不知火・・・最近不思議な夢を見るらしい。
青葉・・・新聞を作っている。新聞のネタが無いとネタ探しのためにどんなことでもする。アオバワレェ!
私、不知火は今青葉さんの部屋に通され麦茶を出されています。
なぜこのような状況になったのか。それは……
「はぁ~。今週の青葉新聞まであと3日。あともう一つぐらいネタがないですかね~。」
私は出撃後の休憩で他の艦娘たちと食堂で談笑をしていました。外は猛暑なので一番涼しい食堂は涼む場所にもってこいでした。
そんなときに青葉さんは先程のようなことをつぶやきながら食堂に入ってきました。皆はその言葉を聞いたとき少しはドキッ、という感じで少しだけ背筋が伸びていました。
それは、当然の反応でネタ探しに青葉さんは何でもネタにしようとしますからね。場合によっては他人のプライバシーなんて気にせずにプライベートなことをネタにしてしまいます。
おそらく今回も誰かの日常をネタにしようと食堂に訪れたんでしょう。そして、これはなぜなのか分からないですけど、青葉さんは私をチラリと見ると目を輝かせてこちらに走ってきました。
「どうも!青葉です!取材してもいいですか?」
お決まりのセリフを言って取材の許可を取ろうとして来ました。許可を取ってくるならばそれを拒否すればいいのですが、こちらが許可するまで何度もしつこく聞いてくるので結局は許可をせざるを得ない、ということです。
「不知火でいいんですか?」
「はい!不知火さんからはネタの匂いがプンプンしてきます!」
最悪、戦艦並みの眼光で追い払ってしまっても良かったのですが他の艦娘に被害が行っても困るので許可することにしました。別に何かネタになるようなことがないというわけでもなかったので…。
「…まあ、不知火でいいのならいいですけど…。」
「本当ですか?では、私の部屋まで来てもらってもいいですか?そこでお話を聞かせていただきますので!」
「分かりました。」
席を立って青葉さんについていこうとしたとき一緒のテーブル席に座っていた他の艦娘たちから『頑張って』『気をしっかり持ってね』と謎の応援をされました。
そして今のこの状況に至るということです。
「ちょっとまってて下さいね。取材の準備をしますので。」
と、いうと机の上に置いてあったノートパソコンとボイスレコーダーらしきものを持ってきました。
「…昔はメモ帳だけだと思ったんですけど今はそうしているのですか?」
「ああ、いや。昔からノートパソコンで取材はたまにしていましたよ。まあ、部屋で取材するとき限定ですけどね。ボイスレコーダーは最近使い始めました。メモしているだけでは聞き逃してしまうこともあったのでね。」
「なるほど。」
「よし、それでは取材を開始しますね。最近何か変わったことはありましたか?」
ボイスレコーダーのスイッチを押すと早速聞いてきた。
「特には…。」
「なんでもいいですよ。なんなら1ヶ月ぐらい前のことでもいいですよ。」
「そうですか。…では、一つだけあります。」
「お、ではそれをよろしくお願いします。」
ちょうど一ヶ月ぐらい前のことです。私は水雷戦隊として出撃していました。季節はそろそろ熱くなってくるかな、といったぐらいでしたが、出撃した海域が南方の方だったのですでに汗があふれるほど暑かったのを覚えています。
敵は戦艦を含む主力艦隊。いつものように夜戦にまで耐えてから一気に叩く作戦でした。しかし、その時その海域では蜃気楼がかかり敵艦隊の距離が測りにくく、また不幸にも近くを敵機動艦隊が通ったようで空襲に見舞われました。
私が敵の艦載機に気を囚われているうちに敵戦艦が私を狙ってようで、誰かが、『不知火!危ない!』と叫んだのを聞いた瞬間に何か大きなものが自分の体に食い込んでいくのを感じました。おそらく戦艦の主砲が直撃したのでしょう。当たりどころが良かったようですね。じゃなければ私は今ここにはいませんからね。
今思えば、叫んだのは陽炎でしょう。声がそうでした。
砲弾が食い込むのを感じながら『ああ、ここで死ぬんですね。』と感じたのをよく覚えています。結果的にはこうやって生き残り話をしているわけですけどね。
あの後すぐに気を失ったのでしょう。気づいたら鎮守府の医務室でしたからね。で、何が不思議なのかというのは、実は気を失ったときに夢を見ていました。
そこはとてもきれいな海で海底まですけていて泳ぐ魚も見えていました。私の体は先程の戦闘の痕は全く無く小綺麗で普通なら違和感を感じるでしょうが、私は全く違和感を感じずまるでここにいるのは当たり前のように思っていました。
まあ、当然と言えば当然でしょう。夢を夢と認識できるなんて滅多にできることではありませんし、私もまだそのような経験はしたことがありません。
夢の中の海はきれいでしたが同時に静かでもありました。波が一つもなく、風も感じませんでした。目覚めたときに少し遠くに小さな島があるのが見えましたがそれ以外はなにもなく水平線が見えました。
私はその島に近づき上陸しました。そこはいわゆるイメージ通りの無人島というべきか、白い砂浜が楕円上に広がり真ん中に緑色の地面がある。木は一本も生えていない、そんな島でした。
島の真ん中で誰かがこちらを背に向けて立っていました。見たことがあるような制服に紫とピンクの間のような髪。……私ですね。そこには私が立っていました。しかし夢というのは本当に不思議なものです。その時の私は目の前にいるのがもう一人の私だということには全く気づかづ『あなたは誰ですか?』と尋ねました。
それを聞いた彼女はこちらを振り返って『誰だと思いますか。』と聞き返してきました。もちろんそんな答えは求めていませんし、想定もしていませんでしたから、面を食らって言葉が出なくなってしまいました。
そうすると彼女は『別に無理をして答えようとしなくてもいいですよ。私のことは好きに呼んでくれて構いません。』といい、静かに微笑みました。私はその顔に思わずドキッとしてしまいました。別にそっちの趣味があるというわけではないのですが何故かその顔に釘付けになってしまい、そうですね…『ほしい』と思いました。その顔がほしい。その顔ができる体がほしい。その顔をさせる頭がほしい。……異様な執着心ですよね。自分で思ってて気持ち悪いです。
そんなわけで私は彼女に手を伸ばしたのですが、彼女は『あなたはだめです。諦めてください。』と言われました。まるで意味がわかりませんね。何がだめなのか、もしかしてさっき自分が思っていたことがバレたのか…すぐに色々考えましたがなにも思いつきませんでした。彼女はまたこちらに背を向けてしまいました。さっきから何を見ているのか。彼女の体を避けて見るとはるか遠く水平線あたりに何か黒いものが見えました。しばらくするとだんだんその黒いものが形を見せてきて、それは私がよく知るものになりました。
『深海棲艦…!』
戦おうとしました。だって深海棲艦がこっちに近づいてくるのですから。相手はたかがイ級一匹。ですが油断は禁物。そう教えられてきましたからね。でもいざ戦おうと思った瞬間に気づきました。その時の私は、一切艤装をつけていなかったんです。じゃあ、なんで海の上立ってたんだって話ですが、それは夢なので…。
さて、艤装がない私は困りました。深海棲艦に対抗するには艤装しかないのですから。私はもう一人の私に『逃げましょう。』と言いました。ですが彼女は『心配しなくてもいいですよ。でもあなたには危険でしょう。大丈夫です。触れさえしなければ。そこから見守っててください。』と言いました。『でも…。』と私は言いました。いくら大丈夫と言ってもあそこにいるのは深海棲艦。艦娘を見れば問答無用で襲ってくるのです。今まで襲ってこない深海棲艦は見たことも聞いたこともありません。
もう一度海を見るとさっきまでなんとか深海棲艦でそれがイ級であると確認できた距離だったのにいつの間にか、もう上陸しようとしているところでした。私はとても驚きました。ちょっと目を離しただけでこんなに距離を詰められたこともそうですが、一番は深海棲艦が陸に上がったことです。聞いたことがありますか?深海棲艦が陸に上がるなんて。そのイ級は生えている二本の足で器用に歩いていました。
『ね?大丈夫でしょう。』ともう一人の私は言いました。彼女の言うとおりでイ級はこちらを見ても襲って来ようとせず、それどころか近づいて彼女の隣に座ったのです。彼女は隣りに座ったイ級をなでながら『可愛いものでしょう。あなた達が戦っているものは近づいてみれば案外怖くないものです。撫でてみますか?あ、そうでした。あなたはまだ触れてはなりませんでしたね。』と静かに、穏やかに微笑みながら撫でていました。その顔を見た瞬間にまたあのときの衝動に駆られましたがなんとか、グッとこらえました。
『…そろそろ私はいきます。あなたもそろそろ戻るべきですね。安心してください。あなたはなにもしなくてもいずれ戻ります。では、おそらく二度とは会わないでしょうがどうかお元気で。…ああ、あなたは一緒にいきましょう。』と、私に言ってイ級と一緒に海の上に立ちました。そして彼女とイ級はゆっくりと水平線へと歩いて、泳いで行きました。彼女たちが水平線向こうへ消えていくのを見送ると、突然視界が歪み始めました。そしてまた、誰かの声。どうやら私を呼んでいるようです。どこか聞き覚えのある声だと思いながらゆっくりと視界が暗転していきました。
スッと目を覚ますと、そこは医務室でした。視線を声の方向に向けるとそこには涙を流している陽炎がいました。そして、その後ろには見慣れない艦娘が一人。
「不知火!?不知火…良かった…。」
「…っ、ここは。」
「医務室よ。あなた出撃で戦艦の砲撃を喰らったって聞いたから私、もう…!」
チラッと外を見ると真っ暗。時間は二一〇〇を過ぎたあたり。カレンダーは私が出撃した日から変わっていませんでした。
「心配をかけてすみません…その艦娘は…。」
「え、あ、ああこの娘は時津風。陽炎型だから私達の妹よ。ほら、挨拶。」
「は、初めまして…。」
「時津風。私と陽炎は貴方の姉妹ですからそんなに固くならなくてもいいですよ。」
「…うん!」
「時津風ったらすごいのよ!配属初日でイ級を一匹沈めたのよ!」
「それは凄いですね。」
といった感じで私は目覚めました。幸いにもそこまで怪我がひどくなかったのでその後数日で医務室を出ました。今思えば、あれは夢と言うものか疑問に思うところがあります。夢というものは内容を総て覚えていられるものなのでしょうか。そう思うと、あれは夢ではないのではないかと思います。
あの夢は、その後もたまに見ることがあります。風景は全く一緒。違うところと言ったら最初から島にいて、そこで座っているところでしょうか。ちょっと前まではそれを夢と認識することはできませんでしたが、ここ最近でやっとそれが夢であると認識することができ始めました。
あの時と同じように深海棲艦がこの島に来てしばらくするとまた海に出て水平線へと向かっていきます。深海棲艦は島にいるときはいろいろなことをしています。島をまわったり私の近くで座ったりと色々です。話しかけられることはあんまり無いですね。たまにヲ級が自分に何かを言ってくるのですが『ヲッヲッ』としか言わないので。
ああ、そういえば前に戦艦棲姫が来たときがありました。しかもあの艤装ごと。深海棲艦が島に上がってくるのはもう何も感じませんでしかが、流石に姫級は少し警戒しましたね。ですが戦艦棲姫は私の隣に来ると『隣、いいか?』と聞いたので『どうぞ。』と返しました。いつも姫級が喋るときはあんなに片言なのにどうしてかあの夢の中で聞いた戦艦棲姫の声はとても流暢でした。
『…なぜここにいる。』と、彼女は聞いてきました。何故も何も私は好きでここにいるわけではないのですが…。仕方なく『何故でしょう。』と答えると『そうか。』と言って黙ってしまいました。試しに私も『あなたはなぜここへ?』と聞くと『気づいたらここにいた。ここがどこかは分からないがどこへいけばいいのかは不思議とわかる。』と答えました。
彼女と話しているうちにも深海棲艦は島へと近づいてきます。そのときはいつもより多い気がしました。『今日は…よく来ますね。』とつぶやくと『そうか…そうだろうな。』と彼女はどこかはしったげな様子で答えました。
それからもう少しなんの意味もない、もう内容なんて忘れてしまいそうなほど他愛もない話をしてから『長居したな。そろそろ行かねばならない』と艤装を連れて海に出ようとしました。『もうそんな時間ですか。できればもう少し話したかったものです。』と私は最後に声をかけました。すると彼女はこちらに微笑んでいってしまいました。ああ、あのときの顔だと思いながら視界が歪み始めゆっくりと暗転していき目が覚めます。
「あの夢から目が覚めるときは決まって視界が歪んでからゆっくりと暗転していきますね。」
「な、何ていうかすっごく濃いお話でしたね…。」
「どうでしょう?ネタの足しにはなれましたか?」
「うーん。ちょっと新聞に書くには突拍子過ぎるというか…。」
そうでしょうね。第一深海棲艦と話す夢なんてバレたら工廠に連れて行かれそうです。というか、それなら最初っから青葉さんに話すのを辞めておけばよかったですね。まあ、でもちょっと誰かに聞いてほしいと思っていたのでちょうどよかったのかもしれません。
「そうですか。それは申し訳ありません。助けになれずに…。」
「あ、ああいえいえ。あ…じゃ、じゃあ今のこのお話をもとにした小説かなんかを書きましょう。実はいくつかネタとして微妙だったりしたやつがあったのでそこと取り替えます。」
「そうですか。では、楽しみにしています。」
私は出された麦茶を一口でグッと飲みきり部屋を出ていこうとしました。
「あ、あ、不知火さん!」
「何でしょう。」
「さっきのお話を聞いて何ですけど…何か困ったことはありませんか?なんなら相談に乗りますが…。」
「…特にこれ取っていて困っていることはありませんが…強いて言うなら陽炎に、最近全然笑わない、と言われたことですかね。」