大洗の提督には目的がある   作:岡本切葉

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大洗鎮守府へと来た伊良湖。彼女はなぜ艦娘たちから話を聞くのだろうか?



伊良湖ノ章

 大洗鎮守府、そこは大洗港のすぐ隣にある鎮守府だ。

 

 そこの提督は『鬼教官である』や『何人もの艦娘が立ち直れない傷をおった』と噂され、ほとんどの艦娘や提督から避けられていた。

 

 その鎮守府の執務室、件の提督はあくびをしていた。

 

「ねもい」

 

 ソファに横になりぐで〜っとしている、右にはねた髪が特徴的な男が呟く。名前は橋本建(はしもとけん)という。

 

「普通に眠いと言ってください」

 

 呆れたようにそう言うのは、彼の秘書艦であり、黄色のスカーフを首に巻いた少女だ。名前は電。

 

「眠い、ねもい、ねそい、三段活用は覚えるべきそうするべき」

 

「二つ目以降の意味がわからないのです」

 

「俺もわからん」

 

 彼らは意味のない会話をし続けていた。それほどにやることがないのだ。

 

「人が増えたからって分担したら、まさかこうも暇ができるとはな………」

 

「そうですね………大淀さん達には感謝なのです」

 

 数日前、この鎮守府には新しく三人の艦娘が着任した。しかも、これまでのような一時的なものではなく、新しい常駐艦として着任したのだ。

 

 大淀はその一人であり、今、彼女は自室で眠っていた。

 

「一日の量は調整してるって言ったのにまさか全部やるまで寝ないとは………」

 

「前の鎮守府では全て押し付けられていたみたいなのです」

 

「あーそういう。明石はしっかり休むことを覚えてくれてよかったよ………」

 

 明石もその一人であり、彼女は工廠で資材の確認や装備の開発、整備を行っている。

 

 現在は休暇日という事でショッピングに出かけていた。

 

「装備改修なんてことが出来るとはね。B型改ニだっけ?あれなかなかの威力じゃん。なんで西の奴らはこっちに寄越したんだ?」

 

「装備より船の強さを優先した………とかでしょうか?」

 

「改修資材………通称ネジだっけ?あれがスッカラカンで実は入手困難とか?」

 

 彼の鎮守府には多くは無いものの幾つかの備蓄があり、それを使っている。

 

「ありえますね………もしくは大淀さんと同じように、艤装がないから………でしょうか?」

 

 大淀と明石、二人の共通点はそれだった。

 

 建造機によって建造されたわけではない彼女達は、気が付いたら艦娘となっていたという異例の経歴があった。

 

 それが理由なのか、二人は戦うための艤装を持っておらず、後方支援に回っていた。

 

「あー、そういや他にも艤装のない艦娘がいるっていうのは聞いたことあるな。けどそういうのは後方支援として大本営にいてこっちに来る理由はないはずだが………」

 

 彼がそう言った時、ぐぅぅぅぅ〜という、気の抜けた音がした。

 

「腹減ったし、昼飯食うか」

 

「あ、私も行くのです!」

 

 二人が食堂の前まで来ると、すでに美味しそうな匂いがした。

 

 ウキウキしながら扉を開け、厨房にいる女性に声をかける。

 

「伊良湖さん、今日はなにかな?」

 

「あ、提督さん!今日は鮭の塩焼きですよ!」

 

 伊良湖はふり返り、笑顔で答える。

 

「お、いいねぇ。それじゃ、二人前」

 

「はーい!どうぞ!」

 

 二人は目の前に出てきた料理を手に取る。

 

「ありがと。伊良湖さんが来てからほんとに助かってるよ」

 

「………ありがとうございます!」

 

 一瞬の間をおいてから彼女はそう言う。

 

「………やっぱり………」

 

 電が小さく呟く。彼女は提督の方をちらりと見ると、彼はご自由に、という視線を返す。

 

「伊良湖さん、この後ですが、少々お話したいことがあるので執務室にきてくれませんか?」

 

「え?ええ、大丈夫よ。お皿洗いか終わったら向かうね」

 

 一度驚いてから、彼女はそう言った。

 

 席に座り手を合わせ、

 

「「いただきます」」

 

 そう言ってから食べ始める。

 

 その様子を見ながら、彼女は呼ばれた理由に思い当たるものがないかを考える。………しかし、いくら考えても思い当たるものはなく、首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 執務室のトビラをノックし、伊良湖は中へと入る。

 

「失礼します………」

 

 中には建と電がいた。二人は書類を手に少し物々しい雰囲気があった。

 

「それで、お話というのは………?」

 

 彼女がそう言うと、電はちらりと建の方を見る。

 

 彼はどうぞ、と手で彼女を促す。

 

 ため息をつき、伊良湖の目を見る。

 

「伊良湖さん、どうして申し訳なさそうにしているのですか?」

 

「え………」

 

 彼女の驚きをよそに、電は話を続ける。

 

「少し前、いえ、ここに来たときから伊良湖さんは褒められたときどこか悲しげな顔をするのです。最初は、噂を信じていて司令官さんを怖がっていたと思いましたが、最近違うとわかりました」

 

 伊良湖は視線をそらす。唇を噛み締め、まるで何かを言わないようにしているかのようだった。

 

「…………間宮」

 

「っ……!」

 

 建の口から出た名前に、彼女は出そうになった言葉を飲み込む。

 

 その様子を見てか、彼は書類を読み上げる。

 

「補給艦間宮は補給艦伊良湖とともに艤装のない艦娘として大本営に着任。そこで[お茶汲み係]として生活。その後、うちからの招待状を受け取るも来たのは伊良湖たち三人………違うか?」

 

「…………」

 

 そのとおりだった。

 

 彼女にとって家族当然であり、姉のように慕っていた存在だった。

 

 いつも自分のことに気にかけてくれ、笑顔を見せてくれていた。どんなに辛い状況でも励ましてくれた。いつも自分をかばってくれていた。

 

 大洗鎮守府からの声掛けの時、伊良湖と間宮、どちらか片方しか行けないと大本営から言われた時、伊良湖は自ら行くと言ったのだった。

 

 大洗の噂を聞いていた彼女は、今度は自分が間宮を守ろうと考え、そう進言したのだ。

 

 結果は逆だった。噂は大洗鎮守府が自ら流したフェイクであり、呼んだ理由は戦えない艦娘の実態調査と、大洗への異動が目的であった。彼女を守るはずが、自分だけ安全圏に来てしまった、そのことを彼女は後ろめたく思っていた。

 

「………調べたんですか………私達の事………」

 

 震える声で、彼女は聞いた。

 

「ああ。なんで悲しい顔してんのかと気になったからな」

 

 彼はさも当然のようにそう言った。

 

「………もしそれが人に知られたくない過去で、あなたのした事で私が傷つくとは考えなかったのですか………!」

 

 事実だからこそ、言われたくなかった。彼女の目には怒りが見えていた。

 

「気にしていることを取り除こうとして、私のことを考えくださったのでしょうが、私はそのことで傷つきました!それは私のためになっていません!」

 

「………だろうね」

 

「!?」

 

 彼から返ってきたのは、予想していた、だった。

 

「本当なら言うつもりはなかったさ。勝手に調べて調べたことは言わずに心に留めておく、俺はもともとそのつもりで調べてたからな。けど………」

 

 彼は書類を机に叩きつけると、笑った。

 

「こーんなクズどもがいると知って何もしないわけないんだよなぁ。伊良湖がどう考えているからなんて、どうでもいい。あんたが現状維持を望んでいたとしても、それは俺にとって、もはや関係ない事だ」

 

 彼は立ち上がると伊良湖の横を通り過ぎる。

 

「俺はあんたや間宮のために今からすることをする訳じゃない。俺が気に入らなくなったから、そいつらを潰す。それで誰が助かろうが、結果論にすぎない」

 

 それだけ言うと、部屋を出ていく。

 

 静寂が部屋を包み込む。それを破ったのは電だった。

 

「このことを話そうと思ったのは私ですから、司令官さんが言うつもりがなかったのは本当なのです。そして、間宮さんを助ける気がないというのも」

 

「………ここに来たときからずっと気になっていたんです」

 

 間宮は近くにあったソファーに座る。

 

「電ちゃんや初春ちゃん達の訓練は他の鎮守府と全然違います。倒すのではなく生きる訓練、私にはそう見えました。生活もそうです。監視も禁止事項もほとんどない、自由な生活。………どうして同じ[人]なのに、ここまで違うんだろうって………」

 

「………司令官さんは心に決めていることがあるんです」

 

「心に決めていること………?」

 

「はい。色々な人、色々な考え、色々な正義を見てきたから、そう決めたそうです」

 

 彼女は伊良湖の正面に座ると、言う。

 

「『誰も彼も自分が正しいと思った行動を取る。どんな大義名分、どんな思想で取り繕おうとも、それをすると決めるのは自分だ。自分がそうしようと決めたからやる、それは自分勝手と何が違う?評価される自分勝手が正義なら、俺は自分勝手にやらせてもらうだけ』だそうです」

 

「………」

 

 彼女は噂の一つを思い出していた。それは、気に入らない上司を失脚させたという噂だ。

 

 しかも自分の手を汚さないために艦娘の一人を利用したとも言われていた。

 

 その時は艦娘を騙して都合のいいように動かしたと思ったが、大洗で実際に彼を見てからはあの噂も嘘だと思っていた。

 

 だが、本当はそうしたのではないか、彼女は迷い始めていた。

 

「………電ちゃんは、その考えをどう思っているんですか?」

 

「私ですか?」

 

 伊良湖が頷くと、彼女はそうですね、と呟く。

 

「ある意味では正しいと思います。私が皆さんを助けたいというのは私の自分勝手ですし、私も自分が正しいと思ったことを最優先でやっていますから。………ですが」

 

 そこでひと呼吸おいてから、話し続ける。

 

「自分勝手を続ければそれは少数派を選び続ける様なものなのです。それでは何かを変えたり、成すことはできません。私は今の艦娘のあり方を変えたいです。だから、私は結果的に誰かのためになるのであれば、誰かのために戦い続けます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊良湖さん?どうかしましたか?」

 

「あ、不知火ちゃん」

 

 食堂に戻る途中、訓練を終えた不知火と出会った。

 

 彼女は髪を解き、首に下げていたタオルで汗を拭く。

 

「なんだか悩んでいるようでしたが、司令になにか言われましたか?」

 

「あ、いえそういう訳では………そういえば、不知火ちゃんはいつも調べものしてますが、何を調べているのですか?」

 

 彼女は話題を変えようとしてふと思い出す。

 

 不知火は自由時間となると、訓練をすることもあるが、外へ出たり、部屋にこもったりすることの方が多かった。その理由を調べものだと言っていたのだ。

 

「ああ。司令についてです」

 

「え………?」

 

 提督について調べる、それは上官を疑うも同意義であり、普通許されることではなかった。

 

「それは………大丈夫なんですか?」

 

「ええ。正面切って言いましたから」

 

「ええ!?」

 

「気になることがあるから調べると言ったら司令は笑って言ったんです。『やってみな』と。そして私にパソコンや役所の資料の見方を教えてくれました。そこまでされたら、本気で調べないとと思いまして」

 

「………気になることですか?」

 

「………伊良湖さん、司令が特殊一般人というのは知っていますよね?」

 

「ええ………それが、何か?」

 

 特殊一般人、それは提督となった元一般人を示す言葉であり、新日本海軍の軍事機密に触れるため、その戸籍、家族構成などのデータは秘匿される。

 

 伊良湖はそこまで思い出して疑問を持った。本人とその家族のデータは秘匿されるのならば、調べる意味はないのではないかと。

 

 だが、

 

「あったんです。司令を示すデータが。しかも普通の役所のデータに」

 

「それって………秘匿されていないってこと?」

 

「ある意味では。例えば学歴でいうと、学歴内にはどの学校に行っていたかというのは書いてありましたが、その学校の先生も、卒業生も、司令のことを知らなかったんです」

 

「………嘘を載せていたってこと?」

 

「最初はそう思いました。しかし、データ上、卒業生名簿や行政などの書類上ではそこを卒業したことになっているんです」

 

「記憶はないのに記録はある………?」

 

「…………そうなります」

 

 書類上だけの存在、そこにいたのであれば、誰も覚えていないというのはおかしかった。

 

「『旅をしていれば自然とそうなる』」

 

 不知火がポツリとつぶやいた。

 

「誰の言葉ですか?」

 

「司令です。私が、どうしてそんなに強いのかと聞くと決まってそう答えるんです」

 

「強いんですか?」

 

「私達と組手をできるほどには」

 

「!?」

 

 艦娘は元々が艦艇だったこともあり、その握力などの身体能力は人のそれを超えている。

 

 その艦娘と組手などすれば、骨は折れ、当たりどころが悪ければ死んでしまう。

 

 にも関わらず、彼は組み手をし、さらには勝っているのだ。驚かないほうがおかしいだろう。

 

「資料が本当なら旅なんて一ヶ月ほどしかしてないはず。そんな短期間であれ程の力を手に入れられないのは司令本人が言っていましたからね」

 

「不知火ちゃんはどう思っているのですか?」

 

「………おそらくは私達の知らない、もしくは見つけられていない何かがあるはずです。それを知らない限り、真実にはたどり着けないでしょうね」

 

 彼女はタオルをもう一度首から下げると、ふぅと、息を吐いた。

 

「[失う前にその要因を消す力]をくれたことには感謝していますが、それ以上にあの人にはわからないことが多すぎます。………私は必ず突き止めてみせます。あの人の目的と正体を」

 

 鋭い眼光のまま、彼女はそう言う。

 

(確かに、提督さんは自分のしたい事をしているように思えるけど………自分のことを調べさせて何がしたいの?疑われれば信頼なんてなくなるはず………信頼されないことが目的?何のために?)

 

 いくら考えても、その答えが出ることはなかった。

 

「では、私はこれで」

 

 歩き出そうとする彼女を、伊良湖は止めた。

 

「聞きたいことがあるんだけど………」

 

 彼女は先程建が話した内容を話す。

 

「自分の意思で動くのだから自分勝手………ですか」

 

「不知火ちゃんはどう思う?」

 

 彼女は少し考えてから答える。

 

「何をするか決めるのは自分です。何もしないと決めるのも自分です。なら、その考えを私は正しいと思いますね。他人の協力がほしいから大義名分を作り、相手を納得させようとするという考え方があるわけですから」

 

 

 

 

 

 

「なんとも白井らしい答えじゃのぉ」

 

 初春は伊良湖の隣でコロコロと笑う。

 

 不知火と別れた彼女は散歩しようとしていた初春と出会い、一緒に外を歩いていた。

 

 白井、とは外で艦娘としての名前を呼んで、たまたまいた海軍関係者にバレてしまわないようにと、考えられた偽名だ。

 

 なお、不知火は白井、初春は春香、響は響花、電は稲葉であり、伊良湖たちの名前は考え中である。

 

 閑話休題。二人は鎮守府の隣の公園まできていた。

 

 公園では子どもたちがサッカーをし、大いに走り回っていた。

 

「子どもたちがああやって元気に遊んでいるのを見ると、とてもほっこりとした気持ちになるんですよね」

 

「そうじゃな。笑顔があるということはそれだけ活気に溢れ、良い方向へ向かっておるということじゃ」

 

 初春は扇子を開き、口元を隠す。

 

「西の方ではそうではないらしいがの」

 

 他の人に聞こえないよう、小さな声で呟く。

 

「………その様ですね。いつか、西にも笑顔が戻るといいのですけど………」

 

「そのためにもわらわたちは負けるわけには、止まるわけにはいかぬ。………そうじゃな、わらわの譲れぬものはそれじゃな」

 

「え………?」

 

 その時、彼女の足に何かが当たる。見ると、サッカーボールがそこにあった。

 

 子どもたちが口々に蹴るよう促していた。

 

「ふふ、仕方ないのぉ」

 

 初春はボールを伊良湖から受け取り、子どもたちに向かって投げる。

 

 一人がそのボールを胸で受け止め、ありがとうと言った。

 

 初春は手を振ると、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「難しいことはよくわからん。自分勝手だとか、他人のためだとか、そういう奥深くのことを考えたことはなかったからのぉ。じゃが、わらわがどちらであれ、あの笑顔を守りたいと、戦いを終わらせたいという気持ちは変わらん。それだけで十分だと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 食堂へと戻ってきた彼女は椅子に座りため息をついた。

 

(みんな、何かしらの譲れないものを持ってるんだ………)

 

 もう一度ため息をつく。

 

「伊良湖さん?どうしたんだい?」

 

「あ、響ちゃん………」

 

 彼女は伊良湖の正面にすわる。

 

「珍しいね。伊良湖さんがため息をつくなんて」

 

「確かにね………私もこんなに悩むとは思わなかったなぁ………」

 

 伊良湖はこれまでの話を彼女にした。

 

 話が終わると響は何度か頷いた後、ん?という顔をする。

 

「ねえ伊良湖さん、伊良湖さんは何を悩んでいるんだい?」

 

「…………え?」

 

「話の限りだと、伊良湖さんはみんなが強い意志を持っていて、強くなろうとしているって分かったんだよね?私達は強くなるためにその理由付けの様なものとしてそうした意志を持つようにしてるんだけど、伊良湖さんは戦えるようになりたいのかい?」

 

「………いえ、私は戦える艤装がないですし、争いごとは苦手なので、そういう訳では………」

 

「………なら、どうしてみんなに自分の意志を聞こうとしたんだい?」

 

「それは………」

 

 そう言われて、彼女は首を傾げる。

 

(どうして知りたかったんだっけ………?)

 

 最初は提督の考えを聞いた。

 

 それを聞いて疑問を持ち、電にその考えをどう思うか聞いた。

 

 次に不知火に会い、提督の違和感と提督の考えについて聞いた。

 

 初春に会い、彼女の譲れないものを聞いた。

 

 なぜ聞きに回ったのか、提督の意志を聞いて、何が気になったのか………

 

(提督がどんな人が分からなくなって………その考えが正しいのか気になった?………少し違う気がする………)

 

 考えれば考えるほど、疑問は深まるばかりで答えは見つからなかった。

 

 その様子を見ていた響は口を開く。

 

「一応私の意志を伝えておくと、私はもう孤独になりたくないから、もう、私のせいで大切な人がいなくなってしまわないように、私は強くなろうと決めたんだ」

 

「響ちゃんは提督さんの話を聞いてそう思ったの?」

 

「そうだね。最初は言っていることがよくわからない人だとは思ったよ。今でもわからないときはあるけどね」

 

 そう言って彼女はくすりと笑う。

 

 そして、伊良湖の目を見て言う。

 

「でも、彼の目からは決意が見えたんだ。絶対的な、不変的な意志が。だから、私はここにいる。信頼に足る、信用を置くことのできる司令官のいる此処にね」

 

「不変的な意志………あ」

 

 伊良湖は目を見開く。

 

(そうだ………私は欲しかったんだ。あの人がどんな人かとかじゃなくて、みんながどんな気持ちでいるのかとかじゃなくて、あの人に[絶対の信頼]をおける理由が………!)

 

 彼女は立ち上がると響の手を掴む。

 

「ありがとう響ちゃん。私、やっと気付いたよ。私が何をしたかったのか」

 

「よかったね、伊良湖さん」

 

 伊良湖は食堂を飛び出すと、提督を探し始める。

 

 提督は紫色の私服に着替えており、今まさに鎮守府をでるところだった。

 

「待ってください!」

 

 彼はその言葉に歩みを止め、振り向く。

 

「何か?」

 

 その視線はいつもと変わらないものであったが、伊良湖にはその内に秘めている怒りを感じ取っていた。

 

「………お願いがあります。間宮さんを………間宮さんを助けてください!」

 

 彼女は叫ぶ。内に秘めていた、誰にも言えなかったことを全て吐き出す。

 

「もう間宮さんが苦しんでいる顔を見るのは嫌なんです!苦しんでいるんじゃないかと不安で仕方がないんです!でも、異を唱えればあいつらは必ずもみ消そうとする………私がこんなことをお願いしたと、考えていると、密告するような人には到底できないお願いです………提督さん、間宮さんを、どうか、安全な、安心のできる場所へと異動させてほしいんです!」

 

 頭を深く下げ、懇願する。

 

「お願いします………彼女を、間宮さんを助けてください!」

 

 彼からの反応はなかった。足音がしなかったことからその場にいることは確実だが、彼は何も言わなかった。

 

 彼が嬉しそうに笑っていたことは、下を向いていた彼女には分からないことだ。

 

 彼は伊良湖に近づくと、頭を撫でる。

 

「よく言葉にした。よく決心した。何をどうしたのかは聞かない。けど忘れるな。お前は正しいことをした。自分の戦いに向かっていく勇気を持つことができた。それを誇りに思うこと。そして………」

 

 建は歩き出し、拳を打ち鳴らす。

 

「橋本建は信頼には答えると言う事をだ」

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、艤装が無いために大本営で広報担当をしていた瑞鳳は新聞のある見出しに目をやった。

 

「『大本営のトップ、集団セクハラ』………ええ〜!本当!?」

 

 記事によると、ある人物からのリークにより、大本営内で[お茶汲み]と称したセクハラが横行していることが判明し、関係各所にはその証拠が一式送られたとのこと。

 

「『本人たちは知らぬ、存ぜぬを繰り返しているが、証拠がある以上言い逃れは不可能だろう』………か。なーんか、こういう記事を度々見る気がするなぁ」

 

「どの集団にもそういう面はあるという訳ですよ」

 

 そこにコーヒーを持った青葉がやってくる。彼女はコーヒーを受け取ると、ふーふーと息で冷ましてから飲む。

 

「規模大きくなればそれだけどこかで違法なことをしだす集団が現れるんです。私達のような記者や警察機関はそういう輩を見つけ、真実を暴くことが重要なんです」

 

「なるほど〜。このりーく?だっけ?した人はよほど許せなかったのかな?」

 

「違うと思いますよ」

 

 青葉は即座に否定した。

 

 瑞鳳は驚いて彼女の方を見る。

 

「即答!?どうして!?」

 

「記事からだけですからあくまで予想ですが、言い逃れ出来ないほどの情報を集められる人というのは限られます」

 

「そっか、普通そういうのはバレないようにやるもんね」

 

「とすればリークした人物は実際にその場にいたか、それだけの証拠を何らかの手で集められる人となります」

 

 青葉はコーヒーを一口飲む。

 

 瑞鳳はゴクリとつばを飲み込む。

 

「その人物って………?」

 

「おそらくは大洗ですね」

 

「大洗の?そういえば前に青葉ちゃんが不祥事を見つけたのも………」

 

「ええ。あの人からです。しかも報道機関にリークしてから本人たちを追い詰める、やり口が同じなんですよ」

 

「でも、それなら大洗の提督さんがやめさせられちゃうんじゃ………」

 

「どこから情報を仕入れているのかわからない、そんな相手に喧嘩を売るなんてできないんですよ。後ろめたい事をしているほどね。もしかしたら、自分の弱点も握られているかもしれない、道連れにされてしまうかもしれないとね」

 

「………だから手が出せないと?」

 

「それ以外の理由もあると思いますけどね」

 

 瑞鳳はコーヒーを飲み、自分を落ち着かせる。

 

 どんなところにもスルスルと入り込み、獲物を確実に仕留める。苦手な蛇を思い浮かべてしまったからだ。

 

「でもやっぱりいい人なんじゃないかな?不正を暴く正義の味方って感じがしていいじゃない!」

 

「彼にとって不正を暴くのはついでです。目的はこちらですね」

 

 青葉が出したのは異動届だ。そこには間宮がある鎮守府へと異動した旨が書かれていた。

 

「少し前に伊良湖さんが大洗に行っていますから、おそらくは彼女から相談………いえ、お願いされたのでしょう」

 

「うーん…………それなら伊良湖さんと一緒に大洗に着任させないかな?これだと西の鎮守府の一つになってるよ?」

 

 彼女の言うとおり、異動先は大洗ではなく、西の中でも比較的艦娘の待遇の良い鎮守府だった。

 

「それは………私にもわかりません」

 

「あらら」

 

「流石にすべてを理解するのは私にも無理ですよ」

 

 そう言いながらも、彼女は頭の中で考え続けていた。

 

 (伊良湖に頼まれ、間宮を救うことを目的に不正をリークしたのは間違いない。しかし、なぜ間宮を伊良湖と一緒にしなかったのか、伊良湖さんがそう言ったからだろうか?いや、伊良湖さんなら間宮さんと一緒にしようとするはず………では彼が?その理由は………?)

 

「…………ちゃん!青葉ちゃん!」

 

 瑞鳳に大声で呼ばれ、思考を止める。

 

「聞いてる!?」

 

「は、はい!聞いてますとも!」

 

「嘘。もう、青葉ちゃん考え事すると他の事が疎かになっちゃうんだから」

 

「あはは………申し訳ない」

 

 瑞鳳は立ち上がると、青葉に指を突きつける。

 

「絶対すくーぷを見つけて、青葉ちゃんを見かえてやるんだから!」

 

「………面白いですね。私もそう言われてしまっては負けるわけには行きませんね!」

 

 青葉は余裕の表情で答えた。

 

 と、その時、瑞鳳は時計を見て慌て始める。

 

「いっけない!取材の約束取り付けてたのに!」

 

 コーヒーを急いで飲み干し、慌てて部屋を出ていく。

 

 

 

 

 

 

「…………ありがと」

 

 建はそう言って電話を切る。

 

 そして、ふぅと息をつくと彼の愛用するモトラドのもとへと向かう。

 

 そして、モトラドの掃除を始める。

 

「どうして間宮さんをうちに呼ばなかったの?」

 

 突然、男の子の声がする。

 

 周りには誰もいないはずだが、彼は気にせずその声に答える。

 

「うちに来ても仕事がないからな。それに、向こうに行かせた方が今後うちを出て前線出たい艦娘の引受先にもなるからな」

 

 そう、[モトラド]に話しかける。

 

「なるほどね。前線でも美味しい食事をって事。それで?[知恵比べ]の方は?」

 

 彼は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに話す。

 

「もう一声のところまでだったな。俺がやったということ、俺の目的は読めてた。けど、どうして間宮を西に着任させたかは分かってなかったな」

 

「ふーん………まあ僕もわからなかったけどね」

 

 掃除を終えると、ポン、とサドルを叩く。

 

「東と西に一つずつ、俺からだけじゃなく、俺のいない鎮守府からも同じ考えを広める事ができる。そんな拠点が欲しかったのさ」

 

「なるほどねぇ。でも、そっちの提督は信頼できるの?」

 

「ああ。[イレギュラー]に任せてある」

 

「なら安心だね」

 

 彼はモトラドにブルーシートを被せると、その場を後にする。

 

「下準備は終わり………かな。後は毒を流し続けるだけ、だな。さ、後は引き続き瑞鳳に動いてもらってからその連絡待ちかなー」

 

 

 

 

 

 

 

「これは………」

 

 パソコンで調べものをしていた不知火は、あるデータを見つける。

 

 そのデータには建自身のことは書かれていなかったが、気になる一文が存在した。

 

「『イレギュラーとは、異世界から来た存在の事であり、その殆どが異能を持っている』………なるほど、そういう事ですか」

 

 パソコン内のファイルの奥の奥にあったそのデータをわかりやすい場所に保存する。

 

「それなら全てに納得がいきますね。不可思議な情報も、存在だけの過去も。………ようやく尻尾を見たというところでしょうが見えたのなら、もう、逃しません」

 

 不知火は部屋を出る。その目に鋭い眼光を宿しながら。




伊良湖と間宮 後に間宮も大洗に着任。理由は「伊良湖ちゃんが心配になった」。その後二人は配給係に任命される。なお提督は電から「ドンマイなのです」と新手の煽りを受けた模様。

明石 妖精さんたちと意気投合し最近は提督のリボルバーにも手を出し始めた。

大淀 ワーカーホリックが治らなかったので異動



作者です。

実はストックがあと一つでなくなるので、毎日投稿は明日がラストになると思います。

そこで、今後この艦娘の話が読みたいというのを募集したいと思います。

活動報告の方に「大洗提督について」というのを作りましたのでそちらにお願いします。
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