ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜   作:†AiSAY

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調査開始

 

後日、キリトとアスナは再び《ahnenelb(アーネンエルベ)》にヨルコと共いた。

ヨルコの顔には疲労が目に見えていた。

やはり昨日の一件のせいであまり眠れなかったようで、ここに来る前にあった時も何度も瞬きを繰り返していた。

 

「悪いな、友達が亡くなったばかりなのに」

 

「いえ…」

 

そうキリトにか細い声で答えるヨルコの前にカップが置かれる。

ヨルコが顔を上げるとそこには店主のアーチャーがいた。

 

「あまり寝ていないのだろう?ことがことだリラックスとは言えないが、いくらかは気持ちが落ち着くだろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

そう言って、ヨルコはカップに口をつける。

すると、ヨルコは一度目を見開くと目を閉じた、そしてカップから口を離すとほぅと息を吐く。

 

「…美味しい」

 

「それは良かった」

 

「この世界でお茶がこんなに美味しいと思ったのは初めてです」

 

そう告げる彼女にアーチャーは同じものをキリトとアスナの前に置きながら言った。

2人も置かれたお茶を飲むとヨルコと同じような顔をした。

ただ、アスナだけは何か思うことがあったのか何故か悔しそうに顔を歪めた。

すると、本題に入る為にキリトが口を開く。

 

「まず、報告なんだけど…昨夜、黒鉄宮の《生命の碑》を確認してきたんだ。カインズさんは、あの時間に亡くなってた」

 

「そう……ですか。ありがとうございました、わざわざ遠いところにまで行って頂いて」

 

「ううん、いいの。それに、確かめたかった名前が、もう一つあったし」

 

そして、アスナはヨルコにグリムロックっというプレイヤーについて聞いた。

するとヨルコは昨日話さなかったことを謝罪すると詳細を話し始めた。

そこで、2人は彼女とカインズがかつて所属した《黄金林檎》で起こったことを説明した。

 

ある時《黄金林檎》は敏捷力が20も上がる指輪をドロップアイテムとして手に入れた。

しかし、その扱いについてギルド内にて口論が起きた。

ギルドで使うべきか売って儲けを分配するべきか、そして多数決の投票の結果、売却することになったという。

そして、リーダーが代表して売却に行ったが、それ以来帰ってこなかったという。

それが意味することはただひとつだった。

それが半年前のことだという。

 

「私達は後になってグリセルダさんの死を知りました。死因は《貫通属性ダメージ》だったそうです」

 

「そんなレアアイテム抱えて圏外に出る訳はないよな。てことは、《睡眠PK》か。」

 

「半年前なら、まだ睡眠PKの手口が広まる直前だわ」

 

「ひとつ、教えてほしい。そのレア指輪の売却分配に反対したプレイヤーの名前は?」

 

アスナの言葉に頷いたキリトがヨルコに尋ねる。

ヨルコは少し黙ると意を決したように顔を上げ、はっきりと答えた。

 

「カインズ、シュミット……、そして私です」

 

「シュミット?」

 

ヨルコから出た名前にキリトは聞き覚えがなかった為、首を傾げた。

するとキリト達の横から声がかけられた。

 

「DDA、《聖竜連合》のランス隊の隊長の名だ」

 

「アーチャー…、知ってるのか?」

 

「この店にも来たことがある。それにお前たちも攻略組なら顔は知っているんじゃないか。元々は別の中規模ギルドに所属していたが、ある日DDAの入団規定をクリアしたと聞いていたが…」

 

その言葉に2人は驚いた顔をした。

 

「ランス使い…ああ、アイツか」

 

「それじゃあ、その人が犯人?」

 

「断定は出来ない…、シュミットは投票では反対側だったわけだから、どちらかと言えば狙われる側じゃないか?」

 

「それもそうね…、じゃあグリムロックっていう人は」

 

キリトの言葉に頷き、アスナがヨルコに聞く。

 

「…彼は《黄金林檎》のサブリーダーで同時にギルドリーダーの旦那さんでした。もちろんSAOでの、ですけど」

 

「え…、リーダーは女の人だったのか?」

 

「ええ。グリゼルダさんといって、とっても強い片手剣士で、美人で頭も良くて…私の憧れでした。」

 

「…じゃあ、グリムロックさんもショックだったでしょうね。」

 

アスナの言葉に頷くとヨルコは再び下を向いた。

その痛ましい姿に2人も口をつぐむ。

だが、いつまでもそうしてはいられない、キリトは悪いと思いつつも尋ねた。

 

「辛い質問ばかりして悪いけど、最後にもう一つだけ教えて欲しい。昨日の事件…カインズさんを殺したのがグリムロックさんだ、という可能性は、あると思うか?実はカインズさんの胸に刺さっていた黒い槍……鑑定したら、作成者はグリムロックさん当人だったんだ。それも作成されたのは最近らしい。」

 

その言葉にヨルコは一度目を見開き、長い逡巡を見せた後、

わずかにだが首を縦に振った。

 

「…はい、その可能性はあると思います。もし、昨日の犯人がグリムロックさんなら、あの人は指輪売却に反対した3人、つまりカインズ、シュミットそして私を全員殺すつもりなのかもしれません」

 

そう答えるヨルコは再び下を向くと、何かを考え始めた。

そして、顔を上げると2人を見て言った。

 

「あの、シュミットに合わせていただけませんか? 彼はまだ今回の事件を知らないかもしれません。そうなると、カインズのように……」

 

ヨルコの言葉を聞いて、アスナは返答する。

 

「分かったわ、ヨルコさん。わたしの知り合いに《聖竜連合》に所属している人が居るから、その人を通じて彼を呼んでみるわ」

 

「なら、ヨルコさんを宿屋まで送ろう。彼女だって狙われる可能性がある。ヨルコさん、俺達が宿屋に戻ってくるまでは外に出ないでくれ」

 

「はい……」

 

その会話を最後にその日は解散となった。

キリトとアスナはヨルコを宿屋まで送り届けると再びアーネンエルベに戻ってきた。

余談だが、店を出る際にアーチャーが外に出られないヨルコにせめてもの気晴らしにと小包を渡しており、聞いてみるとそれは店で出していたケーキとのことで、それを聞いたキリト達は始終凝視していた。

それに気づいていたのかアーチャーは2人が戻ってくると踏んでいたのだろう、カウンターの上にカップと共に小皿に乗ったケーキがあった。

戻ってきた時、それを見た2人の目が輝いていたのは言うまでもない。

今は2人とも目の前のケーキにパクつき舌鼓を打っている。

 

「しっかし、鑑定スキルだけじゃなく料理スキルまであげてるとは……エギルが反則級っていうのも頷けるな」

 

「人聞きが悪いな。これもスキル育成の結果だ。」

 

そう洗い物を拭きながらアーチャーは答える。

キリトの横ではやはりアスナも食べているがひと口ごとに何やらぶつぶつと言っている。

ゲームとはいえ男に料理スキルが自分より上なことにプライドが傷つかれているのだろう。

もっとも横にいる男が彼女の料理の腕を知るのは少し先の話になるわけだが。

 

「他にも何か上げているスキルもあるのか?」

 

「うむ、そうだな……索敵スキルはもちろんのこと、鑑定スキル、料理スキルの他には裁縫スキルもそれなりに上げてはいる」

 

「索敵スキルはともかく、料理スキルに裁縫スキルって」

 

「なんだか…」

 

((主婦じゃん))

 

2人はアーチャーを見て思った。

その視線に気づいたのかアーチャーは何か言いたいことでもあるのかと言った風に2人を睨んだ。

すると、2人はすぐに目を背けた。

 

「それに鍛治スキルだな。」

 

「鍛治スキルもか!?」

 

「あぁ、言ってなんだがこれに関してはそこいらのマスタースミスに引けはとらんよ」

 

その言葉に先ほど以上に驚くキリト

しかし、一方でアスナはそのことを知っていたようだった。

 

「で、これからどうするの?」

 

「そうだな…」

 

どうやらシュミットは、今の時間は迷宮区に潜っているらしく、《聖竜連合》の本部に戻るのは夕方になりそうだと、アスナ宛にメッセージが届けられていた。

そこで、キリトはシュミットが戻ってくる間に他に手掛かりはないかとこれまでの状況を整理することにした。

 

「選択肢としては…その一、中層で手当たり次第にグリムロックの名前を聞き込んで居場所を探す。その二、ギルド黄金林檎の他のメンバーを訪ねて、ヨルコさんの話の裏付けをとる。その三…カインズ殺害の手口の詳しい検討をする、くらいかな」

 

「ふむむ」

 

キリトの提案に腕組みをし、アスナは思案した。

すると目の前にいるアーチャーが口を挟んだ。

 

「その一は、君たちのみじゃ効率が悪いだろう。現在の推測どおりグリムロックというプレイヤーが犯人だとしたら、今頃身を隠しているだろう。その二は…どちらにしろメンバーも当事者なのだから、裏付けのしようはない…」

 

「どういうことだ?」

 

「つまり、仮にさっきの彼女ヨルコの話と矛盾する情報が聞けたとする。だが、我々には出てきた情報の真偽を見極める術はないということだ。余計な情報は今しばらく寧ろ混乱を招くだろう。今は客観的な視点、判断材料が必要だ」

 

アーチャーが2人に冷静に言い放つ。

 

「じゃあ…その三か」

 

キリトと目線を交わし、アスナは頷く。

 

「でもな…もうちょっと、知識のある奴の協力が欲しいな…」

 

「そうは言っても、無闇に情報をばら撒いちゃヨルコさんに悪いわ。絶対に信頼できる、それでいて私たち以上にSAOのシステムに詳しい人なんか、そうそう…」

 

そう言い澱んでいると再びアーチャーから声がかけられた。

 

「君たちの要望にそうプレイヤーが1人いる」

 

「「え!?」」

 

驚く2人がアーチャーを見る。

しかし、アーチャーの顔は少し険しかった。

アーチャーは息を吐くと2人を見て言った。

 

「現在、全SAOプレイヤーの頂点にして《血盟騎士団》団長…」

 

「あっ!」

 

「まさか…」

 

「そうヒースクリフだ」

 

そうアーチャーに言われると2人は目を合わせ、

アスナはすぐさまメッセージを送った。

 

30分後、

アルケードの裏路地にある寂れた店にキリト、アスナ、そして呼ばれたヒースクリフがいた。

安っぽい4人がけのテーブルにはキリトが頼んだ《アルケードそば》なるものが置かれていた。

そこで2人はヒースクリフにこれまでのあらましと今現在の自分たちの考察を伝えた。

 

一つは正当な圏内デュエルによるもの

二つは既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道

三つはアンチクリミナルコードを無効化する未知のスキル、アイテムにやるもの

 

しかし、三つ目の考えは公平さを貫いているこのゲームSAOの在り方を考えるとあり得ないと断定された。

一つ目はどのような状況であれ、デュエルの場合ウィナー表示が出ないことはあり得ないとして、これも却下された。

 

「じゃあ残る可能性は二つ目のやつだけね。《システム上の抜け道》。……わたしね、どうしても引っかかるのよ」

 

「何が」

 

アスナの言葉にキリトが反応する。

そしてアスナは言った。

 

「《貫通継続ダメージ》。あの槍は公開処刑の演出だけじゃない気がするの。圏内PKを実現するために、継続ダメージがどうしても必要だった……そう思えるのよ」

 

「うん。それは俺も感じる」

 

しかし、いくら《貫通連続ダメージ》を受けた状態でも圏内に入った瞬間にそのダメージは止まる。

ヒースクリフによると《回廊結晶》を使用して、テレポートした場合でも同様だということだった。

すると、キリトがある考えが思いついたのか口を開いた。

 

「例えば物凄い威力のクリティカルヒットを喰らった時、HPバーはどうなる?」

 

「ごっそり減るわよ、もちろん」

 

何を当たり前のことを言いたげな目でアスナはキリトを見た。

 

「その減り方だよ。ある幅が一瞬で消滅するわけじゃなくて、右端からスライドして減ってくわけだから、被弾とその結果としてのHPの減算の間には、わずかながらタイムラグがあるわけだ」

 

その言葉にアスナがハッとする。

一方、ヒースクリフは表情を崩すことなく黙って話を聞いている。

 

「例えばだ、圏外に於いて、カインズのHPを槍の一撃で満タンからゼロまで持っていく。あいつは装備から見て壁戦士(タンク)だ、HPの総量はかなりの数字だっただろう。バーが左端まで減り切るのに、そうだな…5秒はかかってもおかしくない。その間に、カインズを回廊で教会に送り、窓からぶら下げる…」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

キリトの考えを聞き、アスナが声を上げる。

 

「攻略組じゃなかったにせよ、カインズさんはボリュームゾーンでは上位のプレイヤーだった。そんな人のHPを単発ソードスキルで削り切るなんて、わたしにも、キミにも不可能なはずだわ!」

 

そう、キリトの考えが真実ならあの槍《ギルティーソーン》を用いてカインズを殺害したプレイヤーはフル装備の壁戦士(タンク)を一撃死させられるほどの実力者ということになるのだ。

しかし、それまで黙っていたヒースクリフによりその考えは不可能と断定された。

 

「無論、君も知っているだろうが貫通武器の特性というのは、一にリーチ。二に装甲貫通力だ。単純な威力では、打撃武器や斬撃武器に劣る。重量級の大型ランスならまだしも、ショートスピアなら尚更だ」

 

そして、ヒースクリフ曰くもしそれを可能とするプレイヤーがいたとするならば、その人物は現時点でレベル100に達している必要があるのいう。

それは事実上の不可能を意味しており、それを聞いた2人の調査は振り出しに戻った。

そんな2人にヒースクリフは一言だけ言う。

 

「現時点の材料だけで、《何が起きたのか》を断定することはできない。だが、これだけは言える。いいかね……この事件に関して絶対確実と言えるのは、君らがその目で見、その耳で聞いた一次情報だけだ…」

 

そう言うとヒースクリフは席を立ち店から出て言った。

取り残された2人はその言葉の真意を考える。

 

「つまり、伝聞の二次情報を鵜呑みにするなってことよね。この件で言えば、つまり動機面、ギルド黄金林檎のレア指輪事件の方にるわけだけど…」

 

「ヨルコさんを疑ってことか…。さっきアーチャーも裏付けの取りようもないから、疑っても無意味って言ってたけど…」

 

「こうなったらPK手段を断定するにはまだ材料が足らなすぎるわ。こうなったら、もう1人の関係者にも話を聞きましょう。指輪事件のことをいきなりぶつければ、何かぽろっと漏らすかもしれないし」

 

「それって」

 

キリトがアスナを見る。

アスナは頷くと現在分かっている黄金林檎の最後の1人の名前を言った。

 

「ええ、《聖竜連合》のシュミットよ」

 

そう言うとアスナは席を立つ。

キリトもそれに続くと2人は店を出た。

 

to be continued

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