個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

15 / 45
9話 前編

 盛大なファンファーレと歓声。

 

 

 例年よりさらに賑わいを見せるドームには数えきれないほどの人がいた。

 

「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!!!」

 

 例年なら1年の競技種目にこれほど人が集まるのは珍しい、そしてそれにはもちろんそれだけの理由がある。

 

「どうせてめーらこいつら目当てだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、ヒーロー科!! 1年!!! A組いぃぃぃ!!!!!」

 

 人々の歓声が上がる。

 

 1-A、最近のニュースでも連日取り上げている雄英襲撃事件。

 

 教師が負傷した中、生徒達のみでヴィランを撃退したという、そのキャッチーな情報は人々の想像を掻き立たせた。 

 

 

「選手宣誓!! 1-A ヒーロー科代表!!」

 

 

 その1-Aの中でも最も優秀な生徒が宣誓を行う、人々の関心は否応にも高まった。

 

 だが出てきた人物を見て皆不信に思う。

 

 なぜなら出てきた人物はボディラインから女生徒だとなんとかわかるがそれ以外の一切を隠していた。

 

 武骨なヘルメットにとって付けたようなふざけたマスコット、長袖長ズボン、裾に手まで覆い、己のシルエットを隠しているのは、この雄英体育祭であまりにも奇妙に映る。

 

 

「おーっとこれはどういうことだ!ちょっと確認するぜ!!!」

 

 

 実況も務めるボイスヒーロープレゼントマイクは、マイクに音が入らないように気を付けながら横に座る同僚に問いかける。

 

 

「え? まじでどういうことだよお前のとこの生徒」

 

「……少し前に、高校の体育祭行事が全国に放送されるということは、学校内の活動をはるかに超えることであり、肖像権の侵害にあたるという文面の書類が内容証明付きで送られてきた。それと同時に、顔を隠すようなものを身に着けさせろとあいつが乗り込んできてな」

 

「えぇ……、どうしたんだよそれ」

 

「雄英体育祭は現在の日本における著名な一大行事であり、その選手と位置付けられる生徒の顔が映ることは大会の報道という公共目的であるためだと却下した」

 

「いや、でも今つけてるじゃん」

 

「向こうは話してみて説得は無理と悟ったんだろう。次は今後ヴィランと接触する上で、雄英体育祭での報道カメラで顔が割れることが、今後の自分のヒーロー活動に支障をきたす可能性があるので顔を隠すのを認めろと言ってきた。俺は確かに合理的な判断だと思って許可しただけだ」

 

「それ、お前もカメラとかマスコミが嫌いだから許可しただけじゃないのか?」

 

「さぁな」

 

 競技の公平性が損なわれた訳ではないと分ったプレゼントマイクは再度マイクの電源を入れなおす。

 

「ウォホン! 確認の結果、どうやら代表生徒はかなり用心深く、公の場で顔を晒したくないようだァ!? 最近の学生は情報リテラシーもかなり高いみたいだぞ!!!」

 

 彼女は広い会場をかなりの速さで歩き切ると、息もつかぬままマイクに頭を近づけた。

 

 

「宣誓」

 

 

 その声は何故か、人の声から抑揚と個性を奪ったかのような間延びした機械音だった。

 

 

「声も機械音だ! そこまで情報の流出を抑えるかァ!? この用心深さが敵の襲撃を乗り越えた者の危機管理能力なのか!!」

 

「我々選手一同はヒーロー精神にのっとり、正々堂々と戦い抜くことを誓います」

 

「見た目の奇抜さに比べて、宣誓の内容はいたって普通だァ!!!!」

 

 

 少々の印象的な場面であったが、個性の塊である雄英高校ではこの程度のハプニングはハプニングとさえ呼べない。

 

 

 こうして一応の形は保って、雄英体育祭1年の部は開催された。

 

 

 

 雄英体育祭第一種目は“障害物競走”。

 

 

 その始まりは、たった一人以外は教師間の下馬評通りであった。

 

 

 スタートダッシュを決め、地面を凍結させて先頭に立ったのはNo.2ヒーローエンデヴァーの息子である轟焦凍。

 

 それに爆発の反動で飛び上がりながら追随するのは天性のセンスとタフネスを持つ天才マン、爆豪勝己。

 

 ヴィランの襲撃を体験した1-Aは障害に対して立ち止まる瞬間が短く、集団の中でも好タイムを出している。

 

 

「おぉ、やっぱり1-Aはいい感じじゃねーの、先生として鼻が高いだろ」

 

「……奴が見当たらないな」

 

「奴? ……あぁ、たしかに、どこにいるんだ。いいとこに居そうなもんだが」

 

「……」

 

 実況席にいるプレゼントマイクは、気になりこそすれど実況という役目があるため、目線を先頭集団に戻す。

 

「さぁこのロボインフェルノ!!! 一部の機動性の高い生徒は避けて通る!! 他の生徒は協力してロボを倒して進んでいくぞ!!!」

 

 相澤 消太は生徒に対する我が子かわいさというよりは嫌な予感を感じて彼女を探した。

 

 先頭の2人、それに追従するのは立体的な機動に優れた者達。

 

 だがその中にはいない。

 

 率先してロボを倒していく生徒達、この中にもいない。

 

 ならばロボの隙間を着実に進んでいる者達、この中にもいない。

 

 まさか最後尾付近だろうかと覗いてみるが、当然いない。

 

 それでは、いったいどこにいるのだと頭を掻きながらふと会場の目の前に視線を落とすとそこには倒れ込んだ人がいる。

 

 初めに行った轟の氷結でリタイアした生徒達かとも思われたが、よく見れば奇妙だ。

 

 まるで一塊になって倒れ込んでいる集団は轟の妨害攻撃から外れた場所で寝ている。

 

 その真ん中に見覚えのある姿があることに相澤は気づいた。

 

 

「……いた……」

 

 

 倒れ伏している生徒はある規則性があった。

 

 みな同じユニフォームであるはずであるがその衣装はバラエティに富み、何かを装着する金具やベルト、機械などが取り付けられている。

 

 それを見れば彼らがサポート科の人間であるとすぐにわかった。

 

 だが、彼らは倒れ込み、その中央には例の奴がいる。

 

 身に着けていただろうサポートアイテムを引きはがしてから一瞥して、すぐに地面にたたきつける。

 

 その一連の動作をまるで機械のように、よどみなく行い続ける。

 

「おっ愛しの教え子様は見つかったか?」

 

「……あいつ、マジか、……サポート科からアイテムをぶんどってやがる」

 

「は?」

 

 やっと目当ての物が見つかったのか、ある一つの機械を手に取ると瞬時に装着し始める。

 

 まるで自身が開発したかのように手早く操作すると、ようやく出口に向かって走り出した。

 

 

 彼女が奪い取ったアイテムは飛行を可能にするジェットパック。

 

 

 本来なら徐々に出力を上げて空中に浮かびあがり、障害物を無視して移動するというパフォーマンスをするつもりであったそれは、セーフロックなどはとうに外され、ただ推力を吐き出すだけのイカれた加速器にされていた。

 

 本来垂直方向に使うべきその力を彼女は体を真横に倒して疾走を始める。

 

 既に会場の出口は誰もいない。

 

 そんな人のいない道を彼女は滑走路のように駆け抜けた。

 

 あっという間で最後尾を追い越し、ロボットが集まる場所まで追いつくと彼女は、足を滑らせ、その背中を地面に投げ出す。

 

 

 正確には膨大なエネルギーで吹き飛んでいるというのが正しいはずであるが、どうやら彼女は手足を器用に動かし、そこでバランスを取ることができていた。

 

    

 

 

「なっ、なんて奴だぁー!!!! 先ほど正々堂々と言ったその舌の根の乾かぬ内に行われた極悪非道行為!!!! サポート科から奪ったアイテムを完璧に使いこなして一気に一位に躍り出た!!!!」

 

 

 最後尾から一条の尾を引いて伸びていく彼女は悠々と第一の障害を飛び越えると、体を半回転させてブレーキを行い、その着地間近にいた轟を踏み倒した。

 

 

「これが期待の超新星1-Aの首席の実力なのかっ!!! 自分自身の目的を達成するためには、手段を選ばない!!! まさに雄英新鋭のダークヒーローだぁ!!!!!」

 

 

 後はただ先頭を独走する姿を映すだけとなる。

 

 どの障害も関係なく飛んで行く彼女は、二つ目の障害も通り過ぎ、最後までそのジェットパックを使いつぶすと、三つ目の障害である地雷原の真ん中に着陸する。

 

 

「おおっと無茶が祟ったか!! アイテムが壊れたようだ!!ここからは慎重にいかな……、って一切の減速をしていない!!!」

 

 

 だが彼女は止まらない、まるで場所を知っていたかのように全力で地面を駆け抜け、最後は地雷すら利用しての大ジャンプを行って地雷原を駆け抜ける。

 

 

「爆風を踏み台にして飛んだぁ!!! もはや何でもありかこの女!!!! いつから雄英体育祭は曲芸サーカスとなったんだぁ!!!」

 

 

 結局、いち早く会場に戻ってきたのは彼女であった。

 

 

 雄英体育祭第1種目、1位 本条桃子(本人希望のため名前は表記せず)

 

 

 会場では彼女によってサポート道具を奪われた者が怒りで我を忘れながら詰め寄ったが、彼女はなにも気にした様子などなく、何か一言話すと振り返りもせず歩き出した。

 

 1位を取ったというのに歓声に一切の反応を返さず、次いで到着する選手たちを舐めるように観察し続ける彼女に一部の人間は薄気味の悪さも感じていたが、それでも会場は盛り上がった。

 

 悪趣味な言い方をすればベビーフェイスが多い、というより育成している雄英で、こんなにもあからさまなヒール役は、ある種の大衆の刺激でしかないからだ。

 

 あるいはその暴虐非道を尽くす彼女がヒーロー役に打倒されれば面白い。

 

 そんな身勝手な考えを聴衆は考えながら、雄英体育祭を楽しんだ。

 

 

 そして、二種目目の騎馬戦が始まればそんな大衆の望むような展開がすぐに現れる。

 

 

 騎馬作り

 

 1位1000万点の点数は、チームを作ることを躊躇させた。

 

 さらに言えば先ほどまでの戦いで彼女の印象は悪く、少なくともヒーローを志す他の者の目には好ましく映らなかったのは確かだ。

 

 

 そんな彼女は周りを一切気にすることはなく、すたすたと、たった一人の生徒のもとに歩いていく。

 

 そして一言二言言葉を交わすと、彼女は突如ヘルメットを外した。

 

 押し込められた髪が広がり、その素顔があらわになる。

 

 彼女は、ほんの一瞬外してすぐにヘルメットをかぶりなおす。

 

 その一瞬を偶然見た者が表現すればスレていない、素朴で人の好さそうな顔と表現していただろう。

 

 交渉相手の男子生徒はひどく驚きながらも、どうやらチームを組むことになったのか、なにやら話し合いをしながら移動している。

 

 何とか2人はチームを組めたらしい。だが異形型でもない2人では騎馬を作れない。

 

 まだまだ騎馬づくりに苦戦するだろう。

 

 

 

 そんな人々の予想はすぐにでも裏切られることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――HOMO's Side―――――――――

 

 

 

「雄英体育祭がんばってね桃子、はい、お弁当」

 

「気を付けてな、頑張るんだぞ」

 

「……うん、行ってきます」

 

 

 雄英に通っている時点で、両親は雄英体育祭のことは知っていたし、もちろん二人は仕事を休んで私を見に来るつもりであった。

 

 だがそれを全力で止めた。

 

 私がこれから何をするかを見て欲しくなかったからだ。

 

 直接見に来ることも、テレビで間接的に見ることも止めて欲しいと頼み込むが、それは逆効果で、両親は私が学校で何かあったのではないかとさらに余計な心配をさせてしまう。

 

 最近、両親は私をよく心配してくれる。

 

 雄英入学時当初は、まだそれでも私の自由にさせてくれたが、前回の雄英襲撃をきっかけにそれは完全に変わった。

 

 家から帰ってくると心配そうに学校のことを聞こうとする両親と、一切話さないどころか開き直って攻撃的な口調になる私。

 

 家の雰囲気は私のせいで酷いものだ。

 

 そんな中、私の学校の生活を知ろうと雄英に来るつもりの両親に、私は来ないでと筋の通らない話をするわけなのだから話は拗れた。

 

 

 どうして行っちゃいけないのかしら

 学校に何か嫌なことがあるのか

 私たちに見られるのが嫌なの

 何か理由があるなら心配せずに言ってみなさい

 

 

 私を見ないでください

 

 

 これ以上、言葉が思いつかない私はただ頭を下げてただひたすらに同じ言葉を繰り返す。

 

 

「わかった。ただよく聞いてくれ桃子、お父さんとお母さんはいつだってお前の味方だ」

 

「その代わり、当日は私の腕によりをかけた手作り弁当を持って行ってもらいますからね」

 

 

 そんなことをしていれば両親は悲しそうな顔で私を抱きしめながらも、最後は笑顔で雄英体育祭を見ないと約束してくれた。

 

 

 

「桃子、応援しているわよ!! 頑張って、でもケガだけには気を付けてね」

 

「緊張しそうなときは深呼吸だ。慌てずにいれば、きっと今までの努力を出すことができる」

 

 

 何の意味もない私でも、死んだら、この二人は悲しむから。

 

 この人たちの笑顔の分は生きねばならない。

 

 

 そのために、はやく、はやく、この時間を終わらせよう。

 

 

 

 

『友情は壊すもの。大乱闘くにお電鉄エアライドと化したヒロアカRTA Part9 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいやってきました雄英体育祭』

 

 

 今、私は選手控室にいる。

 

 

 皆好き勝手に過ごしているが、勝負の前だけあって、普段通りにふるまっているように見えて、皆がそれぞれの方法で気持ちを高めていた。

 

 

 目を閉じ精神統一を図る人、己の意気込みを語る人、雑談に興じて平静を保つ人。

 

 その中で、どうにも落ち着かない私は、手元にあるペイント付きのヘルメットに付いたマイクの位置を確認しながら平常心を保とうとした。

 

 

「緑谷」

 

 そろそろ入場の時間直前となった時、轟君が緑谷君に話しかける。

 

 もともと冷たい印象を受ける轟君だが、今日はそれに輪をかけて尖った雰囲気なので、気になった私はついそれを見てしまう。

 

 その普段とは違う様子に何かを感じたのか周りの皆も雑談を止めて二人を見た。

 

「轟君……、なに?」

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ!? う、うん……」

 

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別に詮索するつもりはねぇが……、お前には勝つぞ」

 

 

『目にかけて!目に!

 

 はい、この原作イベント、本来なら雄英襲撃で緑谷のワンフォーオールを間近に見た轟が、緑谷とオールマイトがデキてるんじゃないかと疑うことから引き起こされるのですが、ホモ子が緑谷の活躍を分捕ったので、会話の余波がこちらにも来ます。

 

 まぁ辻褄合わせのフレーバー程度に内容が変わるだけだから気にしないでください。

 

 まるで二周目でスキップするも、所々変わっている内容のせいで文章が止まるエロゲーのようだぁ……』

 

 

 轟君の宣言に、周りのクラスメイトがにわかにざわめきだす。

 

 

「おぉ、クラス最強格が宣戦布告か!?」

 

「急にけんか腰でどうした!? 直前にやめろって……」

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ、何言ったっていいだろ」

 

 

 轟君の目は剣呑な雰囲気で緑谷君を睨んだ。

 

 

 しかし仲良しごっこ、その意見には私も半分は同意する。

 

 仲良しごっこどころか、互いの個性を知り、対策も取られるだろう私たちは、最も厄介な敵同士だ。

 

 そんな相手に気を使う必要なんて微塵もなく、クラスの誰だろうが私の敵である事実は変わらない。

 

 

「それに本条、お前もだ」

 

 

 声の通り、轟君に絡まれる。

 

 その目は激しい怒りを持って私を刺すようにも見えるが、私でないもっと遠くの何かを見据えているようにも見えた。

 

 

「お前が強ぇのは認める。お前は俺の敵になる可能性がある。だからこそ俺は勝つぞ」

 

「轟君ってバカ? 自分以外が敵なのは当たり前じゃない」

 

 

 そうだ。ここに居る誰もが私より強い、ひとたび気を抜けば、勝利なんていとも簡単に私の手をすり抜けてしまうだろう。

 

 私は轟君の名指しをつまらなそうに装って横目で見ると、自分の手元に集中した。

 

 

「……眼中にねぇってか、その余裕、剥がしてやるよ。お前も緑谷もまとめて超えて俺がトップになってやる」

 

 私たちのやり取りで待合室は沈黙に包まれる。

 

「なんだこの空気? めっちゃ修羅場じゃん」

 

「……誰か収拾付けろよ」

 

 その雰囲気を全く悪い意味でぶち破ったのは、先ほどから青筋を浮かべながら笑顔を浮かべる爆豪君だ。

 

「あぁ……? 黙って聞いてりゃ、うるせぇな。言っておくが、テメェら仲良く全員俺の踏み台だ」

 

 

 私たちの会話を聞いていた爆豪君が喜色を我慢しきれないといったように歯をむき出す。

 

「案の定、バクゴーが行ったぁ!!」

 

「燃料と火種を兼ね備えた爆発さん太郎の参入で、もうこの場はどうにもならねぇ!?」

 

 

「すまんな。話で爆豪が抜けたのは、お前を無視したわけじゃねぇんだ」

 

「んだと……」

 

 悪気のない轟君の謝罪のような煽りに口論はヒートアップしていく。

 

「僕は」

 

 そんな中で、緑谷君が一人静かに呟く声が聞こえた。

 

 その声に強い意志を感じた私はついちらりと彼の方を向いてしまう。

 

 

「……轟君が何を思って僕に勝つって言ってるのかは、わかんないけど……、そりゃ客観的に見たら君の方が上で、僕は大半の人にはかなわない」

 

「あー、緑谷もそういうネガティブのは言わねぇ方が……」

 

「でも!」

 

 その一言で、その場の目線が緑谷君に集まる。

 

「みんな、他の科の人だってトップをねらってる……、僕だって後れを取るわけにはいかないんだ」

 

「僕も本気で獲りに行く!」

 

 いつの間にか口論を止めて緑谷君を見る二人はいつもは穏やかな彼が見せた気炎に驚いているようだ。

 

「……おぉ」

 

「……ッ」

 

 緑谷君の宣言に私自身気が引き締まる。

 

「……」

 

 勝利、何より大事なのは勝利だ。

 

 それもただの勝利じゃない、声は完膚なきまでの1位を宣言した。

 

 命令は絶対。

 

 クラスの誰だろうが私の邪魔になる人間は許さない。

 

 何を犠牲にしても私は勝つ。

 

 

 

 

 しばらくすれば時間になり私たちは薄暗い通路を抜け、光で見えない出口を抜けた。

 

 

 

 

 

「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!!!」

 

「どうせてめーらこいつら目当てだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、ヒーロー科!! 1年!!! A組いぃぃぃ!!!!!」

 

 人々の注目が私に集まるのを感じた。テレビのカメラだって何台もある。それらを通していったい何人が私を見ているのだろうか。

 

 ヘルメットの中でじっとりと嫌な汗をかきながら私は歩く。

 

 

「選手宣誓!! 1-A ヒーロー科代表!!」

 

 

 私は早歩きで壇上に上がった。

 

 

『雄英体育祭の宣誓は人に譲ることもできますが、他人の好感度を上げる必要なんて一切ないので自分でちゃっちゃと宣誓を終わらせましょう』

 

 

 雄英体育祭の1年の選手宣誓は例年ヒーロー科入試の首席が行うことになっている。

 

 私自身、そのような役目はやりたくなかったが、声いわく、2番目に優秀な爆豪君に宣誓をさせると他科の生徒から狙われる確率が上がるらしい。

 

 もし爆豪君がここに立ったとしたら、一体どんな宣誓を彼はするつもりだったのだろう。

 

「えっ、なんであの子、ヘルメットつけてんの」

 

「ヒーロー科はコスチューム禁止のはずじゃ?」

 

「不公平じゃね?」

 

「おーっとこれはどういうことだ!? ちょっと確認するぜ!!!」

 

 ヘルメットをかぶっている理由は、声に操られた私を見せればそれこそ放送事故なこともあるが、何より、自分の身元がバレるのが恐ろしいからだ。

 

 多くの目に晒されるという危険、そんな中で面白がる幾人かの目に留まってしまい、それが大きな流れになれば、個人の力では何をしようと無駄だ。

 

 なので、私は雄英体育祭の前で必死に相澤先生を説得して、顔を隠すための物を身に着ける許可を勝ち取っていたのだ。

 

 もちろん公平を期すために、私の戦闘服のヘルメットに似たこれに防具としての性能はなく、ただのハリボテに変声機だけ付けたものだ。

 

「ウォホン! 確認の結果、彼女のコスチュームは被り物みたいなものでむしろ邪魔にしかならないから安心してくれ!! どうやら代表生徒はかなり用心深く、公の場で顔を晒したくないようだァ!? 最近の学生は情報リテラシーもかなり高いみたいだぞ!!!」

 

 ざわつく観衆の目から早く逃れたい、その一心で抑揚なく文章を読み上げた。

 

 

「宣誓」

 

 

「声も機械音だ! そこまで情報の流出を抑えるかァ!? この用心深さが敵の襲撃を乗り越えた者の危機管理能力なのか!!」

 

「我々選手一同はヒーロー精神にのっとり、正々堂々と戦い抜くことを誓います」

 

「見た目の奇抜さに比べて、宣誓の内容はいたって普通だァ!!!!」

 

 

『ホモ子が何故かヒーロースーツの頭部パーツを付けてますね。

 

 実はこれはありがちなテクスチャバグで、雄英体育祭で稀によくなります。

 

 直前に装備した頭部装備が反映されますが、見た目だけなので性能は反映されません。

 

 クソ(バグ)だよクソ(バグ)、ハハハ!』

 

 

 まばらな拍手でも、この場にいる大勢がすればそれなりの音量となり、場の興奮は続く。

 

 

「さーてそれじゃあ、早速第一種目行きましょう。いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! さて運命の第一種目!! 今年は……障害物競争!! 」

 

 

『雄英体育祭第一種目はマリカー(障害物競走)です。ここで上位を取ることはそう難しくありません。

 

 かなり育った強化型なら普通にプレイして5位圏内は固いです。

 

 スタート位置はいつものランダムですが私はアイテム使用チャートで走るので、後ろ側の方が走りやすいですね。

 

 先頭の場合はそのままスタートダッシュを決められますが、全員好き勝手動きますので事故に気を付けましょう。

 

 真ん中スタートの場合は事故に気を付けて一度後ろに下がるか、それとも先頭に食いつくかはお好みで、まぁこの種目は結構簡単に1位を取れます』

 

 

「我が校は自由さが売り文句! ウフフ、コースさえ守れれば何をしたってかまわないわ! さぁ位置につきまくりなさい」

 

 

『ん?今何でもするって言ったよね?』

 

 

 声の支配はスタートと同時にくるだろう。

 

 自分が何かとつながる感覚、それが以前よりはっきりと知覚できるように成長している。

 

 私はスタートラインに詰めかける生徒たちの流れに逆らって少し後ろの一団と並ぶ。

 

 

 ここに居るのはやる気のない普通科の生徒や、企業アピールのために道具を整備するサポート科であった。

 

 敵になるだろう先頭集団は後ろから見ればその真剣さがよくわかる。

 

 

 その広く高い背中を見つめながら、彼らを追い越して私は勝たないといけないと自分を奮い立たせた。

 

 

 緊張はいつものことだ。

 

 吹き上がる汗と連続する拍動を無理やり押さえつけて自然体を心がける。

 

 

 大丈夫。落ち着いて。

 

 

 ここにきて一時、歓声が止む、前を見れば、皆は張りつめながら体を構えていた。

 

 

 気にしちゃいけない、私は私の戦いをする必要がある。

 

 目をつむりながら深呼吸を一つ。

 

 ヘルメットにこもった熱と湿度を吸い込みながら、さらに熱い吐息を吐き出すと私は目を開けた。

 

 

 このためにわざわざ作られただろうスタートシグナルが点滅を三回繰り返す。

 

 

 私の頭の真ん中を通る細い何かを伝って、私の体の所有権が切り替わる。

 

 

「スタート!!!!!!!!」

 

 

 私は姿勢を低く、飛び出した。

 

 

 

 なぜか後ろに

 

 

 

『はい、では初めに素早くアイテムボックスを回収しましょう

 

 アイテムを制するものがマリカーを制するんだよ!!』

 

 

 私は低い姿勢のまま自分の作ったサポートアイテムを身に着けているサポート科の人たちを殴りつける。

 

 

「ひっ!? や、止め」

 

「それは私の作った大切なアイテムなの!!! 盗らなっ、ウギッ……」

 

「おまえそれでもヒーロー……、おごっ……」

 

「ボ、ボクの作った努力の結晶……」

 

 

 自分よりアイテムを守る人、私に許しを請う人、身に着けたアイテムで抵抗する人、その全員を私は凌辱した。

 

 

『他人が苦労の末、手に入れた宝ってのはまた……、格別の味がするもんだ(安定という名のチキンプレイ)

 

 ………人がおれを何て呼ぶか教えてやろうか

 

 "ハイエナ"だ ハハッハハ!!!(唐突なBRM)』

 

 

 彼らサポート科にとってこの雄英体育祭とは自身を企業へと売りつける重要な場だ。

 

 その事実を直視しながら私はすべてを切り捨てる。

 

 

『アイテムは1つのみ使用可能です。

 

 なので目当てのアイテムが引けるまで回します。確率はここに居る全員を倒して確定で1つ落とします。

 

 いらないのが出たら捨ててすぐに次のアイテムボックスを引きましょう。

 

 オラァン はやく目的のアイテムおとせや!! それも一つや二つではない……! 全部だ!!!』

 

 

「あぁ……、チャージショット改四が……」

 

「私の跳人(ホッパー)ブーツVer1.43……」

 

「俺の電刃装甲“叢雲”をよくも……」

 

 

 

『ヒーロー科以外の科を攻撃するとその科の好感度が低下します。今回の場合サポート科の好感度は本チャートに必要ないので無視しましょう

 

 そもそもサポート科の強い武器を入手するには好感度上げのイベントやクエストの達成が不可欠なので、出身をサポート科で始める「変則編入アイテム乱用チャート」以外では無用です

 

 編入チャートはヒーロー科のイベントを無視できるのは強みでアイテムで己をガンガン改造していくのですが、個性をかなり厳選しなければいけないこと、やはり途中参加ゆえに能力が低目なこと、アイテムの使い分けで操作が難しいので私はやりません』

 

 

 その自身の価値を詰め込んだアイテムを取ったかと思えば地面に叩き付けて破壊していく私。

 

 その行動を流れ作業のように繰り返す。

 

 

『ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴ……あっ間違え……、あっ、出ましたジェットパック

 

 ………………このアイテム、連続で二つ出るの初めて見ました(ボソッ)

 

 さぁ! 妨害系は良いのが出ませんでしたが、ここでとれる移動系のアイテムの最上位がきたのでここで切り上げて進みましょう。

 

 リセマラが早く済んだので、今からなら余裕で間に合います』

 

 

 許しを願うことすら傲慢だ。

 

 

 彼らの夢を砕いた私は地獄に落ちるべきだが、それでも私は終わらせなければいけない。

 

 全てが終わった時、その時彼らが私に罰を望むなら、その時、私に出来ることはなんだってしよう。

 

 

 声がアイテムの選別を行うとすぐに翻ってドームの出口に向かう、人数に対して明らかに狭い出口は人が殺到していただろう。

 

 だが、遅れに遅れた今となっては人はおらず、貸し切り状態だ。

 

 背中の機械をまるで知っていたかのようにいじりだす私の手、ジェットの点火音が後ろから聞こえる。

 

 

 徐々に押されていく私は出口に向かって走り出した。

 

 

 ようやく外に出れば人は遠くに見え、そこから見えるのは小さな人に対しての縮尺が狂ったかのような巨大ロボ。

 

 いつかの受験会場で見た大小さまざまなロボが、歩く隙間もなくひしめいているのが見て取れた。

 

 状況を見るにどうやら今は協力して何とか道を切り開こうとしている様子がうかがえる。なら私も早く手伝って道を切り開かなければ。

 

 そう考えた時、身に着けたバックパック型のアイテムから背中越しにさらなる熱を感じる。

 

 低く唸るような音が、いつの間にか耳をつんざくような高音になる頃には、先ほどの比ではない力に押される。

 

 私は足は必死に動かすが、それでもまだまだ加速し続ける。

 

 

 これ以上は危険だ。

 

 

 その推進になんとか並走しながら走る私の足は、今にもつれて転倒してしまいそうだ。

 

 こんな速度で転んでしまったらただでは済まないのでは?

 

 そんな恐怖を感じている瞬間もお構いなしに加速は続いていく。

 

 

『「RTA」ってゅぅのゎ。。

 

 逆から読むと「ATR」。。

 

 FXにぉけりゅ銘柄の平均的な1日の値動きぃのことぉ。。

 

 もぅマヂ意味不明。。

 

 ぁり金、溶かしょ。。』

 

 

 

 ロボと戦っている場所に近づいていくと、遠くからロボが破壊されてマッチの先にも満たない小さな破片が飛んでくる。

 

 おそらく八百万さんの個性と思われる砲弾で倒した巨大ロボの破片だろう。

 

 加速した私と向かってくる破片はその速度が合わさって私の腹の一点を強かに打ち付けた。

 

 その小さな欠片の衝撃で体勢を崩しかけるが、上半身でうまく衝撃を逃がすと何とか持ちこたえる。

 

 転べばもはや大けがでは済むまいと私は確信した。

 

 あれだけ遠くにあったロボたちがもうこんなにも近く、目の前には巨大ロボが壁のように立ちはだかっているというのに進路を変える様子はない。

 

 まだまだ上がっていく背中の推進、私の足の限界、目の前に迫る壁。

 

 

 私の死を強く予感させた。

 

 

『ぁ、攻撃かすった。。

 

 屑運にぃぢめられた。。

 

 しょせんゥチゎィきてるぃみなぃってこと?

 

 もぅマヂガバ。

 

 今アイテムの電源ぃれた。

 

 マリカしょ・・・

 

 

 ブォォォォォォォォォンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwイイィィィイイヤッヒィィィィイイイwwwwwwwwwwwwwwwwwww』

 

 

 

 突然、私はかかとだけを前に滑らせる。

 

 後ろにひっくり返って転ぶように身を投げ出すが、頭を打つことはなく、膨大な前方へ向かう推進力を上方に逃して、私が空に射出される。

 

 強烈な圧迫感の中で、安定した形をとるために私の脳は体の傾きと推進を細かく演算し続けた。

 

 無様にバタバタと手足を動かす私だが、それは手足をミサイルの操舵翼のように細かく操作しているためだ。

 

 

『やっぱジェットはうめぇな(ダミ声)

 

 星の戦士DXのRTAでも使われているぐらい強力な能力ですからね。

 

 おっと、ちょうどいいところに、美形あしゅら男爵がいるので踏み台にしましょう』

 

 

「なっ、なんて奴だぁー!!!! 先ほど正々堂々と言ったその舌の根の乾かぬ内に行われた極悪非道行為!!!! サポート科から分捕ったアイテムを完璧に使いこなして一気に一位に躍り出た!!!!」 

 

 

 私は体をくるりと一回転させてブレーキをかけながら先頭を走っていた轟君を踏みつける。

 

 私は彼の肩をけって、さらに飛び上がって着陸すると、後ろを見ずにそのまま駆け出した。

 

 

『ここでお洒落キカイダーを叩けたのはうれしいですね。後ろから赤こうらや青こうら並みの糞攻撃を飛ばしてくる前に距離を離しましょう』

 

 

「これが期待の超新星1-Aの首席の実力なのかっ!!! 自分自身の目的を達成するためには、手段を選ばない!!! まさに雄英新鋭のダークヒーローだぁ!!!!!」

 

 

『それでは一位になった後の作戦は単純です。

 

 圧倒的な差でぶっちぎりましょう

 

 下位は下位同士で足の引っ張り合いをしてもらって、トップで独走するのが早いってそれ一番言われているから(マリカー理論)』

 

 

 

 私が本気で走れば、おそらく追いつけるのは知っている限り飯田君だけだろう。しかしそれも平面な地面であればと限定できる。

 

 障害物込ならどう考えたって私の方が速い。

 

 二つ目の障害である断崖絶壁に浮かんだ足場、そしてそこに張り巡らせたロープ。

 

 普段の自分なら、最短でも足場間の跳躍を6回、ロープ渡りを3回する必要があったその場所をたった一度の飛行で飛び越す。

 

 

『ここで後続が近いようならロープを切って妨害してもいいですが、ここまで離していればロスなので無視します。

 

 ジェットパックのエネルギー残量はマックスチャージで3回ちょうど使えるので残りは地雷原で使えばぴったりですね』

 

 

 3度目の跳躍を行う、それにより行われた一つのミスも許されない繊細な体の操舵の中で、私の体は声の予想を裏切り、突然その安定性を失った。

 

 その原因はジェットの出力だ。まるで切れの悪いコンロのようにとぎれとぎれに火を噴きだせば私の体はすぐさま重力につかまる。

 

 

『なに!? メインブースターがイカれただと!狙ったか八百万!よりによって空中で……クッ、ダメだ、飛べん!(水没王子)

 

 あー、なんか攻撃がかすったせいでぴったり3回分のエネルギーを貯めきれなかったみたいですね。

 

 このまま地雷原に着陸します』

 

 

 その一言でロボの小さな破片が私の体にぶつかったことを思い出す。もしやあの時どこかにあたっていたのでは。

 

 そんな考えは自由落下によって打ち切られる。

 

 尻切れトンボとなった最後のジェットの推進力を着地に回す。だがそのすべての衝撃は抑えきれず私の足にかかってしまう。

 

 声の動かす私は体をひねり、折りたたむように着地するとすぐさま立ち上がって駆け出した。

 

 

『はいはい、最後にガバる、そんな定めです。

 

 地雷の位置は固定なので、RTA走者なら目をつぶっても駆け抜けられます。

 

 ここの梁をダッシュで駆け抜けられない走者はRTAをやめてください(ダクソ芸人感)

 

 もちろん私も駆け抜けられますが、今回はホモ子の個性を使用して地雷を可視化しています。

 

 えっ? 何で見る必要なんかあるんですか(正論)ですって?

 

 ……しっていますか? 獅子はウサギを狩る時も、おっぶぇ!?』

 

 

 何故か地雷を踏みかけ、その瞬間大きく踏み込んで飛び上がる、爆風を背に受け加速した私は地雷原を抜けた。

 

 

『オ゛ッ♥ ヤッベ♥ 見てたのに踏みかけたっ♥ あ゛~っ♥ やっべ引退する♥ んほおぉ~♥ これ引退確定ッ♥ とぶっ♥』 

 

 

 

 そこまで来ればもうゴールはすぐそこだった。

 

 

 

「圧倒的!! 冷徹なまでに手段を選ばない!! あまりにもヒーローらしからぬ無慈悲な策略!!! しかしながらその相手を寄せ付けない後ろ姿には一本の信念が見える!!!!」

 

 

 過剰な煽りに会場は歓声に包まれる。

 

 私のした行いでどうしてあんなに盛り上がれるかは理解できない……というよりはわかりたくない。

 

 

「人気取り? 評判? 他者の評価? そんなもので私は左右されない!! 鉄の女!!!! 名と顔すら捨てた彼女は一体何者だぁ!!!!!」

 

 

 私はいつも周りに怯えているし、名前は捨てたわけではなく、ただ人の目に映りたくないだけだ。

 

 私はしばらく人の目に晒され続けるのをひたすらに我慢した。

 

 

「おい……」

 

 

 ふと気づくと後ろに頬をケガした男の子がいた。

 

 忘れもしない、私が襲ったサポート科の人だ。

 

「よくも、俺たちの体育祭を……、絶対に許さない……」

 

 

 正当な怒りだ。

 

 

 彼には私をどうにでもするだけの理由と権利がある。

 

 黙りこくった私に彼はさらに詰め寄る。

 

 

「他人を犠牲にして……、それで一位を取って……、てめぇ! それでもヒーロー志望かよ!!」

 

 

 私には言い訳も謝罪もする権利はない。

 

 

「恨んでいい、むしろ恨んでいてください、いつか私は報いを受けます」

 

「なんだよ、それ……、おい!!」

 

 

 私は背中を向けて移動を始める。

 

 時間がない、予選を通過する人たちの様子をみなければ、なぜなら次の敵は彼らだからだ。

 

 次々に生徒たちがゴールしていく。

 

 やはり予選通過43名は下馬評通りヒーロー科が多い、……それ以外ではサポート科が1人、普通科の生徒が一人だけだった。

 

 完走したみんなは、障害物競争の結果を聞いて何かを言い合っている。

 

 A組はそうでもないけど、B組には露骨に私を見て顔をしかめる人がいた。

 

 

 

 

 

「次はいよいよ本選、さーて、第二種目はこれ!!」

 

 

 

 そこには大きく“騎馬戦”の文字が示される。

 

 

 スクリーンに映る文字を見ながら、競技の内容はある程度の予想を超えていないことを私は確信する。

 

 毎年開催されている競技の傾向から、他者との協働の要素が近年の競技によくみられることは分っていた。

 

 1種目目はふるいに掛け、3種目目は個人による戦いが多いため、必然的に2種目目に協調性を見る種目が設定される場合が多い。

 

 この2種目目に協調を問われるパターンでは、前々年のチーム対抗棒倒し、4年前の球入れに見られるようにチームの編成も生徒主導で行われる可能性が高いだろう。

 

 私の人物評は下の下だが、それでも強い奴と組みたいという考えの人もいるなら仲間集めもこちらが優位に立てる。

 

 

「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 先ほどの結果ごとにポイントが割り振られ騎馬のポイントが違ってくるの!!」

 

 

 よし、やっぱり、これで比較的ポイントが高く強い個性を持つ人と組めば1位に近づける。

 

 いくら雄英と言えどもそう毎年同じことをしていればどうしても型にはまってしまうのだろう……

 

 

 

 

「ちなみに1位に与えられるPは1000万よ」

 

 

 

 ………ぷるすうるとら

 

 

「つまりは上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバルよ!!!」

 

 

 落ち着け……、これはそう悪い話じゃない、つまりは自分の点数さえ保持すればそれだけで1位だ……

 

 

『はい来ましたRTAによる全種目1位通過を阻止するクソ種目です。

 

 以前から全種目1位通過は難しいと話していましたがすべての原因はこいつです。

 

 説明しましょう。

 

 この第2種目“騎馬戦”の流れはまず、チームを編成、他者からチームに誘われたり、自分から動いて指名していくことになります。

 

 選択はドラフト制で、一回それぞれ交渉していくうちにどんどん他のチームが出来上がっていきますので有能な味方は第一巡で素早く確実にとる必要があります。

 

 一応は既に決まったチームの相手を引き抜こうとすることもできますが、その場合は基本的に成功率はほぼゼロです。

 

 交渉相手は自身のポイント・好感度によってチームに入ってくれるかが決まります。

 

 基本的には高得点は勧誘に有利に働きますが1位の1000万ポイントの場合、勧誘率は一部のキャラを除き減少します』

 

 

 私は声の淡々とした説明を聞きながら今の状況と照らし合わせてその先行きを理解した時、絶望しかける。

 

 

『みなさん、ここらへんで察してくれましたか?

 

 通常プレイなら、意図的に好感度を上げておいた仲間を使って戦うのがセオリーです。

 

 好感度……、RTA……、あっふーん(察死)』

 

 

 つまり、今、私の半径3メートルに誰も人がいないことが答えである。

 

 

『RTAにおいてこの騎馬戦のチーム決め、もしも1種目目で1位を取った場合に起きる現象は、教師による「はい二人組つくってー」以上の地獄です。

 

 誰も組んでくれずに適当に吸収されたチームでプレイしなければならず、吸収されたため主体的に動けず3種目目にいけるかは完全に運、純粋に1位を目指す場合は1000万点の鉢巻が狙われ続けるため、そもそもが高難易度です。

 

 解決策というか次善策は障害物競争でわざと順位を落として、2種目目で高ポイントを盾に良い仲間を取って優位を取り、1位は取れたらぐらいの気持ちで安定に徹する方法が現在一番早いと言われています』

 

 

 だがその時、声の操作で私の足が無遠慮に人を突っ切りながらたった一つの方向に向かって歩き出す。

 

 

『ここでは全種目1位に対して、様々な解決策やルートが考察されてきました。ですが今回私はあえてオリチャーを引っ提げてここにきているわけです』

 

 

 その人物はぎょっとした様子でこちらを向くと、普通の人なら睨みつけていると勘違いするような目を向けてきた。

 

 

「私の仲間になってください」

 

「はっ……?」

 

 何の脈絡もなく右手を相手の胸に伸ばす。

 

 口から垂れ流す無感情な言葉は変声機を通して少しはまともな音として目の前の彼に投げかけられる。

 

 まるで勧誘の意味を成さなかった言葉を言い終わった後、仕事はしたといった風に体から声の支配が離れた。

 

 

 残されたのは私と、私の言葉をゆっくりとかみ砕きながら不審気に目を細める彼。

 

 勿論こんなものでは説得にはならない、私は続けて言葉を言いなおす。

 

 

「あなたが勝利を望むなら、私はただその一点だけなら与えられるよ」

 

「勝利ねぇ、そりゃ願ってもない、……だが俺を選ぶ理由が分からないな」

 

 

 私は目の前の彼を誘いながらも、心のどこかで断った方が彼のためだと気付いていた。

 

 彼は私に関わらずただ自身の力で未来を切り開ける、それだけの力がある。

 

 だから彼が私の手を握る必要はない。

 

 おそらく声は勝利を与えてくれるだろう。逆にそれは悪魔の契約めいて、勝利以外の全てを失うことになるのではないかと、私はそう予感した。

 

 

「あなたとあなたの強い個性が必要」

 

「俺の個性ね……、わざわざ俺を誘うってことは知ってるのか、そんな良い個性を持っているのによく足元まで目が届くな」

 

「……どう?」

 

「1000万点なんて目立ち過ぎて無理だ。俺は俺でやらしてもらうよ」

 

 

 彼は正しい選択をした。

 

 その背中を見逃すべきだ。

 

 だけど私は勝手に彼に縋った。

 

 

「待って、お願い、仲間になって」

 

 

 もし彼が仲間にならなかったら私は勝てない、命令をこなせない、また不幸が起きる。

 

 そしたら、今までの犠牲もみんな無駄になる。 

 

 それはいやだ、やだやだやだやだやだ

 

 

 

 私は既にその場から去ろうとする彼の腕を後ろから引いた。

 

 

 

「なんで俺にこだわるのか分からないが、悪いが他を……」

 

 

 

 その時。

 

 私が彼を引き留めるために思い浮かんだ唯一の文句で、おそらく私が人生で発した言葉の中で最も最低な言葉を吐いた。

 

 

 

「……だって、友達じゃない」

 

「なっ……!?」

 

 

 

『つまりこういうことです。心操に洗脳で勧誘してもらってドリームチームを作ろうぜ!!』

 

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、媚びた目で彼を見た時。

 

 私は友情が崩れ始める音が聞こえた気がした。

 

 

 

 




はえ~、ホモ子と心操のコンビ

これは友情が深まるんやろなぁ~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。