個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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9話 中編(2/2)

『はーい、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 スタートではない、私たちは今試合の始まりと同時に絶体絶命の窮地に陥っている。

 

 

「……全員がこっち向かってるぞ、どうすんだよ」

 

 

 心操君が額に汗を浮かべながらこちらをチラリと見る。

 

 

「動くな」

 

「おいおい、本気(マジ)か」

 

 

 目の前に広がるのは全方位からこちらに向かってくる敵騎馬たち、その目は殺気すらこもっているのではないかと思うほどで、もし私が声の支配なしであったとしても動くことなんてできなかっただろう。

 

 

『では今回の騎馬戦で役立ってくれるいかれたメンバーを紹介するぜ!

 

 チームのリーダーは、本条桃子。通称ホモ子。

 奇襲戦法とRTAの名人。

 天才RTA走者のような俺がついた彼女でなければ百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん。

 

 次は心操人使。通称くれ悪能力者。

 自慢の個性で、みんなイチコロさ。

 洗脳かまして、ブラジャーから仲間まで、何でもそろえてみせるぜ。

 

 よお、お待たせ! 彼こそ吹出漫我。ヒーロー名はコミックマン。

 擬音を使った能力者としての腕は天下一品!

 エコーズACT2? サンドマン? だから何。

 

 最後に小森希乃子、ヒーロー名はシーメイジ

 キノコの天才だ(意味深)ファーストレディにだって生やしてみせらぁ。

 でも乾燥だけはかんべんな。

 

 以上だ!』

 

 

「おい本条!! このままじゃ蹂躙されるだけだぞ!」

 

 

 とうとう騎馬たちが目前に迫り、対して一切動かない私に、心操君は焦りだす。

 

 だがそれをまるで気が付いていないように、いや実際に気にも留めてもいないのだろう、自分の頭にある1000万ポイントを簡単にほどけないように丸めると、大きく振りかぶった。

 

 

「おい!? 嘘だろ!!!」

 

 

 心操君が私の声を代弁してくれる。

 

 

 放物線を描くハチマキは、ほかの騎馬の目線をくぎ付けにしながらあらぬところに飛んでいく。

 

 

『制限時間のあるこの競技で短縮要素はありません

 

 一応の最短として、危険行為をして失格になればすぐ終わりますが、経験値が吹き飛んで本末転倒です

 

 そしてここで1位を狙うということは最後に1000万ポイントさえ取れればいいということですので戦略としては1000万ポイントを死守する布陣にするか、最後の瞬間に点を取得できる攻撃を組み立てるかです。

 

 今回のチームでは1000万ポイントを守り切れないので攻撃対象にならないように得点を一時放棄しましょう

 

 ラストアタックさえうまく行けばいいのでそれまでは仕込みの時間ですね』

 

 

 その時、私の口が勝手に開き、空気を震わせる。

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 吹出漫我 個性を使わせる 擬音 ムカムカ プンプン を小声で」

 

 

「は? あ、あぁ、こいつに個性を使わせろってことか? けどなんなんだそのしゃべり方は……?」

 

 

 私の遠回しで不自然にくどい片言を心操くんは戸惑いながらも実行してくれる。

 

「個性を使って擬音むかむか、ぷんぷんを小声で出せ」

 

 心操君がそう命令すると、間髪入れずに吹出君の口が細かく、機械的に動く。

 

「むかむか、ぷんぷん……、むかむか、ぷんぷん……、むかむか、ぷんぷん……」

 

 うわ言のように同じ言葉を繰り返す吹出くん、その口の端から風に乗るように、あるいは地面に垂れ流すように言葉たちが溶けて広がっていく。

 

 

『はい、あとはいい時間になるまで、敵の近くをうろうろするだけです。

 

 このマンガ脳の個性、「コミック」は擬音を具現化出来るというものですが、めそめそ、うきうき、ぞくぞくなど、感情を示す擬音語を使用すると、その感情のステータスを相手に付与できます。

 

 めそめそなら悲哀、うきうきなら喜悦、ぞくぞくなら恐怖ですね

 

 今使っている「むかむか」「ぷんぷん」はバッドステータス「激怒」を引き起こせます。

 

 こうなると行動指示不可になり、攻撃力上昇と防御力減少、攻撃の回避率と抵抗率の極大低下、好戦的になり敵が接近すれば高確率で攻撃します』

 

 

「前進」

 

 

『ポイントを失っていればこの試合、巻き込まれ以外で攻撃対象になることはないのでこの場を擬音で満たすまで、適当にうろうろして過ごしましょう。

 

 あっ、うろうろって言葉もよく考えれば擬音語ですね、これコイツの個性で使わせたらどうなるんでしょうか、今度検証してみたいですね』

 

 

 私たちは戦闘に参加せず、その戦いの合間を縫うように動きながら時間をつぶした。

 

 

『語録を垂れ流すクッソ単調な作業ですね

 

 そういえば擬音で思い出したのですが、昔ALTの先生に日本の昔話を紹介しようという授業があったんです(唐突)

 

 私たちのグループは桃太郎を担当したのですが、ロングロングアゴーから始まり、桃が川からどんぶらこと流れてきた場面を

 

 One big peach flowed from the river with Don Brako.

 

 と訳したのですが、その時に先生が困惑しながらドンブラコとは何ですかと話の途中で聞いてきたんです。

 

 なので、そのまま、ドンブラコとは巨大な桃が川を流れてくる時に出る音ですと説明したら、先生はこいつ正気か?という表情で困惑されていましたね

 

 リンゴじゃダメなのか? なぜ桃なのか? そのような限定的なオノマトペに本当に意味はあるのか? マジでDon Brakoで日本国民全員が川から流れていく桃を連想するのか?

 

 疑問を繰り出す先生に私たちも困って、そういうものだから納得してくださいと説明した時のあのジェイソン先生の切ない表情が今でも忘れられません』

 

 

 声のどうでもいい世間話に耳を傾けながらも、指示通りに私たちは個性を使い続け、周りの騎馬と十分な距離を取りながら擬音語を振り撒いていく。

 

 誰にも気づかれぬように、目立たず、だけれどもその擬音語がこの場に満ちるように

 

 

 そうしていけばこの場で起きた変化は劇的だった。

 

 

「なるほど、こりゃ最後に漁夫の利を狙うつもりなのか本条」

 

 

 言葉足らずの声の指示をよく汲んで先導している心操君がポツリとつぶやいた。

 

 

 擬音語はこの場を覆う、それは知らないうちに生徒たちに染み込み、正常な判断を狂わしていった。

 

 あまりにも激しい攻防、残りの力など考えず全力でポイントを奪い合う彼らは、互いの体力を削りあい、まだ序盤だというのに満身創痍になっている騎馬も見かける。

 

 それでも動きを止めない姿を見れば、いつ大怪我をしてもおかしくない、だれか止めなければおかしいはずだ。

 

 だというのに、それを無視して戦い続ける生徒と、ただただ生徒の負担を考えずに歓声を浴びせて扇動する観客。

 

 

「……このペースで動き続けりゃ最後にはガス欠、そこで俺たちはとどめを刺すってわけだな、なぁ、吹出だっけか、こいつの個性は十分だろ、一時的に止めるぞ」 

 

 延々と個性を使わせてしまった吹出君の声は少し枯れていた。

 

 個性をつかうと喉に負担がかかるのだろう、動きながらもひたすら小声でしゃべり続けていた彼の顔色はわかりづらいが、肩で大きく息をしているのが見える。

 

 

『あっ、こら! 何、放棄している! 田舎少年は手を抜くことしか考えないのか(偏見)

 

 このように一定時間が経過すると心操の指示が解ける場合があるのでその都度何度でも指示の上書を連打しておきましょう』

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 吹出漫我 個性を使わせる 擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「いや、もう十分じゃ……」

 

「個性を使わせる 擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「……それが勝利のためなのか?」

 

「擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「………吹出、個性を使って擬音むかむか、ぷんぷんを小声で出せ」

 

 吹出くんは先ほどよりしゃがれた声でまた同じ言葉を繰り返す。

 

 大丈夫だろうか、……いや、大丈夫なわけがない、それでも私は他人を無理を強いても指示通りに勝たなければいけない。

 

 心操君はあまり納得していない様子だがそれでも指示に従ってくれた。

 

 

『今回の作戦はこの二つの擬音をこの場に溢れかえらせなきゃ成立しませんのでどんどん吹き出もの君を酷使しましょう

 

 語録の濃度がなんか足んねえよなぁ? もっと舌使って舌使ってホラ』

 

 

 すでに会場には空気や地面に溶けるように擬音たちが染み込んでいる。

 

 それで十分だと思えるというのにまだ擬音を出し続けていると次第に擬音たちに変化が訪れる。

 

 

『もう始まってる!(反撃)』

 

 

「もう、擬音達のいく場所がなくなってるぞ」

 

 生徒たちの中に入りきらない擬音達が湯気のように立ち上っていき、そのほかの場所にある擬音も地面から浮かび上がる。

 

「何が起きてんだ?」

 

 

『小技ですが擬音同士がぶつかると言葉同士が入れ替わり、新しい擬音語になる時があります。

 

 そして言葉を飽和状態にすると、その頻度が爆発的に上がるわけですね

 

 これ発見したの私です(自己顕示欲)

 

 ムカムカとプンプンという擬音語を選んだのも理由はもちろんあります

 

 この二つからできるプカプカ、ムンムン、カンカンを使ってこの場で一気に点を取りに行きましょう

 

 プムプム? まぁ多少のあまり物はね?』

 

 

 それは不思議な光景だった。

 

 

 生徒の体からムンムンとした熱気が飛び出し、プカプカと煙になって体の外へと排出されていく。

 

 地面も同じだ。ムンムンとこもった熱気に地面が暖められ、プカプカと砂ぼこりなどを巻き込みながら空中に浮かび上がった。

 

 

『ではそろそろいい時間なので攻めに転じますか。

 

 時間ギリギリに1000万ポイントさえ取ればそれで良いので他の得点は無視すべきなのですが、今回は目につくやつら全員に喧嘩を売りましょう』

 

 

「敵へ前進 心操に指示 個性を使わせる 洗脳 相手を洗脳しろ」

 

「ここから勝負を決めるんだな、っておいッ」

 

 

 私は心操君の返事も待たず、宙へと体を投げ出す。

 

 落ちる。

 

 そう思った私の足は何か柔らかいものを踏みつけた。

 

 

『ぷかぷか、主に「浮遊」する様子を表現した擬音語です。

 

 このプカプカは足場にすることが可能なので、反撃されにくい敵の後ろに回り込んで一撃をぶち込みましょう

 

 ほんならケツの穴見せろや(ガン掘り)

 

 え?直接攻撃は禁止?

 

 私は鉢巻を取ろうとして、そこにたまたま人間の体があった。

 

 攻撃ではなく不幸な事故いいね?

 

 正直、何体かの強い騎馬以外はこのゴリ押しで倒せますが、ここは心操が追いつくのを待ちましょう』

 

 

 私は雲のようなものを踏み込みながら移動する。

 

 踏み込んだ足場はかなり不安定で力を籠めると沈み込んで突き抜けそうだが、私の体は新しい足場を踏み込んで徐々に加速していく。

 

 

 加速しながら大回りに近づいた騎馬は拳藤さんの騎馬だった。

 

 上空で旋回して速度を維持していると、こちらを警戒しているのか拳藤さんの個性で手を傘のように広げてこちらの射線をふさいでいる。

 

 攻めあぐねているうちに心操君が相手騎馬に近付いた。

 

 

「やばい何あれ、上から来てるわ、ここは逃げて……」

 

「手が大きくなるなんて武闘派な個性だなぁ、男勝りなのも合わさって女には見えねぇぜ」

 

「ふん! そんな情けないこと言ってるようじゃ私たちには勝てな……」

 

 

「もう俺たちの勝ちだ」

 

 

 私は心操君が話しかけた瞬間に、重力に従って敵騎馬に突っ込む。

 

 空中でその巨大な手を蹴り上げるとそのまま、彼女の毛髪のいくらかと共にハチマキをむしり取った。

 

 

『ただの案山子ですな

 

 はい、スタミナ切れでナメクジ速度の騎馬と、洗脳で案山子となった騎手を襲撃しましょう

 

 洗脳状態にするのは本来運が絡みますが、ここで状態異常「激怒」がいきてきます。

 

 攻撃の回避率、抵抗率の低下、つまりはほぼ間違いなく敵に刺さるという仕組みです

 

 なんて練られたチャートだぁ(恍惚)』

 

 

「一佳ッ!!」

 

「あれ? 私今何を……、イッツぅぅ……、ってハチマキが!?」

 

「は、早く取り戻さないと」

 

 

『さらに、もう一つの擬音ムンムンも使っていきましょう。

 

 むんむん、においや熱気などが息苦しいまでに強くたちこめている様

 

 つまり高温多湿ということですね』

 

 

 私は味方の騎馬へ減速しながら戻り、すぐさま心操君に指示を出す。

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 小森希乃子 個性を使わせる キノコを使って足止めをさせる」

 

 

 瞬間的に相手騎馬の足元からキノコが生える。

 

 その速度は別の地面がせりあがってきたかのようで、相手の足場を不確かにし、動きを大きく制限した。

 

 

「な、なめこ!? ば、バランスが!!」

 

「そもそもなんで小森と吹出があっちにいるんだよ!!!!」

 

「知らないってば!!」

 

 

『これは原作で出た吹出と小森、二人の個性のコンボですね、あの時はジメジメでしたか

 

 こういう原作リスペクトのコンボとオリジナルの要素があるのでそれを探すのは楽しいですね

 

 こういう細部にこだわるからこその名作といえるでしょう(ダイマ)』

 

 

 声ののんびりとした雰囲気とは裏腹に、私たちは敵の騎馬から騎馬へと見境なしに襲い掛かり点を巻き上げていく。

 

 大抵の騎馬は疲れきっていて、私の攻撃をロクに防ぐこともできずにハチマキを奪われた。

 

 

「すげぇ……、何点目だ? つーか俺が洗脳しなくても本条だけで敵の防御をぶち抜いてるじゃねーか……」

 

 

 その時、会場が歓声に沸く。

 

 何事かと思ってみると、そこには爆豪君が私めがけて飛んできていたのだ。

 

 

「抵抗できる奴がまだいた!! まだこの女に好き勝手させるわけにはいかないと、爆豪とんだぁ!!!!」

 

 

「やっちまえ!!」

 

「そいつを止めろ!」

 

「倒せよヒーロー!!」

 

 

 自分を見る観衆を意識してしまい、私は少し吐き気を覚えてしまうが結局声の動きには関係がない。

 

 会場の期待が爆豪君に集まるとともにその声はさらに強まった。

 

 

「うるせぇモブ共!! いわれなくたって、この俺がぶっ殺してやる!! 全力で来い根暗女ァ!!!!」

 

 

「なんだその態度!」

 

「それでもヒーローか!!」

 

 

 この場の正義と呼ぶべき後押しを受けた彼に私は少し気圧されたが、そんな歓声が邪魔だと切り捨てる爆豪君の我の強さを見て少し落ち着いた。

 

 でもそれも彼の動きを見るまでだ。

 

 

「これはテメェの個性じゃねぇ、だったら俺だって使えるよなぁ!!!」

 

 

 信じられないことに爆豪君はこちらが使っている足場すら利用してこちらに迫ってきていたのだ。

 

 

『えぇ、この作戦で一番厄介な敵はこいつです

 

 こちらの足場に即行で適応し、爆破も併せて、放っておくとこちら以上の機動性で迫ってきますのでジリ貧です』

 

 

 反転して逃げ出すが、爆豪君はすぐにでも追いついた。

 

「死ねぇ!!」

 

 背後からの飛び蹴りを屈んで避ける。

 

 前方に飛び出した爆豪君は爆破で器用に私の進路をふさぐと今度は回し蹴りを叩き込んでくる。

 

 さすがによけられないのかそのまま防御、その威力のまま地面に落ちて逃げる。

 

「ハハハハッ!!! 逃げてんじゃねぇぞこの根暗女ァ!!!!!」

 

 

 天才という言葉は彼のためにあるのだと確信する。

 

 成長の個性で誰よりも体をうまく動かせるはずの自分と同等の動き。それどころか、爆破がある分、向こうがこちらを圧倒している。

 

 牽制の攻撃も爆破で移動されては、足場と足場の間しか動けない私に勝ち目はない。

 

 

 

「まったく、ヘドロ事件であんなにボコボコにされたのによくそんなにイキれるな」

 

 

「あ゛っ!? なんだテメェ」

 

 

「動くな」

 

 

『なので引きうちしながら自陣に戻りましょう』

 

 

 爆豪君が空中で固まる。

 

 そのタイミングを読んでいたかのように私はすでに体を丸めて反転し、足の筋肉を膨らませてその時を待っていた。

 

 

『そのための心操……、あと、そのための拳……?』

 

 

 私は軽い雲を踏みしめる。

 

 その瞬間に雲は霧散して、私は爆豪君に殴りかかる。

 

 こぶしで顎を打ち抜くと、白目をむいて彼はこの戦いの場から失墜した。

 

 

『しっかりノックアウト攻撃で気絶させておきましょう、鉢巻きに攻撃すると気絶するとか脳震盪か何か?

 

 お次はようやく1000万ポイントをとりましょうか

 

 おそらく持っているのは緑谷か轟のどちらかですね、爆豪は倒したので後は何の起伏もない敗残兵の処理です』

 

 

「ついてこい」

 

「次! 取るのか1000万!!」

 

 すぐさま方向を変えて飛び去ろうとする私に心操君が叫んだ。

 

 

 私は自分の騎馬より一足先に残りポイントの奪い合いの場にたどり着く。

 

 

 緑谷君はいま、轟君が作った氷の壁に囲まれている。

 

 その物理的に離されたはずのそこを私は無理やりこじ開けて侵入した。

 

 

「クッ、また敵が……」

 

「……遅いスタートだな本条」

 

 

「ここで隔絶した氷の世界を割って、簒奪者のエントリーだぁ!!! この三つ巴、いったいどうなるのか目が離せない!!!!」

 

 

 すでにこちらをにらみつけている彼らの騎馬から、雷撃、弓矢、氷の礫、矢継ぎ早に攻撃を受ける。

 

 三つ巴なんて嘘だ。

 

 二人とも私を倒すために一時共闘して追い詰めてきている。

 

 

「本条!!!!」

 

 

 心操君が追いついたとき、思わず安心しかけてしまった。

 

 私は自分の騎馬に戻り、敵との距離を取った。

 

 状況の変化から訪れる一瞬の間、それだけあれば彼が決めてくれる。

 

 

 私に軽く目配せをした心操君は、いかにも悪そうな声で2人に話しかける。

 

 

「へー、アンタがオールマイトのお気に入りで、本条が警戒してた奴か、つってもこの体育祭で全然パッとしねーな」

 

「……僕は」

 

「まぁそこで固まっててくれよ、そんでそっちがエンデヴァーの坊ちゃんか、……すげぇ、目つきも雰囲気も親父さんそっくりだ」

 

 

 轟君は反論もできずに固まった緑谷君を見て違和感を覚えているようだが、心操君が話す言葉ですべてが吹き飛んだ様子だ。

 

 

「なんだと……」

 

「お前も動くな……、いけッ! 本条ッ!!」

 

 

 その言葉にはじかれるように場の均衡を破って私は飛び出した。

 

 

「おおっと、仮面の女が轟チームに接近!! 轟チーム、迎撃するが避ける避ける!」

 

 

 攻撃を避けながら、私は騎馬の真上から襲い掛かる。

 

 

「轟君、上だ! カウンターで得点を狙うんだ!!」

 

 しかし轟君は仲間の声には反応しない、それどころかろくな抵抗すらできないのは、もうわかっていた。

 

 

「轟! 直上からの急襲に反応できない!! そのまま得点を奪われたァ!!!」

 

 

『ハズレの方でしたね、では緑谷を倒して空高くの場所に逃げましょうか

 

 どうせ最後なのでド派手にやりましょう

 

 作中最強威力を持つ緑谷とのパンチ対決ですね(相手がパンチできるとは言っていない)』

 

 

「轟さん!?」

 

「おいおい! 一体どうしたってんだよ!!」

 

 

 頭を揺さぶられた轟君は鉢巻きを取られた自分自身に驚いた様子だったが、もう遅い、足元にはキノコが敷き詰められている。

 

 

「クソッ……! 氷で道を作る!!!」

 

 

「強い! 強すぎるッ!! 残るは一人!!! 緑谷出久! 彼が最後のポイント保持者だァ!!!!」

 

 

 轟君を取った! けど1000万ポイントは緑谷君の方だ。

 

 私は雲を踏みしめて、どんどん加速していく

 

 その速度は今までで一番早い、最高威力の攻撃をぶつけるつもりのようだ。

 

 

「で、デク君、とにかく逃げなきゃ……、デク君?」

 

 

 そう、何一つ抵抗できない彼にだ。

 

 

『いやー、こいつは本当にRTAの敵ですからね、こういうところで発散していきましょう

 

 よっしゃ 無抵抗なところを殴るけるなどの暴行だ!!』

 

 

 彼らの周りを大きく旋回する速度はすさまじく、ぶつかる私自身もタダで済むとは思わない。

 

 

『いいか……、ヒーローが夢を見る時代はもう終わったんだ!!!ナチュラルボーンヒーロー!? 平和の象徴!?大秘宝ワンピース!!?(唐突な名作)

 

「ヒーロー」に目がくらんだアホ共は足元の利益に気付かねェ……!! この個性社会で誰よりも強く世を渡れる野郎共がありもしねェ幻想に振り回されて潰れていく!!

 

 潰れたバカはこう言われるのさ「あいつは夢に生きて幸せだった」!!ハハッハ……!!!負け犬の戯言だ!!!

 

 構えろ臆病者!!!(自己紹介)

 

 お前がパンチの打ち方を知ってるんならなァ!!!(フラグ)』

 

 

 とうとう、私は緑谷君の方へと飛び出す。

 

 

『何が「自己犠牲」!!? 何が「正義」だ!!!? 夢見る時代は終わったんだヒーローの恥さらしども!!!!(フラグ増設)』

 

 

『パンチの打ち方を知ってるかって……?(一般通過RHI)』

 

 

『あばよ!!!! 緑谷らァ』

 

 

「ッ……あぁッ!!!」

 

 突然目の前に暴風が巻き上がり視界を塞ぐ。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 いつの間にか目の前には片腕をこちらに向けていた彼がいた。

 

 

 

 あっ、負ける

 

 

 

SMAAAAASSSHHHHHHHH!!!!!!!(スマアァァァァァシュッ)

 

 

 掠ってすらいない。

 

 だけどもそれだけで私は真後ろに吹き飛ばされようとしている。

 

 莫大なエネルギーが緑谷君の指先から前方に向かって滅茶苦茶に広がっていく。

 

 最高速度の物体が、同じかそれ以上の威力で正反対に打ち返される時の莫大なエネルギー、そこにかかる衝撃が丸々私の体にかかって、体の中身がかき混ぜられた。

 

 

 ダメだ負ける。それだけは許されない。

 

 

『あああああああもうこのクソゲーやだああああああ!!!!(HIDE)

 

 お前は洗脳されたんだぞ?ダメじゃないか!洗脳された奴が動いてきちゃあ!死んでなきゃあああ!!

 

 歯ぁ食いしばれ!!そんなバグ、修正してやるーーっ!!』

 

 

 届かない、手が。

 

 勝利が遠ざかる。

 

 

 いつの間にか私の手が伸びていた。

 

 

 緑谷君の指先から出ている力は、緑谷君を守るように乱回転して、まるでシュレッダーのようだ。

 

 

 

 私はそこに右手を突っ込んだ。

 

 

 たださえ大きな目の緑谷君がさらに驚いたように目を見開く、それと同時に私の腕は緑谷君の破裂した指先よりひどい具合になる。

 

 骨は砕けて手はタコのようにグニャグニャだが都合がいい。

 

 吹き飛ばされる直前に千切れかかった筋繊維だけで手を伸ばす。

 

 関節など存在しない私の腕はゴムのように、正確には千切れ伸びてその鉢巻をつかむ、もはやそれが自分の意志か声の支配か分らない、どうでもいい。

 

 

「本条!!!!」

 

 

 そして吹き飛ばされた私は今まで手にしたハチマキをまき散らしながら、ただ一つ。最も大切なただ一つだけを必死に握りしめた。

 

 吹き飛ぶ私をしっかりと抱え込んでくれた心操君は私を見て動転しているがそれどころじゃない

 

 

『大きなガバが点いたり消えたりしている…。あはは、大きい! 通常プレイかな? いや、違う……違うな。通常プレイはもっと、エンタメ重視でバァーって動くもんな。遅いなぁ、ここ。うーん……良タイム出ないのかな?おーい、出してくださいよ。ねぇ?(精神崩壊)』

 

 

「ようやく追いついたわ!!」

 

「鉢巻きが散らばってやがる! 早く確保しろ」

 

「今、1000万ポイント持っているのは誰だ!!」

 

 

 まだ時間がある。

 

 壁からほかのチームもどんどん来る。

 

 今このままじゃ点数を奪われる。

 

 

 

「ぜったいにわたさない……だれにも……、ぜったいに……」

 

 

「ほ、本条、お前……」

 

 

「しょうり、しょうり、しょうり、しょうり、ぜったいにひーろーになる……じゃまするひとはゆるさない……」

 

 

 私は朦朧とした意識を何とかつなぎながら騎馬の上に立とうとする。

 

 時間なんてわからない、何も見えないし分からない中、ハチマキを握りしめ、必死に意識だけをつなぎとめていた。

 

 

『……ファ!? 1000万点取得してるやん!!!???

 

 えぇ……(困惑)もうこれわかんねぇな……

 

 一応の予測を言いますと、こちらの攻撃が当たったためハチマキがこちらに、その処理をしている間に緑谷の攻撃でこちらのハチマキが全部奪われたということでしょうか……?

 

 こちらは百歩譲ってわかります。

 

 だが緑谷、テメーはだめだ

 

 心操が洗脳してるのに動くとか試走中に一度もしてないだろ!!! いい加減にしろ!!!

 

 そんな設定崩壊……、……でもないですね

 

 確かに緑谷は心操の洗脳を原作で打ち破っていたような……?

 

 え、こマ? 実は新要素の発見ですか、やべぇ、110番だな!(攻略情報投稿)』

 

 

 なぜ生き残れたのかはわからない、心操君が頑張ってくれたのだろうか、今回の戦いもやはり綱渡りだった。

 

 

TIME UP!(タイムアップ)

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に、私は全身を脱力させた。

 

 

 




心操の個性って洗脳状態で個性使わせられるの?(心の声)
吹出の個性ってこんなことできる描写ってあったっけ?(原作への良心)
他にもこの場面ってそもそも……(内省)


うるせぇ!かこう!!!!!  ドン!!!!(内なるRHI)


そうだよ妄想だよ(震え声)何の問題ですか? 何の問題もないね(自己解決)
そもそもオリキャラだしてそれがホモの時点で最早……、戻れる場所なんかないんだよ……(原作レイプ)

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