが幾つかあり、それぞれがカーテンによって仕切れるようになっている。薬品棚に入っているのは、その殆どが市販されている絆創膏や消毒液だった。

 

(………確かに、艦娘が転んで擦りむいたなんて話は聞かないわね。と、するとここは提督専用に近い?)

 

「確かに市販のものばかりですねぇ……やはり、艦娘には必要ないからですか?」

 

 彼女がそう聞くと、彼は初めて一瞬の間をおいてから答える。

 

「………使ってないってだけさ。大破した子が温泉で疲れを癒やした後、部屋に戻れそうにない時の仮眠室みたいな使い方さ」

 

「ふむふむ………」

 

 彼女は回答をメモするのではなく、艦娘の傷を癒やす必要はないと考えている、と書いた。

 

「ところでなのですが、この鎮守府には電ちゃんしかいないんですか?」

 

「いんや、あと三人いる。今の時間なら……あそこだな」

 

 彼はドックの隣の建物を指差す。

 

 二人が中へ入ると、そこは食堂であった。

 

 少し広めの空間、そして物を食べる清潔な環境が整えられ、艦娘たちはそこで食事を取っていた。

 

「あ、司令官。お疲れ」

 

「お疲れ。やっぱりみんなここにいたか」

 

「無論じゃ。そなたが最も重要としていることじゃからのぉ」

 

 彼らは普通に談笑し、食事を楽しんでいた。

 

「な、何これ………」

 

 食事は黙々とするものと言われていた彼女にとってその光景は異様であった。

 

「旅というのは食料が一番の問題だ。味のない携帯食料を食っていれば死にはしないが、うまいもんを食ったあとっていうのはいつも以上の力が出せる。…………というか、うまいもん食った時に全力が出せるのさ」

 

 彼もまた、艦娘達の隣に座り、同じようにカレーを食べ始める。

 

「はい、青葉さんの分です」

 

 割烹着姿の電が、彼女にカレーのよそわれたお皿を渡す。

 

「あ、これはどうも〜………」

 

「こちらにどうぞ」

 

 不知火が椅子を引き、座らせる。

 

 青葉は言われるがままであったが、頭では思考を続けていた。

 

(やたら丁寧に饗されていますが……やはり、表沙汰にされたくないことがあるのかしらね……電ちゃんたちがこの様子だと、艦娘も関わっている可能性があるわね)

 

「あのー、食べ終わったらで良いのですが、艦娘の皆さんからもおな話を伺っても?」

 

「みんなが良ければ」

 

 艦娘達は問題ない、と声を揃えた。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、少しいいか?」

 

「ハイハイなんでございましょ?」

 

 

 

 

 

 

 

「収穫なし、か………」

 

 部屋に戻った彼女はため息をつく。

 

 あの後電達からも話を聞いたが、それらしい話は聞くことができなかった。

 

「はぁ…………何もなしじゃ、あいつは納得しないだろうし………」

 

 彼女は丁寧にしまわれた一枚の写真を取り出す。

 

「衣笠………青葉、どうしたら良いかな………」

 

 たった一人の姉妹、それを失った傷は、彼女の中に残り続けていた。

 

(………あいつが憎いのは今も変わってない。けど、私にはどうすることも出来ない………この矛盾をどうしたら…………)

 

 彼女がそう考えていると、部屋の外から声が聞こえた。

 

『あ、初春、電を見なかったかい?』

 

『おお、ちょうど良かった。建殿がどこにいるか知らんか?』

 

『司令官かい?見てないよ』

 

『わらわも電は見ておらんの。最後に見たのはどこじゃ?』

 

『出撃ゲートだよ。後を追ったんだけど見つからなくて』

 

(………そういえば出撃ゲートは案内されなかったわね………あのシートの下といい、何かあるわね………)

 

 彼女は二人が去ったのを確認し、工廠へと走る。

 

 

 

 

 

 

「これね………」

 

 周りに妖精も含め、誰もいないことを確認し、シートに手をかける。

 

「……………?」

 

 シートをめくり、その下の物が現れる。

 

 それは一台のモトラドだった。

 

「………ただの雨避けか………ん?」

 

 シートを戻そうとした時、モトラドの後方、荷台の部分に一枚の紙が挟まっていた。

 

 紙を手に取り、中を読む。

 

「秘密の部屋への入り口………!?」

 

 紙には出撃ゲートにある秘密の部屋の場所と、その入り方が書いてあった。さらに、ご丁寧にも出撃ゲートの場所も書かれていた。

 

(もしや、二人はそこに?…………これはスクープの予感ね!)

 

 青葉はその紙を持って出撃ゲートへと走る。

 

 スクープに目が眩むんだ彼女は気付けなかった。

 

 そんな場所に二人しか知らないような場所のメモを残すわけがないこと、壁に小さな穴が空いていること、そして、

 

「わー、本当に来て、本当に行っちゃったよ」

 

 モトラドがそう呟いたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 出撃ゲートの外へ出るためのスライダーの反対側の壁、地図が示しているのはそこだった。

 

 壁を叩きながら横に歩くと、地図の印の場所で音が変わる。

 

「ここだけ空洞………本当にあるのね………」

 

 紙に書いてあるとおり、コン、ココン、コン、ココンと壁をノックする。すると、壁はスライドし、狭い通路が現れる。通路は階段となっており、地下へと続いていた。

 

「探照灯………はない、か。えっと………右手にろうそく………?」

 

 中に入ると壁は自動で締まり、中は暗闇に支配される。手探りで壁を調べると、壁と同化するように引き戸があり、開くと非常灯のような淡い光が付く。

 

「本当にある………」

 

 ろうそくを取り、一緒に入っていた発火装置で着火する。

 

 小さな明かりを頼りに下に降りると、少し広い空間に出る。

 

 壁に燭台が幾つかあり、そこに火をつけていくと、部屋を一周した。

 

 大きさはだいたい小さな会議室程度、部屋には机が二つと、その上にパソコンが一台ずつ、壁は打ちっ放しのコンクリートであり、匂いはなかった。

 

「何………この部屋………」

 

 彼女がそう呟いた時だ。

 

「残念だよ、青葉」

 

「っ!?」

 

 後ろからの声、部屋にはいつの間にか建と電がいた。

 

「最初からうちを調べるのが目的だったんだろ?この部屋みたいな表に出せないような場所をな」

 

「い、いやですね〜司令官を探してたらここを見つけただけで………」

 

「ならどうして工廠に直行した?」

 

「!?」

 

 建の指摘に、彼女は狼狽える。

 

「俺達が姿を消したのは出撃ゲート、なのになぜ工廠に向かった?」

 

「………射撃部屋にいるのではないかと思いまして………」

 

「向かってないだろう?」

 

 彼は部屋にあったパソコンをつける。すると、その画面には工廠の、モトラドが映っていた。

 

「ま、まさか………カメラが………!?」

 

「言ったろ?うちは嫌われてんだ」

 

 彼は青葉に詰め寄る。

 

「お前があいつの下にいると分かっていたから、最初から警戒はしてたのさ。まさか捏造してくるとは思わなかったがな」

 

「っ………やはり、あなたはあいつと同じなんですね……、艦娘をこんな形で監視して………!」

 

「監視しておったのはお主のことだけじゃ」

 

「初春………!?」

 

 壁の一部が開き、隠された部屋から出てくる。その後ろには響と不知火もいた。

 

「ちなみにこの作戦の発案は初春だ」

 

「なっ………!?」

 

「その通りじゃ」

 

 彼女は扇を開き、クスクスと笑う。

 

「心は潜水艦と同じじゃ。どれだけ荒れ狂う表面があってもその奥は暗く、静かじゃ。じゃが、いるならば何かしらの違和感が生じる。その違和感さえつかめば良い………意外とわかり易かったぞ。矛盾を持っているものの心はのぉ」

 

(そこまで分かっていたというの………!?)

 

 冷や汗が頬を伝った。

 

「ちなみに作戦はこう。まずお前に俺と電がいなくなったという情報を与える」

 

「その間にエル厶さん………モトラドにこの部屋の情報を挟んでおくのです」

 

「不知火はここで監視カメラを通して青葉の監視をしていました。そして」

 

「青葉殿が最初にどこに向かうかで対応を変えるのじゃ。出撃ゲートを探せばわらわ達のどちらかが先に工廠へ向かい、紙を回収すればよい。じゃが、最初に工廠に向かったならば、黒じゃ」

 

「ここへ呼び、落としいれる。そして知らしめる。私たちの敵になることがどれだけ愚かかを」

 

 彼らの冷笑を見た彼女の足は震えていた。

 

(この人はやばすぎる………!いや、この人だけじゃない![この鎮守府]は、敵に回したら最後、地の果て、海の果てまで追い詰めてくる……!)

 

 いつの間にか彼女の背中には壁が当たっていた。

 

 逃げ場はない、その事実はすぐに分かった。

 

「………何なんですか、あなた達は………!」

 

「俺達か?俺達は………」

 

 彼らは並ぶと、それぞれが思い思いのポーズを取る。

 

「大洗鎮守府だよ」

 

 ………ポーズは格好悪かったとだけ記しておこう。

 

「さて、そろそろ本題だ。敵となったあんたにはそれ相応の報いを受けてもらうんだが………」

 

 その言葉に、彼女はビクリと体を震わせる。

 

「取引といこうじゃないか」

 

「取引………?」

 

 彼の口から出た言葉に、一筋の光が見えた。

 

「そ。こっちの出す条件を飲むならこのまま帰そう。ただし、取材内容はいくつかこっちで条件を出さしてもらう」

 

「………内容を聞いてから、です」

 

「ほう、冷静だな。まあいい」

 

 彼は感嘆し、椅子に座る。

 

「条件は二つ、一つはこの部屋について何も言わないこと。入り方、場所、全てだ」

 

「…………もう一つは?」

 

 彼は前かがみになり、答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のことをできるだけ悪く書け」

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 ポカンとした顔をしたのは青葉だけではなかった。

 

 初春達もまた、同じ顔をしていた。

 

「司令官さん………どうしてですか?」

 

 電の問いに、彼はこう答えた。

 

「あいつらにとって艦娘は道具でしかない。使えない道具は取り替えるにかぎると公言している奴等だ。そいつらが、使えない物を捨てるとしたらどんなところと考えると思う?」

 

 そう言った建の顔は何度か怒りを見せた。しかし、電は驚く素振りも見せず、考え込む。

 

「………廃棄所ということですよね?」

 

「概ねそうだ。使えない物を捨て、新しい物に取り替える。己が使い方を間違っていたとしてもな」

 

 その言葉で初春はハッとする。

 

「………つまり、貴様が言いたいのはあやつらが不要と感じた艦娘の受け入れ先を作るために、わざと艦娘が集まるようにしろ、というわけじゃな」

 

「正解。使えない物はない。どんな物も研磨し、使い方を知れば使える。俺は無能のレッテルを貼られた有能が評価し直されてほしいのさ」

 

 彼らの話を青葉は無言で聞いていた。

 

 確かに、それならばこれまでのような捨て艦は全てこの鎮守府へ来ることになり、目の前で姉妹や戦友が消えるのを目にすることはなくなるだろう。だが、

 

「………それになんのメリットが?」

 

 それは自らの仕事を増やすもの、彼にメリットがあるとは考えづらかった。

 

「………ま、いいだろう。大切なやつが沈んでほしくないからだ」

 

「………え?」

 

「俺だけじゃない。電の、響の、初春の、不知火の、その姉妹の、その戦友の、誰かの大切な人がいなくなってほしくないからだ。見たくないだろ?そういうの」

 

「………」

 

 自らの姉妹が消えるところを見てしまっていた彼女は、その気持ちを理解していた。

 

「………ですが、今の体制をどうにかしなければ………」

 

「これはサービス」

 

 彼はある書類の束を彼女に渡す。中身に目を通した彼女は目を見開く。

 

「これは一体………!?」

 

「うちにはいろんな書類が来る。それを見比べてりゃ分かるもんよ。詳細は直に手に入れる必要があるけどな」

 

 彼女はその書類を握りしめる。

 

 怒りだ。彼女の顔には怒りが浮かんでいた。

 

「有効活用する方法も付け加えよう。さて、どうする?」

 

「………いいでしょう、その条件でいかせていただきます」

 

「成立」

 

 彼は笑うと、伸びをした。

 

「あーやっぱシリアスは俺には合わねぇよ。肩いてぇ」

 

「いいんじゃないですか?何はともあれ、事なきを得たんですから」

 

 彼らは先程とは違い、完全にリラックスしていた。

 

「え、あ、あの………」

 

「ん?ああ。別に何かするつもりはなかったから安心していいよ。契約は履行してもらうけどね」

 

 嵌められた、そう気付くのは少し遅かった。

 

「さ、その情報の使い方だけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大本営へと戻った彼女は佐々部に報告をしていた。

 

「………という事で、噂は噂でした。彼が極悪非道な人物で、艦娘が何人か再起不能になっていることを除けば、ですが」

 

「………ふむ、それだけか?」

 

 佐々部の目がきつくなるが、彼女は首を傾げる。

 

「と、言いますと?」

 

「こんな物、[ごみ捨て場]になるだけではないか!私は奴の弱点を探してこいといったのだぞ!所詮はただの記者ごっこか!」

 

(言ってないよね………忖度しろってこと?相変わらずね………)

 

「申し訳ありません。………ですが、内密にお耳に入れたいことが………」

 

「む?」

 

 彼女は小声でそう言い、佐々部に耳打ちする。

 

「[あまり芸者の方に内情を話さない方がよろしいですよ]」

 

「っ!?」

 

 佐々部が分かりやすく狼狽えた。

 

『これは………どうして匿名掲示板に海軍の人事情報が!?それに、この人が聞いたっていう戦うしか能がない小娘って………一歩間違えれば………!』

 

『どっかのバカがペラペラ喋ったんじゃないの?例えばそこに書いてある、週五で料亭行ってるバカとかが』

 

 青葉は建から聞いた情報を思い出していた。

 

 どう調べたかは彼女には分からなかったが、それでも、間違いは無かった。

 

 余談だが、彼が料亭に来た時、ある男が店の裏でストーカーにバックブリーカーを決めていた。

 

「いくら長年通っているからと言って、軍の人事や我々のことを喋るのは、軍の機密保持違反です」

 

「な………あ………」

 

「なお、その件については自分からは何もしないとの、橋本司令官の言葉です。以上、報告終わります」

 

 彼女の報告が終わると、佐々部の顔は赤くなったり青くなったりと愉快であったと彼女は後に話した。

 

「………貴様は………私を、脅しているのか………!?」

 

 動揺と怒りを込めた視線が向けられるが、彼女は敬礼でそれに返す。

 

「いいえ!私は、記者として、調べたことをお伝えしたのみであります!」

 

 彼はその言葉に、何かが切れたかのように椅子に座る。

 

「………出ていけ」

 

「………は、失礼します」

 

「………………くそがぁ!」

 

 青葉が出ていくと、彼は部屋の中で暴れ始めた。

 

「くそっ!くそっ!くそっ!どこまでも………どこまでもバカにしおってぇぇぇぇぇ!!」

 

 その叫びを扉の前で聞いていた彼女は思わず笑みを浮かべる。

 

「いい気味ね。これですでにその情報が青葉から憲兵にリークされているなんて知ったらどうなるか、楽しみね。何もしないのは彼だけなんだから」

 

 スキップしながら帰路につく彼女は、途中で憲兵の集団とすれ違った。

 

 

 

 

 

 

 

「青葉ちゃんすごいね!不祥事をこんな簡単に暴いちゃうなんて!」

 

 後日、青葉の作った新聞を読んでいた瑞鳳が駆け寄ってきた。

 

「いや〜運が良かっただけですよ。あの人が情報をくれたからわかったんですし」

 

「あの人って大洗の提督さん?あれ、でも怖い人って………」

 

「怖い人だからですよ。そんな人からこんな情報をもらえるなんて思ってませんでしたよ」

 

 彼女はそう言って手をひらひらと振る。

 

「………それに、まだ信用はしてませんし」

 

「え?」

 

「裏が計り知れないんですよ。今回見えた一面が真実なのか、それともまだ本心は隠しているのか………そういうところも含めてあの人は怖いんですよ」

 

 あの取材以来、彼女は大洗との情報のやり取りはしていなかった。あの取引も何か裏の意図があると思っていたが、それを探ると次こそ報いられると思い、避けていた。

 

「………いずれ暴いてみせますよ、記者魂に火が付きましたよ………!」

 

 

 

 

 

 

「バレてねぇな?」

 

「バレませんよ普通」

 

 秘密の部屋、そこにいるのは二人だけだ。

 

「部屋があることと隠しカメラがあることはバレて構わんが………」

 

「これはそうもいきませんよね………」

 

 彼がパソコンをいじると、パスワードの入力画面へと変化し、そこにパスワードを打ち込む。

 

 ピーという音とともに壁の一部がスライドする。

 

 中に入ると入り口の横にあるスイッチを押す。

 

 明かりがつき、中にあるものが見える。

 

 それは灰色の人形だった。大きさは人間ほどで、スタンドに立てかけられている。

 

「こいつは本当に明かせる奴にだけ明かさないと、混乱どころじゃねぇ。艦娘の待遇が最悪になることも考えられる」

 

「そうですね………これだけはまだ響ちゃん達にも明かせないのです」

 

 二人は顔を見合わせ、それから電気を消す。

 

「[艦娘の正体]………お前らがそうだとしても、俺はお前らを人間だと思ってるぜ。………俺が人間であるようにな」

 

 また、部屋が暗闇に包まれる。

 

「あ、そうだ、あの子にお礼送っといて。情報提供ありがとうって」

 

「分かりました。あん肝送っておくのです」




青葉 大洗の提督は危険であるとの認識。その裏にある目的を暴きたいが、それによるリスクとの間で葛藤中
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