個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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9話 中編(1/2)

 

 

『つまりこういうことです。心操に洗脳で勧誘してもらってドリームチームを作ろうぜ!!』

 

 

 私の顔を見て驚いた様子だった心操君は私の目を見てすぐに真顔に戻った。

 

 

「……とりあえずこっち来い」

 

 

 そう一言話して背中を見せる彼に連れられながら、私はヘルメットを被り直してチーム作りの集団の輪から離れる。

 

 一息ついて心操君が振り返ると私に語り掛けた。

 

「お前、ヒーロー科だったんだな」

 

「……うん」

 

「なんだよその声」

 

「ごめん、変声機使ってて……、切るね」

 

 彼の顔は険しい、当然だ。

 

 ヒーロー科を羨む彼の前で、そのヒーロー科の人である自分を隠していた。

 

 そしておまけに第1種目目の振る舞い。

 

 多くの人に軽蔑されただろう作戦は、彼の目にどう映ったのか。

 

 

 無言でこちらを見る心操君の目を、ヘルメット越しでも直視できなかった。

 

 

 

「はぁ、お前今酷い顔してんだろ」

 

 

 しばらく無言で向かい合うと不意に心操君がため息を一つつき、ひょいと私のヘルメットを両手で挟み込んで持ち上げる。

 

「あっ」

 

「やっぱりな、こっからが本番っていうのに勘弁してくれ」

 

 心操君に軽蔑されると思っていた私は、ニヤリと口角を吊り上げる彼に面食らう。

 

「え……、あ……」

 

「おいおい、俺に勝利をくれんだろ?」

 

「……その」

 

「組むんだろ? なのに誘ったお前が何驚いてんだよ」

 

 その一言を聞いた時、私の頭は真っ白になる。

 

「なんで……」

 

 そんな言葉が浮かんで口につく、心操君と組むために声をかけたのは私なのにおかしな話だ。

 

「一つ、普通科の俺とまともに組んでくれる奴なんて居ない。二つ、いちいち命令しないと動かない騎馬よりは自分で考える奴の方が動きがいい。三つ、俺の個性を知っている奴と連携がとりやすい。お前と組むメリットの方が多かった、それだけだ」

 

「……私かなり評判悪いよ」

 

「悪名だって誰にも見られないよりましさ。俺だって、他人を操り、足蹴にしてここまで来た。なりふり構ってなかったのは同じだからな」

 

 ろくに言葉をしゃべれない、うつむく私に彼は大きく一度咳ばらいをする。

 

「で、これからどうする。俺は目立たないやつを洗脳して騎馬を作ろうかとも思ったんだが、作戦はあるのかよ」

 

 

 当然のように同盟を受け入れてくれる心操君に私は泣きそうになった。

 

 

『はい! ではこれからこの騎馬戦における本チャートの攻略法をお伝えしましょう』

 

 

「……心操君、私にほんの少しだけ時間を頂戴」

 

 

『はいそれでは雄英体育祭第二種目騎馬戦の攻略法をお伝えします

 

 本来なら目当ての学生の好感度を事前に上げておき、この種目で狙い撃ちにして攻略するのが通常プレイですね

 

 おおよそ好感度が5以上あれば確実に取れますし、他のチームに引き抜かれても奪い取れる可能性があります

 

 通常RTAでここは1種目目をあえて落として仲間づくりに専念すると伝えたと思いますが、今回は変則オリチャーで標的を心操に定め、彼の個性で仲間を作って行くことが可能です。

 

 よっしゃ! ならドリームチームは爆豪、轟、緑谷の主人公組から適当に選ぶんや!!

 

 とりあえず強いやつ入れとけば勝てるやろ!

 

 ……とはならないのが面白いところなんですよね

 

 私も周回プレイで無理やり好感度を上げて一度やってみましたが、この3人、勝てるは勝てるんですが個性が強すぎてまとまりがなかったです

 

 この騎馬戦、個々が強くても個性がかみ合わなければそんなもんです。

 

 この騎馬戦の攻略法とは強い個性の仲間で固めることではなく、相乗効果のあるキャラ同士を組み合わせることなんですよね。

 

 どんどんとチームが作られ、限られていく選択肢の中で、どの組み合わせが強いか、しっかりと覚えておいてそれを臨機応変に組み立てていくのが一番重要です。

 

 原作の障子の副腕に覆われた峰田と蛙吹、上鳴と八百万の放電と絶縁、このように例を挙げればわかり易いですかね

 

 勿論、原作外でもこのようなコンボは無数にあります。

 

 砂糖、凡戸、障子の鉄壁脳筋重戦車、圧倒的耐久力と高所から繰り出す一方的な簒奪ができます。これは自分で脳死プレイしていて一番楽しいです。

 

 泡瀬や凡戸による鉢巻を首に固定し、奪取攻撃を無効化する小技、これは5回鉢巻を狙われると審判から解除するよう警告があるので実質、攻撃無効の5枚積み。

 

 とりあえず攻撃で勝ちたいなら、常闇と黒色の暗黒コンボはダークシャドウに黒色を潜ませて適当にラジコンすれば勝てるのでお勧めです。

 

 逃げ切り型でおすすめは物間に麗日の個性をコピーさせ、互いと仲間を浮かせて、機動力に優れた飯田あたりなどを適当に見繕って戦う超絶高機動騎馬ですね。

 

 では今回はどの騎馬を選ぶと言いますと……』

 

 

 私は声の指示した名前をそのまま心操くんに伝えた。

 

「仲間にしたい人たちなんだけど、あの人とあの人、彼らがどうしても必要なの」

 

「あいつらか? もっと体格のいい奴の方が……」

 

「あの人たちがいい、ううん、あの人たちじゃなきゃダメなの」

 

「……分かった。なにか考えがあるみたいだな」

 

 

 心操君が声の指示通りに目当ての二人を連れてくる。

 

 連れてきた彼らの個性を解説しながら、自分の知る限りの情報を心操君と共有する。

 

 

「改めてよろしく心操君、私の個性は“成長”。あらゆる身体機能に対する増強系って考えてくれれば間違いはないよ」

 

「ぶっ飛んだ強個性だな。俺の個性は……ってもう知ってるか」

 

「ごめん」

 

「だから謝るなって、それより作戦はどうするんだ」

 

「それなんだけど……」

 

 

 周りに聞かれないよう、心操君にこっそりと情報を耳打ちしながら、私は少しでも勝率を上げるために情報の共有をしながら対策を練った。

 

 途中、声に支配されるだろう自分に困惑しないよう、多くの作戦は語らずにその都度自分が指示させて欲しいと、どう考えても理不尽な提案をするが、心操君は私の言葉に耳を傾けながらも何も言わずにいてくれた。

 

 

「……あぁ、勝つぞ本条」

 

 

 私が最後につい口から出た弱音にも、彼はそう答えてくれた。

 

 

 

『一見、余りものを適当にぶち込んだクソチームに見えますね

 

 ア便ジャーズと名付けましょう

 

 しかし、これこそ私の見つけたオリジナルの組み合わせです。その完璧な戦略、見たけりゃ、見せてやるよ』

 

 

 騎馬を組んで、深呼吸をする。

 

 

「よォーし、組み終わったな!!? 準備がいいかなんて聞かねぇぞ!!」

 

 

 あの感覚が来る。

 

 

「血で血を洗う雄英の合戦が今! のろしを上げる!!」

 

 

 脳の真ん中から何かが飛び出て、その先端がここではないどこかに繋がる。

 

 

「行くぜ残虐バトルロワイヤル!!」

 

 

 その線の太さは、私が操られていくたびに徐々に太くなっていく。

 

 

「よーい スタート!!!!」

 

『はーい、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 その正体不明の存在のおぼろげな輪郭に指をかすめた時、私は線を伝ってくる大量の何かに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校騎馬戦、その始まりは予想通り、一つの場所へ多くの騎馬が駆け寄った。

 

 ヒーロー科という上昇志向の多い者たちにとってこの戦い、ソレの奪い合いになることは当然だった。

 

 

 1000万ポイントの鉢巻き

 

 

 それに向かって全力で向かう彼らの目には目的の騎馬は少し奇妙に見えた。

 

 体格の合わない騎馬は傾いているというのにその上に力を抜いて直立する少女、その姿は見たものに錯視じみた違和感を抱かせる。

 

 自信か傲慢か、もう間もなく会敵するというのに動き出しもしない彼女に、周りの者はさらに警戒を強めた。

 

 

 そして、あと5秒もあれば腕の範囲内という時、彼女はようやく動き出す。

 

 

 素早く鉢巻きをほどき、丸めると上半身の力だけで鉢巻きを投擲した。

 

 集まった騎馬たちの頭上を大きく越えたそれは、空中でほどけるとひらひらと地面に落ちていく。 

 

 

「これはなんてことだ! 一位がその鉢巻きを自ら手放した!! いったんポイントを捨てて身軽になる作戦か!! しかしこれはかなりリスキーだぞ!!」

 

 

 戦いの場は彼女が投げた鉢巻きの奪い合いとなる。

 

 

 落ちる間にその鉢巻きをつかみ取ろうと個性で空をかける爆豪、それに先んじて鉢巻きを握りしめる緑谷。

 

 すぐに戦いの場は1000万ポイントの落ちた所へと移る。

 

 そうなってしまえば、0ポイントの騎馬に目を向けるものなどすぐに誰もいなくなった。

 

 その騎馬も積極的にポイントを取りに行くわけでもなく、中途半端な距離でうろうろと戦いの場の端にいるだけだ。

 

 そんな腑抜けた動きをする騎馬にもはや注目など集まらない。

 

 

 今観客の目は1000万ポイントを保持する緑谷チームとそれに猛追するA組の面々、1種目目を敵の観察に回し、堅実にポイントを狙っていくB組のチーム達。 

 

 そんな目まぐるしく変わる展開に観客らは熱中する。

 

 

 生徒達の気迫は凄まじく、生徒たちから湯気のようなものが立ち上り、蹴り上げた砂埃がそこらかしこで浮かび上がった。

 

 

 

 

「アハハハ、所詮A組なんてちょっと目立っただけで、実力は全然だね!」

 

「そうよ! 物間!! もっと言ってやりなさいよ!」

 

 

「おいバクゴー何やられてんだよ!! しっかりしろよ!!!」

 

「殺す……、殺す殺す殺す殺す殺すコロスゥ!!!!」

 

 

「いい作戦だと思ってあなたでも組んだのにどうしてくれるの」

 

「失望したぞ峰田」

 

「うるせぇ! お前らだっていつ鉢巻きがとられたか気づかなかっただろ!!」

 

 

「いい加減に決めるぞ、……クソ親父が見てるからよォ……、あぁくそあの野郎……、よく見やがれ、テメェを……」

 

「何をしているんだ轟君! 勝負に集中したまえ!!」

 

 

「僕だってただ負けるわけには!!」

 

 

 生徒たちの動きはどんどん激しくなっていく、守りでなく攻撃へ、その苛烈なせめぎあいをみて観客たちの興奮のボルテージはさらに上がっていく。

 

 信じられないことに生徒たちのむせかえるような熱気で上空で雲ができるほどだ。

 

 

「すげぇ戦いと熱気だ!! 全員が派手に個性をぶつけ合って息をつく間もねぇ!! 」

 

 

 

 そんな歓声に包まれながら、生徒の幾人かは心のどこかで違和感を覚えていた。

 

 それは己こそが走り気味な爆豪のストッパーとしてうまく立ち回らなければと考えていたのに、失点時に爆豪を責めてしまったことに驚く切島。

 

 A組を敵視するあまり視野が狭くなりがちな物間を注意する自分が、なぜか同じようにA組を煽っていることに気付いた拳藤。

 

 死力を振り絞って戦っている者たちに対して、自分が1位になることを阻む憎たらしい敵だと、普段の自分なら思いもしない感情が浮かんでいることを不審に感じる緑谷。

 

 他にも何人かはこの状況に違和感を覚えていた。

 

 だがそれだけだ、息をつく間も与えない攻防が行われている今この場で、そんなことを考える余裕はすぐに失われていた。

 

 

 戦いの勢いは留まることはなく、際限なく加速する。

 

 試合も終盤となれば全ての生徒たちが空になった残りの気力を振り絞り、攻勢を仕掛け合った。

 

 

 観客たちは手に汗握ってその戦いを見守る。

 

 

 そして観客たちはその戦いの中、どうしても、ちらちらと映る騎馬の一つが目の端から離れない。

 

 

 その騎馬は目立っていた。

 

 それは華麗な動きをしているなどでは決してない。

 

 

 素晴らしく動きのそろった激しいダンスの中で、たった一人、酔っ払いが千鳥足で交じっているような不快な光景といえばいいのだろうか。

 

 この激しい動きをし続ける戦場で、ただただ緩慢に動く騎馬は遠くで見れば嫌でも目につく。

 

 場違い、この場における不協和音、観客の興奮に水を差す邪魔者。

 

 

 そんな騎馬の上に立つ少女が初めて動き出したとき、観客の視線は一瞬だけ、ほんの1秒に満たない間だけ、素晴らしい戦いを繰り広げる者たちではなく、少女に集まった。

 

 

 驚くことに彼女は騎馬から、まるで階段をくだる気軽さで降りようとしているのだ。

 

 

 やる気がないにしてもこれはひどすぎる。

 

 

 そうした非難と不快感からくる視線を集めながら騎馬から飛び降りた彼女の足は地面に……

 

 

 

 

 つかなかった。

 

 

 

 すぐに目線を切ろうとした観衆は、目をこすってもう一度彼女を見た。

 

 

 彼女の足はなぜか地面につかず、空中で何かを踏んでいた。

 

 

 それはいったい何なのか。

 

 

 それを無理やり表現するなら雲、あるいは煙と言い表せたかもしれない。

 

 

 だがそれが煙や雲だとして、プカプカと浮かぶそれらに人間を支えることなどできるはずもない。

 

 

 だというのに彼女はそれを足場にして、たまたますれ違った敵の騎馬に近づいた。

 

 

「さぁ勝負も終盤……って、なっ!? 何だあれは!? いままで沈黙を保っていた仮面の女!! それが妙なものに乗って、浮かんでいる!! なにが起きているんだぁ!! 」

 

 

 今まで全くのノーマークだった騎馬、いや、正確にはその存在を忘れさせられていた騎馬に、会場の目が集まる。

 

 彼女が踏んでいる何か、それは奇妙な何かとしか言い表せられないが、決して脈絡なく現れたものではない。

 

 生徒の激しい動きのせいで立ち上ったままの土埃であったり、戦う彼らから闘気のように吹き上がる煙、その熱気に充てられたかのよう上方で浮かぶ霧である。

 

 

「なんと仮面の女は雲に乗って移動している!! おとぎ話やメルヘンじゃぁねーんだぞ!!」

 

 

 いやしかし、よく考えればおかしい。

 

 

 砂埃? 確かに見栄えがいいが、なぜあの土埃はあんなにも派手に生徒の動きにあわせて舞い上がるのか。

 

 空に浮かぶ霧? 人が集まり条件が合えば雲状のものが浮かぶ時もあるだろう、だがそれは、こんな開けた野外でおきる現象だっただろうか。

 

 体から煙? 気炎のように立ち上らせているそれは迫力のある光景だが、今に思って注視すれば不自然でしかない、個性か風呂上りか、平時であれば人の体から煙が出るということなどないはずだ。

 

 

 まさか漫画じゃあるまいに。

 

 

 そんな彼らの困惑を無視して、彼女は騎馬の周りを緩慢に飛んだと思うと、近づいた騎馬の目線が彼女に集まった。

 

 浮かぶ雲から雲へ、跳ね回りながら徐々に加速していき、とうとう目線が追いつかなくなった瞬間に騎馬の後ろに回り込むと、鉢巻きを奪い取り飛び去って行く。

 

 空を飛んだ彼女は、足場を使って減速すると追いついた騎馬の上に静かに着地して、すぐに別の鉢巻きを持つ騎馬へと駆け出した。

 

 

「おいおい、前世は軽業師かサルか!! 雲から雲を踏み台にして加速してやがる!! 騎馬じゃどうあがいても後ろに回り込まれちまうぞ!! 相手も疲れが見えているのかロクな抵抗もできねぇ!!!」

 

 

 その動きは、今までの真剣勝負を侮辱するような光景だった。

 

 動き疲れて息も絶え絶えな者たちに近づくと、彼女が飛び上がる。

 

 すると不思議なことに大きな抵抗も受けずに鉢巻きを奪い取り、悠々とその場を離れていく。

 

 そこに、先ほどまでの俊敏な動きをしていた彼らはなく、なぜか鉢巻きを取り返そうともしないでまごついた。

 

 ようやく持ち直して動き出そうにも、追いかけることは叶わない。

 

 いつの間にかぬめぬめとしたキノコが足元を包んでおり、そのキノコは焼き払っても溶かしてもひっきりなしに生え続けているため、追いかけようにも足止めされてそれどころではない。

 

 そんな繰り返しの作業を機械的に行いながら、彼女は端から鉢巻きを奪い続ける。

 

 逆に奪い返そうにも空を飛んでいる彼女の鉢巻きには手を出しにくく、逃げ出そうが飛び出した彼女が行く手を遮る。

 

 そうすると突然動きの悪くなった騎馬に彼女が襲い掛かり、いとも簡単に鉢巻きを奪って去っていくのだ。

 

 

 観客も、これは勝負ではなく作業だと気づいた。

 

 

 おそらく仮面の女は圧倒的な優位な状況に立っていて、その安全圏から自分の身をさらさずに鉢巻きを奪っている。

 

 先ほどまでの激しい戦いとの落差、興奮はできない、だが目を離すことも決してできない光景に、観客もざわつきながらもその様子を食い入るように見つめる。

 

 1000万ポイントは仮面の女から一番遠い、ならばこの女はまさか、騎馬を一つずつ攻略しながらすべての鉢巻きを奪う魂胆なのか。

 

 総観客たちの考え通り、騎馬は得点を奪いながらただ一点を目指す。

 

 一切の慈悲を見せず、作業的に点を刈り取っていく彼女は、とてもではないがヒーローには見えない

 

 

「略奪劇は終わらねぇ!! 端から一気に攻めてポイントを総取りするまでこの女!! 止まらないつもりだぁ!!!!」

 

 

 一人、また一人と彼女に敗れる者たちを見て、次第に観客から悲鳴やため息が出る。

 

 

「あぁ! またやられた」

 

「負けんなヒーロー、しっかり止めろ!!」

 

「頑張ってみんな!! アイツを倒して!!」

 

 

 そんな流れに勢いづけば、場は仮面の女とそれ以外という構図をつくりだしてしまう者たちが現れだす。

 

 

 そんな期待に応えるように、彼女に近づく騎馬がいた。

 

 もちろん彼にとって観衆の期待などは欠片ほども興味はない、両腕の爆発で浮かび上がると、彼女めがけて飛んでくる爆豪勝己はただ彼女を倒すために動き出す。

 

 

「抵抗できる奴がまだいた!! まだこの女に好き勝手させるわけにはいかないと、爆豪とんだぁ!!!!」

 

 

 彼女は猛進してくる爆豪を見て距離を空けるが、相手はその距離を瞬時に詰めてきた。

 

 驚くべきことに彼女が使う足場と自身の個性を利用し、変則的に近づいてくる爆豪は、とうとう彼女の前に飛び出し、空中で接近戦闘を仕掛けてきたのだ。

 

 頭の上の足場を蹴っての回し蹴り、爆発を利用してのスウェー、敵の用意したものだというのにそれを使いこなす爆豪は、ここに来て初めて彼女とまともな戦闘を繰り広げる。

 

 

「空を飛んで戦うとか、お前らドラゴンボールの住人かよぉ!!??」

 

 会場はさらに盛り上がり、二人の戦いの結末を見届けた。

 

 逃げるように自分の騎馬のほうに戻る本条とそれを追いかけ、攻撃を続ける爆豪。

 

 息つく暇もなく繰り出される攻撃の応酬、その最後を制したのは彼女だった。

 

 今まで逃げの一手であった彼女は素早く反転すると、両足をそろえて足場を蹴り込む、拳が爆発的な加速で爆豪の顎先をかすめると、彼は空中から墜落していった。

 

 

「ここで決着!!!! 深追いしすぎたのか爆豪! とうとう仮面の女に強烈な一発を顎にもらって吹っ飛んだぁ!!! 仲間のテープで巻き取られて回収されたが、どう見ても意識が飛んでる!!」

 

 

 その高速戦闘の最中で何が起きたか、気づけた観客はいなかった。目のいいヒーローたちは最後の爆豪の動きが少し不自然な隙だとも感じたが、逃げると見せかけて、今までよりも数段早い攻撃を隠し持っていた彼女の動きに対応できなかったと考えれば、その違和感もすぐに消えた。

 

 

 唯一抵抗の芽があった爆豪を倒し、残る騎馬は氷のフィールドで1000万ポイントを奪いあう緑谷と轟。

 

 彼女は一度騎馬に戻ると、何かを指示してすぐに氷塊へと向かって飛び出す。

 

 実況を聞いて異常事態を察した二人が戦いを一度止めて乱入者に対して迎撃態勢をとろうとするのと、彼女が氷壁の一角を打ち破るのは同時だった。

 

 

 光を乱反射しながら舞う砕けた氷の中に、光を吸い込む黒い人影が見える。

 

 

「ここで隔絶した氷の世界を割って、簒奪者のエントリーだぁ!!! この三つ巴、いったいどうなるのか目が離せない!!!!」

 

 

 氷の壁を吹き飛ばして突入してくる彼女に、二人は守りを固めるとともにそれぞれの騎馬で攻撃を加える。

 

 だが、空中の足場から足場へと移る彼女には届かない。

 

 そのように時間をかければ、彼女が壊した氷壁の穴から彼女の騎馬が追いついてくる。

 

 さらなる敵の参加で警戒を強める彼らと、それを待っていたように大きく距離を取った彼女により、その場に一瞬の膠着状態が生まれる。

 

 

 遠くから見れば、騎馬同士で数言言葉を交わしあっているようにも見える。

 

 

 時間も残り少なくなってきた中、やはり場の均衡を破ったのは彼女だった。

 

 

「おおっと、仮面の女が攻めた!! 轟チーム、迎撃するが避ける避ける!」

 

 

 八百万と上鳴の迎撃を避けた彼女は、騎馬の真上から襲い掛からんと飛び上がる。

 

 

「轟! 直上からの急襲に反応できない!! そのまま得点を奪われたァ!!!」

 

 

 多くの騎馬がそうであったように、あっけなく敗れる轟。

 

 

「強い! 強すぎるッ!! 残るは一人!!! 緑谷出久! 彼が最後のポイント保持者だァ!!!!」

 

 

 観客の中には彼女の圧倒的な力に歓声を上げる者もいれば、ヒーローらしからぬ姿への悲鳴やヤジも聞こえる。

 

 混沌とした会場の中で、最後に彼女は緑谷の騎馬へ近づいていった。

 

 

「この場に立った2人にすべてのポイントが集中している異常事態!! だが両者にらみ合って動かない!!!」

 

 

 そして彼女が選んだ行動は突貫、勝利を確信した慢心が生み出す稚拙な攻めであった。

 

 だがそんな愚直な攻撃であっても、彼女の身体機能の粋を集めて繰り出せば、ただそれだけで一つの奥義となる。

 

 足場を踏みしめていき、その最高速度を更新し続ける彼女と、なぜか固まったように動かない相手の騎馬大将。

 

 

 彼女が相手の騎馬をぐるりと3周し、加速を終えて直撃するコースを取った時、多くの人間が緑谷出久の敗北を予感した。

 

 

 その時ベキリと

 

 

 聞くに堪えない音が緑谷少年の指の一つから聞こえる。

 

 

 彼女が前方へと射出されるのとほぼ同時、緑谷の指が爆発し、そこから暴風が吹き荒れた。

 

 

 そこからの攻防は、一瞬。

 

 

 高速で飛び出した彼女と、片腕をあげて彼女めがけて指を弾く彼。

 

 

 その馬鹿げた威力は地面をえぐり、掠ってすらいないというのに彼女は真後ろに吹き飛ばされた。

 

 その風圧で、襟にぶら下げた得点のほぼすべてを空中でまき散らす。

 

 

 大きく吹き飛ばされていく彼女を見て、場の歓声が止む。

 

 

 

「緑谷!! 返り討ち!! ここで初めて個性を見せたぁ!!!? あまりにもすごすぎる爆発力!!! 威力だけなら文句なしの一位ッ!!!! 仮面の女を止めたのはだれも予想もしていなかったダークホース!!! 緑谷出久この男だあぁッ!!!!!」

 

 

 

 最後の大番狂わせに会場の歓声が爆発した。

 

 

 観衆は手を振り回しながら、そのジャイアントキリングに熱狂し、空気を震わしている。 

 

 

 

 一方で、仲間の騎馬が着地地点で崩れかけながら何とか支えられた彼女、その体はぐったりとして力がない。

 

 この試合で再起をはかるのは難しいことは見て取れた。

 

 

 

 そして、ここでようやくほかの騎馬が追いついてくれば、そこらかしこに舞っている鉢巻きの奪い合いが始まったのだった。

 

 

 

 

TIME UP!(タイムアップ)

 

 

 

 勝者と敗者の明暗を分ける雄英体育祭第二種目は、この日最も熱い盛り上がりを見せて終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4話あたりからホモ子のヒーローネームを考え続けてますが欠片も浮かびません……

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