ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜 作:†AiSAY
この世界、アインクラッドにも夜は来る。
攻略会議が終わり陽が傾くと、その場にいた者達は町の噴水広場に集まっていた。
英気を養う為、あるいは明日のボス戦へと意気を高める為、あるいは今日で終わるかもしれない自分の生を実感する為か、人によって違うが今だけは諍いはなかった。
それを象徴するかのように、広場の中心ではディアベルとキバオウが腕を互いに組みながら盃を傾けている。
そんな中、広場から離れた路地の段差に座る姿が1つ。
そのプレイヤーは1人、フードを被ったままパンをかじっていた。
現実のそれは異なり硬く、味気のないそれを、やはり何の感情も持たず口にする。
「結構、美味いよなそれ。」
すると、キリトがその人物に話しかけた。
「座ってもいいか?」
キリトの問いにフードのプレイヤー、アスナは無言で答えた。
それを了承と感じたキリトは、同じように腰掛け、やはり同じパンをかじり始めた。
「本当に美味しいと思ってる?」
「もちろん、この街に来てから1日1回は食べてるよ。まぁ、ちょっと工夫はするけど。」
と言って、キリトは自分とそのプレイヤーとの間に小瓶を置き言った。
「そのパンに使ってみろよ。」
そう言われ、細い指が小瓶に触れる。
すると指先に青いエフェクトが発生した。
そして、自分の持っていたパンを指でなぞると、何もなかったパンの上に乳発色の物体が現れた。
「クリーム?」
そう呟いて、隣を見るとキリトもまた同じようにパンにクリームを塗り食べていた。
気がつくと小瓶は役目を果たした為か、ポリゴンのの結晶となり消える。
彼も同じものを食べているのだから害はないだろう。
そう思いアスナは思い切ってクリームのついたパンに齧り付く。
すると、何の味もなかったパンから甘みが口の中に広がる。
この世界に来るまでは当たり前だったもの、しかしここ数日は感じることのできなかった甘味というものに懐かしさを覚えつつ、気づけば夢中なって食べていた。
そんな様子を見て笑みをこぼしキリトは言った。
「一個前の村で受けられる《逆襲の雌牛》ってクエスト。やるならコツ教えるよ。」
突発的とはいえ、明日のボス戦では命を預けるパーティメンバーに何かのきっかけになればと思い、話しかけたキリト。
しかし、そんな相手から返ってきた言葉は平坦なものだった。
「美味しいものを食べるために、私はこの村まで来たわけじゃない。」
「じゃあ、何のため?」
「私が私でいるため。最初の街の宿屋に閉じこもって、ゆっくり腐っていくくらいなら、最後の瞬間まで自分のままでいたい。たとえ怪物に負けて死んでも。このゲーム、この世界には負けたくない。」
そう言って、手に力を込めるパーティメンバーをキリトはただ黙って見ていた。
そして、持っていたパンをちぎり口の中に放り込むと
「パーティメンバーには死なれたくないな。せめて明日はやめてくれ。」
とだけ言った。
沈黙が2人を包む。
「確かに彼のいう通りだな。」
突然、2人の背後から声が聞こえた。
全く気配を感じなかった2人は慌てて振り向く。
するとそこにいたのは、先ほどの攻略会議にてキリトにパーティに入れて欲しいと頼んできた男だった。
「アンタはアーチャー。」
そうキリトは彼の名前を口にする。
そんなキリトの反応を見てアーチャーは、やはり不敵な笑みを浮かべて言った。
「驚かせてしまったのならすまない。だが、明日は互いに命を預ける身だ多少の交流は必要と思い声をかけたのだが、どうやら邪魔をしてしまったかな?」
「いや、それなら別に大丈夫だ。」
「うむ。それで、そこにいるのが我々のパーティメンバーかな?」
そう言って、アーチャーはフードを被った自身のパーティメンバーを見る。
しかし、当の本人はこの状況に未だ困惑しているようだった。
そんな様子を察したのか、キリトが話しかける。
「えーと、この人はアーチャー。明日のボス攻略で俺達のパーティメンバーだ。」
「アーチャーだ。驚かせてしまったことは謝罪しよう。明日はよろしく頼む。」
そう挨拶の言葉を口にするアーチャーに対し、やはりアスナは無言で頷くだけだった。
そして、今一度突然現れた男をアスナは見る。
180cmを超える身長に浅黒い肌。髪は白く、目は鷹のように鋭い。
明らかに自分や隣にいる少年よりも歳上だろう。
そんなことを考えていると、ふと彼と視線が合う。
「ん、私がどうかしたかね?」
「え!い、いやあの…」
ゲーム内とはいえ、歳上の男性をジロジロと見てしまったことに気づかれたアスナは、慌てた。
しかし、アーチャー自身は特に気にした様子も無い風に言った。
「まぁ、この姿を見て思うこともあるだろうが、気にしないでくれ。」
「え、あの…。は、はい…。」
と、歳上の男性に気を使われたことに気恥ずかしくなったアスナはフードを深く被った。
「それで、何の用だ?」
と、それまで傍観していたキリトがアーチャーに話しかけた。
すると、アーチャーは片腕を腰に当て、やれやれと言った感じで答えた。
「言っただろう。パーティメンバーに対して交流をはかりに来たと。」
「交流って、でも自己紹介は済んだだろう。」
そう言うキリトに対して、アーチャーは再び呆れた顔をした。
そして、今度は腕組むと言った。
「全く、キリト、では君は名前を知っただけで、その瞬間からその相手に信頼を置けるのかね?」
「は?」
「先ほどの君自身も言っていたが、我々は明日には背中を預けるパーティの一員だ。別に馴れ合う必要はないが、せめてある程度の関係性を築いておくべきだと、私は思うのだが?」
と、アーチャーは目の前の2人を見て言う。
当の本人達は彼の言葉の意味は理解できたが、ではどうやってそれを行うのかは全く理解できなかった。
すると、その様子を見ていたアーチャーが2人に向かって言う。
「何、別に特別なことするつもりはない。言ったように直ぐに信頼を築こうと言うわけでもないし、それは不可能だ。」
「じゃあ、何をするつもりなんだ?」
そう聞くキリトにアーチャーは笑みを浮かべて答えた。
「お茶会さ。」
to be continued