「……。」
響く遠くからの砲撃音。遠くから見える黒煙。当たった。
隣にいる、深海棲艦。なんにもしないので放置している。
「降りるポーズは魚雷をうかがう機械音で共有財産から見える社会はやがてその巣へ帰る。」
いや、何かつぶやいている。
「それは、なに?」
「ワタシガキイタコトガアルオト。イミハナニ?」
「その言葉は意味が違う言葉をたくさんつなげているから意味が消滅しているよ。」
「イミガショウメツ?イミガアルノニキエルノカ?」
「消えるんだよ。」
「ナゼ?」
「何故かな。消えるというよりは分からないかもしれない。意味がたくさんつながると、わかんなくなるの。色みたいに。適当に混ぜると全部黒になるでしょ?」
「ソウカ。デモサッキノコトバハスキダ。」
「なんで?」
「オトガスキダカラ。イミガナクナッテモジブンハソレガスキダカラ。」
「そうなの。さっきの言葉は敵に言えば撹乱できるかもね。相手は混乱するよ。」
「…。」
深海棲艦は何も言わなかった。聞こえてくる音が減ってきた。そろそろ終わるのかもしれない。
「そろそろ行かないといけない。また、いつか会えるといいね。」
「ウン。」
「…終わったよ。」
艦隊が待っている。ちょうど終わったらしい。
「分かった。」
ただ一言返して帰る。帰港中に話は一切ない。ずっと黙っている。それはただ、私が戦闘に参加しなかったというわけではない。私がサボっていたというわけではない。
鎮守府に帰ればいつも提督と呼ばれる人が待っている。
「おーい!大丈夫か!?怪我はしてないか!?」
でかい声で喋る。叫ばなくても聞こえる距離だ。
「大丈夫。無傷。」
「そうかそうか。よかった!ほら、これをやろう!」
渡されるのは間宮券。ありがとう、と言ってから離れる。見えなくなった頃に、艦隊の一人に渡す。別に私はいらないから。相手は何も言わずにそれを受け取る。
私はどうやらあの提督と言うやつに気に入られているらしい。私が傷つくのがとても嫌らしい。私が傷ついて帰るとあいつはひどく怒る。私にじゃない。他のやつに。私が傷ついたのは他のやつが無能だかららしい。
気に入っているなら、私を出撃させなければいいのにと思う。出撃すれば傷つくのは当然だ。どうやっても戦えば傷つく。だから私は、戦わないことにした私は別に無能だ、なんだと怒鳴られている姿を見て快楽を覚えるようなやつじゃない。どうにか考えた結果がそれだった。
提案すれば他のやつの一人はただそうだな、といって了承した。それからは私が戦闘に参加しないのは暗黙の了解みたいになった。
次の出撃。音が聞こえてくる。隣には深海棲艦。またあった。この深海棲艦はいつも同じやつだ。気づけば隣りに居た。何もしないから終わるまで話し相手にしてもらってる。
「それは、成功でもなく失敗でもなければ、やがて大きく成るものでもなかった。ゆっくりとおろせば明くる日にそれは消滅するだろう。」
何か、文と文をつなげたものを言う。本人いわくこれまで聞いたことがある音、というか言葉をつなげているらしい。
「それはどこで聞いた音?」
「ミナトノチカク。ムカシニイッタコトガアル。」
港か。深海棲艦がどこか港まで来たのはこの戦争の最初期のことだったはずだが、この深海棲艦は最初期の頃からいるらしい。
「コレ。ウケテミルカ。」
ふと、深海棲艦は右手にくっついている砲を体の前まで持ってくる。
「痛い?」
「トテモイタイ。」
「痛いのは嫌だな…でも少し前まで毎日痛かったな。」
私は承諾した。今までどこか必ず傷を作っていた。痛い、というのは毎日だった。だからかもしれない。最近は痛いという思いとは程遠い生活だった。自分は艦娘だという何かが欲しかったのかもしれない。痛いという感情でその何かがもらえると思ったのかもしれない。
だから受けた。
多分足が飛んだ。恐ろしく早いソレは私の足を飛ばした。遅れてくる激痛。
「ウグっ!ア、ガ…!」
急な爆発。これで多分胸から下が全部飛んだ。わけがわからないかった。とても痛かった。落ちたあとに海水がしみる。これまで感じたことのない激痛だった。
「あああぁァァァァっぁぁっァァァァっぁ!!!」
何も考えられない。何も見えない。ただただ、痛いだけ。すぐに何かかかる。段々と痛みが引いてきた。思考能力も戻ってくる。まず思ったのは死ぬかと思った。段々と、段々と引いていき足があるという感覚も戻ってきた。思えば今の体制は滑稽だろう。荒く息をしながら海面に突っ伏している。
「はあ、はあ、痛かった。」
「イタカッタデショ。」
「何をしたの?」
「ネンチャクセイノバクハツブツヲツケタテッコウダン。フチャクシタトコロガバクハツスルノ。」
なるほど、徹甲弾が触れたところが遅延して爆発を起こしたのか。
「面白いね。」
「ソウデショ。ワタシタチノシンヘイキ。モウスグオオキナコウセイヲカケル。イワバカンタイケッセン。」
「この戦いを終わらせるんだ。」
「ソウ。ワタシタチガカツ。タタカイハイッシュウカンゴニ。」
なんで深海棲艦が私に新兵器を受けてみるか提案したのかは分からない。それに一週間後に奴らがその新兵器を使ってこの戦いに決着をつける気だと、私に話したのかも。あの痛みはもう記憶でしかない。
帰ってから提督には何も話さなかった。今日起こったことは何も。
深海棲艦が攻勢をかけると宣言した日の前日。いつものように隣には深海棲艦がいる。
「征く者はたとえそれが無駄であろうと雪の結晶を掴み手放す。カラーアイコンのモルタルが鉄のビルを火山に組み替える。」
「それはどこで?」
これもいつものこと。
「ドコダッタカナ?タシカキタノホウ。」
北か。『雪』という言葉が入っていたから。いや、安直か。
「明日だね。」
「ウン。アシタ。」
「準備はどう?」
「バンゼン。ソッチハ?」
「何もしていないよ。」
「ジャアワタシタチガカツネ。」
「そうだね。あなた達の勝ち。」
「…ナマエオシエテ。」
「名前?なんで?」
「ツギイツアエルカモウワカラナイカラ。」
「ああ、そうだね。…あなたにも名前あるの?」
「アル。…ニンゲンガツケタナマエツカッタイルダケダケド。」
「そうなんだ。…そうだね、明日は決戦なんだもんね。いいよ名前教えてあげる。私の名前は
とても、大きな音がした。多分どちらかが爆沈したのだろう。あの音ではなかった。
結局今日も何も話さなかった。何も話さずに明日を迎えた。
その日は出撃はなかった。一人部屋で昨日のことを思いながら、昨日聞いたあの深海棲艦の名前を思いながら過ごした。
昨日のことを思い、ふと作戦室の前を通ってみた。やっぱり何か提督が大きく動揺しながら叫んでいる声が聞こえる。だから入ってみた。
「おい!どうなっているんだ!状況は!」
『敵……なぞ…こ……し……ざざざざざざざっざざざ
「クソ!」
ここからだとあまり聞こえない。もうちょっと寄って聞こうと思ったが何か面倒なことが起こりそうなのでこっそりとまた抜けた。面倒事と言ってもただ、なぜ作戦室に入ってきたのか問われたときに答えるのが面倒だったからだ。私はできるだけ喋らずに過ごしたいタイプだ。まあ、あの深海棲艦の話だと、決着をつけるとか言っていたし、いずれ何らかの招集はかかるだろう。
やっぱり来た。緊急招集だ。内容も予想通り。どうやら総力戦らしい。それにしても対応が早いな。こいつ。伊達に大きな鎮守府のトップをしていないということか。
というわけで私も出撃だ。提督にはさんざん心配されたが適当に返しとけば引き下がった。
気づいたことがある。深海棲艦たちがやけに私を攻撃しない。目が合えばすぐに別の場所に向かってしまう。相手が何もしないならこっちも何もしない。いつものように終わるまでどこかにいてようか。こんな乱戦状態だ。私なんかがフラッと消えても誰も気づきやしない。
どこもかしこも魑魅魍魎としている。たまに聞こえる艦隊無線。
『敵が謎の言葉を発しています!意味は全くの不明!…キャア!あああああ!足が!わたしのあs
切れた。最後の方に少し爆発音がした。多分あの深海棲艦だ。そうとしか思えない。どこか誰もいないところはないかと進むが深海棲艦によく出会う。やっぱり何もしてこないので私も無視して横切る。あの新兵器はあの深海棲艦だけじゃなくて全深海棲艦が持っているのだろうか。
多分数時間ぐらい走った。やっと青い海面が見えてきた。ちなみにここまでずーっとさっき見ないな無線が流れている。何も変わらない。変なこと言ってて新兵器だ。
深海棲艦の床が切れたと同時に180度回頭。もう何も見えない。ただ黒いものがたくさん見えるだけだ。イロハや姫級も鬼級も私になんか目にもくれず前に、前に進んでいる。いつ終わるだろうか。終わったらどこに帰ろうか。
待つこと…よく分からない。あー夜が何回か過ぎただろうか。まあ、ともかく戦いが終わったらしい。深海棲艦が向こうからやってきた。傷があるものや無傷のやつもいる。無傷のほうが圧倒的に多い。帰ってみれば、鎮守府は大きく壊れ煙がいくつも立っていた。…誰もいない。もしかしてあの人間も死んだか?残ったのは私一人か?…だからといって何か特別に思うことがあるわけではない。
そういえばここに帰ってくる間何体か死体が浮いていたな。あれは艦娘だろうか。普通に考えれば、救助を待つのが妥当だろう。ここだって大きな鎮守府だ。連絡も何も来なくなったら誰か来るだろう。しかしそれにしても見事な廃墟だ。かつての姿はどこにも見えない。
しばらくすれば、普通に援軍が来た。相手はかなり動揺していたがそんなことはお構いなしにさっさと救援を求めた。ここの艦娘かと聞かれたので、はい、と。どうしてこんなことに、としてきかれたら、急に連絡が取れなくなったので戻ってきた、と。他の艦娘は、と聞かれると、皆沈んでしまったと。最後の方に嘘泣きを入れておいた。好印象を与えられる。
かくして、私は大本営へ保護。精神状態を鑑みて出撃は禁止された。あとから聞いた話では、私のところ以外にも全国で同じようなことが起こっているらしい。起こった現象も自分のところと同じ。やっぱりあの深海棲艦か。
この戦いはすぐに終わった。結果?当然だが深海棲艦の勝ちだ。だが、負けてもあちらは何もしなかった。何もおこらなくなった。戦争前の日常が戻ってきた。世間は、今大いに湧いている。理由?そんなもの海軍についてだ。戦争を始める必要ななかったのでは?と。なぜ、こんな無意味なことをしたのか、と。まあ、全て私にとってはどうでもいいことだ。
あれから数年。この国はどうなったか。実は私以外にも艦娘は割と多く生き残った。だから国は私達をどうするか迷っていた。私達を殺せば、どうせ他のやつが怒り狂うだろう。かと言ってこのまま放置すれば、誰かが人形兵器を放置するのか、と。暴走したらどうするつもりだ、と責め立てるだろう。
だから国は他の国に送った。人間と人間の戦争に送り込んだ。国の人間には、紛争地帯の子供の保護だとか言って。保護?そんなものできるか。自分体が送り込まれたところはその子供だって敵だ。お構い無く売ってくる。だから殺す。相手がこっちを殺そうとするならばこっちも殺さなければならない。当たり前だ。なのに他の艦娘はこれが嫌だという。変なやつだという。変な正義感で自ら死のうというのか。自分の納得する正義感を振りかざして相手を自分なりに救おうというのか。自分という戦果を渡すことによって。
心底馬鹿馬鹿しいと思った。だからよく私は外に出る。夜。休憩所から。ここはよく星が見える。だが海がない。私は陸上兵器ではないのだが。
「ミツけタ!」
後ろから久方ぶりに聞く声がする。
「!どうしてこんなところに?」
「会いタカったカら。」
抱きついてきた。あの頃よりも積極的になっている。人が変わったようだ。
「国の言葉がうまくなったね。」
「タくさン音をアツめた。たくさんレンシュウしタ。弥生。久シブリ。」
「駆逐棲姫も久しぶり。」
私達はまたであった。あそこではない全く違うところで。