ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜 作:†AiSAY
2022年12月3日 第一層 森のフィールド
その日、遂に第一層のボス攻略戦が行われようとしていた。
ボスに挑む者達はディアベルを先頭にして、ボスの待つ塔へと進んでいる。
その最後尾にキリト達の姿もあった。
キリトがアスナとアーチャーに声をかける。
「確認しておくぞ、あぶれ組の俺たちの担当はルイン・コボルト・センチネルっていうボスの取り巻きだ。」
「分かってる。」
「了解した。」
アスナとアーチャーがキリトの言葉にそれぞれ頷く。
「俺かアーチャーが奴らのボールアックスをソードスキルで跳ね上げさせるから、すかさずスイッチして飛び込んでくれ。」
「スイッチって?」
キリトの言葉にアスナから疑問の声が上がる。
すると、キリトがアスナを見て聞く。
「もしかして、パーティ組むのこれが初めてなのか?」
その言葉にアスナが頷く。
それを見たキリトは顔を固まらせたと思うとガックリと肩を落とした。
すると、アーチャーが助け舟を出す。
「難しいことではない。キリトの言っていた通り、敵の攻撃は私達が弾く、おそらく敵はそれによって体勢を崩すだろうから、君がその隙を狙って攻撃すれば良いだけだ。」
「わかりました。」
アーチャーの説明に納得したのかアスナは頷き歩みを進めた。
するとキリトがアーチャーに小声で話しかける。
「大丈夫かな?」
「問題ないだろう。もし失敗しても3人いるんだ、すかさず1人がフォローに回ればいい。それに…」
「それに?」
「ボス攻略に挑もうというのだ、決意も覚悟も十分だろう。下手をすれば足を引っ張るのは我々かもしれん。」
と、そう言ってアーチャーもまた先に進み、キリトは首を傾げながらもそのあとに続いた。
そして、遂にキリト達はボス部屋の前へとたどり着いた。
リーダーのディアベルが扉の前に立ち、皆に向かって言った。
「聞いてくれ皆んな。俺から言うことはたった1つだ。勝とうぜ!!」
その言葉に全員が頷き、気を引き締める。
「行くぞ!」
そう声を上げると、ディアベルは扉を置く。
ギィィと不快な音を立てて扉が開かれる。
真っ暗な部屋の奥、そこには巨大な体をしたモンスター、第一層のボス
イルファング・ザ・コボルトロードが鎮座していた。
全員が部屋に入ると、突然視界が明るくなる。
そして、イルファング・ザ・コボルトロードが高く飛び目の前に現れた。
そして、その周りには取り巻きであるルイン・コボルト・センチネルが現れ、キリト達に向かって来た。
「攻撃開始!!」
ディアベルの号令により、全員が駆け出す。
「俺たちも行くぞ!」
「ええ!」
「了解だ!」
キリト達もまた前に進みでる。
すると、取り巻きの一匹がキリト達めがけて来た。
パーティ戦に慣れていないアスナを前に出すわけには意外と考えたキリトは我先にとセンチネルの前に出ようとした。
しかし、そんなキリトよりも早く前にでた姿があった。
「甘いな!」
そう言って、攻撃を弾いたのはアーチャーであった。
アーチャーはセンチネルの攻撃を弾くとすぐさま、声を上げる。
「隙が出来た。今だ!」
「はい!」
その言葉に答えるかのように、アスナが手にした細剣を目に見えないほどの速さでセンチネルめがけて突き出す。
その攻撃は見事敵を貫き、ルイン・コボルト・センチネルはポリゴンの結晶を霧散してしょ滅した。
「よし、そのタイミングだ!次行くぞ!」
「はい!」
「キリト、遅れるなよ!」
その光景と言葉にキリトは自身も負けじと駆け出す。
そして、今度はキリトが敵の攻撃を弾き、同じようにアスナがとどめを刺した。
その連携は3人のみのパーティとは思えないほど洗練されており、目の前のセンチネル達を一掃していった。
戦闘が進み、ボスのHPもだいぶ削れて来た。
「D.E.F隊センチネルを近づけるな!」
「了解!」
ディアベルの言葉にキリトが答える。
そして、向かって来たセンチネルの攻撃を再び弾く。
「スイッチ!」
その言葉にすかさずアスナが反応し、センチネルを穿つ。
「三匹目!!」
その姿にキリトはただただ感心した。
初心者だと思っていたプレイヤーは、凄まじい手練れだった。
その攻撃は疾く剣先が見えないほどであった。
すると、アーチャーが近いて来て言った。
「だから言ったはずだ。下手をすれば足を引っ張るのは我々かもしれん。とな。」
「あぁ、確かにな!」
そう言って、キリトもセンチネルに攻撃を仕掛ける。
そして、その攻撃を受け体勢を崩したセンチネルを今度はアーチャーが一太刀で斬り伏せた。
(アイツも凄いが、アーチャーもとんでもないな。確実に敵を仕留めている。それに、SAOでの初めてのボス戦だっていうのにあの落ち着きよう。明らかに戦闘慣れしてる?)
そうアーチャーもまたキリトの予想を大きく上回っていた。
キリトとアスナがスイッチをもってセンチネルを倒している中において、アーチャーは彼らに向かってくる他のセンチネルを一人で相手取り、撃破していた。
それだけではなく、ディアベルの指揮が届かない他の隊にまで目を向けており、攻略隊の戦闘を円滑に回していたのだ。
「グッジョブ」
キリトはそんなパーティメンバー達を見てそう呟く。
そうしていると、ボスであるイルファング・ザ・コボルトロードが雄叫びをあげた。
HPを見ると、そのゲージは最後の一本の残りわずかとなっていた。
ボスは手にしていた巨大な斧と盾を投げ捨てる。
前情報の通り、ボスは武器を変えるつもりのようだった。
すると、
「下がれ!俺が出る!」
そう言って、指揮をしていたディアベルが声を上げ、前に出て剣を構える。
ボスが腰の武器を引き抜いた。
すると、誰かが声をあげた。
「たわけ!直ぐに下がるんだ!!」
その声の主はアーチャーだった。
キリトは何故かと思いアーチャーの視線の先を見る。
そこにあったのはボスの構える武器。
キリトは直ぐに気づいた。
(タルワールじゃくて、野太刀!?βテストと違う!!)
「ダメだ!全力で後ろに飛べ!!」
キリトもまたセンチネルの攻撃を防ぎながら、アーチャーと同じよう叫んだ。
しかし、もう遅い。
野太刀を構えたボスは高く跳躍すると、猛スピードでディアベルに突っ込み斬り伏せた。
「ぐあぁーーー!!」
ディアベルが吹き飛ばされ、攻略隊は隊列が崩れだした。
「ディアベル!!」
キリトは急いで駆け寄ると、ポーションで回復を試みる。
「何故、一人で?」
しかし、キリトの行為を手で止めディアベルはかすれるような声で言った。
「お前もベータテスターなら分かるだろう?」
その言葉にキリトはハッと息を飲む。
ディアベルの意図がその一言で分かったからだ。
「ラストアタックによる、レアアイテム狙い。お前もベータ上がりだったのか?」
「頼む、ボスを…、ボスを倒してくれ。みんなの為に!」
それが彼の最期の言葉だった。
体が光り輝くとディアベルは青く輝くポリゴンの結晶となり消えていった。
その姿を見て、キリトは考える。
このデスゲームが始まって、自分が生き残ることだけを考えてきた。
だが、ディアベルは自分と同じベータテスターであるにもかかわらず、他のプレイヤー達を見捨てなかった。皆んなを率いて、見事に戦った。
自分が出来なかったことを彼はやろうとした。
そう胸に刻み、キリトは立ち上がるとボスを見た。
ディアベルの死によって攻略隊全体が怯んでいる。しかし、キリトの隣に2つの姿が並ぶ。
アスナとアーチャー。自分のパーティメンバーだ。
「私も。」
「準備は良いな。」
「頼む。」
そう言って、3人はボスに向かって駆け出す。
「手順はセンチネルと同じだ!」
「分かった!」
「了解だ!」
ボスの野太刀が光りだし、キリトに向かって放たれる。
それをキリトもまたソードスキルにより弾いた。
それによりボスの体勢が崩れる。
「スイッチ!!」
キリトの声にアスナがボスに攻撃を仕掛ける。
すると、ボスの目が見開き、崩れた体勢でなお攻撃をしたけてきた。
だが、それもまた弾かれる。
キリトとアスナが見るとそこには、アーチャーの姿があった。
常にボスを注視していたアーチャーは、ボスの動向を見逃してはいなかった。
先ほどよりも疾く繰り出された斬撃をアーチャーは見事に弾き、再びボスの体勢を崩す。
するとアーチャーとボスの剣戟の衝撃でアスナのフードが飛んだ。
しかし、アスナは構わずボスに攻撃を繰り出す。
キリトはアスナの姿に息を飲んだ。風に靡く長い髪、端正な顔立ち、そして何よりもその立ち姿に場所もわきまえず見惚れてしまった。
しかし、直ぐに頭を切り替える。
ボスが再び向かってくる。
「次来るぞ!」
先ほどと同じようにスイッチして、ボスに攻撃する。
だが、ボスは怯まない。
野太刀を振り下ろしアスナを攻撃しようとする。
キリトは前に立ち、ボスの連撃を防ぐが最後の一太刀は防ぐことが出来ず、その身に受けてしまう。
吹き飛ばされ、後ろにいるアスナを巻き込みながら弾き飛ばされた。
「しまった!」
倒れる2人にボスはとどめを刺そうとする。
しかし、それの攻撃が2人届くことはなかった。
再びアーチャーがボスの攻撃を弾いたのだ。
アーチャーだけではない、攻略会議の時にいた黒人のプレーヤー、エギルをはじめとした攻略隊の全員がボスに攻撃を仕掛ける。
「回復するまで、俺達が支えるぜ!」
エギルはそういうと、自分もボスに向かっていった。
繰り出される攻略隊の攻撃にボスが追い詰められる。
しかし、それでも終わらない。
ボスは大きく野太刀を振るい、周りにいたプレイヤー達を吹き飛ばすと、高く跳躍した。
ボスの野太刀が光りだす。
「危ない!!」
キリトがそう叫び前に出ようとした。
「舐めるな!!」
すると、ボスの体に斬撃が走った。
皆んなが、何が起こったのかと上空のボスを見るとそこにはボスの他にもう一つ影があった。
その姿はアーチャーであった。
攻略隊を弾き飛ばした剣戟をアーチャーのみは回避し、ボスが跳躍したのと同時に自身も飛んでいたのだ。
そして、アーチャーの攻撃によってボスが地面に弾き飛ばされる。
キリトはそれを見ると、迷わず走り出す。
「アスナ!最後の攻撃、一緒に頼む!!」
「了解!!」
キリトの言葉にアスナも駆け出す。
ボスの繰り出す斬撃をキリトが弾き飛ばし、アスナが突き穿つ。
しかし、それだけでは終わらない。
野太刀を手放したボスに向かって、キリトがそれに続き、さらに続いてアスナが再び突く。
そして、キリトが叫びながら最後の攻撃を繰り出す。
「うおぉーーーーー!!!」
キリトの剣がボスの体を両断する。
弾き飛ばされたボスは眩いほどの光を放ち、消滅した。
ボス部屋を静寂が包む。
しかし、それもつかの間だった。
「や、「「「やったーーーー!!!」」」
誰かの声につられるように全員が歓喜の声をあげた。
上空には《Congratulations!!》の文字が浮かび上がる。
肩で息をするキリト目の前に1つのウィンドウが現れる。
それはラストアタックボーナスの獲得を提示するものであった。
キリトはそのレアアイテム《コードオブミッドナイト》をストレージにしまう。
するとアスナとエギル、そしてアーチャーが近づいてきて言った。
「お疲れ様。」
「見事な剣技だった。Congratulations!!」
アーチャーはキリトの肩に手を置くと頷き、キリトを手を掴んで立たせた。
そして、
「この勝利は君のものだ。」
とだけ言った。
その言葉、攻略隊の全員が声をあげ、キリトを讃える。
その時だった。
「なんでや!!」
全員が振り向くと、そこには膝をついて顔を伏せたキバオウの姿があった。
「なんで、なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!!」
「見殺し…?」
「そうやろうが!!自分はボスの使う技知っとたやないか!!最初からあの情報を伝えておったら、ディアベルはんは死なずに済んだんや!!」
その言葉に不穏な空気が広まる。
そして、1人が言った。
「アイツ、きっとベータテスターだ!だから、ボスの攻撃パターンも知ってたんだ!!知ってて隠してたんだ!他にいるんだろう!出てこいよ!!」
その言葉により、その場の空気は完全に淀んだ。
誰も口々に誰がベータテスターだ、自分は違う。と言ったようなことを口にし始めた。
キリトは考える。
このままではダメだと。
そして、ディアベルの最期の言葉を思い出すと何かを決心したような顔をした。
その後ろではエギルとアスナがキバオウの元に近づいて、どうにか場を収めようとした。
アーチャーはただ目を閉じ、その場に立つだけだ。
すると、突然キリトが笑い出した。
「元ベータテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな。」
「な、なんやと!」
「SAOのβテストに当選した1000人の内のほとんどはレベリングの仕方も知らない初心者だったよ。」
キバオウに近づきながらキリトは続ける。
「今のあんたら方がまだマシさ。でも俺はあんな奴らとは違う。俺はβテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのは、ずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ。」
そして、キリトは言う。
「他に色々知っているぜ。情報屋なんか問題にならないくらいな。」
そう言い放ったキリトに罵声が飛び交う。
誰かが言ったベータテスターのチーターだから《微ーター》だ。と。
「《ビーター》、いい呼び名だな、それ。そうだ、俺はビーターだこれからは元テスター達と一緒にしないでくれ。」
そう言いながら、キリトはストレージを開く。
そして、先ほどゲットしたコートを装備すると、キバオウ達を一瞥し次の階層へ続く出口まで歩いていった。
「良いのか?」
そう声をかけたのは、事の成り行きをずっと静観していたアーチャーだ。
アーチャーは二層の入り口前にある階段の近くに腕組んで立っていた。
キリトはアーチャーに目を向ける事なく。
「あぁ…。」
とだけ言った。
そう答えるキリトにアーチャーは言う。
「そこから先は地獄だぞ。」
「分かってる。」
「いや、分かっていないよ。お前は…。」
そう言って、アーチャーはキリトに背を向け歩き出した。
途中、アスナとすれ違ったが歩みを止めはしなかった。
すると、アーチャーの目の前にキバオウが立つ。
「そういやアンタもボスの武器に反応しとったな?」
「それが?」
アーチャーはその問いに温度のない声で答える。
彼のキバオウを見る目はいつも以上に鋭い。
キバオウはその目に押されながらも続けた。
「アンタもあのビーターの仲間やないんか?同じパーティやったろ?」
「だから、それがどうした?言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」
「詫びを入れんかいって言っとるんや!!ディアベルはんに、これまで死んだモン達にな!!」
その言葉にアーチャーは皮肉げな笑顔を浮かべる。
しかし、それはキリト達に向けた事のあるものではない。
そこにはただ目の前の男に対する軽蔑だけがあった。
「哀れだなディアベルも。」
「なんやと!!」
「彼が抱えていた理想と苦悩をここにいたほとんどの者が、理解していない。あるのはただ、自分達の弱さを他人に押し付けるという醜さだけだ。」
そう言い放った。
その言葉にキバオウだけでなく、全員が声を荒げる。
「もういっぺん言ってみい!!」
「事実を言われて怒るか。つくづく救いようがないな。」
そう吐き捨てるように言って、アーチャーは全員に問うた。
「なら教えてくれないか。ディアベルが死んだ時、この中の何人がボスに立ち向かった?」
「な!?」
「そして、貴様はその時何をしていた?」
その言葉にキバオウ達は黙る。
アーチャーはそんな彼らを見て言った。
「決意も覚悟も足りなかったな…。」
そう言って、アーチャーはボスの部屋を後にした。
to be continued