機動戦士ガンダムUC外伝 幻獣になれなかった獣たち 作:明城
ラー・ドレイクはニュータイプ能力の低いパイロットの育成とサイコミュ兵器の実験、テストを目的に作られた特殊部隊である。
ロイル・フロイド中尉は伝説のニュータイプであるアムロ・レイとブライト・ノアに憧れを抱く青年だった。
彼の故郷はサイド6(リーア)のリボーでごく平凡な家庭で育つが、ジオンによる襲撃によって父親を、ティターンズによる裏切りで友人を失った過去を持つ。
そんな彼にとって、一年戦争から第二次ネオ・ジオン抗争を駆け巡りジオンとティターンズを壊滅させた英雄2人の所属するロンド・ベル隊の元で共に戦い、そして叶えられなかった友との約束を果たす為に連邦軍に入隊しロンド・ベルへの転属を目指した。
アクシズショックから3年後の宇宙世紀0096年3月。ロイルはラー・カイラム級ラー・ドレイクに所属する小隊に配属された。
小隊には、ブラジル系の黒人でスキンヘッドで筋肉質な巨漢フランク少尉。白髪で小柄の元ティターンズの強化人間マイヨ・フラッド中尉。そしてアメリカ系の白人で口髭を生やしたハリス大尉がいた。
「今日から配属になりました。ロイル・フロイド中尉です」
ダークブラウンの髪と瞳の青年は自己紹介する。
「私はこの小隊の隊長のハリス・ロットマン大尉。今日からこの部隊の一員だ」
「よう、未来のニュータイプ候補生。俺はフランク・ホフマン少尉だ。俺の隣にいるこいつはマイヨ・フラッド中尉だ。よろしく」
「はじめまして、僕は元ティターンズの強化人間のマイヨ」
ティターンズの名を耳にしたロイルの表情がこわばった。
あのシャアのダカールでの演説の直後、それまで味方だったティターンズによる裏切りで死んだ友人の末路が彼の記憶に蘇った。
「ロイル中尉。彼は幼い頃にティターンズに拉致されて強化人間にされた戦争被害者だ。…悪く思わないでくれよ」
「おいおい、マイヨ。それは秘密にしといた方が良いぜ?といってもロイル中尉。ここは過去の所属関係なくニュータイプかもしれない隊員を寄せ集めた艦隊だ。俺も隊長も含めてな」
「僕は仲間になった以上は出来るだけ隠し事はしたくない。それに、君のその殺意のこもった表情。ティターンズに怨みがあるね。僕も正直奴らに怨みがある。共にティターンズ残党どもを根絶やしにしようよ」
マイヨはロイルに握手し笑顔を振りまくが、ロイルは少し戸惑っていた。
一通りの挨拶を済ませると、ハリス大尉はさっそくブリーフィングを始める。
「ここの艦隊は、先ほどの二人が紹介した通りニュータイプの可能性がある隊員を集めて結成している。目的は1年前にジオン残党によって奪われた新型MSシナンジュを含むサイコミュ兵器に対抗するためだ」
宇宙世紀0094年6月15日のシナンジュ強奪事件を皮切りに、アナハイムの貨物が襲撃されたり行方が分からなくなったりするということだ。
「隊長、噂の範囲でまだ確定しちゃいねぇが、ジオン残党軍がひそかに大型MAを開発しているらしい。もしもそんなMAに奪われたサイコフレームが組み込まれたとしたら、オールドタイプでは対処しきれないだろう?」
「その通りだ、フランク。だから、そうなる前に少しでもニュータイプの数を増やし奴らに対抗しようという事だ。まずは3日後にある任務を行う。ロイル中尉も参加してもらう。今から見せたいものがある」
ロイルたちはモビルスーツデッキへと案内された。
モビルスーツデッキから見えるMSは、ダークブルーに近いカラーリングのジェガンタイプらしきMSが3機見える。
肩部や脚部には厚い装甲が取り付けられており、スリムな体型だったジェガンとは対照的に本機はかなりマッシブな体型となっている。
あのアムロ・レイが最期に搭乗したνガンダムに装備されていた「フィン・ファンネル」によく似た武装がバックパックに搭載されており、コックピット周りと肩に赤い透明のフレームが施されている。
「今回の任務は、このジェスタ・ドーラの最終調整を兼ねた実戦テストとロンド・ベルへ輸送するまでの護衛である。もしもこの任務が成功しこいつがロンド・ベルで運用されたら、ジオン残党のサイコミュ兵器にとって脅威となるだろう。そのため、任務中にジオン残党による襲撃が考えられる。我々はそれを阻止する重大な任務を遂行することになる。ロイル中尉も肝に銘じておくように」
「了解しました。隊長、完璧に任務を遂行してみせます」
そんな訳でロイルは着任して間もないのに重大な任務に出されるが、彼は気にすることはなかった。むしろ、彼の表情は期待に満ちあふれていた。
「まぁ、そう気張らなくても良いんじゃないか隊長。ジオン残党といっても所詮、残党だ。物資を奪う以外にまともにMSを維持するのは厳しい状況で、サイコミュ兵器開発と運用なんて本当に出来るんですかね?前に襲撃した残党は色んなジオン系MSのツギハギで戦闘どころかまともにMSをうごかせなかったじゃないか」
「だからこそ油断するなフランク小尉。俺たちには自爆テロをするような執念を持ち合わせていない」
「それにこの中に内通者がいたら話は別だよ。フランク」
マイヨの呟きで場が静まり返った。
「おいおい、冗談キツイぜマイヨ」
沈黙を先に破ったのはフランクだ。
「僕は嫌な予感がするんだ。ここへ入隊してからはそれでうまくいったけど…こうなんと説明すればいいかわからないけど」
ジオン残党じゃないナニカが来る。
マイヨはさっきよりも強い口調ではっきりと警告すると同時に艦内に警戒アラートがなり響いた。
『ラー・ドレイクのセンサー範囲内に複数のMSが接近中!IFF不明の混成部隊!反連邦組織の可能性あり!MSパイロットは速やかにモビルスーツで出撃せよ』
「なんだ!?こんな時に襲撃か!?」
「フランク少尉!マイヨ中尉!我々も出撃する。ロイル中尉。着任早々ですまないが、君も出撃して我々の援護をしてくれ」
「了解しました。ハリス隊長。」
そんなわけでロイル中尉は着任早々に任務に出される事になったが、彼は全く気にすることはなかった。
「言い忘れたが、ロイル中尉は前の部隊でジェガンを操作した事はあるか?」
「はい、ジェガンタイプは何度も乗っているので慣れています」
「なら話は早い。ロイル中尉には予備のサイコ・ジェガン型に乗ってもらう。後で説明するが、機体の一部にジェスタ・ドーラと同等の簡易型サイコフレームとシールドに使い捨てのファンネルが3機搭載されているだけで、他はジェガンと同じだ。すぐに慣れるだろう」
むしろ、新たなMSでしかもサイコフレームが搭載されたジェガンに搭乗する機会に喜んでいる。
早速パイロットスーツに着替えたロイルは、新たに与えられたサイコ・ジェガンに乗り込んだ。
ロイルはサイコ・ジェガンをラー・ドレイクのカタパルトに設置し、オペレーターから出る発信許可を待った。
「サイコ・ジェガン発進どうぞ」
「ロイル・フロイド中尉サイコ・ジェガン出撃する!」
ラー・ドレイクの周囲を見渡すと既に無数のMSが取り囲んでいた。
その大半はジオン系のMSとジムのパーツを強引につなぎ合わせたMSや、中にはMSの脚部に武器やロケットを取り付けたものでとてもMSとは言えない粗末な兵器だった。
その異様な姿と数はラー・ドレイクの隊員を混乱させた。
ジオン残党にしては敵である連邦系のMSを使うはずはないし、宇宙海賊にしてはほぼ全てのMSにイエロー系の明るい塗装が施されていて統率が取れている。
ロイルはモニター越しに隊員たちと会話していた。
「隊長、あれは何ですか?」
「さぁな。少なくともジオン残党ではないのは確かだ」
「しっかし、まるで合成獣のキメラみたいな酷い有様じゃねぇか。さっきマイヨの言ってたジオン残党じゃないナニカってこいつらか」
フランクは肩をすくめながらケラケラと笑っていたが、ハリスとマイヨは正体不明のMSの集団を警戒している。
「だが、数が尋常じゃない。センサーで確認しただけで1個大隊と同等の規模だ。数だけでいえばこちらが不利だ」
「フランク少尉の油断癖は直した方が良い。痛い目をみる。これは僕からの忠告」
「へいへい、分かりましたよマイヨ中尉」
「話はこのへんにしておけ、俺とマイヨ中尉は前に出て攻撃する。フランク少尉とロイル中尉は後方で他の部隊と共に荷物の護衛を頼む」
ハリス隊長はザクとジムのツギハギとネモの両腕を付けたマラサイの2機にドックファイトを仕掛ける。ハリスの乗るサイコ・ジェガンはシールドを構えながらビームライフルを、黄色いMS2機はザクマシンガンを、それぞれ撃ち合っている。
ザクとジムのツギハギはコックピットにビームが直撃し爆散したが、ネモの両腕のマラサイはその残骸と化した胴体の一部を盾にハリス隊長の方へ接近する。
ハリス隊長も一気に間合いを詰めてビームサーベルを取り出し、残骸ごとマラサイを真っ二つに切り落とした。
そこに黄色いハイザックがハリス隊長に目掛けてヒートホークで切りかかろうとしたが、右横からマイヨのサイコ・ジェガンのビームライフルに撃たれ爆散した。
「ありがとう。マイヨ中尉」
「油断はしないで下さい。あなたがいないと困る」
一方。
フランクは接近してきたジム改をビームライフルで右腕を撃ち落とし、装備していたジムライフルを奪い取り至近距離で乱射し撃墜する。
「ジオン残党の旧式MSにも歯が立たなかったジムの出来損ないが!この新型のジェガンに勝てるものかよ!」
ロイルはラー・ドレイクへと突撃してきた無数のMSにビームライフルを連射するが、一向に当たらない。
ようやく、ジムの下半身と民間のロケットブースターを取り付けたボールを撃墜するものの、敵の黄色いMSの集団はスピードを緩めることなく接近していく。
戦艦とMSによる弾幕に怯む事なく迫りくる大群に恐怖心をロイルは抱いていた。
「畜生!来るな!墜ちろ!墜ちろ!」
とロイルはオープン回線で叫んでいた。彼にとって大規模な戦闘は初めての経験だったからだ。
そのうちにロイルはシュツルムディアスに間合いを詰められ、ロイルのビームライフルをヒートホークで切り裂いた。
そして、シュツルムディアスの左手に装備されたクレイバズーカがコックピットへと向けられていた。
「うわあああああああ!!」
ここで殺されると思ったロイルは悲鳴をあげた。
その時、ロイルは咄嗟にサイコ・ジェガンのバルカンポットシステムを連射し、シュツルムディアスの頭部にあるコックピットをハチの巣にして機能を停止させた。
「こ、コックピットが頭部にあるMSじゃなかったら死んでた」
ロイルは息を切らしながらそう呟いた。
「大丈夫か、ロイル」
「な、何とか大丈夫ですフランク少尉」
「お前、運が良いな。お前ニュータイプの素質があるかもしれんな」
「そんなことよりも、何故ラー・ドレイクからの弾幕が止んだのですか?」
「なんだと!?」
フランクが母艦の方を確認すると、先ほどまでの艦砲が敵MSに向けて撃っていたはずが、いつの間にか撃っいない。
敵がまだラー・ドレイクの射程圏内にいるにももかかわらず…。
フランクは、出撃前にマイヨの言っていた「内通者がいる」という言葉が頭の中を過る。
「何故艦砲一発も上がってこない!!」
フランクは急いでラー・ドレイクの回線にアクセスした。
「おい!こちらフランク中尉。どうなっている!何故敵が攻撃してきているのに反撃しないんだ!」
「聞こえるか。こちらは刻の
突然、母艦からMS隊へ回線がつながった。
「は、ハインケル少佐!!貴様が裏切り者だったのか!」
「我々は連邦軍とアナハイム社、そしてジオン残党による陰謀を食い止める為に活動している。その為に我々と協力せよ」
肌が灰色に近いほど色白で黒髪単発の細身の男は、黄色く染めたパイロットスーツを着ていた。
その右胸に蜂の形をした勲章のようなものを付けている。
「繰り返す。去年の6月15日ジオン残党によるシナンジュ強奪事件は、連邦軍とアナハイム社の陰謀である。シナンジュは最初からジオン残党に引き渡す出来レースだ。艦の命令系統に従うな。各自の判断で行動せよ。」
「ハインケル少佐、これは一体どういう事です?その陰謀とやらの証拠はあるんですか?」
回線を聞いていたハリス隊長は淡々と質問する。
「証拠はいくつか提示する。まずはこの証拠を提示する」
ハインケル少佐から送られたデータは、アナハイム社と連邦軍が、襲撃に見せかけてサイコフレーム実験機であるシナンジュ・スタインを譲渡を計画している様子を録音した音声データだった。
その生々しいやり取りを聞いた隊員は動揺し、そのうち別の部隊のジェガンの1機は武装を解除した。
「軍とアナハイムは世界が緊張状態にある事を望み、一年戦争から暗躍していた…そうだろう?チャン・ホセ艦長。いえ、アサクラ元大佐」
ハインケルの部下がラー・ドレイクの艦長であるチャン・ホセ少将を拘束し銃口を向けている。
「私はアサクラ大佐などではない!人違いだ!奴らの言葉を信じるな。奴らはジオン残党にやとわれたテロリストだ」
「黙れ!!奴はあの一年戦争にサイド2の8番地に毒ガス(GGガス)注入しシドニーにコロニーを落とした元ジオン軍の司令官だ!そんな男が連邦軍の艦長の席にのうのうと座ってよいわけがない」
ハインケル少佐から再び送られたデータは、旧ジオン公国軍将兵の名簿のデータがあり、その中にチャン・ホセによく似た小太りの平凡な技術士官らしい中年男の写真に「ヒロシ・アサクラ技術大佐」と名前がはっきりと刻まれている。
そして、シーマ・ガラハウを名乗る女性がアナハイム社の幹部と思しき人物と裏取引きして『ガーベラ・テトラ』と呼ばれるジオン系MSを彷彿とさせる曲面型の外装の赤いMSを受け取る様子を記録した映像データが送られてきた。
「この女はアサクラ大佐の直属の部下でコロニー落としの実行部隊に所属したシーマ・ガラハウ中佐である。先ほどの映像はジオン公国は最初からアナハイム社と繋がっていて、アナハイムからMSを供給している証拠である」
「待て、私は知らない!本当だ!信じてくれ」
アサクラ大佐らしき男は悲痛な叫びをあげているが、ハインケル少佐の部下に顔面を殴られ倒れた。
「おかしいと思わないか?一年戦争にジオン公国が壊滅したにも関わらず、デラーズ抗争、ティターンズによる弾圧、2度にわたるネオ・ジオン抗争を経ても、なぜジオン残党の数は減らないのか。むしろ、一年戦争当時よりも多い数まで膨れ上がる勢いだ。誰かがジオンに物資を裏で供給しているとしか思えないだろう?」
ハインケル少佐の問いかけを聞いたクルーは動揺し始め、次第にMSパイロットへと伝染した。
「今の話は本当なのか」「確かにあの写真の男は艦長に似ている」「じゃあ俺たちはどうすればいいのか」など回線越しに呟きが聞こえる。
「ハリス隊長、どうします?」
今の自分では判断できなかったロイルはハリスに判断を委ねると、ハリスはこう答える。
「確かに、私も疑問に思っていた。何故ジオンの残党が一向に減らないのかを…。そして今の証拠は信用できる」
「そうだろう?ハリス大尉。我ら刻の同胞団はこの戦争を止める為に活動している。さぁ、われらと共に戦争の無い世界を作ろうではないか」
「だが、だからと言って何の素性の分からないお前たちに重要な物資は渡すわけにはいかない!」
ハリス隊長はラー・ドレイクの司令塔に銃口を向けた。
「ハリス大尉、非常に残念だよ。君なら分かり合えると思ったが、まだ早いようだな」
交渉が決裂したハインケル少佐は部下と共に艦長を連行し逃げていったと同時に戦闘が再開された。
「私と共に行動する者はついてこい!奴らに重大な荷物を渡すな。得体のしれない者の手に渡る事を阻止せよ」
「隊長、よく言ってくれた!このフランク・ロットマン!一生ついて来ますぜ!」
「ジオン残党よりも質の悪そうな奴に僕たちは従わない」
フランクとマイヨはハリスの元へ集まり、それにつられる形でロイルは他の部隊と共に合流した。
部隊の大半はハリスの呼びかけに答え任務を続行の意思を示したが、一部の隊員は刻の同胞団の元へと合流し、ラー・ドレイクの方へ向かった。
「我々とクロード隊、モーリス隊はラー・ドレイク内へ侵入し物資と仲間を防衛する。他は奴らの進行を阻止せよ。奴らの元へ行った隊員を撃っても構わん。ファンネルの使用は個人の判断に任せる。俺が責任を取る」
この場にいる隊員は、なんの疑問を持つことなくハリスの指示に従う。
「みんなに慕われているんですね。ハリス隊長は」
「だろう?正直、あんな艦長よりもうちの隊長の方が司令官に向いている」
フランク少尉はロイルに向けて、笑みをこぼした。
「ロイル中尉、フランク少尉。雑談はこいつらを何とかしてからにしろ。マイヨ、無理はするなよ」
「了解しました」
「はいよ、ハリス艦長代理どの」
「了解。無理はしないよ」
ハリス隊はクロード隊とモーリス隊と共に母艦へ向かうも、ラー・ドレイクから救命ポットと荷物の一部が射出され、ジェスタ・ドーラ1機が出撃していた。
「ハリス大尉!申し訳ございません。防衛隊の一部の裏切りによって荷物の一部が奴らに奪われました」
ラー・ドレイクの回線から負傷した女性が映る。
「了解した。ジェスタ・ドーラの破壊を許可する。相手は1機だが、気を抜くなよ」
ロイルを除く部隊は、ジェスタ・ドーラへ向けてシールド裏にマウントされた使い捨てファンネルを展開し攻撃するも、ジェスタ・ドーラはすべて回避した。
「そんなものが当たるものか」
ハインケル少佐の声が聞こえたと同時に、ジェスタ・ドーラに搭載されたフィンファンネルが射出され、サイコジャマ―を展開し、部隊の使い捨てを無効化した。
「しまった、これではファンネルが使えない!」
「なんであいつがファンネルを使えるんだ!?」
無効化された使い捨てファンネルはコントロールを失い、宇宙に漂う。
「所詮、ニュータイプ能力が低いからファンネルの動きが単純なんだよ」
ハインケル少佐は回線越しにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「慌てるな、他の武装で応戦するぞ」
「果たしてそう上手くいくかな?ハリス大尉」
突然、ハリスたちの後ろからリックドムが急接近し、ハリス大尉のサイコ・ジェガンへタックルし、ラー・ドレイクの甲板に叩きつけた。
ハリスは衝撃で気絶し、サイコ・ジェガンは甲板に叩きつけられたまま動かなくなった。
「た、隊長が旧式のリックドムに…」
フランクは先ほど起きた出来事に呆然とした。
リックドムは、ハリスのサイコ・ジェガンからシールドとビームライフルを奪い、今度はビームライフルで近くにいたモーリス隊らのサイコ・ジェガンのコックピット付近を撃った。
撃たれたジェガンは安全装置が作動され、次々と緊急脱出ポットを射出され、モーリス隊は戦闘不能となった。
そしてリックドムは、怯んだ隙をついてクロード隊と応戦し、ビームライフルと元々リックドムに搭載してあったビームサーベルで次々と行動不能にした。
「わ、悪い夢をみているのか…。あんなの、俺たちの知るリックドムじゃねぇ」
フランクの表情は青ざめ、その場から動けなくなった。
リックドムに襲撃されたクロード隊のジェガンは、武器を破壊されたり緊急脱出ポットが射出され、漂っている。
マイヨはそれに怯む事なく、両肩に黄色い蜂を施したリックドムに戦いを挑むも、リックドムはサイコ・ジェガンのビームサーベルを掠めてコックピットを蹴りつけた。
そして今度はロイルのサイコ・ジェガンへ目掛けてリックドムは突っ込んできた。
「こん畜生!!来るな!」
ロイルは絶叫し先ほど奪ったビームピストルとクレイバズーカを連射してけん制した。
すると、クレイバズーカの弾がリックドムの持っていたシールドを破壊し、ビームピストルのビームがリックドムの左肩と横っ腹に命中した。
それでも致命的なダメージにならず、間合いを詰められビームサーベルで切りかかるも、ロイルは咄嗟にクレイバズーカを捨てて自分のビームサーベルを取り出しそれを防ぎ、シールドからファンネルを射出しリックドムの脚部を破壊。
そして、左手に装備したビームピストルをリックドムのコックピットに向けた。
「な、なにが起きているんだ?」
このサイコ・ジェガンは今日初めて操縦したばかりで、ファンネルの使い方は誰にも教わっていないはずだ。
にもかかわらず、ファンネルを操作し、隊長らがかすり傷一つ付ける事無く倒したリックドムの脚部を破壊したのだ。
ロイルは自分のした行動に唖然としていた。
「お、俺がファンネルを操作したのか?」
リックドムはロイルの隙をついてビームピストルを蹴り飛ばしタックルし、ロイルのサイコ・ジェガンをスペースデブリへぶつけた。
「いいか、聞け。アナハイムと連邦は、ラプラスの箱とハリボテの赤い彗星を利用して再び戦争を計画している。ロイル!目を覚ませ!人類の平和の為に私と共に来い」
リックドムのパイロットから回線が聞こえた。パイロットの顔は黄色く塗装された連邦軍のフルフェイスヘルメットで見えないが、ロイルはその声に聞き覚えがあった。
「ま、まさかあなたは…」
「そこまでにしてください。ジャン司教、先ほどテチからハリボテの赤い彗星らの動きが活発になったと連絡がありました」
「彼らの立てた予定よりも早い動きだな」
「それほど彼らは追い詰められた。という事でしょう」
「仕方ない。使徒ハインケルは荷物の護衛を引き続き頼む。みんなに撤退の指示を」
「は!」
ジェスタ・ドーラに搭乗したハインケル少佐は救命ポットと荷物を持ってリックドムと共に撤退し黄色いMSの部隊もそれに続いた。
「ま、待ちやがれ!」
「待て、早まるなフランク」
フランク少尉がビームライフルを向けて攻撃を仕掛けようとするが、ハリスは止めた。
「何故ですか!?ハリス隊長」
「フランク中尉。よく見ろ。今の我々では奴らに対抗できる戦力があるか?私も含めて多くが負傷してしまっている…今は被害状況の確認と立て直しが必要だ」
フランク中尉はあたりを見渡すと、クロード隊やモーリス隊だけでなく多くの部隊が負傷しており、残骸が漂っている。
「畜生」
とフランク少尉は小さな声で呟く。
「ロイル中尉、無事か?」
ロイルからの応答はなく、唖然としたまま立ち尽くしていた。
ロイルの頭の中は整理が追い付いておらず、理解できないままになっていた。
自分が無意識に取った行動で2回も命を救われた事や、教わっていないはずなのに、ファンネルを駆使した事。
先ほど隊長や他の部隊を無傷で倒したリックドムを、自分がリックドムの脚部を破壊したという事。
「な、なんでジャン・ジャックマン教官がリックドムに乗っていたんだよ…」
ロイルは、かつて士官学校時代でお世話になった恩師が。
何故定年退職していたはずの男がリックドムに搭乗したのか理解が出来なかった。