聞き取り人、机を挟んでお互いに座った状態で録音開始。なお、レコーダは机においていた。
「こんにちは。今回は辛い中聞き取りに応じてくださりありがとうございます。」
『名前』は穏やかに微笑む。
「いえ、こちらこそ。この事件の解決に自分が貢献できるなら嬉しいです。」
「ありがとうございます。それでは早速伺いますが、事件当時は何をしていましたか?」
「そうですね。あのときは夜でしたから部屋でベッドに座っていました。」
「なるほど、それではそのときに奇妙な声が聞こえだしたと話を聞いていますが『名前』さんは何か聞きましたか。」
『名前』の顔が少しこわばる。
「あのときは…確かに声が聞こえました。」
「なんと、言ったか覚えていますか。」
「あのときは、理解できました。でも、今思い出すとまるで言語ではなかった。だから今となってはなんと言っていたのか…。」
「やはりそうですか。他の方と同様のようですね…。…大丈夫ですか?無理であれば今日はもう…。」
「いえ…大丈夫です。なんてことはないんです。なんてことは。」
Aは落ち着かない素振りを見せ始める。
「分かりました…それでは…あなたは、何か失踪事件に関わりそうなものを見ましたか?」
「…はい。」
『名前』はピタッと止まりうつむく。
「それは、失踪事件の犯人ですか?」
「おそらく。」
「身長は?」
「……よくわかりませんが大柄でした。」
「性別はわかりますか?」
「それもよく…。」
「では、どのような見た目をしていましたか?例えば服装など…。」
「……。」
「『名前』さん?」
『名前』が顔を上げた。顔には何も表情はなく。聞き取り人の顔を見つめた。
「『名、名前』さん…?』
Aは最初の笑顔を取り戻す。
「…あれは、そうですね。憎悪でした。」
「憎悪…ですか?それは、なにか恨み言を言っていたのですか?」
「憎悪の肥沃な苗床が闊歩するんです。さながらパレードの前進曲。ゆっくりと進む彼らの行進曲に我らは粛々と参加し、もったいない報酬を妄言の中に収めたんです。」
「は、はい?」
「あぁ…素晴らしかったぁぁ……。あの時の私はまるで広陵な丘の上で整然と走っていた…。」
「それは、ど、どういうことですか…?」
聞き取り人が話しかけるもAは答えず。謎の言動をし続ける。
『名前』は立ちあがり壁に向かった。
「可能な行動は有り余る動力にて再現可能か…?否、説明された苦しみは早々に開放。後に昇天。」
聞き取り人は何も言わず、動かない。
「…奴らは…透き通った腕をクネクネと動かし、染色体を携えこちらへと進軍してきました。」
聞き取り人に動きなし。
「有機物は体内で増殖。後に破裂。有酸素運動では破壊しきれなかった酵素がゆっくりと体から這い出て来ました。皆は、すぐに後を追った。海へと。」
聞き取り人が震えだす。『名前』がゆっくりと聞き取り人の方へ振り返る。
「ならば、私にはその資格がなかったのか。違う。違う違う違う。我らの抑止力へとなり得なかった存在に行動を起こした。」
『名前』はカメラをじっと見据えた。
「監視は罪です。厳かな雰囲気を崩せば去るべきものもここにとどまります。抗ヒスタミン剤はソーダ水をも飲み込み這って来ます。」
『名前』は尚も続ける
「良くも悪くも…フフ傲慢にゆっくりと這い上がるフフフフ歩いて放送したハハハ…く、く、フヒヒヒ…ははははああああっはははははははははははっははははははっはっはっは!!ふひ!ひ、ひ、ひ!ああああぁぁぁぁぁぁっぁぁあああっぁ!……。」
『名前』は途中でこらえきれずに狂ったように笑いだした。しばらく笑ったあと、瞬間に真顔に戻りこちらを見てにまりと微笑んだ。目があったような感覚がした。前見たときにはこんな映像はなかった。少なくとも今まで見た限りでは『一度もカメラを見たことはなかった。』
停電。何者かの叫び声。風の音。電気は数分後に戻り再び明かりがつく。が、Aがいた場所は血だまりとなり四肢がちぎれ胴体がみじん切りとなった『名前』が転がっていた。
「い、イヤぁあぁぁっぁぁぁっぁああぁぁぁっぁぁああ!!!」
聞き取り人の悲鳴。しばらくして人がやってきた。聞き取り人は保護され様々な指示を出す声が聞こえる。数秒後映像と音声は終了した。
DVDを取り出し、ケースに戻す。聞いた話では、この直後生存者が全員死亡した。死に方は同じ。
風の音がした。