個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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7話 前半

 もう元には戻れない。

 

 

 先日しでかしたクラスでの行動は決定的だった。

 

 彼らに自分の激情をぶつけ、彼らの善意を踏みにじるあの行いは、私と彼らの間に明確な壁を作っただろう。

 

 だとしても関係ない。

 

 早くヒーローになれば終わる……、そのはずである。

 

 

 

『君が泣くまで殴るのをやめない、親指を崩壊させる連打ゲーRTA Part7 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に行きたくないと思う気持ちとは裏腹に、最近ますます高機能になった体は、その健脚ぶりを発揮し、あっという間に教室のドアの前にたどり着いた。

 

 今の気持ちと同じく重い戸を開けながら、すぐさま誰とも目を合わそうとせずに席に向かおうとした。

 

「やぁ本条君! おはよう!!」

 

「おっす」

 

「はよっす」

 

「本条さんおはよー」

 

 私は思わず面食らって立ち止まる。

 

「今日は結構早いじゃん、本条」

 

「おはようなのね、本条ちゃん」

 

 ……いやいや、おかしい。

 

 あんな態度を取ったすぐ次の日だというのに、みんなのこの態度はなんだ。

 

 まるで気にしているのが自分だけといった雰囲気に動揺する。

 

 なんとか間抜けな顔を晒さないように表情を凍らせ、私は無言で椅子に座った。

 

 

『はぁ、今日も今日とて陽性キャリア達がホモ子をポジらせようとしてきますね。

 

 しかし、ホモ子、ここはイベントすら立てずにスルー

 

 貞操観念は大事、はっきりわかんだね

 

 本当にここまでイベントを発生させないホモ子は人力最速の理想ですね、TASだと疑われちゃ~^う(慢心)

 

 はい? TASなら戦闘シーンがもっとうまい? えっそんなん関係ないでしょ(半ギレ)』

 

 

 いくらこのクラスに善人が多いと言えども不自然では?

 

 そうも考えるが、私は気持ちを切り替えることにした。

 

 結局私のすることは変わらず、話しかけられようが何をされようが無視をするだけだ。

 

 周りのことなんて考える必要もない。もっと私に必要なことだけを考えよう。

 

 いつものように本を開きながら周りとの目線を遮って一人の世界にこもると、今日の授業について考える。

 

 今日の午後からのヒーロー基礎学は、おそらく救命救助訓練だと思われる。

 

 なぜそんなことを知っているかといえば、訓練によっては声が出てくる可能性もあるため、念のために以前から授業の予定を探っていたからだ。

 

 今回は例年のガイダンスと今年度の予定表、そして主に耳を活かした教師からの盗み聞きで今日の予定を推測したが、もし救助訓練だとしたら私にとっては都合がいい。

 

 なにせ救助だ。別に争うわけじゃない。

 

 

 救助訓練で声が介入するような何かが起きる可能性は少ないはずだ。

 

 

『それでは今日のイベント、人命救助訓練withヴィラン襲撃を頑張りましょう

 

 今回調教する少年少女は雄英っ! 端正なマスクと、均整のとれた体、まだ15歳のこの少年少女たちは、ヴィランの襲撃に耐える事が出来るでしょうか? それでは、ご覧下さい』

 

 

「…………なんで」

 

 

『人命救助訓練中にいきなりヴィランに侵入されるとか雄英の警備ガバガバじゃねーか

 

 ヴィランとの戦闘なんて敵味方の生死の管理でタイムがあーあ、もうめちゃくちゃだよ

 

 なので基本的に固定行動をとって大筋に影響を与えないように丁寧丁寧に立ち回っていきますので見とけよ見とけよー』

 

 

 ……本当にふざけた話だ。

 

 

 雄英が襲われるらしい、ヴィランから。

 

 ヒーローとはつまりヴィランと戦う者のことであるが、私たちはただの学生に過ぎない。

 

 そんな私たちが襲われる?

 

 しかも先日のマスコミ騒ぎのせいで、今、雄英は厳戒な警備がなされている。ここが襲われるなんてあり得ない。

 

 そう自分を納得させようとするが、体は落ち着きなく動くのを止められない。

 

 

 なぜなら、声は嘘をつかない。

 

 

 私の経験から判断すれば、今日の人命救助訓練はヴィランに襲撃される。これは現実だ。

 

 私が何もしなければ確実に起きる。

 

 知っているのは私だけ。ならば、この事件を避けることができるのも、わたしだけということ。

 

 

 今すぐ警備や先生に伝えるべきだろう。

 

 

 伝え方は考えるべきだが、早くこのことを知らせなければいけない。

 

 そうすれば敵も手をだしてくることは……

 

 

『そうはいっても今回氏ぬポイントなんて2、3か所しかないので安心してくれよなー

 

 余計なことをしない限り全員生存でみんなハッピー(フラグ)

 

 登場キャラ達はいるだけでウマ味なので、なるべく戦線離脱させないようにさせておきたいけどなぁ、俺もなぁ~

 

 でもまぁ一人ぐらい消えても……ばれへんか

 

 全部ホモ子次第ですね、言うこと聞いてくれよな~、頼むよ~』

 

 

 余計なことをしなければ……

 

 

 その言葉を聞いて心臓が締め付けられる。

 

 声は余計なことをしなければと言った。

 

 

 私がこの情報を学校に伝えることは本当に正しいことなのか? もしかして何か別の形で不幸が訪れるのでは?

 

 

 そうだ。私が正しく声に従っていれば誰も死ぬことはない、死ぬことはなかったんだ。

 

 ……声の言うとおりにすることが、結局は一番安全だ。

 

 私が何かしようとすることが周りに危険を振りまくことになる。今までずっとそうだったじゃないか。

 

 

 

 

 結局、私の決定は“何も言わない”。

 

 私は敵の襲撃を見逃した。

 

 

 

 

 昼休みとなり、私はすぐに教室から出ようとするが声をかけられる。

 

「本条君、午後は移動があるらしいから早めに戻ってくるよう心がけた方がいいぞ」

 

 飯田君だ。

 

「よかったら今日は弁当を買って、みんなで教室で食べるのはどう?」

 

 麗日さんも声をかけてくる。

 

 

「ごめんなさい、ここに居たくないの」

 

 

 私は誘いを無視して、いつもの場所に向かった。

 

 

 広場に着くと、私はお弁当を買っていないことに気付く。

 

 でも別にいい、食欲なんてない。

 

 ベンチに座り込んで、目を固くつむり、深く息を吸い込む。

 

 

 私の選択は正しい。

 

 声の通りに動けば誰も死なない、これが一番いい。

 

 ……クラスメイトを危険に晒しておいて?

 

 

 私が動けば人が死ぬかもしれないって言ってるじゃないか。

 

 見逃さなければ、彼らが私のせいで傷つく可能性もあった。

 

 ……自分の為ならクラスメイトがどうなってもいいんじゃなかったの?

 

 

 どうなってもいい、でも積極的に傷つける必要もない。

 

 本当だ。私は、私の目的の為なら彼らのことなんて何とも思っていない。

 

 ……じゃあ彼らが死ぬようなことになっても見捨てられるよね?

 

 ……………そのために嫌われてるんだもの、当然できるよね?

 

 

 

「うるさいよ……」

 

 

 

 意外にもよく響いた私の独り言に広場にいた何人かがこちらに視線を向ける。

 

 取り繕う元気もない私はその視線に顔を向ける。

 

 私を見ていた人々はまるで気色悪いものでも見せられたように顔をゆがめながら目を背けていった。

 

 皆なんでそんな目で私を見るのだろう?

 

 そう考えている中、ある一人だけが目をそらさずにこちらに近づくと、気まずそうに声をかけてきた。

 

 

「おいあんた、ひどい顔だが大丈夫か?」

 

 

 そんなに、ひどい顔をしていたのか、見ず知らずの親切な他人にも気を使われてしまった。

 

 私は緩慢な動きでポーチから手鏡を出して、自分の顔を見る。

 

 

 そこには何時かの声に操られている顔に少し似ている私がいた。

 

 

「はは、ほんとにひどい顔だ」

 

「保健室に行った方がいいんじゃねーか」

 

「ううん。大丈夫です」

 

「おい、本当に大丈夫か? 」

 

「安心してよ。へーき、へーき……、ヘーキだから」

 

 

 私は適当な生返事をすると、その場から立ち去る。

 

 お気に入りだったのにしばらくこの場所は使えないなと一人考えながら、昼休みの残り時間、あてもなくふらつけば、時間だけは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺と、あともう一人で担当することになった。災害、水難なんでもござれ、人命救助訓練だ」

 

 気が付けばもう午後だ。

 

「中には活動を限定するものもあるだろうから、今回コスチュームの着用は各自判断で構わない。訓練場は遠いのでバスで行く、以上、準備開始」

 

 ワイワイと話しながら準備を始めるクラスメイトをしり目に、以前壊されたヘルメット以外のコスチュームをすぐさま装着してバスに向かった。

 

 声は訓練の時に襲われるとは言ったが、訓練のどのタイミングで襲われるかは明言していない。襲われるのは今であったとしても何もおかしくはない。そう考えた私はひたすらに周りを警戒する。

 

 一番にバスへ到着して、まずは、個性で感覚を拡張し、バスの下、周り、おかれている荷物などを見回った。

 

 エンジンやバッテリー以外で異常な熱源なし、バスの機械音以外は置き忘れた時計と車内にいる羽虫数匹以外に音を発するモノはないようだ。

 

 バスを確認した後、私は周りを再度確認する。

 

 近づいてくる人間は生徒以外はおらず、虫や小動物にも明らかに不審な動きをしているものはない。

 

 

 

 

 

「おっす本条、早いじゃん」

 

「実は緊張していたり、そんなわけねーか」

 

「……うるさい、気が散るから話しかけないで」

 

「きっつ! 性格きついぜ本条!!」

 

 

 上鳴君と瀬呂君の言う通り、私は今心臓が口から飛び出しそうなほどに緊張している。

 

 

 いくら警戒しても敵に私の五感でも気付かない個性があるといわれたらどんなに感覚を研ぎ澄ませていようが無駄だろう。

 

 そしてそんな話はこの個性社会で無数に転がっている。

 

 しかしいくら無駄だとしても、私が周りを警戒しない理由にはならなかった。

 

 

「よし! 皆! 出席番号順でスムーズに並ぶんだ!!」

 

「さすが飯田君、委員長フルスロットルだね……」

 

『ではいざ鎌倉、バスにのりこめー』

 

 

 肝心の声はいつもの雑談以外は何も話さない。

 

 

「しっかし増強型はシンプルかつ派手でいいよな。俺の硬化はタイマンなら自信があるんだけど、いかんせん地味でなー」

 

「僕はかっこいいと思うよ、プロヒーローにも通じるいい個性だよ」

 

「個性に詳しい緑谷大先生にそういわれると自信がつくぜ」

 

「えっ、そっ、そうかな」

 

『ずいぶん勉強したな、まるで個性博士だ……』

 

「私、思ったことはつい口に出しちゃうんだけど、緑谷君の個性、オールマイトに似てるわ」

 

「そそそそうかな!?、いやでも僕は、そのえー」

 

『でもただの個性博士じゃないよ! このデクはただの個性博士じゃないよ!』

 

 

 あぁ……、本当にこの声の使う言葉は奇妙で何一つわからない。

 

 私はバスに乗り込み、雑談に花を咲かせるクラスメイト達の輪には入らず、にじみ続ける手汗をぬぐいつけていた。

 

 

 いつ来るのだろうか。

 

 今? ここでバスごと一網打尽にされるんじゃ……

 

 それとも授業中、先生の意識が分散した瞬間、私たちを襲う腹積もりなのか?

 

 

 私だけだ。襲撃を知っている私だけが何よりも先んじて動ける。動かなきゃいけないんだ。

 

 

「爆豪と轟、あと派手でいったらやっぱり本条か、これぞ増強型の上位って感じでうらやましいぜ」

 

 

 急に話しかけられて、外に警戒を向けていた私の意識が引き戻される。

 

 

「個性もつえーけど、性格もつえー、てかこえー。バクゴーを反面教師にもう少しかわいらしくいった方がいいぜ本条」

 

「……」

 

「無視!! 爆豪とは別方向でひでぇ!!」

 

「そういえば緑谷と爆豪と本条、同じ学校なんだろ、すげーなその中学、どんな教育してんだよ、力がすべての世紀末か?」

 

「おい根暗女、……あんときから個性を隠してやがったな」

 

「……興味ない」

 

「てめぇ……!!」

 

「個性“成長”はすごい個性だよ。単純な増強型では筋力が底上げされる場合が多いけど、彼女はそうじゃない。前回の屋内訓練の映像を見る限りじゃ、聴力、視覚、おそらくだけど嗅覚、触覚、文字通り五感のすべての機能が強化されていると考えていい。……いや、彼女の学力を見ると、まさか知識や技術も個性の範囲なのか? だとしたら、彼女はもしかして脳の処理速度や機能すら拡張している……? あの訓練中の体さばき、あの未来予測じみた動き。人の反射神経じゃ説明がつかないのはそういうことなのか……!! 彼女はプロヒーローが長年かけて掴む第六感すら、その個性で成長していく。なんて個性だ……! すごすぎる……!! いったいどこまで上限がある……? 弱点はないのか……、そうだ、八百万さんの個性による攻撃で怯んだ。成長し続けた感覚器官が仇となったと考えられるけど、それが弱点といえるか? いや、本条さんなら、その攻撃すら込みで成長していると考えた方が自然だ。なら倒すには対策されていない奇策や対応できないほどの高威力で一気に攻め落とすしかない、はは、そんな力押しをよりによって成長し続ける増強型相手に……? 彼女自身かなり慎重な性格だ。そうやすやすとこちらの思い通りには…………」

 

 

 

『バスの能力解説イベントが発生してクラス好感度が変動しましたね。

 

 個性オタクと化した主人公が個性を解説してくれます。この長文、ステータス画面で見れる個性の情報を網羅している上にそれ以上の解説もあります。

 

 なので、攻略情報にのっている個性の解説は緑谷の解説の丸写しです。

 

 つまりwiki=緑谷です。

 

 何だこのオタク!?(驚愕)

 

 しかも、同じような個性でも発言が微妙に違うので個性の分類も緑谷の発言を中心に割り振られています。

 

 もう、個性やヒーローに関する学者にでもなればいいんじゃないですかね……』

 

 

「おい、本条、緑谷が何時もの状態になっちまった、幼馴染だろどうにかしろよ」

 

「……きもちわるい」

 

「…………死のう」

 

「おい本条!! 誰がそこまでやれと言った!!!」

 

「緑谷ッ!? 死ぬなッ!!」

 

 

『いい機会なので今回使っている個性でも解説しましょうか(激遅)

 

 この個性がすべてを決めるヒロアカRTAで、今回使っている個性である「成長」

 

 ステータスの伸びが格段に良くなる効果があり、いくつかの脳筋御用達個性系統の一つです。

 

 スキルポイントや習熟度の補正もかかるので、初心者にもおすすめな有能個性ですね。

 

 ですが、実はこの「身体能力と成長にブーストがかかる個性」の系統、別に「成長」が最良個性ではありません。

 

 まぁ星4くらいです(FGO感)

 

 普通に完全上位互換がいくつもあります。

 

 私が実際引けたのでもっと強い個性は「適応」「改造」ですね。適応は今の個性よりも数段早く強化されていきますし、改造は幅広い良能力をガンガン付与できます。

 

 私は引けませんがSSR(アイマス感)のこの系統最良といわれる「進化」に至っては戦闘を長引かせれば、確実に相手の能力を上回れるチートです。

 

 なぜそれで走らないかといえば、毎回走るたびにリセマラを10時間かけてたらRTAどころじゃないからです(白目)

 

 まぁ、たとえその「進化」を引けても一周目縛りでは個性好きの悪方のおっさん(年齢不詳)は倒せませんので、RTAで無理に引く必要はないから安心してください。

 

 最速は神野編で(個性を)拒むことを知らない種壺野郎を倒すことですが、一周目で人力は不可能です。

 

 一周目攻略はTASさんの領分ですし、通常プレイでは周回マラソンが前提ですね』

 

 

 個性の話す言葉を暗記する。

 

 何時もなら、この狂人の戯言としか思えないような言葉の意味を考えながら、声にとってこの世界がどう見えているかを考える作業をするところであるが、今日の私にそんな余裕はない。

 

 

「もう着くぞ、無駄なおしゃべりはそこまでにしろ」

 

 

 着いてしまった。

 

 敵は必ずここに来る。

 

 心臓の鼓動が先ほどからうるさいくらい鳴っている。

 

「すっげーーー!! USJかよ!!?」

 

 バスから降りるクラスメイトに続く、降りたところに誰か人がいる。私はその人物の一挙手一投足を観察する。

 

 

「どうも皆さん、水難、土砂災害、火事、etc(エトセトラ)あらゆる災害を想定し僕が作った演習場です……、その名も(嘘の) (災害) (事故ルーム)

 

 

『当時は若く、デ○ズニー“シー”と聞いてディ○ニーAと○ィズニーBがあると思ってました(唐突な独白)』

 

 

「スペースヒーロー13号だ! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わー、私大好きなの13号!」

 

 

 どうやら敵ではないらしいと気付いて警戒を解く。周りのみんなに合わせて、私も先生の前に整列した。

 

 

「えー訓練を始める前に小言を1つ……、2つ……、3つ……、皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール、どんなものも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 

 まだ敵は攻めてこない、いったいどこからくるというのだろうか。

 

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

「えぇ……、しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 

 この雄英のセキュリティを通り抜けてくる(ヴィラン)ならばイタズラ程度ではすまない。

 現に警備の薄くなるこの授業を把握し、狙い撃ちにしていることが相手が綿密な計画を立てている証明だ。

 

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく取り締まることで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 

 敵の目的は今考えたところで分らないので、考察はしない。問題は敵が無計画でないなら、こちらを制圧しうる規模の力を持って臨んでくる可能性が高いということだ。

 

 

「相澤先輩の体力テストで自身の可能性を、オールマイトの対人戦で個性を人に向ける危うさを……、それぞれ体験したと思います。この授業では心機一転! 人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 

 そもそもの話、なんで(ヴィラン)は今日ここで私たちが災害救助をすると知っているんだ?

 ヒーロー科の生徒という内部の立場、かつ個性を使用した私の調査でも、今日救助訓練が行われるというのは予測にすぎなかったというのに……。

 

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

「かっこいい!」

 

「流石ヒーロー!」

 

 私の思考を遮るように、クラスメイト達の拍手が鳴り響く。

 

 

 が、私の感覚は拍手の中でソレの音を捉えた。

 

 

「そんじゃあまずは……」

 

 空気が一方に流れ込むような音、まるで唐突に別の空間をつなげる“扉”が生まれたとしか説明がつかないような異音だ。 

 

「ひとかたまりになって動くな!!」

 

 あちらこちらでどう見ても堅気には見えない格好の者たちが、空間にぽっかり空いた穴から顔を出す。

 

「13号! 生徒を守れ!!」

 

「なんだよアレ、もう試験は始まってるってパターンか?」

 

「俺たちの後ろから出るな!!」

 

「ヒッ……」

 

 その穴から覗く目を見て、私は誰にも気付かれないよう小さく悲鳴を上げる。

 

 

(ヴィラン)だ!!!!」

 

 

「……おいおい、せっかくこっちは大衆引き連れてきたのにさ……、オールマイトがいないなんてゲームが成り立たないだろ……」

 

 

 私は恐怖する。

 

 どうして(ヴィラン)という存在は揃いも揃ってあんなに異質な目ができるのだろうか。

 

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 途方もない悪意と憎悪を喜悦で固めたその目に私が腰を抜かして倒れこまないのは、ただ体が恐怖で固まっているからだ。

 

「13号! 任せたぞ!」

 

 その場の誰よりも素早く相澤先生は飛び出した。

 

 

『はい、敵連合が来ましたね。それでは通常ルートでの最善手を説明します

 

 通常ルートの場合、このUSJ編は何もしないことが最速です

 

 なにせ戦闘シーンが飛ばされるので本当にすぐ終わります

 

 といってもこのパターンはめったにありません。極端に能力が低いか、性格に臆病が入っている。または敵側のスパイとして潜入しているなどの特殊な場合を除き、ほぼ確実に戦闘に入ります。

 

 性格で臆病がRTAで強いのはこのように敵との戦闘イベントをごく低確率で避けてくれることもあるからなんですよね』

 

 

 正直に言うなら、声に戦えと言われなかったことに私はほっとした。

 

 あの悪意の中で冷静に敵を鎮圧する先生を見れば、プロヒーローと学生の格の違いが判るはずだ。

 

 私たち学生が何かできるわけがない。

 

「皆さん!! 避難をしてください!!」

 

 13号先生が生徒を逃がそうと誘導してくれる。

 

 情けないことに、逃げ出していいと聞いた瞬間に私の体の硬直は解けた。

 

 

 

 

『ですがそれは通常ルートの話で、トラウマルートでは話は別です。

 

 ホモ子には是が非でも、絶対に、確実に、戦ってもらいましょう』

 

 

 

「え……」

 

 

 私が呆然とした瞬間。

 

 

 

「逃がしませんよ」

 

 

 黒い霧が私たちの行く手を遮った。

 

 その異形の姿は全身が黒い霧に覆われ、目にあたる部分が不気味に光っている。その不定形が人型を伴って男の声を出しているからなんとか人間だと区別できるが、それがなければただの不気味な靄である。

 

「初めまして私達は敵連合(ヴィラン連合)。僭越ながらこの雄英に侵入させていただきましたのは、平和の象徴(オールマイト)に息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 

 とんでもない口上と共に、その霧は私たちを包み込むと瞬時にかき消えた。

 

 消えたのは霧だけではなく、隣にいたはずの何人かの生徒も消えて、私たち生徒は混乱に陥った。

 

 

『ンアーッ、来ましたね黒霧のワープゲート

 

 ここで飛ばされるか、飛ばされないかは完全に運です。

 

 飛ばされた場合は、その場の敵を殲滅、そこで遅ければ戦闘終了、良タイムなら中央広場の死柄木と戦闘に入ります。

 

 通常ルートでは飛ばされた先でスキル上げをおこない、時間を潰してイベント終了です。

 

 今回は残りましたのでまずは黒霧戦です

 

 テレパスなどの連絡系、ワープや高速で脱出できる個性以外は飯田の突破口を作るための黒霧戦からの死柄木戦というながれですね

 

 つまり、さっさと飯田を脱出させ、シガラキをパパパッとやって、終わりっ!』

 

 

「皆! いるか 誰が飛ばされた!!」

 

 私が呆けている内に飯田君が周りの状況の確認に努めている。

 

 そうだ、まずは現状を……、何がどうなっているか確認しないと……

 

 …………確認ってなにを? 

 

「散り散りになってはいるが、この施設内に全員いる」

 

 障子君が全員の無事を確認していた。

 

 そうだ、まずはみんながいるか確認しないといけない

 

 

『あー、ここで味方の位置を感知できたら経験値がおいしいのですが発生しませんでした

 

 ホモ子の個性なら8割ぐらいイベントが起きてたんですがね(屑運)』

 

 あっ……そうか、わたしもできたんだ。

 

 次……、次は何を……どう動けば……

 

 

「委員長、君に託します。君が学校まで駈けて伝えてください」

 

「しかし、クラスメイトを置いていくなど……、俺は長距離なら優っていますが、敵を突破するなら高機動な本条君の方が……」

 

 先生がこちらを見る。

 

 だが、私の表情を見てすぐに顔を戻した。

 

「……いえ、委員長、あなたが行きなさい、行きは僕がサポートします」

 

 私は思わず自分のしていた表情を触って確認する。

 

 ちがう、いまのはちがう、わたしも……

 

 

「行けって非常口!!」

 

「外には警報がある。外に出ちまえば追ってこれないはずだ!!」

 

「サポートなら任せて」

 

「お願いね委員長!!」

 

 そうだ。

 

 やれる。たたかえる。わたしはたたかえる。

 

 もうむかしとはちがう

 

「全く、手段がないからとはいえ、敵前で作戦を語る阿呆がいますか」

 

 そうだ作戦だ。

 

 飯田君を外に逃がさないといけない。私の個性なら敵を吹き飛ばすなりすればいい

 

 それに声に任せれば確実に敵を倒してくれるはずだ。

 

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」

 

 先生が指のハッチを開く、その瞬間、空気が、匂いが、熱さえもバラバラに分解してその指先に吸い込まれていく。

 

 常人には防ぐことも逃げることもできない、とんでもなく強力な個性だ

 

 

 あっ……

 

 

 私だけが聞こえた。

 

 あのズズズと空気が一方に流れ込むような音を私だけが気づいていた。

 

「13号、災害救助で活躍するヒーロー、やはり戦闘経験では他のヒーローより一歩劣っていますね」

 

 

 私が音に気付いてたっぷりと2秒後、先生の背中は分解されていた。

 

 

「先生ー!!!!」

 

 

 皆の叫び声が聞こえる。

 

 

 先生がやられた。

 

 プロヒーローの先生がである。

 

 頭の中が絶望に支配され、私はペタンと腰を抜かした。

 

 芦戸さんが全力で駆け出し、敵から先生を守るように身を置くのを私は震えながら見ることしかできない。

 

 あ、そうだ先生を助けないと……

 

 

「飯田ァ!!! 行けッ!!!!!」

 

 

 誰かがこの膠着を打ち破るように叫ぶ。

 

 その声に弾かれたように飯田君は走った。

 

「行かせるわけがありません」

 

 黒い霧は飯田君に向かってその霧を滑らせるが、黒い影がそれを遮る。

 

「行かせるんだよ!!」

 

 誰かが石畳の床を殴りつける。それだけで石畳は爆発したかのように弾け、すさまじい風圧と瓦礫を浴びせかけた。

 

「……危ないですねぇ」

 

 しかし霧はそれをするりと避けて飯田を追いかける。

 

 だがその一瞬の隙で障子君が追いついた。

 

「行け!!!」

 

 その上背と副腕によって霧を包み込むように押さえ込み、その動きを封じた。

 

「くそっ!! 邪魔だ」

 

 抜け出すのに手こずった霧だが、出た時にはもう遅い。飯田君はすでに敵を抜いている。

 

 それでもなお、追いすがる霧に麗日さんと瀬呂君は、とどめとばかりにとびかかった。

 

「理屈は知らんけど本体があるなら私の個性で浮かばせられる!!!」

 

「なるほど、な!!」

 

 麗日さんの個性で浮かび上がらせた敵を瀬呂君が捕まえ、引き寄せれば、相手は何の抵抗もできずに飯田君を見送った。

 

 

 彼らの足止めで飯田君は外に出ることに成功したのだ。

 

 

「応援を呼ばれる……、私たちの負けですね……」

 

 

 敵はそう一言悔し気に呻くと、空中に溶けて消えた。

 

 

 

『あれ、黒霧戦は飛ばされましたね。

 

 こういう時に限って珍しい方を引くとかどゆこと?

 

 トラウマルートでは戦闘の必要があるのに、二連続で戦闘スキップとか、そんな都合の悪い時に限って屑運を発揮させる走者の屑なんていませんよね(自己紹介)

 

 …………ないですよね』

 

 

 ひとまずの死地を逃れた彼らはお互いの安全を確認していく。

 

 先生を守った芦戸さん

 

 敵の足止めをした。障子君、麗日さん、瀬呂君

 

 それぞれの身の安全を確認され。

 

 最後に一番後ろにいた私に視線が集まる。

 

 皆、不思議そうな目をしていた。

 

 哀れみとか、蔑みとかじゃ決してない、ただ純粋な疑問

 

 麗日さんが無様に腰をついて座り込んでいる私に問いかけた。

 

 

 

「どうしたの本条さん?」

 

 

 唯一すべてを知っていた私ただ一人があの場で何もできなかった。

 

 

「えっ、うっ、うあ……」

 

「え?」

 

 

「うわぁぁぁぁああああ!!!!!!!」

 

 

「本条さん!?」

 

「本条!」

 

 

 気づけば私は這うようにみんなから逃げていた。

 

 驚くみんなを振り切ってただこの場から消えるために手足をバタバタと動かす。

 

 

 

 何も変わっていなかった!!!

 

 何も!!!

 

 ちょっと強い体を手に入れたからって、何一つ私の心は変わらない!!

 

 

 他人を犠牲に自分の小さな安全にしがみつく臆病者!!

 

 そしてそれすら直視できない卑怯者!!

 

 

 個性で心を強くする?

 

 

 何をそんな馬鹿なことを

 

 何年この個性と付き合っていると思っているんだ。自分を奮い立たせる虚言にしても、もっとまともな嘘があるだろう。

 

 

『いやいやいや、まさかありませんよね! そんな仮にもヒーローを目指すものが敵を目の前に闘わないとか!!

 

 そんなヒーローの屑いませんよねぇ!!!(走者の屑)』

 

 

 そうだ。私は怖いんだ!

 

 たまらなく怖い

 

 あんな悪意に染まった眼を見たら何もできない、あの暗い道で震えていた小さなころからずっとそうだ!!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

 前後不覚のまま私は立ち止まる。

 

 まるで長時間全速力疾走の体であるというのに大した距離も走っていない、先ほどの場所からは目と鼻の先だった。

 

 

 

「あぁ なんだお前?」

 

「えっ……」

 

「本条……? ……こいつの指に気をつ、………………いや、逃げろ!!」

 

 

 そこには腕を折られた相澤先生とそれを折る化け物、そしてその横にはワープゲートで見た男がしゃがみこんでいた。

 

 

「ひゃ……、あっ……」

 

「あ? 何転んでんだ? 」

 

 男もみんなと同じように心底不思議そうな目で私を見た。

 

「え?…………いや、おまえ……」

 

「ぅ……」

 

 

「まさかヒーローがヴィランにビビってんのか!!」

 

 

「うぅぅ……、ぅぅ……」

 

 逃げようとして足がすくんでさらに地面に小さくうずくまる

 

「ひゃははははは!! いいねぇ!! いや思ってたんだよ!! どのガキも流石雄英!! 見事に全員抵抗してきてさぁ!!」

 

 こちらを指さしてそいつは破顔する。

 

「あいつのいない間どうやってガキを殺ったか言う時よぉ…… 、みんな立派にヒーローとして殉死しましたじゃつまらないだろ? 一人ぐらい泣きながら許しを請って死んだみたいなやつがいた方がバラエティに富んで、あいつの反応がよくなると思わないか?」

 

 

 狂人の瞳、こちらの道理が一切通じない、そんな確信を私は経験から理解した。

 

 

「おもしろいなぁ……、我ながら良いゲームだ」

 

 

 男がゆっくりと立ち上がる。

 

 その時手をついた地面がさらさらと崩れ去っていた。

 

 

「本条!!!! 逃げろ!!!!」

 

「脳無」

 

 

 一切のためらいなく、怪物に相澤先生のもう片方の腕がへし折られた。

 

 

「ひぁ……」

 

 

 私は間抜けな声を出しながら、腿のあたりに生温かい液体が伝うのを感じた。

 

 こわい、こわい、たまらなく恐ろしい、こんなひどいことを他人に対して平気で行える存在が理解できない。

 

 

「じゃ、ゲーム開始だ」

 その時、ゆっくりとこちらに近づこうとする男の横で空間が歪んだ。

 

 

「死柄木」

 

 

 その黒い霧が男の横ににじみだす。

 

 それは先ほど戦った……、戦っているのを見た敵だ。

 

「よぉ黒霧、13号はやったか!」

 

「行動不能にはできたものの、生徒の一名に逃げられました」

 

 

「…………、は? ……はーーーー、……はぁぁぁーーー」

 

 

 がりがりと自分の頸を掻き毟るその不気味さに私はさらに恐怖した。

 

 

「せっかくいい気分だったのにさぁ……お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ……、ゲームオーバー、今回はゲームオーバーだ! あーあ、帰るか」

 

 

 帰る。

 

 もしかして助かった……?

 

 

「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでも……」

 

 

 あっ

 

 

 私は敵が迫る1秒後の死を予感した。

 

 

 

 

「へし折って帰ろう」

 

 

 

「ホモ子ォォォォォオオオオオ!!!!!!」

 

 

 突然、私と敵の間に破砕音を響かせながら大きな壁が現れた。

 

 背中越しに、敵の指が目の前の彼にゆっくりと近づいていく様子が見える。

 

 

 いや、手はもう彼に触れていた。

 

 

 コスチュームが分解されてすぐにお腹、敵の腕がずっぽりと突きささる。

 

「逃げろ」

 

 彼はそれでも既のところで身をひねって敵の手を払いのけると私を見てそう言った。

 

 

 ●●君のお腹が破れて、真っ赤な血が噴き出す。

 

 ゆっくりとうつ伏せに倒れた●●君のお腹から真っ赤な血がどんどん広がっていく。

 

 

「あーあー、まっ誰でもいいか、はいはい、ゲームオーバー、さっさと帰ろうぜ、たくとんだクソゲーだったぜ」

 

 

 

 

 

 

「なにがゲームだよ……」

 

 

 

 

 

 腹の中に熱湯をぶち込んだように臓腑が熱い、頭が強くしびれて目の奥が痛い、筋肉の震えが逃げ場を失い息をすることさえ満足にできない。

 

 

「あ?」

 

「人が精いっぱい生きてるのにそれをゲームとか面白いとおもってるの?」

 

「なんだコイツ、急に? ゲームのザコキャラのくせに」

 

「答えてよ……」

 

「あぁ、最高に面白いよ!! 高レベルで低レベルを蹂躙するって面白くないわけがないだろ!!」

 

「あのさぁ…………」

 

 

 

 私が敵意を相手に向ける。

 

 まるでそれがトリガーになったかのようにあの感覚が来る。

 

 以前よりはっきりと伝わる。手足が何者かに操られる感覚、その意図をより深く、頭の奥、脳の真ん中にある別の器官で理解した。

 

 

 

 

 

「私は!! 現実をまるでゲームみたいに扱う奴が大っ嫌いなんだよ!!!」

 

 

 

 

 いつもの自分と違う、一致しているんだ。

 

 

 目の前のこいつを最速で

 

 

 

 ……殺したい。

 

 

 かつてないほどに私の気持ちと声の意志が溶け合っている。

 

 脳の奥で何かが大きく成長していくのを感じる。とてつもない万能感だ。

 

 まるで未来なんて一つも恐れることがないと今の私は断言できる。

 

 

 沸き上がる喜色のままに出る言葉は自分のものとは思えない。

 

 

 

 

 

「ゲーム開始だよ……はいよーいスタート、なんてね……」

 

 

 

 

 

 




敵との戦闘中にセクシュアリティをカミングアウトするシュガーマンはホモの鏡

それに比べてホモ子ォ!!

はぁ~~~~~(クソデカため息)、自分の為に周りを犠牲にする覚悟もなければ、敵に立ち向かう度胸もないとか止めたら主人公?

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