ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜 作:†AiSAY
エギルの店から出た後
キリトとアスナは彼が紹介した店の前にいた。
《Ahnenerbe》店の看板にはそう書いてあった。
どうやらここはレストランやカフェといった飲食系の店のようであり、立てかけられた看板にはメニューが表記されていた。
しかし、ここで2人の頭に疑問がよぎる。
もちろん自分達は食事をしに来たわけでない。
何故、自分達がここにいるかといえば圏内で起きたプレイヤーの消滅の真実の究明、
そして、その唯一の手がかりといえる《ギルティーソーン》の鑑定のために来たはずだ。
「…ここ、よね?」
「あぁ、エギルの話だとここで間違いないはず」
2人は再び店を見る。
何度見てもそこにあるのはカフェレストラン以外の何物でもない。
だが、いつまでもここで立ち尽くしているわけにもいかず、2人は意を決して扉を開けた。
中に入るとこじんまりしつつも、落ち着いた雰囲気の中、そこには4.5組の丸テーブルと椅子、そして5人ほどが座れるカウンター席があった。
するとカウンターの奥から声が聞こえた。
「おや、誰かと思ったら懐かしい顔だな」
その皮肉めいた声に2人は聞き覚えがあった。
そして声が聞こえた方に2人は顔を向ける。
するとそこにある姿に2人は目を見開く、その姿を見にすると頭の認識よりも先に自然にその人物の名を呟いた。
「…アーチャー」
そう、そこにいたのはキリトとアスナが第一層のボス戦を共に戦った人物、
《アーチャー》がそこにいた。
「何で、アンタがここに?」
「何故と言われても、ここは私の店だ。店主が自分の店にいるのは当たり前だろう」
「アーチャーの?」
そう言って、キリトは再び店内を見渡す。
そんなキリトを見てアーチャーは笑みを浮かべると2人に向けて言った。
「さて、そこでそう立たれていても落ち着かないだろう。座ったらどうだ?」
「あ、あぁ…」
そう言って、キリトはカウンターへと座った。
しかし、後ろにアスナがついてこないのに気づき彼女の方に視線を向ける。
すると、そこには剣呑な目つきでアーチャーを見つめるアスナの姿があった。
「…アスナ?」
「……」
そう声をかけるとアスナは黙ってキリトの隣に座った。
しかし、その目は変わらず鋭くアーチャーを見据えている。
アーチャーはそんな彼女の目線を受け流しながら2人の目の前にそれぞれカップを置く。
「こうして君達にお茶を振る舞うのも久しぶりだな」
「あ、あぁ」
「それで、今日はどのような用件かな?攻略組のそれも第一線で活躍している《黒の剣士》と《血盟騎士団》の副団長《閃光》がこのような場末に来るとは?」
そう言われてキリトは我に帰る。
そして、ここに訪れた理由を思い出し、口を開こうとしたその時。
「…どうして」
「アスナ?」
「貴方は、どうしてこんなところで何をしているんですか?」
隣にいたアスナが鋭い目で目の前のアーチャーに投げかけた。
その口を挟めない厳しい雰囲気にキリトは驚いた。
一方、当のアーチャーは何事もないように振る舞いながらアスナに振り返った。
「どうしてとは?先ほども言ったようにここは私の店なわけだが?」
「そういうことを言っているんじゃありません!!」
アスナが声を机を叩き、立ち上がり声を荒げながら叫ぶ。
その拍子でアスナの目の前に置かれたカップが倒れ中身が溢れる。
そしてカップはその衝撃でカウンターから落ち、床の上で壊れてポリゴンの結晶となって消滅した。
「お、おいアスナ」
「っ!」
キリトに諌められアスナは席につく。
しな垂れたように下を向くアスナを見てアーチャーはため息をつく。
「お前達、何があったんだ?」
「別段心当たりが無いわけではないがね」
キリトの疑問にアーチャーはあくまでも冷静に答える。
するとアスナが顔を上げると話し出した。
「何故、戦線からいなくなっんです?」
「……」
アスナの言葉にアーチャーは答えない。
そして、彼女の言葉はキリトも考えていたことだった。
第一層が攻略され長い時間が経った。
その間に多くのことがこの世界で起きていた、そしてそれはキリトにとってもアスナにとってもいえたことであった。
「確かに、アンタほどのプレイヤーが何で店なんか…」
たが、あの時以来キリトはアーチャーの噂を聞かなかった。
それはボス戦時の後ろ暗さもあって、気にしないように努めていたこともあったが、攻略組として第一線で戦っていた為、他のプレイヤーとりわけ第一線で活躍しているプレイヤーの話は自然と入ってきた。
その中には今隣いるアスナのことも含まれる。
そして、目の前にいるこの男アーチャーはキリトがその腕を認めていたプレイヤーの1人だった。
たった一度、共にパーティーを組んだだけだったがその戦闘技術は群を抜いていたことをキリトは今も鮮明に覚えている。
「《黒の剣士》殿にそこまで認められているのは光栄だ。だが、それだけがこの世界に求められていることではあるまい」
「何を言っているんですか貴方も!!」
アーチャーの言葉にアスナが再び叫ぶ。
そして、続けて言った。
「こうしている間にも現実世界での私たちの時間は!!」
「おい、アスナ…」
そんなアスナの前にアーチャーは再び淹れ直したお茶の入ったカップを置く。
そして、息を吐くと言った。
「アスナ、君の言いたことは分かる。誰もがこのデスゲームからの解放を望んでいることだろう。だが、誰もがそれにのみに注力していてはこの世界は回らない。戦線で心身ともに疲弊した者達の憩いの場も必要だ。」
「それがこの店か?」
「あぁ、戦闘に息の詰まった者たちの英気を養うささやかなものだがね。ありがたいことに客はそれなりに入っているよ」
アーチャーは肩を竦めながらキリトに答えた。
しかし、アスナは納得がいっていないようで、再びアーチャーに問い詰める。
「貴方の考えも分かります。今日、同じようなことを言われたばかりですから」
そう言ってキリトを横目で見ながら言うアスナ。
その視線を受けてキリトは気まずそうにカップに口をつけると、その久しぶりに飲んだアーチャーのお茶の美味しさに目を見開く。
しかし、そんなことは知らずにアスナは続ける。
「ですが、貴方はただの攻略組ではなかった。《血盟騎士団》の一員、それも実力も団員からも信頼も団長に次ぐ立場にあった。それなのに…」
「そうだったのか?」
アスナの言葉にキリトは内心驚きながらも冷静にアーチャーに目線を移す。
その視線を受けてアーチャーは溜息を吐くと諦めたように話し始めた。
「昔の話だ。確かに私は《血盟騎士団》に席を置いていた。もっとも当時の私はギルド運営を任されていたのでねフロアボス攻略には出ていなかった。キリト、君が知らないのも無理はない。その代わり彼らの手の回らないクエストに駆り出されていたよ?」
とやはり皮肉げにキリトに答えるアーチャー。
そして、続けて言った。
「だか、今の《血盟騎士団》にいる意義を私は感じられなくなったのでね」
「どういうことですか?」
アーチャーのその言葉にアスナの目はさらに鋭くなる。
「かつての《血盟騎士団》はこの世界において全てのプレイヤーの希望だったと言って良い。私を含め当時の団員は団長が個々にスカウトしてできた義勇団的な存在だった。」
「ええ…」
「だが今の《血盟騎士団》は肥大化しすぎた。これも実力派ギルドの弊害とでも言うべきなのかもしれが、団員が増えるにつれそこにはデスゲーム攻略以外の思惑が錯綜している。無論、団長もそれは理解しているだろう。だが、本来の目的を見失わない為かギルドはよりデスゲーム攻略に無心になっていったよ。」
アーチャーの言葉は真実なのだろう。
彼の話を聞き、アスナもまた思い当たる節があるのだろう唇を固く結んだ。
「仕方がないことだとも思うがね。いずれにしろその様子を間近で見ていた私はそのことに疑問を抱いたのでね。団長に直々に退団を願い出たというわけだ。本来の目的、解放を待ち望む他のプレイヤーの希望としてあったはずのもの、他者という外向けられてたものが内に向けられた。自らの理想と重なっていたからこそ、私は《血盟騎士団》に入った。しかし、変わりゆく理想に付き合う気に私はなれなかったのでね…」
そう言ってアーチャーはアスナを見る。
その真摯な眼差しにアスナは納得はいっていないが、理解はしたといった風な顔をしてようやく席についた。
「さて、だいぶ長話をしてしまったな。それではそろそろ話してもらおうか?何故君たちがここに来たのか」
「あぁ、実は…」
アーチャーにそう聞かれ、キリトは今日来た目的を思い出すと自分達が見たもの、
そしてエギルにこの店のことを聞いたことを話した。
「なるほど、圏内でHPがゼロになった。それも睡眠PKではなく武器によってか…」
「あぁ、それでエギルには鑑定はしてもらったんだが、その武器にも特段不思議な点はないみたいなんだ」
そう言うキリトにアーチャーは顎に手を当て、
考え込む表情をした。
「それでエギルから私のところに来るように言われたと?」
「あぁ、アーチャー、その時はあんただとは知らなかったんだが、ここに来れば何か分かるかもしれないって言われてな」
「やれやれ、エギルのやつ当人の許可もなく勝手なことを…」
腕を組みため息を吐きながら言うアーチャーの姿にキリト、そしてアスナは首を傾げた。
するとアーチャーが2人に向き直り言った。
「本来ならば業務外の案件だが、君たちの頼みだ、それにもし君たちの見たことが真実なら確かに原因は究明せねばなるまい」
「あぁ、悪いが頼めるか?」
「まずはその武器を見せてもらえるか?」
アーチャーにそう言われ
キリトは自身のストレージから件の武器《ギルティーソーン》を取り出し、
アーチャーへと渡した。
アーチャーはそれを手に取ると目を鋭くする。
「これは…」
「アーチャー?」
「キリト、確かにエギルはこれを鑑定したんだな?」
「あぁ、アイツによると《ギルティーソーン》って固有名と《グリムロック》っていうプレイヤーが作成したってことしか分からなかったよ」
「ふむ」
キリトの言葉に頷くとアーチャーは手に持った《ギルティーソーン》を鑑定し始めた。
するとキリトとアスナは少し驚いたような顔をした。
「アーチャー、アンタ、鑑定スキルを上げてたのか?」
「ん?あぁ、これもこの世界で生きていく術の一つということでね。この店の経営には必要ないが、いかんせん誰かさん達のように食事以外で来店するものも少ないはない。」
そう皮肉げにいうとアーチャーは鑑定を続けた。
その言葉にキリトはもちろんアスナまでも少し苛立ちを覚えた。
すると意趣返しなのかアスナが皮肉げに返す。
「まぁ元とはいえ《血盟騎士団》のトッププレイヤーですからね…」
「フッ、そうかならばその有名税分働きをしなくてはな。そうすれば君たちからの報酬も期待できそうだ」
「「えっ!」」
アスナの皮肉に皮肉で返したアーチャーの発言に2人は声を上げる。
その様子を見たアーチャーが笑みを零す。
「フッ、冗談だ。曲がりなりにも一度はパーティーを組んだよしみだ、別に金はいらん。」
「ふぅ…」
「まぁ、《血盟騎士団》を勝手に抜けた手切れ金だとでも思ってくれ」
「むっ…」
まったく、この男は皮肉を交えないと会話できないのかとホッとするキリトとは対照的にアスナはまた顔をしかめた。
すると、鑑定が終わったのかアーチャーがウィンドウを閉じて手に持った《ギルティーソーン》をカウンターのテーブルの上に置くと言った。
「何か分かったか?」
「あぁ、まず最初にエギルの鑑定に間違いはない。この武器はプレイヤーメイドに間違いはない。だが…」
「だが?」
「他に何か分かったんですか?」
説明を中断したアーチャーに2人が尋ねる。
すると、アーチャーは《ギルティーソーン》を見ながら言った。
「どうやら、この武器は最近作成されたもののようだ」
「どういうことだ?」
「鑑定したところ、この武器は作成されてそう時間が経っていない。それに加えて耐久値を見たところ、使用されたのも一回といったところか…」
「それって…」
アーチャーの言葉にキリトとアスナは息を飲んだ。
その言葉の意味することそれは
「あぁ、どうやらこの《ギルティーソーン》という武器は高い確率で君たちが見たプレイヤーを殺すことを目的に作成されたということだ。」
「「っつ!!」」
店内を静寂が包む。
キリトとアスナの頬から一筋の汗が伝う。
熱をともわないはずの世界で、2人の背にいいようない寒気が走った。
to be continued…