契約者と異形の約束事を描いた話
作者名間違えました
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○塩野 鐘
『異形』とは過去、日本を跋扈し世間を騒がせた妖怪と呼ばれるモノ達
現代の日本では何処へ消えた?
現代に溶け込む異形の物語
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深いどこかの森に異形と呼ばれるモノが居た
『いいだろう、私の条件を受け入れるのだな』
「もうこれしか方法がない…」
美形だが疲弊しきった顔の人は答える
『なぜだ?そこまで拘る必要があるのか?まぁ約束事を守れるなら私はそれでいい』
ー約束事ー
いわゆる契約
人は深い森の中で契約をした。今回の契約内容は【婚約】である
「もう40も超えるのに、未だに相手がいないんです、美形でも今までの人生は最悪でした」
『ほう…人の話は興味深い、少し聞かせて頂こう』
異形の姿でも態度は丁寧で紳士的。そこに人は安心感を覚えるが、これは契約を結ぶ為のもので異形の常套句
「今までの人生、同性には妬まれ、異性は迷惑行為ばかり…気付けば40歳、寄ってきた人も年齢を言えば逃げて行くんです」
『40年など、ほんの一瞬の出来事』
「あなたにとってはそうかもしれませんね」
フッと笑顔になる
「では約束事を始めましょう」
『約束事を忘れるな、死ぬ時、その魂をもらい受ける…それが【代償】だ」
その言葉で異形は40代で美形の男の姿になる
「ええ、構いません。好きにしてください」
『人の寿命は短い…80年程度、今は40歳か、残り40年…先程も言ったがほんの一瞬、私の昼寝の時間と変わらないものだな」
こうして美男美女の表向きは仲の良い夫婦の約束事(生活)が始まった
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【約束事】
まず契約者(人以外にも約束事を結ぶ生き物がいる為ここでは契約者と表す)が願いを異形に伝え、異形は承諾するかしないかを決める。承諾する場合には【代償】を決め約束事を結ぶ
しない場合は別の願いを聞く
【代償】
約束事で異形が願いの対価として求めるもの、大体は契約者の魂で、異形の糧になる
異形の変幻にもいくつか決まりがある
一つ【変幻したモノの寿命になる】
本来妖怪の時間は無限、しかし、変幻した際周りに正体が悟られないように変幻したモノの平均寿命に合わせる決まり
二つ【約束事が終わるまで姿は戻れない】
上と同じく混乱を防ぐためと、契約者への敬意を表すため
三つ【約束事が終わり異形に戻ると寿命も戻る】
約束事が終われば寿命も無限の時間に戻り、次の約束事を結ぶ
四つ【約束事の反故はできない】
禁忌の掟、契約者が破れば即【代償】、異形が破れば、その姿のまま異形には二度と戻れず、寿命も戻らない
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このようにして、時代に合わせ異形は世間に溶け込んだ、現代の異形のほとんどは隠れて約束事を結ぶ。現代の願いは異形にとっては比較的楽な約束事らしい
過去には、エセ陰陽師が名を上げるため、やられ役としての約束事もあった
またある時は、名のある陰陽師の使役としての同士討ち、異形はなぜ争い打ち倒す必要があるのかと心を痛める辛い約束事。
約束事とはいえ、異形同士のいがみ合いへと繋がって異形の数は半分に減り、残りはどこかへ隠れ、世間に溶け込んだ
今回、約束事を結んだのはほんの気まぐれ、戯れに過ぎない、何せ約40年という閃光のような時間…楽な約束事だと笑った
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「そう言ってたのに…」
ここは現代の日本
「まさかあなたが先に死ぬなんて」
美男美女の夫婦は現代日本に溶け込み、生活をしていたが、加速する高齢化社会は計算外だったようだ
「約束事を結んで50年…早すぎますよ、異形さん」
現在の平均寿命は女性が約87歳、男性が81歳
「まぁ、まだまだ死ぬ気になりませんけど!目指せ世界一!…でもこの場合約束事はどうなるのかしら?」
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現代異形妖怪譚
墓前に手を合わせていた老婆と話し込んでいてこの話を思いつた
あなたの周りにも世間に溶け込んだ異形が居るのかもしれない