普通の恋人同士みたいなやりとりができるようになってほしいなあ、という願いが籠ってます。
R-18といいつつ、内容的にはR-15くらいかと。
ベッドで横たわる私の肢体に、あなたの両手が優しく触れる。
普段はあまり感じることのない、あなたの体温。
その暖かさに、私の身も、心も、蕩かされていく。
初めて他者を受け入れた痛みに、思わず目をつむってしまっていたけれど。
それでも、あなたと繋がれた幸福感の方が強くて。自然と、私の口角は上がる。
あなたも同じ気持ちなのだろうか。それとも、生娘の初々しい反応を見て笑っているのだろうか。
気になって、私はゆっくりと瞼を開く。
けれど、あなたは――
――――――――
自宅マンションの廊下だというのに、私の足取りは軽く、鼻歌交じりに歩を進める。
あまり酔わないように控えたつもりだったけど、それでも、いつもと同じかそれ以上に飲んでしまっていたらしい。
廊下の一番奥のドアを開けると、そこは見慣れた我が家。靴を脱ぎ、寝室のベッドに腰掛けると、私はそのまま仰向けに倒れ込んだ。
普段ならこんな無作法な真似はしないけれど、未だ余韻とアルコールに浸った身体は、ついつい子供のように振る舞いがちになってしまう。
そんな私を見かねてか、遅れて部屋に入ってきた人物は呆れまじりの吐息を漏らす。
「だらしないですよ、翼さん」
「少しくらい、いいじゃないですか。緒川さん」
今日は、――の披露宴と、その二次会があったのだから。
無論、私の、ではない。ないのだが、親しい人達の幸せそうな姿を見て、自分のことのように嬉しくなった。
「しかし、今でも驚きです。まさかあの二人が結婚するとは」
「翼さんは多忙だったので知らなかったのも無理はありませんが、前からいい雰囲気ではあったんですよ」
「そうだったんですか?」
「ええ。実は僕も、いろいろと相談を受けたことがありまして」
「……知っていたなら教えてくれてもよかったじゃないですか」
「すみません。一応、口止めされていたので」
「むう……」
自分のあずかり知らぬところで知人同士の関係が深まっていた、というのは少々寂しいことだ。用はなくとも、もっと本部に顔を出しておくべきだっただろうか、と思う。まあ、色恋の機微に鈍感な私が気づけたかどうか、怪しいところではあるが。
とはいえ、めでたいことに変わりはない。それに――
「……綺麗でしたね、ウェディングドレス」
別段、あの衣装に憧れがあったわけではない。
けれどそれでも、純白のウェディングドレスを身に纏った彼女は眩しくて。ヴァージンロードを歩く姿を見て、私は思わず息を呑んだ。
「そうですね。見違えた、といっては失礼ですが、素敵なドレス姿でした」
緒川さんも同感だった様子。やはり、何年も付き合いのある人間からすると、彼女のああいった姿というのはなかなか想像できないもので。けれどいざ見てみると、似合っているのだからそれも驚きだ。
自分のことではないのに、彼女の煌びやかな姿を自慢気に語りそうになったとき。
緒川さんはさらに言葉を続けた。
「僕も、思わず見惚れてしまいましたよ」
その発言に、私は僅かばかりムッとしてしまう。
自分から話題を振ったわけだし、見惚れてしまう気持ちもわかる。でも、だからって私の前でそんな表現をしなくてもよいではないか、と。
いや、落ち着こう。私とて、もう大人の女性。彼が他の女性に少々目移りした程度で嫉妬するほどお子様では――
「あ、翼さん。そのドレス、皺になる前に脱いじゃって下さいね」
前言撤回。少し、頭に来た。
私のドレス姿はどうでもいい、と捉えられても仕方のない言い方。もちろん、彼にそんな意図がないことくらいはわかる。それでも、どこか蔑ろにされたような気がしてしまい、癪に障る。
憤りを含んだ私の視線に気づいたのか、緒川さんは慌てた素振りを見せる。
「あっ、いや、そんなつもりでは……すみません……」
何でもそつなくこなすくせに、気が緩むと、偶にこういう抜けたところが顔を出す。
それとも、私の前だから緩んでいるのだろうか。それはそれで、悪い気はしないが……。
とはいえ、珍しく狼狽える彼の姿を見ていると、いつしか憤りは収まっていて。逆に、少しからかってやろうという気持ちが湧いてくる。
私の顔は自然と緩み、笑みが零れる。
自分でも感情の制御が弱くなっていることは自覚しつつあるが、酔いが回った頭は正常に働かない。
だから、こんなわがままだって言ってしまう。
「……そんなに脱がせたいなら、緒川さんが脱がせてください」
それを聞いた緒川さんは、やれやれといった雰囲気で寄ってくる。
そうして、私の前でわざとらしく跪くと、
「仰せのままに。翼お嬢様」
といって、私の肩に手をかけた。
まずは、ボレロから。
その後も慣れた手付きで、ワンピース、ペチコートと着衣を剥かれていく。
気が付くと、私が身に着けているのは、キャミソールと下着だけになっていた。
女性の着衣を脱がせる機会なんて、そう無いだろうに。何故だか経験の多さを感じさせる所作。
そういうところにも少し、嫉妬してしまう。
しかし自分で脱がすように言っておいてなんではあるが、これではまるで情事に及ぶ前みたいな――
そう思った瞬間、キャミソールを脱がそうとした彼の手が、私の脇腹に触れた。
「んっ……」
反射的に声が漏れる。
――ああ、いけない。
意識してしまうと、途端にこれだ。
身体の火照りは、酔いのせいだろうか。いや、それだけではないだろう。
緒川さんは脱がせたドレスを持って振り返り、部屋を出ようとする。
私は立ち上がって、彼のジャケットの裾を掴んだ。
彼は少し驚いた顔で、こちらに振り向く。
「翼さん……?」
私は、意識せずとも上目遣いになる視線を向け――
「……あの緒川さん。今日、泊まっていきませんか?」
彼を、求めた。
身体を重ねたのは、一度や二度ではないが、こういった誘い方は初めてだ。
でも、何を意味するかは、流石に分かるだろう。
実際、緒川さんが泊まったときは、何度も『そう』してきた。
それに、彼にはこの紅潮した身体をどうにかする責任がある。
熱を帯びた身体と、やや荒くなった息遣い。
彼の返事を待たず、いや待てずに、私は顔を寄せ――
「すみません……」
「……えっ?」
本日二度目の、面食らい。
――もしかして、断られたの? え? このシチュエーションで?
私が緒川さんの発言を理解することに苦戦していると、彼は言い訳のようなことを口にする。
「任務でこのあと移動しなければならないので……でも――」
彼はまだ何か言おうとしていたが、その前に私はジャケットから手を離した。
湧き出る感情は、先ほどとは異なり、八割の恥ずかしさと、二割の哀しみ。
いつもより積極的になってみたときに限って、このザマだ。
――ああ、もういっそ早く帰ってほしい……
別の理由で先ほどより赤くなった顔を隠すように、私は俯く。
すると、私の頬に、手が触れる。
「……熱いですね」
そうさせたのは誰だ、と文句の一つも言ってやろうかと思った瞬間、彼の手が私の顎を少し持ち上げる。
何をされたか考えているうちに、私の唇は、彼に塞がれていた。
緒川慎次らしい、優しい口づけ。
触れ合ったのは、ほんの数秒。けどそれだけで、彼の想いが伝わってくる。
「……ずるいですよ。そういうの」
「話は最後まで聞いて下さい。何も、今すぐ帰るとは言ってません」
そう言うと、彼は私の背中に手をまわす。
ホックを外されたのだと気づいた時にはもう、私はベッドに押し倒されていて。
彼は私の耳元で、
「少しくらいなら、大丈夫ですから」
と囁いた。
振り回された感情の整理は、まだつかない。
喜んで、怒って、哀しくて。
今は少し、楽しくなってきた。
けれど、これで安心したと思われるのも癪なので。
少しだけ、抵抗させてもらおう。
「そう簡単に、帰れると思わないでくださいね。緒川さん」
――――――――
瞼を開けると、目に入ったのは、少し不安そうなあなたの顔。
どうして、と疑問に思う。けれど、理由はすぐにわかってしまった。
ああ、なんて怖がりで、不器用で、そして、優しい人。
そんなあなたが、たまらなく愛おしい。
私は両腕であなたの身体を抱き寄せ、耳元に口を寄せる。そうして、
――大丈夫です
と囁いた。
その言葉を聞いて、あなたは私を抱き返した。
表情はわからないけれど、どんな気持ちでいるのかは、想像に難くない。
あなたの熱を、汗を、鼓動を、全身で感じる。
一つになった、私とあなた。
身も、心も、その想いも。
――ねえ、緒川さん……
――なんでしょう
――……私は今、幸せです
――ええ、僕もですよ
――――――――
※オマケ※
「いつも緒川さんに任せてばかりですから、今日は私もご奉仕をしてみようかと」
「と、いいますと?」
「た、たとえば口で、とか……」
「駄目ですよ。ライブが近いのに、喉を傷めたらどうするんですか」
「むう……折角色々勉強してきたのに……」
「勉強というと?」
「インターネットで調べて……あと棒アイスで……って今笑いましたね!?」