神は眼鏡掛けを創られた 作:眼鏡狂信者
まず眼鏡があった。
眼鏡はレンズとフレームで出来ていた。
(中略)
神は眼鏡を映えさせるための光と闇、風景や生物を創られた。
そして最後に、神は眼鏡掛けを創られた
それは、ゲーム内時間で数ヶ月前のことでした。
丸太4本を四隅に立て、その上に布を被せただけのボロ小屋という表現さえ烏滸がましいハリー・ボッテーの魔法眼鏡店に立派な身なりの壮年が現れました。
フードを深く被りレンズを磨いていた店主は、お客様にいくつかの問いかけをしました。店主にとってはただの暇潰しの質問でした。しかし、お客様は店の雰囲気に流されたのでしょうか。何かしらの意図を汲み取ったようです。
「貴方の噂はかねがね伺っています。私にも眼鏡を見繕ってくれませんか」
『君は暇人なのかね』
ちょっと!お客様に失礼ですよ。
「自分で言うのもどうなのかという感じなのですが、悲しいことに非常に忙しい身だと自負しています」
『ふむ、そんなに忙しいときに、この眼鏡屋しかいない僻地に自ら足を運んだのか。それはとても愚かなことだ。そこまでして眼鏡が欲しいのかね』
「はい」
『ほう、そうかそうか。強い意思を持つ君ならば長らく封印されていたこの眼鏡を使いこなせるかもしれんな』
店主はお客様が真面目に答えてくれたことで調子に乗り始めたようです。ピンク色のベタベタした生肉みたいな眼鏡を出してきました。何か垂れてます。それ、封印されていたわけではないですよね。デザインが酷すぎて売れなかっただけですよね。
ほら、お客様も顔に出さないようにしているけど嫌そうな雰囲気出してますよ。別のにしてあげてください。
「うーん……これは少し違う……と素人ながら思うのですが」
『やはりか。実はワシもそう思っていた。君にとってこの眼鏡は歳を重ね過ぎているようだ。ならば、この眼鏡はどうかね?羽の様に軽いだろう?』
そういう問題ではありません。少なくとも、それを製作したときは何も垂れてませんでしたよ。どういう保管をしているのですか。
店主は別の眼鏡を取り出す素振りをしました。親指と人差し指を何もない空間を掴んでお客様に渡す素振りをしています。お客様はそれを受け取ろうとしましたが、掴めません。当然です。何もないのですから。
「どうやらそれは私には扱えないようですね」
『むむむ。実はワシもそう思っていた。実に残念だ。そうなると、このあたりの眼鏡が良いだろう。ワシとしてはあまり面白くないのだが』
ハイハイ、思ってない思ってない。やっとまともな眼鏡を出しましたか。でも、生肉みたいな眼鏡もこっそり混ぜています。
店主は複数本の眼鏡をお客様の前に置くと興味を失ったかのようにレンズ拭き作業に戻りました。接客してください。
「この眼鏡はレンズが入ってないようですが……」
店主は顔も上げずにボソボソと答えました。
『ワシの故郷には羽を使わない扇風機というのが有る。それに着想を得てレンズを使わない眼鏡というのを製作した。レンズを使わないのは評価に値するのだが、効果が面白くなくて薦めなかった』
「その効果とは何なのでしょう?」
店主は無言で貼り紙を指しました。購入時のオプションについて書かれている貼り紙です。なんと、この店では購入した商品の説明ですら、お金を払わないと受けられないのです。当然、購入する前にその商品の効果を知ることは出来ません。ちなみに、商品もオプションも価格は時価です。クソですね!
「では、このレンズの無い眼鏡を購入……」
『信仰だ。言葉に気を付けたまえ』
店主がお客様を睨み付けています。
「この眼鏡を信仰します。商品の説明も合わせてこれで足りるでしょうか」
『寄進だ』
また、睨み付けています。
「寄進します」
これ、家を建てれませんか。ポンと出す金額では無いのですけど。
『……良いだろう。その敬虔な信仰心は受け取った。
さて、これは特別な眼鏡でこれを掛けられる君は特別な存在なのだと自覚するがよい。
この眼鏡は、UVカット率108%のファンタスチックレンズと形状を記憶するチタン合金もどきで出来ている。素直で柔らかくクリーミーで扱いやすい。眼鏡初心者にも優しい特別製だから、大切にしたまえ。
もう1つ効果があるが、それを説明するには信仰心が足りない。
ちなみに、その眼鏡はとても有名な職人が製作したものでな。そう、あれは今から14000年ほど前の……』
108%って何ですか。それに、14000年前って古すぎて眼鏡が存在していないですよね。しかも、それと同じ眼鏡が軽く200本は店内に転がっているのですが、それは何なのでしょう。
少なくとも3時間以上、一度も顔を上げずにレンズを拭きながらペラペラと喋り続けましたが、お客様は辛抱強く最後まで聞いてくれました。店主のホラ話の相手をしてくださり、誠にありがとうございました。
「なるほど、結論として我々は眼鏡掛けだったのですね」
『素晴らしい。祝おうではないか。新たな同志の誕生を。もう1つの効果のヒントを少しだけ教えよう。これは御守りに近い。眼鏡を信じ、出来るだけこの眼鏡を掛けておくことだ』
同志が店から出ていきました。その後、店の奥に転がっている眼鏡の1つが……
『こういうことが何度かあって金持ちがワシの眼鏡を信仰し始めた。そして、なぜかは分からないが、この店への寄進が急増した』
「アヒャヒャヒャヒャ、なにそれ。最高!こんな怪しい眼鏡屋の効果も本当か分からない眼鏡を買いに来たのは誰だよ」
『買うとは何だ、言葉に気を付けろ。どうせ何処かの暇人だろう。それはそうと信仰に目覚めた者が増えすぎてレベルが削られた。レベル上げするつもりだから協力しろ』
「良いぞ。それにしてもワシとか似合わねえことしてんのかよ。うける!ロン!」
「あっ。イカサマしやがったデチ」
「うんうん、ちょっと手牌を良く見せてみろよ」
「おいおい、何で白が5つも並んでるんだ」
『お前らいい加減にしろ!ここはワシの店だ。麻雀やるな。営業妨害だ。さっさと出ていけ!』
確かに雀荘でもないのに、店の中で麻雀台持ち込んで打ち始められたら迷惑ってレベルではありません。ただ、ここは森の中であり、店主が勝手に店を開いているだけです。この土地の所有権は持ってません。ついでに商売の許可ももらっていません。
「まあまあ、スカウター1本買うから落ち着いて」
『買うではない。今日は1人最低3本信仰しろ。だいたい、お前らにはシェヘラザードというクランの帰るべきホームがあるだろう?お前らのリーダーであるボルバルマスターという立派な護衛もついている』
「それが問題デチ、それと店主も同じクランに所属しているデチ」
「うんうん」
「俺らとは熱意が違う」
「エンブリオのタイプもアポストロフィ?何かよく分からないやつだし、多分超級職?持ちだしでレベルが違い過ぎて合わないんだよな」
アポストルなら仕方ないですね。
『俺は布教のために放浪していて忙しい。お前達があいつのTRPGだかTCGだかに付き合ってやればいいだけではないか。あいつが来たら迷惑だ。ホームに閉じ込めておけ』
「嫌だね。拘束時間が長い。このゲームにはテニヌ+αをしに来たんだから」
「うんうん。1人ソリティアを始めるから壁とやってろとしか思えん。こっちは飲酒と喫煙しながらパチがしたいというのに」
「あいつ絶対負け認めないデチ。将棋指したときの待ったの回数は酷かったデチ。あ、デチは温泉巡りと髪の育成デチ」
「方向性の違い。ちなみに俺はポッキーゲーム。やらないか?」
テニヌはともかく他の人は何でこのゲームをしているのですか。
『お前達のしたいことなんてどうでもいい。とにかくあいつがこっちに来る前にどっか行けよ』
「それは大丈夫。ちょうど終わった。それでこれから、川の土手に行って4人でツイスターゲームするだけど、来ない?」
『行かない。はやく去れ』
4人が出ていくとき、店主は彼らに塩をぶつけました。気持ちは分かりますが、一応客ですよ。
彼らの出ていった少し後にガサガサっと音がして、茂みから野生の変態が飛び出してきました。失礼、この国のマスターの多くが当てはまるらしいのでこの表現は不適切でした。でも、私に発声機能があれば変態だー!と叫んでいたことでしょう。
頭部はガンダムエクシア、ここだけは非常に再現度が高いです。その下は筋骨隆々の成人男性の体にピッチピッチの白いスクール水着を着ています。背中には青色のパイプが何本もぶら下がっています。そして、頭部が巨大過ぎて3頭身くらいになっています。どういう精神をしていたらこんなキャラメイクが出来るのですか?
「俺は自由だ!お前も自由か?」
店主は無視をしています。こればかりは責められません。誰だって無視するでしょう。
何も答えなかったら頭エクシアが叫びました。
「俺が、俺達がフリィィィィィーダムだ」
『違う。ワシを混ぜるな』
私も混ぜるな!
「お前はガンダムでは無い?お前は何だ?」
『オペレーターだ!今指示が下った。あちらの街で戦闘が起きているらしいから介入して来い。いいか、ディアゴステイ・ニイ。絶対にトランザムは使うなよ?』
「了解!トランザム!」
店主よ、GJです。頭エクシアが勢い良く出ていった反動で風が吹き荒れ、店内がぐちゃぐちゃになったのはコラテラルダメージというものです。
おそらく、彼の見た目のインパクトは、変態だらけのこの国でもトップクラスを誇ります。幸いなことに方向音痴で樹海から抜け出せないので遭遇率は低いです。しかし、人の話を聞かないので絡まれると面倒なことになります。
性癖的には、大きいもの同士のぶつかりあいを好んでいるらしく、薬漬けドラゴンカー◯ックスを嗜む程度の一般的なレジェンダリアのマスターです。
ちなみにディアゴステイ・ニイとはディアゴス帝・兄の意味らしいです。弟も居るのでしょうか。
頭エクシアが出ていってすぐに、今度は獣道からガサガサと音が立って、ザドジとネズミもどきが出てきました。両者とも似合わない眼鏡を頭に掛けています。
「ピって言ってみろ!ピ!」
「ヂッ」
「気合いが入ってない!ピ!」
「ジッ」
「もっと情熱を込めて!ピカピカ!」
「ヂヂジジ!」
はいはい、レジェンダリアレジェンダリア。ちなみに、ザドジはケモナーではありません。動物だけでなく、幽霊や機械まで対応しているポケモナーです。なんと、ただの砂漠の航空写真にも性的興奮を覚えるそうです。性癖は人類の限界を超えているのではないでしょうか。
『ザドジ、今日もやっているのか』
「ああ、俺は絶対ポケモンマスターになる!そのためにこれは必要なことなんだ」
『その魔物にピカピカ言う知能も声帯もないだろうが頑張りたまえ。眼鏡があれば何でも出来る』
「ああ、出来ないなんて言い訳は、気合いが足りていないだけなんだ。さあ、ピカピカ」
「ジジジジ」
「お前はセミか?違うだろ?ピカピカ!」
「ヂヂヂヂヂュー!」
「良ィィィィィ!ギグゥゥゥゥゥ!」
店主よ。店の前で放電したり、それを受けて興奮したりするのは営業妨害に入らないのですか?
『大道芸による客寄せだ。眼鏡も掛けてる』
どう見ても客避けにしか見えません。どちらにしても人通りが無いので意味ありませんが。そして、判定基準はそこなのですか。
『当然だ。ワシがこのゲームをしているのは、このゲーム内に眼鏡を広めるため。人類総眼鏡化計画……』
眼も頭も悪くなりそうな計画ですね。馬鹿馬鹿しい。
あ、遭遇したくない人が近付いてきています。ゾンビアタッカーだとかボルバルマスターだとか切断神だとかレジェンダリアで最も戦いたくない生物みたいな多くの異名を持った人です。
「店主。頼んでいた眼鏡は出来たかい?出来てないなら……」
『舐めて貰っては困る。たかが爆発したり固定ダメージを与える眼鏡を大量に用意するくらいワシにとっては朝飯前だ』
「良かった。店主が脅さないと仕事しない人でなくて」
『用件はそれだけか』
「店主はこのゲームおかしいと思わない?」
『またか。勧誘は断る。ワシは布教出来るのであればその舞台などどうでもいい』
話が終わったのなら早く帰って欲しいです。いつの間にかザドジとネズミもどきはどこかに行きました。私も逃げたいです。
「運営の手先にはならないよな?」
『何を危惧しているのか知らないが、運営かどうかなど関係ない。ワシは眼鏡を布教するだけだ』
「ふーん。まあいいや。そういえばこの前ちょっと要人を襲撃したんだけど空飛んで逃げられてさ」
『それで?』
「あの気持ち悪い動き、あれでしょ?眼鏡を使わない飛行術」
『だからどうした。布教出来るのならワシはどこにでも布教する。お前に布教しているようにな』
「……」
無音が怖いです。何か話してください。
「それもそうか。商人だから仕方ない」
『商人ではない。説教を聞いていくか?』
「やめておくよ。洗脳されたくないんでね」
『洗脳などと人聞きの悪い。ワシはあくまでも本来の眼鏡掛け……』
「あー、聞こえない聞こえない。それじゃあ、お礼ツアー行ってくる」
怖かった。死ぬかと思いました。死にませんが。
『レベリングしなければならない』
一応聞きますけど、同じクランのあの4人組を呼ぶのですか?
『何故?』
やはりそうですか。
『あいつらの協力とは邪魔しないという意味だ。あいつらはカードゲーム中にサブゲームと称してモンハンし始めるような連中だ。レベリング中に気分転換と称して別のことをし始めるのが目に見えている。だから、邪魔しないのが一番の協力になる』
あっ、はい。
『まずは記者の確保と森を焼く準備だな』
攻撃対象はどの辺りですか。
『燃やしても罪に問われない場所をあまり知らない。どうしたものか』
そこは気にしますか。燃やしてもいいとなると、すぐに思い付くのは妖精女王に従わない勢力です。その中でも、ボルバルマスターが一方的に強く敵視しているところが、何か起きた時に協力を呼び掛けられるため、合理的です。もっとも、ボルバルマスターが一方的に敵視している人は物凄く多い上に、お礼ツアーに行くと言っていたのであまりあてにはできませんが。ツアーって多分デュエリストの追っかけですよね。
話が逸れたので戻します。そうなると狙うべきはレジェンダリア内で妖精女王に従わない勢力の1つ。こんなんじゃ満足できねぇ……
『食欲か』