異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》   作:獣の爪牙

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襲撃のその後、安藤は気が抜けたのか敵が逃げた後に横になった。

あたし達は千冬ちゃんの無事を確認し、人目につかずに安藤の怪我を治すため、千冬ちゃんに電話しゲートで文芸部の部室に連れて行ってもらう事にした。

 

千冬ちゃんがスマホ買ってて本当に助かった。

 

事情を聞くと千冬ちゃんはすぐ飛んできた。いきなりゲートと呼ばれる黒い穴が開くこの現象は未だに慣れない。

「灯代。アンドーは?」

「来てくれてありがとうね。あっちで彩弓さんに治療してもらってる」

 

「……! アンドー……」

 

千冬ちゃんは安藤を見つけると少しの間固まり、その後状況を飲み込むかのようにゆっくりと近づいていった。

 

人伝てに聞くのと実際に目にするのは全くといっていい程違う。

あたしの年でさえ未だショックを隠せないのだから。

「……」

「千冬ちゃん……。ごめんね、こんな遅くに」

改めて見ると、やはりひどい。

左足の中心に見たことがない大痣と特に左腕が前腕の半ばで曲がっていて目を背けたくなる。

こんなに重傷を負った人を生で見るのは始めてでそのグロテスクな傷に殺し合いの残忍さが表れている気がした。

 

一旦治療を中断し千冬ちゃんのゲートでみんな部室に移動し、創姫でベッドを作って安藤をそこに寝かせた。

 

「アンドー……、ひどいけが……、さゆみ治せる?」

 

「……左前腕の完全骨折。左小指の皮下骨折。右足の脛骨にもひびが入っているかもしれません。そして全身に打撲と擦り傷。素人判断ですが、恐らく治ると思います……。が、時間は掛かるでしょう」

 

擦り傷とかちょっとした怪我ならあっという間に治せる始原でさえ短くない時間が掛かる。

それほど怪我の量と重傷度が高いということが察せられる。

小学生に生傷を見せるのは憚るものの、事態が事態だからどうしようもない。

 

安藤は限界が来たのかいつのまにか眠っていた。

 

普段表情の変わらない千冬ちゃんもこの時ばかりは困惑や怖さや心配などのせいか複雑な顔をしている。

 

彩弓さんはただただ真摯に治療に集中している。

 

そして鳩子は安藤に寄り添いながら声を上げて泣いていた。

 

「馬鹿安藤」

一人でかっこつけて無茶して。

色々言ってやりたい気分だったがさすがに今は寝かせておいてあげよう。

傷が少しずつ巻き戻るように治っていくさまをみんなで見守り続けた。

 

 

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目覚めるとみんなが心配そうに顔を覗き込んでいた。

 

「アンドー、けが、痛い?」

 

左腕を見ると何事も無かったかのように傷が消え、腕や足などの痛みも感じない。

さっきまであった怪我が綺麗に無くなったせいか違和感は強いがそれだけで済んでいた。

念の為、力を入れたり体重を掛けたりするもいつもと変わらなかった。

 

「大丈夫だよ。相変わらず凄いですね、始原。ありがとうございます。千冬ちゃんも来てくれてありがとうね」

「うん、心配した。アンドー」

「……心配かけてごめん。みんなも……」

 

誰も何も言わなかった。

やはり心配させていたらしい。

 

さっきからすぐそばに居た幼なじみは泣いていたためか目が腫れていた。

「鳩子も看ててくれたのか?」

「うん、心配したんだよ? じゅーくんが、死んじゃうんじゃないかって」

 

水が滴る音がした。

そこには幼なじみの辛そうな顔があった。

他のみんなも思うところがあるのか誰も鳩子の言葉を大袈裟だと言う者はいなかった。

それだけ危険な状態だったということか。

 

「わるい鳩子、心配かけて」

「どうしてあんな危ない所に行ったの? どうしてみんなを呼ばなかったの?」

「それは……」

鳩子の問いにおれは答えようとして、踏みとどまった。

 

そうか。

まだ鳩子達はこの闘いのことを…。

 

ふと彩弓さんの方を見ると、彼女はおれが言い出す事を待っているようだった。

しかしどうしてか本当のことを言うべきか迷う自分がいた。

「……安藤くんは、まだ怪我が治ったばかりです。その辺りのことは後日にしましょう」

なにかを察した彩弓さんの、こちらの意を汲むような配慮に救われた。

 

「もう危ないことはしないでね。じゅーくん。どうしてもの時は私たちを呼んでね」

 

「……分かった。ギルティア・シン・呪雷の名に誓お……」

「じゅーくん?」

「はい、分かりました」

ようやく鳩子の涙も止まってくれた。

 

後は。

一人机に寄りかかり黙って見守る赤髪のタメに感謝を口にしよう。

「ありがとな、灯代」

「あたしは別に何もしてないけど?」

「まあ、そうくるよな。灯代は」

 

少しの間黙考し、

「でもわざわざこんな時間におれのために駆けつけてくれたわけじゃん? すっぴんのままでさ」

「ちょっ! 今それ言う⁉︎」

見るなとばかりに顔を手で覆い隠す灯代。

今思い出したのか下を見て俯く鳩子。

少し顔を背ける彩弓さん。

いつも通りの千冬ちゃん。

けどみんなすっぴんはすっぴんで割といい線いってるなとおれは思った。

 

まあそれは置いといて、

「心配してなきゃそこまではしないだろ? だからその礼っていうか、みんなにお詫びがしたい」

 

そこでそうだとおれは閃き、灯代の頭をぽんぽんしてやった。

 

「は、ハア⁉︎ なにしてんの⁉︎」

「なにってお詫び。灯代は前、あたしも頭ぽんぽんされた〜いって独り言言ってたよな?」

「は、はあ? な、何言ってんだか! 言うわけ無いでしょ!」

「じゃ、嫌なのか?」

「べ、別に嫌ってわけでもないけど……」

「じゃいいじゃん」

そう言って灯代の頭をよしよししてやった。

少しの間、腕組みしながらあっ、とかちょっ、とか言いながらいいように撫でられてた。

 

ほう、これはかわいい。

 

「〜〜っ、もういいでしょ!」

と、もう少しやってもよかったのに引き剥がされてそっぽを向かれてしまった。

 

かわいかったからまたやろっと。

 

あれ、これお詫びになってるのかと思いながら、ふと周りを見渡すと三人がひそひそと小声で話していた。

それにおれのほう見てなんか悪口を言っているような……。

「なんの話ですか?」

話しかけると会話が途端に止み、三人ともしら〜っとした顔になった。

 

「もしかして鳩子もされたいのか?」

「え! 私はいいよ〜」

「そっか」

「……」

「千冬ちゃんは? なにかして欲しいことない?」

「ポンポン」

「おっけー」

少しの間、穏やかな空気が流れた。

「彩弓さん……」

「えー、この後のことですが」

「おれの質問スルー⁉︎」

「安藤くん、静かに願えますか?」

普段礼儀正しい彩弓さんが得体の知れない笑顔でおれを見た。

「すみませんでした」

ここは怖いので従っておこう。

「とまあ、冗談はここまでにしておいて」

クスッと笑った彩弓さんの顔つきが引き締まる。

 

「状況は極めて深刻です。今まさに敵に襲われる可能性もあります。かといって今回のことを警察に相談すべきかどうか」

今回ばかりは彩弓さんも頭を悩ませていた。

確かに証拠もない今の状態を警察に相談した所で相手にしてもらえるか分からない。

「今日はもう遅いので各自帰宅しましょう。なにかあった時ご両親といた方が安全かと思いますので。緊急時には各自に電話を。明日の部活中にどうするか決定したいと思います」

それまでに各々考えをまとめておいて下さい。

彩弓さんがそう締めくくりその日は解散となった。

 

 

 

解散の後おれは彩弓さんに手招きをされた。

そしておれにだけ聞こえるような小声で、

「どうしてあの場所で戦っていたのかは怪我に免じて今は聞きませんが、事が事です。明日聞かせてもらいますね」

と、ぼかしていたことを鋭く突かれた。

穏やかに過ごせる日はまだ遠い。

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