ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜   作:†AiSAY

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圏内事件

(どうしてこうなった…)

 

自分の目の前にいるプレーヤーを見てキリトは心の中でため息をついた。

ここはアインクラッド第57層主街区《マーテン》。

現在の最前線からわずか2フロア下にある大規模な街で、必然的に攻略組のベースキャンプかつ人気の観光地となっている。

そんなマーテンにある、とあるレストランの一席にキリトは今いる。

目の前にいるプレーヤーにキリトは再び目線を移すとそこには白を基調とした服を纏った女剣士アスナがいた。

キリトはここに至るまでの流れを思い返す。

 

《アインクラッド第59層ダナク》

 

その日、キリトは転移門のすぐ近くの草原に身体を横たわせ、休んでいた。

そんなキリトに《血盟騎士団》副団長アスナは自分達の現状を理解しているのかと苦言を呈した。しかし、キリトはそんな彼女に今日のアインクラッドは最高の季節の更には最高の気象設定だから、自分も横になってみろと冗談まじりに言った。

そして、キリトが目を覚ますと横には気持ち良さそうに寝ているアスナの姿があった。

まさか本当に寝ると思わなかったキリトは仕方なしに彼女の身が《睡眠PK》されることがないよう、近くでガードすることにした。

しかし、女性にとって自分の無防備な寝姿を他人のそれも異性に見られることは恥ずかしかったらしい。ましてや、彼女は今やこの世界において名の知れた攻略組のトッププレイヤーだ。

思わず、キリトに斬りかかろうとしたが、寝てしまった自分に非がある上、ガードしてもらった恩もある為、アスナはキリトにその礼として食事一回分を奢ることになった。

 

そして、場面は現在に戻る。

過ぎてたこと、なってしまったことを後悔しても仕方がないと思い、ぎこちないながらもキリト達はたわいのない話をした。

すると、どこか遠くから、紛れもない悲鳴が店内まで響いた。

 

「……きゃあああああ!!」

 

2人は息を呑み、素早く自分達の剣を掴む。

 

「店の外だわ!!」

 

アスナの声に頷き、キリトは座席から立ち表通りへと走り出した。

そして、悲鳴の元らしき場所に着くと、2人は信じられないものを目にした。

広場には教会のような石造りの建物がそびえていた。

そして、その二階中央の飾り窓から一本のロープが垂れており、人の甲冑を身につけた男がぶら下がっていた。

一見すれば首吊りの現場であるが、この世界においては窒息で死ぬことはない。

それよりもキリトもアスナの視線は男の胸に突き刺さっている一本の歪な形をした剣のような槍だった。

男は恐怖に歪んだ顔で槍の柄を両手で掴んでいるが、非常にも胸の傷口からは、赤いエフェクトが血のように吹き出ていた。

 

キリトは我に帰ると叫んだ。

 

「早く抜け!!」

 

男はキリトの声に気付くも恐怖の為か手に力が入らず、食い込んだ槍は抜けない。

この瞬間にも槍によって男のHPが削られていく。

キリトの頭の中には男をどのようにして助けるかということと同時に、何故目の間でこのようなことが起こっているかという疑問が渦巻いていた。

男のHPは確かに減っている。

しかし、今自分達がいる場所は《圏内》。

普通に考えれば、ダメージ発生そのものが有り得ない。

逡巡するキリトにアスナの鋭い声が耳に響く。

 

「きみは下で受けてめて!」

 

そう言うと、アスナは目にも留まらぬ速さで建物の中へと駆け出した。

彼女が男を吊るしているロープを切ろうとしていると気付いたキリトは、アスナに答えるとぶら下がる男の真下へと走り出した。

しかし、キリトが辿り着くと何かが砕け散る音共に、ポリゴンの欠片が霧散し男の姿も消えた。

キリトは周囲にいたプレイヤー達に向けて叫んだ。

 

「みんな!デュエルのウィナー表示を探してくれ!!」

 

主街区はアンチクリミナルコード有効圏内。

すなわちこの場所でプレイヤーがHPにダメージを受け、なおかつ死に至るにはデュエルにおける完全決着モードによる敗北でしかない。

しかし、いくら探しても表示は見つからない。

ならばとキリトは建物の窓からアスナが見えたので、彼女に向けて叫んだ。

 

「アスナ‼︎ウィナー表示はあったか⁉︎」

 

「無いわ!システム窓もないし、中には誰もいない‼︎」

 

「なんでだ…」

キリトは建物の奥にある階段を駆け上がりアスナと合流する。

しかし、やはり他のプレイヤーの姿はなかった。

隠蔽アビリティ付きのアイテムの使用も考えたが、現在この世界にキリトの索敵スキルを無効化するほどのアイテムは存在しない為、その案は却下された。

 

「ウィナー表示がどこにも出なかった。広場に詰めかけた数十人が誰も見つけられなかったんだぜ。デュエルなら、必ず近くに出現するはずだろう」

 

「でも…有り得ないわ!」

 

アスナがキリトに反論する。

2人の間に沈黙が漂う。

 

「このまま放置は出来ないわ。もし、《圏内PK技》みたいなものを誰かが発見したのだとすれば、早くその仕組みを突き止めて対抗手段を公表しないと大変なことになる」

 

「…俺とあんたの間じゃ珍しいけど、今回ばかりは無条件で同意する」

 

アスナは頷いたキリトに右手を突き出すと言った。

 

「なら、解決までちゃんと協力してもうわよ。言っとくけど、昼寝の時間はありませんからね。」

 

「してたのはそっちじゃないか…」

 

そう呟きつつも、キリトもまた手を差し出す。

白と黒の手が握手を交わすと2人は建物を後にした。

 

2人は証拠物件の中にあったロープ、そしてプレイヤーに突き刺さっていた槍を回収し、出来る限りの情報を収集すると第50層主街区《アルケード》に移動した。

その理由は回収したものを鑑定するためだ。

そして、目的の場所、とある雑貨屋に到着した。

すでにそこにいたプレイヤーとすれ違いながら店の中に入ると店主に声をかけた。

 

「相変わらずアコギな商売をしてるみたいだな」

 

「ようキリトか?」

 

声をかけられた雑貨屋の店主エギルはキリトの姿を見ると笑顔を見せた。

 

「安く仕入れて、安く提供する、それがこの店のモットーなんでね」

 

「後者は疑わしいもんだな?」

 

「何を人聞きの悪いことを、って…」

 

そんな憎まれ口を叩きながらも2人は拳を合わせる。

するとエギルがキリトの後ろにいたアスナに気付くとあからさまに驚いた顔した。

そして、キリトの首を掴むとカウンターの中に引き摺り込む。

 

「ど、どうしたキリト。ソロのお前がしかもアスナと一緒とはどう言うことだ?お前ら仲悪かったんじゃ…」

 

「ちょっ!いやっ…」

 

そんな2人の様子にアスナは呆れたような困ったような苦笑いを浮かべていた。

 

エギルは2人の様子から何かを察したのか、店を閉めると2人を二階の部屋に通した。

そして、ことのあらましを聴くと先ほどのキリト達と同様驚いたような表情で言った。

 

「圏内でHPが0に?デュエルじゃないのか?」

 

そう言うエギルにキリト達はウィナー表示が出ていなかったこと、

そしてあの街で消滅したプレイヤー、《カインズ》と直前まで行動していた《ヨルコ》というプレイヤーから一連の流れを聞いたことを話した。

 

「突発的デュエルにしては遣り口が複雑すぎる。事前に計画されていたPKなのは確実だと言って良い。そこで…コイツだ」

 

そう言ってキリトは目の前の脚の低いテーブルに件の槍を見て言った。

 

エギルはその槍を持つと自身の鑑定スキルでもって、その槍を調べた。

キリトとアスナは改めて目の前の槍を見る。

一口に槍と言ってはいるが、実際は剣に近い短槍と言ったほうが正しいのかも知れない。

そして、何よりも目を引くのがその形。

柄の部分以外のほぼ全体に返しと言えば良いのか、逆棘が生えている。

あの刺されたプレイヤーが引き抜くのに苦労したのも今となっては納得がいく。

まるで、攻撃をすること以上に相手を苦しめることを目的としたもののようにキリトは感じた。

 

「プレイヤーメイドだ」

 

鑑定を終えたエギルの言葉にキリト達は思考を呼び戻す。

そして、そのエギルの鑑定の結果を聞いて声を上げた。

 

「本当か?」

 

「誰ですか作成者は?」

 

「《Grimlock(グリムロック)》聞いたことねえな。少なくとも、一線級の刀匠じゃねぇ。それに武器自体も特に変わったことはない。」

 

それを聞きアスナが言う。

 

「でも手がかかりにはなるはずよ」

 

「あぁ、一応固有名も教えてくれ」

 

アスナの言葉に頷くとキリトはエギルに尋ねた。

 

「えっと、《ギルティソーン》となっているな。《罪の荊棘》ってところか…」

 

「罪の荊棘…」

 

キリトはその言葉を繰り返し呟くとその短槍を手に持つ。

そして、よしと呟くとおもむろに躊躇なく自らの掌に振り下ろした。

するとアスナがキリトの手首を持って叫ぶ。

 

「待ちなさい‼︎」

 

「なんだよ?」

 

「なんだよじゃないでしょ、馬鹿なの?その武器で実際に死んだ人がいるのよ⁉︎」

 

「いや、でも試してみないことには分からないだろ?」

 

あまりにも突拍子もない行動をしておきながら、あっけらかんとしているキリトにアスナは苛立ちを覚えた。

そして、キリトの手からその短槍を奪うとエギルの方を向いて言った。

 

「そう言う無茶はやめなさい、これはエギルさんが預かっていて下さい」

 

「え、あ、あぁ…」

 

アスナの剣幕に押されながらも《ギルティソーン》をエギルは受け取った。

そして、今後の調査の方向性が決まると2人はエギルの店を出ようと立ち上がった。

 

「あ、おい!」

 

扉へと向かう2人の背にエギルが声をかける。

キリトとアスナは呼び止められると振り向いた。

 

「ん、どうした?」

 

するとエギル少し考えるそぶりしていたが、2人を見て言った。

 

「あくまで俺の鑑定スキルは商売用のもんだ、だからマスタースミスや他の専門のヤツには一歩劣る。」

 

「あ、あぁ…」

 

「だが、もしかしたらアイツなら俺以上にお前達に必要な情報を与えられるかもしれん。」

 

「アイツ?」

 

その言葉にキリトとアスナは首を傾げた。

 

「場所を教える。確実とは言えないが、この時間なら大丈夫だろう。」

 

「なんだか知らないけどそこに行けば、手がかりをつかめるのか?」

 

「言っただろ、確実とは言えないってな。だが、反則級に腕は確かだ。」

 

そう言って、2人にマップ情報を提供するエギル。

流されるがままにキリトはそれを受け取ると尋ねた。

 

「で、アイツってのは誰なんだ?」

 

「私たちも知ってる人ですか?」

 

その2人の言葉にエギルは答えた。

 

「あぁ知ってるよ。お前達2人ともよくな…」

 

キリトとアスナは提供されたマップ情報に目を移す。

そこにあったのは、今いる場所からそう遠くなかった。

そして、マップ上にマークされた場所の名前を見る。

そこにはこうあった。

 

《Ahnenerbe(アーネンエルベ)》と。

 

to be continued

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