異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》   作:獣の爪牙

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「ごおおっ……」

 

敵の男は必死にもがきますが、鳩子さんの水流は男を押し上げ水中に閉じ込めるように作用しています。

その間に安藤くんの治療を最優先していました。

「安藤くん! まだ治療が!」

まだかろうじて喋れる程度まで回復させたのみです。しかし安藤くんは私が思いつかなかった可能性を示唆します。

「おれの怪我より鳩子です……。早く止めないと……鳩子があいつを殺しちまうかもしれない」

「「!」」

「灯代。彩弓さん。おれに、考えがあります」

 

 

 

「「鳩子! ストップ‼︎」」

「あっ! じゅーくん!」

鳩子さんは我に返ったようで安藤くんの身を案じて異能を切り、近くに駆け寄ってきました。

「彩弓さん! お願いします!」

安藤くんの号令と同時に私は全力で駆け出します。

(鳩子が異能を止めたらすぐに彩弓さんが格闘で抑え込んで下さい。

あいつの異能は腕力の強化でスタミナが切れればほとんど出なくなります。おれとの戦いの後に今全力で暴れまわってるんでもう限界近いはずです)

危険な事を任せてすみません、と。

動けない彼は私に頭を下げました。

骨を折られ、血を流し、満身創痍でありながら。

一番危険な役目を買って、命がけで情報を引き出してくれたのは誰か。

 

「全く。こういう時ばかり彼は」

 

心配ばかりさせるけれど。

 

「本当に、頼りになる後輩です」

そう言うと、自然と勇気が湧いてきて私は更に力強く走り出しました。

 

 

 

「山下ぁ! ハァ、ハァ、撤退だ! 早くしろ!」

溺死寸前まで追い詰められ、ぜーぜーとひどく荒い呼吸をしながらも敵の男は誰かに呼びかけています。

 

(二人目? 仲間でしょうか?)

警戒よりも目の前の男を無力化することが先決と判断し逃走する敵を追います。

しかしあともう少しという所で敵の姿が霞み始めました。

 

「なっ⁉︎」

そして瞬く間に体の端が消え始め、数秒で全身が消えました。

(新手の異能ですか?)

反撃を警戒するも足音は消せないのか出口の方向へ向かっているようです。

 

「深追いは危険ですっ!」

後を追おうとしましたが安藤くんに忠告され踏みとどまりました。

しばらく警戒しましたが、少し経つとバイクのエンジン音が遠ざかっていくのが聞こえました。

 

「どうやら本当に行ったようね」

「じゅーくん!」

安藤くんの看護をしていた鳩子さんが異変を訴えていました。

「ごめん、ちょっと疲れた……」

安藤くんは横になり喘いでいました。

「……脈拍、呼吸共に荒いですが正常な範囲です。おそらくは戦いによる怪我と疲労と痛みででしょう。ただその怪我が……」

少し怖かったですが確認した後、怪我は酷いですが命に別条はないだろうとなりました。

 

「……安藤」

「……じゅーくん」

「ひとまずは、といった所でしょうね」

 

「この後のことですが」

私は意識して気を引き締めて言います。

「とりあえずすぐの敵襲は無さそうですが、安藤くんの治療が残っています。救急車を呼ぶと大変な事態が予想されるため、私が治療しますが、ここでは危険でしょう」

 

どうしたものでしょうか…。

 

「あ! それなら千冬ちゃんを呼んで部室に移動したらどうでしょう?」

「いい案ですが、連絡手段がありません。千冬さんのご自宅なら番号は分かりますが…」

時計を見るともう九時を回っています。

非常時とはいえ残念ながらこの時間にお子さんを連れ出すように言いくるめるのは困難でしょう。

誰かに事情を説明し助けを求めるべきでしょうか……。

どなたかのご家族かそれとも先生か。

 

私と鳩子さんが頭を悩ませた時。

 

「あたし、千冬ちゃんのケータイの番号持ってます!」

 

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工場からそう遠くない、北高と呼ばれる高校の部室には少し奇妙な面子が集まっていた。

部室といっても真っ当な部活動をするために着替えや準備などをする為の部屋ではもはやない。

机にはタバコに灰皿に麻雀、ロッカーにはエロ本、ゴミ箱には酒の空き缶まで捨ててある始末で、不良にいいように使われている。

部屋の奥のオフィスチェアに座る強面は年季の入った制服をひどく着崩しているいかにもな青年だが、この高校では珍しくはないといえる。

かわってロッカーの前のパイプイスに座る青年は、メガネにボサボサの長髪といかにも内気そうで一見パシリかと思ってしまうが、意外にも奥に座る不良は普通に接していた。

「毎度毎度そんなに固くなんなよ。なんか飲むか? なんならビールもあるぜ?」

「いえ、ぼ、ぼくは大丈夫です」

ウチの後輩で商店でバイトしてるやつがいてな。店に内緒で安く酒を流してもらってるんだよ。

不良によくあるワル自慢ともう一人の愛想笑いが流れるなか、一番奇妙な存在がなにやら一人でぼそぼそと喋っていた。

その人物の奇妙と呼べる点はオレンジのスーツややたら耳が長いなどいくつかあるが、一番おかしな点はそれのサイズだった。

あまりにも小さ過ぎる。

生まれたての赤ん坊よりも小さいが頭身は大人のそれで、振る舞いもビジネスマンを想起させる。

まさに絵本から小人が出てきたかのようなファンタジーな状況だった。

 

「どうした? フォクシー?」

フォクシーと呼ばれる小人は特徴的な丸眼鏡をクイッとして言った。

「砂川さん。今、山下さんから連絡が入ったんですが」

山崎さんが敗れたそうです。

フォクシーの報告を受けて砂川と呼ばれた不良は動揺を隠せずにいた。

「山崎がサシで負けた? 相手はそんなにつえーのか?」

フォクシーは電話をするかのように耳に手を当て小声で伝えた。

「山下さんの見た限りでは相手の男には難なく勝り、殺す直前にやってきた仲間の女に速攻でやられたと」

「女だと? 異能は?」

「水を生み出し操る異能で、大量の水で閉じ込められ溺死寸前まで追い込まれたものの、なぜか途中で止め山下さんの透明化でなんとか逃げたと」

 

「……」

 

机を叩く打撃音が響き、砂川は苛立ちを隠さず言った。

「チッ! 女ごときに山崎がやられるなんてよ。木村は山崎の異能は知ってるか?」

「い、一度簡単に手合わせをしたことが…。とても強かったです」

「うちでも一、二を争うプレーヤーだからな」

フォクシーは思案顔で懸念を口にした。

「女にやられたことが広まれば今後他のチームに標的にされる可能性が高いですね」

砂川は少しの間黙して決断をした。

「負けの噂が広まる前にそいつらを殺す。北高にケンカ売った奴がどうなったか思い知らせてやる」

 

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