【一話完結】メグメグとソーンの相性が良かった時の話 作:昼寝してる人
「は、初めまして! 兄様……アダム=ユーリエフの弟のソーンと申します!」
メグメグとのバトアリが終わり、シェアハウスで少し寛いでいたソーンは、玄関から現れた黒衣の人物に慌てて挨拶を返した。
両手に拳銃、背中には大きな鎌。というよりはデスサイズだろうか。どこからどう見ても堅気じゃない。
「アダム? ああ、騎士団長サマの弟クンか。話はメグメグから聞いてるぜ。俺ちゃんはサーティーンだ、よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
見た目と違って優しそうな人だ、とソーンは判断した。振り回されたものの、決して悪い人ではなかったメグメグの名前が出たからかもしれない。
「メグメグと固定組んだんだって? 初日で大したもんじゃねーか」
「そ、そうでしょうか? ちゃんと戦えるといいのですが……」
「まあ今日が初対面だからな。……おっ、なら呼び方から仲を深めていくってのはどうだ? コンパスでは、仲がいい男女で固定組む時特有の呼び方があるんだ。聞くか?(大嘘)」
「そうなんですか!? 是非教えて下さい!」
とある日の、シェアハウス。
そこでは、真っ白な髪に黄金色の瞳を持つ少年――ソーン=ユーリエフの歓迎会が開かれていた。
突発的な歓迎会故に、各々、用事があったり都合が合わなかったりなどの欠席者が多かった。しかしそれでも、歓迎会を開催できる人数は集まった。主に兄であるアダム=ユーリエフの働きかけで。
結果、シェアハウスの管理者であるボイドール。
住人である、マルコス。リリカ。ジャンヌ。アタリ。マリア。メグメグ。サーティーン。
そして、兄であるアダム。
最後に本日の主役であるソーンの、総勢十名による歓迎会が開かれたのだった。
「このような会を開いて下さるなんて……皆さん、とても優しい方々ですね、兄様!」
「ええ、本当に。……若干一名、余計なのが混ざっていますが」
嬉しそうにはにかむソーンに、柔らかい表情を見せる一方で、アダムはゴミを見る目で視界の端にいた女性を一瞥した。
彼女の名は、マリア=S=レオンブルク。アダムと犬猿の仲であり、何かとガンを飛ばし合っている。おかげで幼子であるコクリコット ブランシュや、善人のジャンヌなどは喧嘩の最中では肩身の狭い思いをしていた。個人主義のマイペースな奴等は気にせず自分の好きな事をしているからだ。
「あら、何か言ったかしら?」
「幻聴ですか? 耄碌しましたね。そろそろ巣にお帰りになっては?」
「言ってくれるわね、この……」
「あー、あーっ! ったく、今日は新入りの歓迎会だろ? こんな時まで喧嘩すんなよ」
何時ものように始まりかけた喧嘩が、仲介の声で消滅する。このシェアハウスにいる数少ない常識人、十文字アタリだ。彼はシェアハウスの管理人であるボイドールの友人であり、住人最古参の一人。彼の発言力はかなり大きいのだ。
彼の声掛けもあり、喧嘩は治まる。普段も彼等の喧嘩は彼によって治められる……が、彼がいない場合は、管理人によって強制的に終わらせられる。
「今夜ハ歓迎会デス。バトルアリーナ以外デノ戦闘ハ禁止デスヨ。次喧嘩ヲシタラ今後《謎の死》ガ多クナルカモシレマセンネ」
このように。
ボイドールは、シェアハウスのみならずバトルアリーナの管理人でもあるのだ。バグである《謎の死》を故意に起こされてはたまらない。
脅しに似たセリフと共に、アダムとマリアの喧嘩は治められるのだ。
「ボイドールも脅すのはそれくらいにな。そろそろ歓迎会を始めようぜ。ほら、新しい住人、ソーンの入居をいわって! 乾杯!」
「かんぱ〜い!」
「か、乾杯!」
アタリの言葉で、喧嘩なんてまるで気にせず、料理をガン見していたメグメグがノリノリでジュースが並々と注がれたコップを持ち上げた。それにリリカやマルコスといった面々も続き、少し遅れてソーンもコップを持ち上げた。
ガラスのコップ故に、かんっと小気味よい音が鳴る。
わいわいと好きな料理を小皿に取り、近くの者と歓談しつつ平らげていく。
主役のソーンは、アダムの隣で少し緊張しながらも、徐々に周りと打ち解けていった。
「さっちん、ほれふぉってー」
「飲み込んでから話せよ。どれだ?」
「ん……唐揚げ!」
「野菜食え。ほーら栄養たっぷりだ」
「メグメグ緑のヤツきら〜い」
「リリカちゃん、何が欲しい?」
「えっとね、あそこのマカロニサラダが欲しいな」
「オッケー! はい、どうぞ」
「ありがとうマルコスくんっ!」
「美味しいですね。これは誰が作ったのですか?」
「まといサントマリアサンデスヨ。まといサンハ夜カラ用事ガアルヨウデ参加シテイマセンガ」
「盛り付けが絶妙に上手かったわね。特にあそこの刺し身の盛り付けは素晴らしいわ」
「そうなんですか! 皆さんやはりお上手ですね。ですが二人でこの量は大変だったのでは? 次からは私もお手伝いしま……」
「絶対にやめて」
など、各々が好きに交流しあっている。賑やかな歓迎会は続き、料理も無くなってきた。それぞれが満足そうにお腹を擦ったり、眠たげに船を漕ぎ出したりし始めた時、それは起こった。
食事後の穏やかな時間。それを切り裂くように、その言葉はリビングルームに響き渡った。
「ハビーと呼ばせてください」
その言葉の前後は聞き取れなかったが、その言葉だけは全員の耳に届いた。驚愕の表情を浮かべる者、面白そうに笑う者、困惑を隠せない者、不思議そうに首を傾げる者。
様々な反応を招いたその発言の主は、件の少年。歓迎会の主役である、ソーン本人に他ならなかった。
そして、その言葉が向けられたのは一人の少女。キュートな見た目とは裏腹にデンジャラスなガトリング娘、メグメグだった。
「? ?? メグメグのハビーになるってこと?」
「はい!」
「待って。色々待って。え? 整理するから待て!」
きょとんとした顔で、少し期待に輝く瞳を見せて、思考の余地なく了承しそうなメグメグに、アタリが慌てて横槍をいれた。
無論、混乱しているのは彼だけではない。ジャンヌやリリカもである。だが、一番混乱しているのは兄であるアダムだった。無理もない。彼はフリーズして意識を飛ばしていた。
「待て待て待て……。よし、ソーン。今の言葉は本気なのか?」
「は、はい。本気です。これから一緒にするとなれば、やはりコンパス流の決意表明をしておくべきだと思ったので……」
「コンパス流かどうかは知らないけど、うん。そうか……本気なんだな」
キリリとした顔で、アタリの目を見つめて言い切ったソーンを目の当たりにしたアダムは、血の涙を流した。隣にいたマリアがドン引きの表情を見せる。
幸か不幸か、それにアダムが気付くことはなかった。
その一連の流れを目撃したリリカは興奮気味に隣にいたマルコスの袖を引っ張った。
「ね、ねえ、すごいよマルコスくん。リリカ、今すごく恋愛っぽいやり取りを目の当たりにしてるよ!」
「そうだねリリカちゃん。なんか全然噛み合ってなさそうだけど、リリカちゃんが楽しそうだからいっか!」
「? 何か言った?」
「ううん、何でもないよ」
期待の眼差しでメグメグとソーンのやり取りを見守るリリカと、そんなリリカを鼻血を抑えながら見るマルコス。自分の中の世界で楽しそうに生きていた。
一方ジャンヌも、ハラハラしつつ自由恋愛を推奨しているので少女漫画を見るような気持ちで彼らのやり取りを見つめている。
そんな中、誰とも違う反応を示している者が二人いた。
(人間ハ無駄ガ好キ。知ッテイマス)
機械目線で二人の恋愛を観察する管理人、ボイドール。そして、
「…………。………ッ!」
口元をぴくぴくと震わせ、何なら全身を震わせる黒衣の人物。ひっひっと息も乱れており、心なしか瞳も潤んでいる。まるで失恋に打ち震えているかのようだが、実際はただ笑いを堪えているだけだった。
彼の名は、13✝サーティーン✝。
メグメグがコンパスの中で最も親しい異性である。ちなみに同性ではリリカだ。
サーティーンは、この状況を心底楽しんでいた。
「メグメグさん。ハビーと呼んでもいいですか?」
「ん〜……ダメかなあ」
「!? え、で、ですが、さっき……」
「さっき? メグメグ何か言ったっけ?」
首を傾げるメグメグに、ソーンが慌てた様子で言った。
「固定を組もうって言ってましたよね!?」
「? それが何でハビー呼びに繋がるの〜?」
「え?」
「うん?」
きょとん。
お互いが目を丸くして見つめ合う。数秒後、ソーンの視線がサーティーンに向かう。つられて、その場の全員がサーティーンへと視線を向けた。
そこには、全身を震わせてテーブルに突っ伏すサーティーンの姿。微かに喉から引き攣ったような音が漏れている。
「サーティーンさん……まさか……」
そこで、ジャンヌが何かに気づいたのか、責めるような目でサーティーンを見た。それが起点となり、皆がなんとなく察しがついたのか、呆れ気味の目を彼に向けた。
「サーティーン。お前、ソーンに変な事吹き込んだろ」
「おいおい、変な事なんて……ぶふっ! 僕ちゃん吹き込んでなんかないぜ?」
「嘘つけ」
笑いを我慢しつつ返答するサーティーンだったが、肩が震えているのは誤魔化せていない上に、声が上擦っていて隠す気がまるで感じられない。
それをしっかり感じ取ったアタリが呆れ果てたように言った。それによって隠す気はゼロになったのか、サーティーンは机に再度突っ伏した。
「だ、大草原不可避www」
「お前……」
ひいひい言いながら呼吸困難に陥るサーティーンに溜息を吐きつつ、アタリはショックを受けている本日の主役を見やる。
ソーンは呆然とした顔で硬直していた。人と深く関わってこなかった弊害で、騙されるという行為に酷い衝撃に襲われているらしい。
「と、ということは、ソーン。ハビーの意味は分かっていなかったんだな?」
「え? あ、えっと、男女が固定を組む場合に呼び合うものだと……聞いたのですが……」
安堵の表情で弟に問うアダムだったが、ソーンの言葉を聞いて再び能面になる。その言い方ではまるで自分が除け者にされている気分になってしまう。若干どころか最高潮に機嫌が悪くなった。
そんなアダムを見て、ソーンがまた何かやらかしたのだろうかと不安そうな顔を見せ、
「兄様、僕は何を間違えたんでしょうか……?」
「間違えたというか……」
慌てて表情を取り繕うが、質問の答えには上手い回答が見つからない。視線を彷徨わせ、同性であるアタリとマルコスに助けを求めた。
視線で助けを請われたアタリは、良心の下に行動しようと口を開きかけたが、マルコスに阻止された。訝しげにマルコスを見やると、彼はにっこりと笑顔を見せた。
「あのさあ、ソーン。ハビーってのは、彼女が彼氏を呼ぶ時の愛称みたいなものなんだよねー。つまり、恋人同士にだけ許された呼び方ってこと……ね、アタリ」
「おう、合ってるけど……。もうちょいオブラートにしてやれよ、ソーンがフリーズしただろ」
恋人…恋人…と呟き、顔から火が出そうなほど顔を真っ赤にしたソーンが頭から湯気を出して目を回した。ここにきてようやく自分が何をやらかしたのか悟ったらしい。
「おいメグメグ、当事者なんだしちょっとフォローいれてや……」
「ふぁ? らにー?」
「この騒動を無視して飯食うなっ! ソーンが可哀想だろって、ジャンヌまで何してんだ!?」
「も、申し訳ありません。ですが、こう、私の目の前にあるご飯を食べたそうに、捨て犬のような目で見られてしまうと……つい……」
もしゃもしゃと口いっぱいに頬張っていたメグメグが他人事としてスルーしていたのか、?マークを頭上に浮かばせながらアタリを見た。
責められたジャンヌはウロウロと視線を彷徨わせつつ言い訳し、そっと目を逸らす。何となく後ろめたい気持ちはあったのだ。
けれど、自分の目の前の料理を物欲しそうに、うるっとした瞳で見上げられ、うっかり料理を皿に取ってあげてしまった。その事実は覆らない。
「あー、ジャンヌはいい。だがメグメグ、お前は駄目だ」
「えー、何が駄目なの?」
「おい当事者。自覚しろ自覚」
天を仰ぐアタリと、本気で何なのか分かっていないメグメグ。この反応で、いかにメグメグが他人の心を理解できていないか分かるだろう。まあ、生い立ちをかんがえれば仕方無いのだが……時と場合を弁えろと、アタリは言いたかった。言いたかったがぐっと我慢した。
常識を教え込むよりも、先に対処しなければいけない事があるからである。他の奴等も見てないで手伝えと思った。口には出さなかったが。
「あー……ソーン。ほら、間違いって誰にでもあるし、あんまり気にすんなよ。悪いのは誰かっていうと間違いなくサーティーンだしな」
「う。は…はい、すみませんでした。メグメグさんも、さっきのことは忘れて下さい……」
「? わかったー」
結局、今回の件はアタリのフォローの下、それなりに丸く収まった。……一部の例外を除いては。
「なーんだ、恋愛じゃなかったんだぁ……。ソーン君には悪いけど、ちょっと残念かも」
「リリカちゃん、それならこの恋愛アニメとか見ない? 結構楽しめるよー」
目の前の恋愛劇場を楽しんでいたリリカだけは、少し物足りなそうな顔をしていたものの、歓迎会はこれ以上の事件もなく、つつがなく終了した。
後日。
何だかんだいいつつ、事件というものは、やはり当事者が一番引き摺るもの。
自分の知識不足であんな失態を犯してしまったソーンは、落ち込み気味にソファの前で座り込んでいた。
あんな事があったとはいえ、時間は流れバトルアリーナには当然向かう。アダム、ソーン、メグメグの三固定で挑むのだが、勿論のこと気まずい。ミスを連発してしまったりして、彼は項垂れていた。無論アダムのフォローで事なき得たのだが、やはり落ち込むのは必然だった。
「兄様にも、メグメグさんにも、迷惑をかけてしまいました……」
自分の不甲斐なさに、ため息が出る。
兄に頼み込んで、ようやくこのシェアハウスへ入れてもらってバトルアリーナにも行けるようになったのに、この体たらく。
失望されているのではないか、と不安になるのは当たり前だ。
もう一度ため息が出そうになった時、頬に冷たい何かが当たった。
「うわあっ!?」
「あはっ★ 良い反応するね!」
「め、メグメグさん!?」
肩を跳ね上がらせたソーンの背中から、楽しそうな声が聞こえる。ソファの向こう側から、青いカップを持ったメグメグがソファを乗り越えてくる。
にやにやと楽しそうな笑みを浮かべた彼女は無造作にそのカップの蓋を開けると、木のスプーンで中の白い塊を掬い、ソーンの口の中に突っ込んだ。
「!?」
「美味しー?」
訳がわからないまま、とりあえずはそれを味わう。食べたことのないものだったが、不味くはない。むしろ美味しい。
ソーンはこくりと頷いて、それを見て機嫌良さげな顔をするメグメグに首を傾げた。
一体何なのだろうか、と。
初日でメグメグの行動原理はまるで理解出来ないものだと何となく察したものの、今回は殊更良くわからない。
「美味しいもの食べたら元気が出るよね♪」
「あ……」
そこで、ようやく理解した。
メグメグは、わざわざ自分を慰めようとしてくれたのだ、と。
昨日はあんな事があったのに、きっと気分を害していただろうに。今日だってあんなにミスをしてしまったのに。
じわりと、胸の中に何かが広がる。嬉しいのかもしれない。こうやって、自分を案じてくれる人がいる事が。今までは、兄しかいなかったから。
「……ありがとう、ございます」
差し出されたスプーンに乗ったそれは、とても甘くて、優しい味がした。
勿論、メグメグは特に何も考えていない。
「おい、メグメグに何か吹き込んだ奴、挙手」
リビングで仲良くアイスを頬張る二人から気付かれないように離れたアタリは、広間でたむろっていた住人に言い放った。
そこで手を挙げたのは、マリアとジャンヌ。
一方は楽しげに、もう一方はアタリと一切目を合わせようとせずに控えめに挙手していた。
「よーし、……言い訳を聞こうか。ジャンヌ」
「違うんです。決して悪意があったわけではなく、良かれと思って……!」
「良かれと思ってアイスをあげたのか。……一個だけ」
「ソーンさんに一つ、それで十分だと思ったんです……」
どんどん尻つぼみになっていくジャンヌ。本気で善意100%だったようで、アタリはそこで追求の手を止めた。
しかしもう一人は確実に愉快犯である。
アタリの視線はマリアへと向かう……前に、サーティーンへと向かった。
「サーティーン……どうしたんだそれ?」
「昨日の一件でちょっと」
「アダムの逆襲か。だからソーンを手を出すのは止めておけとあれ程言ったのに」
包帯だらけのサーティーンに、アタリが呆れた顔を向けた後にマリアを見た。
「で?」
「落ち込んでる男を慰めてあげなさいって言っただけよ? 大した事じゃないでしょう」
「分かって言ってるだろ……。アダムが知ったらどうなるか」
「望むところだわ」
「二人の喧嘩にソーンとメグメグを巻き込むなよ……」