ソードアート・オンライン〜Unlimited Blade Works〜 作:†AiSAY
シュミットを迎えに行ったキリト達は、シュミットをヨルコの宿屋へ案内した。
本当ならアーチャーにも同席して欲しかったため彼の店を指定したかったが、《アーネンエルベ》に行くと店の扉には《close》と閉店を知らせる看板が出されていたため、断念した。
キリトは念のために、不審な点がないか監視するために部屋の端っこで同席した。
「……お久しぶり、シュミット」
「……ああ。もう二度と会わないと思ってたけどな。座ってもいいか」
シュミットはヨルコの向かい側のソファーに腰を下ろすと、口を開いた。
「話はキリト達から聞いた。グリムロックの武器でカインズが殺されたのは本当なのか?」
「本当よ」
ヨルコがそう答えると、シュミットはその大きな身体をびくっと震わせた。
そして震える声で脇目も降らず喋りだす。
「何で今更カインズが殺されるんだ!? あいつが……あいつが指輪を奪ったのか? グリセルダを殺したのはあいつだったのか。グリムロックは売却に反対した三人全員を狙っているのか? 俺もお前も狙われてるのか!?」
ヨルコに問い詰めるように叫ぶシュミットは自身にも凶刃が迫ろうとしている恐怖ゆえか軽いパニックを起こしていた。
そんなシュミットにヨルコがか細い声で語りかける。
「落ち着いて、シュミット。私もカインズもそんな事しないわ。それに、これはグリムロックさんに槍を作って貰った他のメンバーの仕業かもしれない。でも、もしかたら……」
「な、何だよ」
ヨルコはやはり消え入りそうな声で呟く。
しかし、その言葉はその場にいる全員の耳に深く響いた。
「死んだグリセルダさん自身の復讐なのかもしれない」
「へっ?」
ヨルコの言葉にシュミットは唖然としていた。
キリトとアスカも同じような顔をしている。
「だって、圏内で人を殺すなんて、幽霊でもない限り不可能だわ」
「何を馬鹿な事を……。カインズは指輪を奪ってないんだろ? だったら、どこに殺される理由があるんだ?」
そのシュミットの問いにヨルコは直ぐには答えず、音もなく立ち上がると、一歩右に動いた。そして、両手を腰の後ろで握ると、顔を見せたまま、夕日の立ち込むの窓に向かってゆっくりと歩いていく。
「私、昨夜、寝ないで考えたの。結局の所グリゼルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ! あの指輪がドロップした時投票なんかしないで、グリセルダさんの指示に従っていればよかったんだわ!!」
まるで発狂したかのようにヨルコは叫ぶ。
「……でも、グリムロックさんだけはグリセルダさんに任せると言った。だからあの人には、メンバー全員に復讐して敵を討つ権利があるんだわ」
長い言葉が切れるとヨルコさんは南の窓枠に腰をかけた。
するとシュミットがガバッと顔を上げて言った。
「……冗談じゃない」
シュミットは突然立ち上がると、ヨルコさんに向かって叫ぶ。
「何で半年経って今更……。お前は、こんな訳のわからない方法で殺されてもいいっていうのか、ヨルコ!」
シュミットがそう言った瞬間、突然ぐさっと何かが突き刺さる音が聞こえた。
ヨルコの体が大きく揺れ、キリト達に背中を見せた。そこには、投擲用の短剣がヨルコの背中に深く突き刺さっていた。
「ヨルコさん!」
キリトはヨルコさんに駆け寄り、手を伸ばして彼女の体を部屋の中へ引き戻そうとしたが、その前に彼女は窓から転落し、彼女は石畳に叩きつけられ、そのままポリゴンの破片となって消滅した。彼女が居た場所には、凶器となった黒い短剣が乾いた音を立てて、路上に転がっていた。
キリトは周囲に誰か居ないか辺りを見渡すと、宿屋から二ブロックほど離れた同じ高さの建物の屋根に、ひっそりと佇む黒いロープを着た人物が居た。
「あの野郎……逃がすか。後は頼む」
「ちょっと!!」
アスナの言葉を聞かず、振り切ってキリトは窓枠に右足をかけ、通りを隔てた向かい側の建物の屋根へ一気に飛んだ。そして、屋根の上を移動しながら黒いロープの後を追った。
黒いローブのプレイヤーはキリトの存在に気付くと、懐から何かを取り出そうとしていた。キリトは先程の短剣を警戒し、背中の剣を引き抜こうと手を添えるが、実際に取り出したのは転移結晶だった。
(転移結晶だと? 一体どこに行くつもりだ)
しかし、そのプレイヤーは、その直後転移結晶のライトエフェクトに包まれて姿を消した。
「くそっ。逃げられたか……」
キリトはこれ以上の追跡は不可能だと判断すると、大人しくアスナ達の居る宿屋へと戻った。部屋に入ると、俺の無茶な行動に呆れ、激怒したアスナ、そして恐怖に怯えているシュミットが居た。
「バカっ!無茶しないでよ!!それで、どうだったの?」
「だめだ、テレポートで逃げられた。顔も声も、男か女かも分からなかった。まぁ、あれがグリムロックなら男だろうけど…」
俺がそう言うと今まで震えていたシュミットが口を開いた。
「……あのロープはグリセルダのものだ。あれはグリセルダの幽霊だったんだ。俺達に復讐しに来たんだ……。幽霊ならなんでもアリだ。圏内PKするくらい楽勝だよな。」
シュミットは完全にパニックを起こしていた。
するとごどん、と鈍い音が部屋に響く。
キリトがタガーを放り投げた音だった。その音にシュミットのビクッと身体を震わせると固まった。
「幽霊じゃないよ。 そのダガーは実在するオブジェクトだ。SAOのサーバーに書き込まれた、何行かのプログラムコードだ。」
そう言ってキリトは窓の外を睨む。
その後、キリト達はその後怯えるシュミットからグリムロックが行きつけにしていたという店の名前、場所と《黄金林檎》のメンバーが記されたメモを受け取ると《聖竜連合》本部に送り届けた。
そして、シュミットから教えられた店に行こうとしたその時、キリトにメッセージが届いた。
キリトはウィンドウを開くとその差出人の名前を見て驚いた。
アスナもその表情が気になりマナー違反とは思いつつも、同じようにウィンドウを覗き込む。
するとそこにはこうあった。
from:《Archer》
message:どうやら我々は大きな思い違いをしていたようだ。《Caynz》は生きている。
「これって…」
「どういうことだ…。カインズが生きている?」
その時の2人はアーチャーのその言葉の意味がわからなかった。
そのメッセージを頭に止めるとキリト達はシュミットから教えられた店へと向かった。
一方、キリト達がヨルコの部屋での一件があった頃
アーチャーは1人第49層の主街区を歩いていた。
その姿は普段の《アーネンエルベ》にいる時の黒いシャツ姿ではなく、袖なしのボディアーマーに紅の外套を着込んでいた。
そして、広場を前にしてふと立ち止まると、とあるベンチに座った。
すると腰掛けたアーチャーの後ろに誰かが立ち、夕焼けよってできたアーチャーの影が大きくなる。
「時間ちょうどだな…」
「フフン、情報屋は時間に正確じゃないとナ」
そこにいたのはSAOにて情報屋として活躍しているアルゴだった。
アルゴはその場で背を向けたままアーチャーに話しかける。
「それにしても珍しいナ。アーちんが俺に頼み事なんテ」
「その呼び方には些か言いたいことがあるが、まぁ良い。それで、頼んでいたことだが…」
「ギルド《黄金林檎》についてだったナ。でも、多分お前の知っている情報とそんなに変わらないゾ」
「構わん。判断は情報を聞いてからする」
そうアーチャーはそう言うとウィンドウを操作する。
すると、アイテムストレージから革袋がオブジェクト化された。
アーチャーはそれを後ろを見ずに放り投げる。
「毎度アリ」
アルゴもその受け取った革袋を自身のストレージに入れる。
そしてあくまでも独り言のように話し始めた。
しかし、どうやらアルゴの言う通りその情報は事前にキリト達から聞いていたものとさほど変わらなかった。
与えられた情報をアーチャーは頭の中で反芻する。
「やはりこれ以上の情報は望めないか…」
「悪いナ、役に立てなくて…」
「いや、充分だ。もともと今以上の情報は期待してなかったのでな…」
「ムっ!そう言われるとムカつくな…」
アーチャーの言葉にあからさまに苛ついた声を出す。
「いや、すまない。君の情報収集能力に対していったわけではないよ」
「とはいえ、後知ってることと言ったらリーダーのグリゼルダに対して、グリムロックはこの世界での生活に消極的だったらしいゾ」
「消極的?」
「あぁ、元々職人系、支援系のプレースタイルだったこともあるんだろうガ、どうやら攻略はもちろん、クエストにも同行してなかったらしい」
そのアルゴの言葉を聞き、アーチャーは顎に手を置くと再び考えた。
確かに《ギルティーソーン》を作成したと言うことはグリムロックというプレイヤーは鍛治スキルを上げていたということになる。
たが、パーティーの武装を預かる立場にいるのなら戦闘に参加しないのはおかしな話だった。
しかし、一方で妻のギルドリーダーであるグリゼルダはヨルコの話を信じるのであれば、リーダーとしてパーティーを率いていたという。
両者のこの正反対のプレイスタイルは些か疑問に残る。
「ゲーム内とはいえ2人は結婚していた。ならば互いのプレイスタイルは熟知していたはず。」
アーチャーはそう呟くとこれまでの情報を再び頭の中で整理し始めた。
そして、何かを思いついたような顔をすると再びアルゴに尋ねた。
「アルゴ、グリゼルダというプレイヤー個人について知っていることを教えてくれ
「ン?そーだナー、中堅ギルドとはいえ《黄金林檎》はソコソコ有名だったぞ、まぁ《血盟騎士団》や《聖竜連合》、《アインクラッド解放軍》ほどじゃないけどナ。まぁ、このゲーム内じゃ数少ない女性プレイヤーが剣士としてリーダーをしていたからナ。グリゼルダってプレイヤーはそれもあってそれなりに名が売れていたゾ」
「なるほどな…」
「グリゼルダは攻略こそしなかったガ、リーダーの立場に恥じることなくギルドを率いていたそうダ」
「そうなるとますますグリゼルダがグリムロックと結婚したことが気がかりだ。そこまでの気高い人物の相手にしては言っては悪いが不釣り合いだ…」
「まぁ男の好みは人それぞれだからナ。一目惚れだったんじゃないか?」
《一目惚れ》
その言葉を聞きアーチャーは顔を訝しげた。
「何故、そう思うんだ?」
「何せあの2人はSAOでデスゲームが始まってすぐに結婚してるからな。ギルドが結成する前からの話らしいゾ?」
その言葉を聞き、アーチャーは目を見開いた。
(何?では、まさか!?)
そして勢いよく立ち上がった。
アルゴがその勢いに押されビクつく。
アーチャーはそれまで背を向けて話していたことも忘れてアルゴに正面から向き合う。
「お、オイ!どうしたんだ急ニ!?」
「アルゴ!《黄金林檎》のメンバーのキャラクター名を表記を含めて覚えているか?」
「あ、あぁ…元々あーちんに渡すためにメモにして持ってるガ?」
「礼を言う!」
そうとだけ言うとアーチャーはアルゴからそのメモを受け取り走り出した。
夕焼けの光によって赤く染まった広場にポツンと取り残されたアルゴは呆気にとられた顔をすると、すぐにふっと笑みを浮かべて路地の方へと歩いていった。
アルゴと別れたアーチャーはアインクラッド第一層《はじまりの街》へと来ていた。
目的の場所は黒鉄宮《生命の碑》だった。
そこでアーチャーは自分の推理が正しいかを確かめるためにある名前を探していた。
そして、目的の名前を見つけると確信した。
(やはり《カインズ》は生きている…。だが、だとしたら…)
その先は考えなかった。
アーチャーはウィンドウを開くとキリトにメッセージを送ると、
黒鉄宮を後にした。
外に出て、《はじまりの街》が夕日で赤く染まっているの見て、
先ほど頭から取り除いた考えを再び思い起こした。
(やれやれ、人間とは生きる世界が変わっても愚かな生き物だな…)
赤く染まる《はじまりの街》に風が吹き、紅い外套がたなびいていた。
to be continued