ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜 作:†AiSAY
「何もないところだが、寛いでくれ。ああ、それとキミは無理にフードを取らなくても構わない。」
そうアーチャーに言われ、キリトとフードを被ったプレイヤー、アスナは彼が泊まっているという宿屋の一室に入った。
何故、こんなことになっているのかといえば、
アーチャー曰く互いを少しでも知るためにお茶会をしようとのことだった。
最初、2人はその言葉に呆気にとられたが、キリトはアーチャーの言うことも一理あると考え、素直にその招きに応じた。
一方、アスナは最初は渋っていたものの《お茶会》という響きと、アーチャーのキザで皮肉な態度ながらも、決して無理強いはしないと言った振る舞いに、結局は付いてくることを決めたのだった。
入った部屋は自分達が泊まっているものと対して差はなく、実に簡素な作りだった。1つの部屋の中にベッドと机と椅子があった。
しかし、違うところといえば、部屋の中心に机とは別に丸いテーブルと椅子が2脚ある。
どうやら来客を想定した作りであるようで、よく見ると扉の直ぐ横にはシンプルながらも調理ができるスペースがあった。
「立ったままでは落ち着かないだろう?適当に掛けてくれ。」
そんな風に部屋を見ている2人にアーチャーは声をかける。
キリト、そしてアスナも彼に言われるまま丸テーブル近くの来客用の椅子に座った。
そして、アーチャーが2人の前にカップとソーサーを置き、中に手に持っていたポットの中身を注ぐ。
「これは…」
「紅茶?」
目の前に差し出されたカップから立ち昇る湯気と香り、そして中身を覗くとそこにあったのは色こそ違うものの紅茶であった。
「お茶会と言っただろう?まぁ、お茶請けはないがそこは勘弁して欲しい。」
そう言って勧めるアーチャーに従って、2人はカップに口をつける。
すると優しい香りと味が体に広がっていくのがわかる。たとえそれが、データによる情報信号の伝達であったとしても、この世界に来て初めての安心感が2人を包んだ。
「なぁ、アーチャーこれどうやって?」
キリトがアーチャーに問いかける。
横にいたアスナも口には出さないものの同じことを思ったのだろう。フード越しにアーチャーを見た。
「驚くこともないだろう。これもゲーム内のスキルの1つに過ぎん。」
2人に見つめられたアーチャーは特に偉ぶることもなく淡々と言った。
すると、キリトは納得したように口を開く。
「あ、調理スキルか。」
「その通り、皆忘れているようだが、戦闘のみがこの世界にて要求されるものではない。調理スキル、鍛治スキル、索敵スキル等、この世界では様々なものがスキルのレベリングによって可能になる。最も現実のそれとは簡略化され過ぎているがね。」
と、肩をすくめるアーチャー。
そして、自身は机に備え付けられた椅子に座ると言った。
「さて、それではお茶会と言う名の交流を始めようか?」
「でも、具体的になにを話すんだ?ボス攻略については今日ディアベルが話しただろう?」
「なに、別に攻略や戦闘のことでなくてもいい。さっきの様なスキルに関する話でもいいし、何なら自己紹介でも構わないさ、もちろん話す範囲は任意だがね。」
と、自分もカップに口をつけながら言うアーチャー。
そんなアーチャーに対して、キリトは出会った時からもさ思っていた疑問があったので、聞いてみた。
「じゃあ、アーチャー。何故、アンタはその名前にしたんだ?」
「何故とは?」
「だって、Archarってつまりは弓兵ってことだろ?この世界は剣をはじめとた近接戦闘しかない。弓や魔法といった遠距離はない。なのにそんな名前なのが不思議でさ。」
アスナもまたそういえばと言った風にアーチャーをみる。
そう言うキリトの質問を受けると、アーチャーは少し難しい顔をした。
キリトは何かまずいことを聞いてしまったのかと思い、謝罪しようとした。
「いや、構わない。うむ、それに関しては申し訳ないが私も答えられないんだ。」
「答えられない?」
「あぁ、信じてもらえるかわからないが、私には記憶がないんだ。」
その言葉に2人は驚愕する。
そんな2人の反応をアーチャーは気にすることなく続けた。
「気がついた時には、私はあの広場にいた。分かったのは自分の名前とステータス、そしてこの世界が《Sword Art Online》という自分がいた場所とは異なるゲームの世界だということ。それ以外の一般的な知識は持ち合わせているのは君達との会話から察してくれていると思う。」
アーチャーの言葉をただ2人は黙って聞いていた。
「おそらくログインした時にナーヴギアが何かしら、私の脳に作用したのだろうと思うが、ここに来るまえ、つまりは現実世界において私は自分が何をしていたか、どんな人間だったのか覚えていないんだ。」
「確かに、ナーヴギアは俺たちの脳に直接接続しているから、そう言った問題も起こる可能性はあるのか。特にこんなことになっているんじゃ、そう思うのも仕方ないけど。」
と、キリトがつぶやく。
「後は君達と同じだ。空が暗くなったと思ったらあの男が出て来た。最初は困惑したが、他にやることも思いつかなかったのでな、非才ながらも何とかこの街までやって来たというわけだ。」
そう言って、立ち上がりアーチャーは空になっていたキリトとアスナのカップに再び紅茶を注いだ。
すると、それまで黙っていたアスナが口を開いた。
「あの、どうしてそんな風に平気な顔をしてるんですか?」
「どうしてとは?」
「ここでは本当に人が死んでしまう。誰も知り合いがいない、自分が何者かさえもわからないのに、どうして貴方はそう笑っていられるんですか!?」
下を向きながら声を上げるアスナ。
キリトがそれを諌めようと、近く。
すると、アーチャーは静かに口を開きアスナに言った。
「君と一緒さ。」
「え?」
「私が私でいるため。例え記憶がないとしても、私がここにいることには変わらない。記憶を取り戻すにしても、何もせずにいることに意味はない。ならば生き残る為に戦うしかなかろう。このゲーム、この世界には負けないよう。いつか現実の世界に戻った時にはもしかしたら、記憶も戻っているかもしれないからな。君もそう言っていただろう?」
「でも!!」
「それに、もう1人ではないからな。」
そう笑顔を浮かべて言うアーチャーをアスナは見た。
キリトもまた同じように彼を見る。
「君達と出会えた。それも互いに命を預けるパーティとしてだ。」
「アーチャー」
「アーチャーさん」
だから、とアーチャーは最後にこう言った。
「明日は私の命、君達に預けよう。だからと言って君達も私に命を預けてくれとは言わない、しかしせめて信頼だけは私に預けてくれないか?」
そうして、その日は別れた。
明日は遂に第一層のボス攻略戦である。
to be continued