個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア 作:ばばばばば
最近、ほんの少し学校が楽しいかもしれない……
こんなことを思ったのは何年ぶりだろうか。
『はい、もう友好度は4、目標まであと一息です
はえ~ここまでうまくいくとはやっぱりホモ子もホモだから男が好きなんすねぇ~』
「よぉ本条」
「……あっ、今日は来てくれた。毎日来てくれてもいいのに、あっ、ウソウソ今のは冗談」
「そりゃ毎日は無理だ。俺にはクラスでの付き合いがあるからな、お前もクラスでがんばれよ」
「だって私にはクラスの友達なんて一人もいないし……」
「悲しいことを自分で言うな」
「ううん悲しくなんてないよ! 中学から友達は一人もできない予定だったから、この学校生活で普通の会話ができる知り合いができて全然うれしいよ!」
「後ろ向きにポジティブだな」
人との関わりを絶っていた私にとって、声から許された。週に2、3回の、この時間は何より貴重なものだった。
正直毎日でも会いたいとは思うけど、彼の負担になるので心にとどめる。
私を迷惑に思って居なくなるかもしれないからだ。
こうして心操君とは何気ない会話を楽しむ仲になった。
だがこの関係を友達と言う勇気が、まだ私にはない。
「なぁ本条、もうすぐ雄英体育祭があるだろ?」
会話のさなか、彼は近頃学校で聞かない日がない雄英体育祭についての話題をむけてきた。
「みんなその話題でいっぱいだよね。普通科が引き立て役だの、サポート科の人が自分を売り込むだの」
「流石に本条でも噂を聞いたことがあるか」
「あっ、ほら私個性で耳がいいから、一人で暇なときは周りの雑談を拾ってラジオみたいに聞いたりしてて、それで聞いたんだ」
「……おまえ」
「あっ、盗み聞きは趣味悪いよね、ごめん」
「いや、あまりにも不憫すぎて……」
「うっ……、そ、それでその雄英体育祭がどうしたの」
学校の調査の一環でやっているだけで、それ以外の目的にはたまにしか使わないと言い訳したいができないのがもどかしい。
心操君の憐れんだ目を避けるため、私は無理やり話題を元に戻した。
「そうだ。雄英体育祭がもうすぐあるわけだが、……本条はどう思う」
「どうって……、正直いやだなぁ、でも全力でやるよ」
声が出るとなれば、穏やかに終わるという可能性は欠片もない。だが私は命令には必ず従うと決めていた。
「なるべく上を目指すのか?」
「もちろん目指すは1位だよ、やっぱり敵はヒーロー科だね」
「へぇ……驚いたな、普通科でそこまで思っている奴は少ないと思ってた」
うん、普通科?
「俺も同じ考えだ。俺だって機会がありゃヒーロー科のヤツらを喰ってでも上に行ってやる」
……そういえば、私は彼に自分がヒーロー科だと話したことはない
この勘違いはあまりよくないかもしれない、私は訂正する機会をうかがった。
「正直、ヒーロー科は化け物ぞろいだ。知ってるか? 雄英襲撃、敵の親玉を倒したのはたった一人の学生だぜ? 初めは俺も嘘だと思ったよ」
……嘘でしょ
「ヒーロー向きのいい個性を持って、そんな風にみんなの脚光を浴びて、まるでマンガのヒーローみたいだろ? いっそ、こっちとの差で笑えてくる」
心操君の目には深い嫉妬と悲しみが浮かんでいる。
ここでそのコミックから飛び出したスーパーヒーローは私ですと言えるはずがない。
どうするべきだろうか、正直に伝えることも難しい。
そう考えているうちに心操君がこちらを見て宣言する。
「だが俺はヒーローになる」
強い意志を込めて宣言する彼はぎらついていて、正の感情だけではなかったけど、私にとってはどこかきれいに映った。
「うん向いてると思う、心操君は困った人がいたら見捨てないし、私みたいなのにも声をかけてくれたもんね」
本当は素直に心操君がヒーローになれると言いたかったが、それは心操君の踏み入ってはならない部分だと考えて私はやめた。
「つっても、まずは体育祭でいい結果出さねぇとどうにもならないけどな」
彼がむき出しの感情を見せた時間は短く、あとは互いに普通の会話に戻る。
「……話してたらお腹減っちゃったね、ご飯食べようか」
「あぁ、俺まだ買ってないから、適当に買ってくるわ」
「私もまだだから、買ってくるよ!」
「だからそんなことしなくて良いって言ってんだろ……、しかたないし、一緒に買いに行くか」
「えっ」
一緒に買いに行って、ヒーロー科の人たちにバレないだろうか、もしかして他の科に自分を知っている人がいたら……
「別々に買いに行くつもりなのか? 逆になんでだよ」
「そ、そうだよね」
「なんだ、俺といるところを見られて噂されると都合が悪いってか?」
「そんなこと! 逆に私と一緒にいて心操君が変な噂されないかって」
「自意識過剰すぎるだろ、……いやそれは俺も一緒か」
しかし、せっかく誘ってもらった嬉しさに私は背を押されて、一緒にお弁当を買いに行くことにした。
「……お前は本当に俺を怖がらないよな」
「えっ何、急に」
購買へと続く廊下を歩きながら突然、心操君は私に問いかけてきた。
「洗脳だぞ。俺がその気になりゃ勝手に操られちまう。ふつう不気味に思ったり、身構えたりすんだろ。本当に分かってんのか」
「洗脳は使い方しだいですごく恐ろしいこともできる個性だと思う。自分の意志とは裏腹に勝手に体を動かされるなんて、すごく怖いと思うよ」
だったら、そう言いかける心操君の言葉を私は遮った。
「でも、心操君はそんなことに個性を使わないんでしょ」
「それは……」
心操君が何かを言いかけた時、目的の場所である購買から何故か人が飛び出してくる
「やべぇ逃げろ!! 個性事故だ!! 炎系の個性を持った奴の火が植物系の個性を持った奴にぶつかって大参事だ」
「はぁ?どういうことだよ」
「植物系の個性の奴の体から粉が噴き出して、みんなおかしくなっちまった」
「奥からさらに来るぞ!!」
「助けてぇ!」
『今回の友好度上昇時イベントは、幸運なことに戦闘系ではないようですね
なのでホモ子にお任せして余計な操作はフヨウラ!
ゴールデンひとしくん人形には己のトラウマである個性「洗脳」と向かい合って貰いましょう』
声の言葉に私は不吉な予感を覚えたので、心操君のすぐそばに控えた。
『というかその個性でヒーローに向いていないは無理があるでしょ
世の中には「屑個性でイク名前を出してはいけないあの方撃破RTA」もありますからね
個性「靴ひもが固く結べる」という屑個性で376周目でようやく完走した走者兄貴もいるんだから見習って?』
その騒ぎと共に、コンビニのように区切られた場所の奥から黄色い煙のようなものが漂ってくる。
その粉を目視で解析する。
3~5㎛、非常に変化に富み、特徴的で有機的なフォルムは生物由来の構造だ。
先ほどの人は植物系と言っていたがこれは菌類、おそらくキノコ、カビ、酵母、などの胞子ではないかとあたりを付ける。
『おまえ悪役っぽい個性だから嫌だとかR-18 Mod(非公式)を入れて「触れた相手を絶対発情」とか「絶頂時に世界が白く瞬く」とかいう個性を引いた兄貴の目を見て言える?
触れられたら絶対発情とかもう性産業か畜産業、研究で動物の交配を眺めるくらいしかできねぇぜ?』
「心操君、はやく逃げよう。あの煙は胞子、口を濡らした布か何かでふさいだ方がいいよ」
購買の中にいる人達は何故か外に出ずウロウロとしている。
「ウィヒヒヒヒ、スゲェぞ! 空を飛んでる!!」
「神のお告げが聞こえる!! 神が私にこの学校の王になれと言ってるわ」
「なに!? 俺はそんなこと言った覚えはないぞ!!」
「アハハハッハ。宇宙が見える!! 興奮してきたぞ……」
煙のせいだろうか、どう見てもまともな様子には見えない。大変な状態ではあるが、助けようとしても二次被害に遭うだけだ。
煙は購買内部を埋め尽くしているが外に出れば風で少しづつ霧散していく、先生を呼んで待つしかないだろう。
「どうやら吸うと危ないみたいだよ、逃げようよ」
「……………まずいな」
「どうしたの心操君?」
「……本条、俺は中に行く。説明している時間はない、ここから離れろ」
「え、どうして? 別に心操君が行く必要は……」
その瞬間、なじみ深い感覚が体を支配する。
「ベンチの所まで戻れ、なに、弁当は俺が買っておく」
いつもの感覚に比べ、やわらかく包むそれは私の体の自由を奪った。
最近、心操少年に学校生活の楽しみが一つ増えた。
それはいつものベンチに座る少女との会話だ。
彼女は彼を決して恐れない。
しかもそれは無知からくるものではなく、自分の個性や性格を理解した上で肯定してくれる。
自分の欲しい言葉、認めてもらいたいこと、触れて欲しくないこと、相手はそれを知っているかのように彼が望むような返答をしてくれるのだ。
まるで相手が自分のことを見通しているようだと彼は感じた。
その心地よさに、彼は一欠片の恐れを持ちながらも、あらがえない。
あまりにも都合のよい存在に、彼は疑いの心を抱きつつも、また少女に会いに行くのだった。
(強そうな個性、ヒーロー向きだね)
(うん向いてると思う)
(心操君は困った人がいたら見捨てない)
(でも、心操君はそんなことに個性を使わないんでしょ)
彼にとってその言葉達は麻薬以上だった。
昔からずっと望みながらも結局、誰一人にも言って貰えなかった言葉。
干からびた心に、過剰なまでの甘さを含んだ言葉が彼の胸中に染みわたる。
もしかして自分でもヒーローになれるのでは?
彼は普段の自分なら想像することすら難しいそんな幻想を思い描く。
少女の態度はまるで彼がヒーローになることが当然だというような態度だ。
そしてそれはおためごかしであるとか、幼さからくる憧憬などではなく、彼女が時々見せる深い理性に富んだ機械的な目からまるで予言のように彼に伝えられた。
そんな風に言われた彼はある日、事件に遭遇する。
煙に塗れた購買の中心には体から煙を噴き出す学生と、その周りで狂騒に包まれる学生達。その中の一人に彼は見覚えがあった。
(ったく、気を付けてくれよな、俺の個性“チャッカマン”は驚いたり気持ちが昂ると火が出るんだぞ)
その男は何時か彼がぶつかった学生だ。
そしてその個性を思い出した時、彼は不吉な予感がよぎった。
「アハハハッハ、宇宙が見える!! 興奮してきたぞ……」
例えばだが、もし彼が今、興奮して火を噴いたらどうなる?
可燃性の粉塵、着火源の生徒、購買という閉鎖空間に満ちた酸素。
三文小説にもたびたび出てくるこの現象はなぜこんなにも多くの創作から愛されるのか
なぜならそれはいとも簡単に引き起こせるからである。
「……本条、俺は中に行く。説明している時間はない、ここから離れろ」
「え、どうして? 別に心操君が行く必要は……」
彼は自分の個性を発動する。
「ベンチの所に戻れ、なに、弁当は俺が買っておく」
彼女はもはや何も言い返さず、今まで来た道をふらふらと引き返す。
それを見届けて彼は大きく息を吸い込み、購買へと駆け出した。
周りの野次馬を退かして購買に乗り込む。
その野次馬もどこか興奮した様子で、まともな様子でない。胞子の影響を受けたのは一目で分かる。
彼はまずいつかで会ったチャッカマンの個性の生徒に話しかける。
「すげぇ、吹き上がりそうだ……もう我慢できねぇ……」
「何が吹き上がるんだ?」
「そりゃ俺の真っ赤な火さ!!」
「すぐにここから離れて近づくな」
そう言われた彼は、まるで弾かれたように購買から走り出す。
息を節約するためになるべく短い言葉で洗脳をかける。
ひとまずの安全を確保し、次に彼は騒ぎを鎮めるために元凶へと向かう。
体に袋のような器官を大量に付けた彼は、その袋を振り乱し、粉をまき散らしながら絶叫していた。
「あぁ!! 火が俺の体を這いまわって!? あぁぁ!!!」
この個性、とてつもなく強力ではあるが、どうやら彼の個性は自身には効かない都合のいい個性ではないらしいと心操は気づく。
「大丈夫か?」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
しかも混乱のあまりこちらの言葉が通らない、これでは洗脳が通じない。彼は少し考えて言い放つ。
「おい! 無視するな!! テメェを胞子ごと燃やすぞ!!」
「ヒぃッ!! やめてくれ!!」
「今すぐ個性を止めて、換気しろ」
彼の洗脳にかかればピタリと怯えるのを止め、まるで何事も無かったかのように購買の窓を開きに歩き出す。
彼も息が続く限りそれを手伝った。
ようやく事態が鎮静し、煙が薄くなり始めた時、胞子を吸った者の多くは正気を取り戻し始める。
彼はこの場でただ一人だけ現状を把握し、多くの人命を救いきった。
まさにヒーローと言っていい活躍だ。
「なんだこれ? 何の騒ぎだ?」
「いやなんか、個性を暴発させた奴がいるって」
「おいおい、高校生にもなって勘弁してくれよ、メシ買えねーじゃん」
「うえー粉まみれで気持ちわるーい」
あれだけ危ないから離れろと言っても集まった野次馬に彼は辟易としながらも、彼は洗脳を解いた。
気が緩んでいたのだろう、何時もの彼なら防げていたミスだった。
「ひっ!? お前が俺を操って!! よ、寄るな!! オレのそばに近寄るなああーッ 」
「なッ!?」
洗脳していた胞子の彼は、彼自身の個性で最も胞子の影響を強く受けた者であると彼は失念していたのだ。
怯え切った彼は罵声を浴びせかけながら、もう一度個性を使う気のようでその体についた袋状の器官を大きく膨らませている。
彼の判断は素早い。
「なんだお前? もう一度俺に燃やされたいのか?」
わざと煽るような言葉を吐き出すと相手の動揺を誘った。
「やっ、やっぱりお前が、俺を燃やそうと」
「そのまま個性を使わず、外の広い人気のないところで落ち着くまで突っ立ってろ」
そう言われた瞬間、男は踵を返してその場から消えた。
彼は何とかさらなる被害を避けたことに安堵し、ため息を一つついた。
「おい、犯人ってアイツなのか?」
「えっ……?」
彼はこの場でただ一人だけ現状を把握し、多くの人命を救いきった。
まさにヒーローと言っていい活躍だ。
「見た限り、あいつがあの生徒を脅して個性使わせたんだろ?」
だがそれを知っているのは彼だけ……、彼一人だけだった。
「えぇ……なんでこんなひどいことしたのよ」
「あれ? でもこれってさっき逃げた植物系の個性の奴の仕業じゃ?」
「あっ!? あいつ心操だ!! 個性が洗脳の!!」
「マジ? じゃあ、あいつが操ってこんなことをしたのかよ!!」
「ひどい……、信じらんない、何でそんなこと……」
「やべーやつじゃん」
「ヴィランかよ」
「洗脳なんて個性、まともな奴じゃないでしょ」
「きっと個性のせいで歪んじゃったんだろうね」
彼は自分が弁当を食べる前でよかったと心底思った。
でなければ彼は腹にあるすべてをこの場で吐き出してしまっていただろう。
強烈な吐き気、目がちかちかして立っているのがつらかった。
彼は必死に弁明の言葉を言おうとするのに喉どころか体の指先だって動かせない。
彼は心の中で叫ぶ。
そんなことはしない
そんなことに俺は個性を使わない
頼むから俺の言葉を信じてくれ。
俺はそんなことのために個性を使ったことなんてないんだ
信じてくれ……頼む……、頼むから……
「頑張ったね。もう大丈夫、私の手を握って」
倒れ込みそうになる彼に温かな手が触れる。
彼女は大きく息を吸い込むと、信じられないほど大きな声で叫んだ。
「心操君は絶対悪くない!! むしろヒーローだ!!! 個性で勝手に決めつけるお前らの方がよっぽどヴィランなんだからな!!」
離れた彼らの耳にさえ、耳元で直接怒鳴られたと感じるほどの大声は、彼女に耳を押さえられていると言えども心操少年の耳に大きなダメージを与えた。
その衝撃にその場にいる全員の意識がそがれ、再び顔をあげると自分より大きな男の子を担いだ少女はその場から瞬時に掻き消えていた。
彼が強烈な風と重力から解放された時、そこはいつものベンチだった。
「大丈夫だった?」
「……耳が痛くて全然、大丈夫じゃねぇ」
「ご、ごめん」
「……なんで来たんだよ、来るなっていっただろ」
たくさん言いたいことがあったはずだが、彼はそんな当たり障りのない言葉しか話せなかった。
「洗脳が解けて、急いで戻ろうとしたら、購買の中にいた人が走ってきてね。多分心操君の個性だろうなって思って肩を叩いてみたら急に怒り出して火を噴いてね。多量の粉塵と炎で心操君が何を守ろうとしたかピンときたんだ」
「……だから何だよ」
自分の意図に気付いてくれる人間がいた。彼はそこまで考えるが、それがどうしたと自嘲する。
ヒーローになれるのではと調子に乗って、その挙句の果てに起きた結末。
彼の中では後悔と絶望に塗れていた。
「すごい!! ヒーローだ!! って思った。頭がどれだけ優れていてもダメだね、その発想力は流石心操君だなって」
だというのに目の前の少女はまるでそんなことは知らないとばかりに、一人まるで感動したかのようにこちらをキラキラとした目で見つめてくるので、彼にとっては針の筵だった。
「発想力……? もっとマシな頭持ってたらあぁはならないだろ」
「ああいう時は何を言っても無駄、逃げるが勝ちだよ。確か、れすば? 口喧嘩では『最後にクソを投げつけた方が勝ち』なんだって」
「なんだよそれ、意味わかんねぇ……」
「とにかく、心操君はすごかった。うん、あの振る舞いはまさにヒーローだよ!!」
惨めな自分をそれでもヒーローだと言い張る彼女に、彼の心はもう耐えきれない。
「うるせぇ!!!!」
その声は怒りというよりも悲鳴だった。
いつもなら、こういう時すぐさま身をすくめる彼女は何故か何も言わずに彼を見つめ返す。
「きっと心操君はヒーローになりたかったんだね」
全くもって前後の会話がつながらない少女の言葉は、しかし彼の核心を抉った。
「好きなことに手を伸ばしたいのに、どうして素直になれないんだろうね」
「……なにいってるんだよ」
彼は分からないふりをした。
「その個性、すっごく強いと思うよ、心操君が望めばヒーロー科にだって編入できると思う」
少女の言葉で、彼の中でドロドロとした塊が自分との意思と関係なく一気に流れ出そうとする。
「だから何を……」
それでも彼は、分からないふりをしようと努めた。
「あっ、ヒーロー科に行けるっていうのは個性とか関係なくて、誰かの為に動ける心操君は私と違ってヒーローに向いてると思うから」
だがそれも限界だった。
「心操君はきっといいヒーローになるよ」
なにも言い返せない彼はただ力なく座り込んだ。
こんなとぼけた奴に自分が見透かされたのだと思い、腹を立てようにも腹が立たない。
それが何より腹立たしかった。
「正直むかつくんだよ」
「……」
「初めからそうだ。いきなり話しかけてきたかと思えばいきなり訳知り顔でずかずかと、俺と友達になりたい? 俺がヒーローに向いてるだ?」
「……うん」
「お前に俺の何がわかるって怒鳴りちらしそうだったよ、そんなこと赤の他人になんて言われたくねぇよ……」
「…………大変だったね」
「ずっと悪者扱いだった。この個性のせいで、いっつもヒーローごっこでヴィランをやらされた」
「……私もね、いつも悪だよ。でも心操君はヒーローの子を立ててあげられたんだ。すごいよ」
「会話が個性のトリガーだってばれたらイジメられて学校で無視された」
「……そんなことがあっても心操君はイジメた人に個性を振るわなかったんだね」
「こんな個性でも悪い奴じゃないって必死にいいヤツを演じてたら、怒らせてやろうってふざけたゲームで殴られた」
「……わたしは、ふざけたゲームに巻き込まれて良い人になんてなれなかったよ」
「俺の力を利用しようとする奴らがいた」
「うん……でも利用されなかったんだよね、よく頑張ったね」
「やってもいないのに犯罪者扱いされた」
「……心操君は、……とちがって……、犯罪者じゃない、薄汚い犯罪者と一緒じゃないよ」
「おれだって、ひーろーに……、なりたかった……」
「うん、なれるよ」
いつの間にか彼女は彼のすぐ隣にいた。
ベンチに腰掛けて地面を向いた彼の横で彼女はやさしく背中をさする。
「間違いなく心操君はヒーローになれる」
「なんでそんなことがわかんだよ……」
「……だって、友達じゃない」
震えた声を出して地面を見る彼に対して、彼女はあえて空を見た。
心操君とかいう二次創作の使い勝手が良すぎる壊れ性能の飛び道具キャラ、嫌いじゃないし大好きだよ
だから勝手に設定盛っちゃったけど……、まま、えやろ、心操君は各SSでオリキャラみたいなもんやし(キャラへの冒涜)
今回急なラブコメ展開で正直(別作品過ぎて)笑っちゃうんすよね
さて……、ただ今より毒ガス訓練を開始する!!(唐突)