異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》 作:獣の爪牙
決戦当日。
制服三人に軍服ひとり。
文芸部四名は泉北高校の校門前にいた。
予定時刻十分前。天気は空を灰色の雲が覆っているが雨は降っていない。
ただ、北からの風が吹き荒れていた。
「いよいよですか。皆さん準備はいいですね?」
「もちろんです」
「いつでもいけます」
「トイレ、済ませた」
うなずきあう四人。
「相手プレイヤーの顔と人数が分かりませんので特定を最優先に。まずは手前の校舎から……」
とその時に手前に広がるグラウンドの奥、校舎から素行の悪そうな生徒が、ぞろぞろと十数名出てきた。
バット、パイプなど不良所縁の品々を携えている。
「どうやら、お出迎えのようですね」
「後ろからも……!」
あたし達が逃げられないよう道路を塞いで数名が歩いてくる。
ざっと見て合計二十人前後。
「この人達全員プレイヤー⁉︎」
「いえ、その線は薄いでしょう」
異能の中には一般人を操る異能もあると教えてもらった。
そこで先頭の不良が話しかけてきた。
「ようこそ北高へ。話は聞いてますよ、なんでもウチとやりあいに来たとか」
はははと下卑た笑い声がいろんな方向から聞こえる。
バカかてめーらとかかわいーねーとか、その他口にしたくもないような野次が止まらない。
「今日はそのつもりです。が、あなた方に用はありません。山崎という方はいらっしゃいますか?」
その言葉に周囲は一瞬静まり、その後さっきよりも一層激しく反応した。
潰すぞコラァとかここで死ぬか⁉︎とか、その他物騒な野次が止まらない。
「山崎さんに会わすわけにはいかないんすよお。その前におれらの相手してくださいよ」
「ひとまずここを制圧しましょう。後のことはこの人達に聞いてみます」
「「「了解」」」
その言葉にさすがに我慢の限界か先頭の不良も
「できると思ってんのか? おんなあ!」
と比較的まだ丁寧だった口調が粗暴になる。
それを合図に周囲の不良も迫ってきた。
そこでうちのアタッカー二人も前に出た。
「前の敵をお願いします! 後ろは任せて下さい!」
「了解です」
「わかった」
決戦の幕が開いた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「山下、そっちはどうなってる?」
おれっちは透明化の異能を使って敵の異能を調査する役割を任されていた。
山崎さんからの電話に出るが、目の前の光景をどう伝えるべきか迷った。
趨勢が一方的だったからだ。それも嫌な方に。
「えーとすねー、とりあえず時間通りに来てもう始まってます。女はあの時のJKが三人に新しいちびっ子が一人です。男は見当たらないっすねー」
「あー、男の方は気にしなくていい。使えないもやしだ。で?」
一番警戒すべきは白髪の水使い。
しかし白髪の女は水を使っていなかった。
「あの時の白髪っすけど水使ってないっすね」
「なに?」
「えーい!」
たわけたかけ声だがやってる事は恐ろしい。
波のような土砂が不良達に向かう。
今相手をさせてる不良は砂川さんの催眠で多少操っているものの中身はパンピーだ。
唖然としてる所を為す術なく飲み込まれる。
土砂が去ったらあら不思議。
飲み込まれた奴らは首まで埋まっている。
数人は既にやられた。
「白髪は土も操れるみたいっすね。でかい土石流を起こして相手を動けなくさせてます」
「……水に、土だと?」
「それに劣らないのがちびっ子。軍兵みたいなかっこしてふざけてるかと思いきや」
「……おい、あいつ」
「……ああ、あれならやれる」
白髪女にビビった不良は未だなにもせず突っ立っているちびっ子に狙いを定め近づく。
しかしそれを待ってましたといわんばかりに、ちびっこの側に大砲のような物が出現。
おれっちはもうその時点でヤバい気がしていたんだが、不良達はまだ状況を理解出来ていなかったようだ。
突っ込んでいった三人が大砲の直撃を食らった。
冗談抜きで人が五メートルくらい吹き飛んだ。
「え? 死んだっすか?」
隠れてるのも忘れて声が出た。
なによりも、それだけのことをしでかしてその子供は眉一つ動かさなかった。
「銃に手榴弾に砲台。兵器を主に扱ってます。死んでないのが不思議なくらいっすね。あれはやべー」
「……残りの二人は?」
「あとの二人は出口塞いでる六人とやりあってましたけどふつーに素手でのしてるっす。異能は分かりませんが一人は戦い慣れてます」
「……」
さすがに山崎さんも心中穏やかじゃないっすよねー。
「たかが女と思ってたが……。男こんだけ集めて返り討ちか、メンツ丸潰れだな」
セリフに反して、山崎さんは笑っていた。
「……勝てるっすかね?」
「まあ見てろ山下。砂川さんは策士だ。打てる手はまだいくつもある。あとどれくらい保つ?」
「逃げてるのが三人だけなんでもう保たないっすねー」
「分かった。段取り通りにいく。お前はそこを離れて持ち場に付け」
「了解っす」
そう言い、通話を切った。
「ああー、戦いたくねっす」
ただでさえ辛いし痛くてめんどーなのに今回の相手は女子供だ。
いつから山崎さんはこんな事に手を貸すようになっちまったんだろう。
あの頃はあんなに……。
「ああ、戦いたくねっす」
うんざりしつつ、しかし山下は持ち場へと向かっていった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
途中危ない所もあったけど不良達は全員行動不能にした。
「おつかれ! 千冬ちゃん」
「おつかれ。鳩子」
ハイタッチを交わす二人。
グラウンドには死屍累々といった感じで不良が倒れてたり、首だけになってたりしてる。
改めて私と二人の異能の規模の違いを目の当たりにした。
「まだ硬いですが悪くない動きでした」
彩弓さんがあたしの戦いを褒めてくれた。
とはいえ、一人目の突進してくる相手の足元崩して、二人目のカバーしてきたやつにハイキックかましたくらいであとは彩弓さんが絞め技や回し蹴りでノックダウンさせた。
「いえいえ、とんでもないです! ほとんど彩弓さんがやってくれましたし」
「確かにそうですが」
そうだけどっ。
「それでも一週間前と比べたら別人です。この調子でいきましょう」
「……はいっ!」
評価に対しシビアな彩弓さんから褒めてもらえることは単純に嬉しかった。
「さて」
不意に辺りを見回すと、彩弓さんはさっき先頭で話した不良の元へ向かった。
「少しお尋ねしたいのですが」
不良はうつ伏せに倒れていて返事はなかった。
しかし不良の腕を持って曲げ
「次は外します。お尋ねしたいことがあるのですが」
「わ、わ、分かった! 待ってくれ、なんでも答える!」
なんでこんな拷問に慣れているんだろう?
「山崎という方はどちらに?」
「し、知らねえんだ! ほんとだ! ただ……」
「ただ?」
「山崎さんは北高を仕切ってるひとりだ! 今回頼まれたのは砂川さんだが、山崎さんも高校にいるはずだ!」
「なるほど、場所の心当たりは?」
「校庭の隅にあるそこの部室棟によくいる!
砂川さんと一緒に!」
「砂川ってだれ? そいつも異能持ち?」
「砂川さんはウチのトップって言われてる人だが……いのう持ちってなんだ?」
「どうやらこの人達は異能については知らないようです」
するりと彩弓さんは不良から離れた。
「ではその部室棟に行ってみましょう。罠があるかもしれませんので気をつけて」
「はい」
そうしてあたし達はグラウンドを後にした。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
一方、予定されていた時刻を少し過ぎ、日が沈んだ頃。
舗装はされているがあまり車が通らない裏道を、暗闇に溶ける黒い大型二輪車が走っていた。
「あとどの位で着きますかっ!」
「もーちょいだな、そろそろ見えてくるはず」
おれは一さんのバイクの後ろに跨らせてもらっていた。
「もう少しスピード出せますか?」
「……この前調子乗ってスピード出してたら捕まっちゃってな。次捕まったらアウトなんだわ。いやあ、おれも若いな」
「言ってる場合ですか!」
法定速度遵守。たとえ約束に間に合わず、仁義に背こうとも速度違反をしない。ドライバーの鑑がそこにいた。
昨日、フォクシーが去った後に一十三さんから一さんに決戦のことは伝わっていた。
一さんはおれにも伝えてくれた。
みんながおれ抜きで戦おうとしていることも。
みんなに守られる自分に情けなさもあったが、そんなことより力を付けた今の自分を見せつけてやろうという心意気があった。
(今なら、みんなを守れる)
北高までは一さんの愛車、「黒き冥界の番犬(ケルベロス)」で送ってくれることになった。
途中道が混んでて、裏道から向かったため少し遅れているけども。
「とか言ってる間に見えたぜ、北高」
小さな校門と塀の奥に校舎らしき建物が見える。
「こっちは裏門だな。女子共は正門から入ったかもな」
「はい! ありがとうございましたっ」
ヘルメットを渡し校門を見ると。
門の周りには不良がたむろっていた。
「寿来」
一さんが遊びのない顔で話す。
「おれがお前にしてやれるのはここまでだ。次会う時は……分かってるな?」
「……」
「おれがやるまで死ぬんじゃねーぞ?」
そう言い、左手の拳を突き出した。
おれも拳を合わせて答える。
「死にませんよ。一さんに訓練されたんですから」
「上等。今のお前なら大丈夫だ。かましてこい!」
「はい!」
短くも深い邂逅は終わりを告げる。
二人は互いに背を向け、それぞれの道へ進み出した。
校門までの階段を登る。
「おい、何の用か知らねーが今うちは立ち入り禁止だ」
構わず進む。
「おい、てめーに言ってんだよ!」
進み続ける。
「止まれって言ってんだろ」
堪えきれなかったひとりがバットを振ってくる。
それを右手で掴み、左手で顎を打つ。
バットの不良は一発で失神した。
寿来の腕は黒い炎を纏っていた。
炎の勢いが増す。
「なっ‼︎」
「わるいけど通してもらう」
(ヤンキー七人対おれ一人か)
文芸部のもうひとつの戦いの火蓋が切られた。