個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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12話(1/3)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

 

「おっと動くなよお嬢ちゃん」

 

 

 意識が覚醒した瞬間と同時、私の後頭部にひたりと指が当たる。

 

 

「コンプレスがお前の背後にいる。妙な気は起こすな、やろうと思えば一瞬でお前の頭を毟ってやる」

 

 

 強烈な頭重感を覚えながら、薄く目を開ければ目の前にはカウンターチェアに座って乱雑に足を組んだ死柄木

 

 目の端で周りの状況を観察すれば、ここは締め切った薄暗い部屋のようだ。

 

 少し身じろぐ

 

 その瞬間、四方から明らかな殺意が私にじっと向けられたので動きを止めた。

 

 頭だけじゃなく体も重い、ちらりと自分の姿を見れば箱のような拘束具が手足についている。

 

 集中しようにも思考が定まらないのは、もしかして何か盛られているせいかもしれない。

 

 

「……髪を触られるのは嫌いなの、早く離して」

 

「おじさん、そういうこと若い子に言われると傷ついちゃうよ」

 

 

 おどけたような声を聞き流し、今度は周りの視線を無視してあたりを見回す。

 

 バーのような作りのそこには雄英を襲撃してきたヴィラン達が勢揃いしていた。

 

 その顔ぶれを見ていくうちに自分のおかれた状況も次第に理解していく

 

 ご丁寧に手足だけでなく体も拘束椅子に座らせられ、ベルトで雁字搦めに縛り付けてあった。

 

 

「はいはーい、お話をちゃんときこうね」

 

 

 コンプレスはあたりを見回す私の頭を掴みなおすと軽く前に捩る。

 

 

 いやがおうにも目の前の男と目が合ってしまった。

 

 

「早速だが、ヒーロー志望の本条桃子くん、俺の仲間にならないか」

 

「なるわけがないでしょ」

 

 

 私は間髪おかずにそう答える。

 

 死柄木もその返答を予期していたのか大きく反応は示さない。

 

 

〈くくく、断られたようじゃな、ならこいつはワシに譲ってもらっても構わんだろう〉

 

 

 バーカウンターに置かれた大きめの機械、……通信機だろうか、受話器を大きくしたような物から雑音交じりの声が聞こえる。

 

 

「ドクター……、今俺が話してる。黙ってくれないか?」

 

〈ふん、言うじゃないか、そもそも素体を回収してワシに提供する話だったはずじゃ、それに誰のおかげで脳無を貸してやってると思う〉

 

「先生のおかげだろ。いちいちこっちのやることに指図されるいわれはない」

 

 

 どうやらヴィラン連合も一枚岩じゃない、というより断片的な話を聞くに外部の協力者なのだろうか?

 

 

〈ワシがどれだけ待ったと思っておる。その娘の個性、“成長”はワシの研究と相性がいい、どうしても強靭な肉体を持たせるだけでは容量と拡張性で行き詰ってしまってな、インスピレーションを受けて、疑似的な成長の個性を再現してもどうもうまく行かん、遅々たる成長ですぐ頭打ち、在庫処分で戦闘に出しても、すぐに破壊されてしまうデータなど取る意味もない〉

 

「……はぁ、もう一度言うぞドクター、ここはアンタの出しゃばるところじゃない」

 

〈ふん、成長の個性の素晴らしさが分からんのか? 個性は遺伝する。こやつは“強化”と“生育”の間にまさに天文学的な確率から発生した……〉

 

 

 続きの言葉を待たずに死柄木は通信機に触れた。

 

 朽ちていく通信機は数秒と待たずに空気に溶けていく、しかし次にバーの天井に備え付けられたスピーカーからノイズが聞こえ始める。

 

 

〈このことはあの方にお伝えしておく……いいか、話がどうなろうが、そいつは絶対に提供してもらうぞ〉

 

 

 それきりノイズはぷつりと途絶え、バーに静寂が戻る。 

 

 

「ジジイは話が長くてかなわねぇ……」

 

 

 呆れたように話す死柄木はため息をついた後、こちらに目を向ける。

 

 

「邪魔が入ったな、締まらないがさっきの話の続きだ」

 

 

 足を組み直してこちらの方を見据える。

 

 

「俺の仲間にならないか」

 

「ならない、…………そもそも、あなた私を殺すって言ってくれてたでしょ」

 

 

 同じ質問、だから私も同じように返答する。

 

 

「俺も前はそう思ってた。だがな、気が変わった。お前の情報を集めてみたら思い直すことにしたんだ」

 

 

 死柄木はそう言って。笑顔のつもりかも分からない曲がりをした顔をこちらに向けると、部屋の奥を親指で指さす。

 

 ここはバーにしては殺風景でかなり薄暗い、視線を辿れば端に置かれたテレビの光がすぐ目に映る。

 

 テレビにはニュースが流れていたので、その時間を確認する。

 

 録画された映像を流されているかとも疑ったが、体内時計との矛盾はおおよそ見られない。

 

 

〈では本日行われた。雄英高校謝罪会見の一部をご覧ください〉

 

 

 テレビではニュースキャスターが真剣な顔を張り付けて、わが身のように苦し気な声を出していた。

 

 

 画面が切り替わる。

 

 

 シャッター音、フラッシュ、フラッシュ、シャッター音、フラッシュ

 

 画面越しでも目がチカチカする。

 

 

 切り替わった画面には根津校長とブラド先生、そしていつもの無精ひげを剃って、フォーマルな姿をした相澤先生が映っていた。

 

 

〈雄英高校では今年に入って4回、生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出る前に各御家庭にどのような説明をされていたのか、またどのような対策を行っていたのかお答えください〉

 

 

 出来の悪い劇のような雄英側と記者たちとの質疑応答を眺める。

 

 雄英への追及は終わることなく、次第に非難を多分に含んだようなもの、明らかな挑発と取れるような内容へと、まるで既定路線だったかのように批判はエスカレートしていった。

 

 

「どの局もずーっとこれの繰り返しさ、不思議なもんだよなぁ、なぜヒーローが責められる?」

 

 

〈生徒の安全と雄英は繰り返してますが、ではなぜ生徒達に戦闘許可など出されたのですか? 何故子供達を戦わせたのでしょう、お聞かせください〉

 

〈私どもが状況の把握が出来なかったため、最悪の事態を避けるためにそう判断しました〉

 

〈20名あまりの被害者と1名の拉致は最悪と言えるのでは?〉

 

 

 ……最悪ではないだろう、この結末はマシの度合いで言ったら悪くない、そんなことを言っても無駄だろうが、思わずにはいられない

 

 

「……雄英はヒーロー社会、その象徴、それがこれではステインの憂いも当然だ」

 

「フフッ……、そうかしら? パン屋が無ければパンは食べれない、当たり前のことなのにそれに向かって批判どころか汚物を投げいれる観衆、こっちの方を憂いたほうがいいんじゃない?」

 

「ふん! 分からないか! 守るという行為に対価が生じた時点でヒーローはヒーローでなくなり、守られるものはいくらでも増長する、奴らヒーローモドキの欺瞞こそが社会の堕落の原因! ステインの教示だ!!」

 

 

〈攫われた本条さんについてもこれが不幸中の幸いだと言えるのですか〉

 

 

 私の名前が呼ばれた。

 

 

〈体育祭優勝、林間合宿では多くの敵を無力化したとのことで強い実力を感じさせますが、反面、体育祭での他を顧みない行動や態度、精神面の不安定さも散見されています。もし敵がそこに目を付けた上での拉致だとしたら? 言葉巧みに彼女を誑かし、悪に染まったとしたら?〉

 

 

 私は思わず笑いそうになる。

 

 実際に死柄木はクツクツと喉の奥を鳴らしていた。

 

 

「彼女がそうはならないと言い切れる根拠をお聞かせください」

 

 

 悪魔の証明だ。できるわけがない

 

 テレビ越しから見ても先生の顔は険しい、怒りを含み、爆発寸前に見え、今にもいつもの鋭い口撃が出るかと思われた。

 

 

「行動については私の不徳と致す所です」

 

 

 だが、予想に反して、先生は静かに頭を下げた。

 

 

〈ですが、皆さまの目に映ったそれは彼女の一面にすぎません、誰よりも高い理想のヒーローを追い求めている。彼女を見て悪に染まるが易いと思う者がいるなら、浅はかと言わざるを得ないと私は考えております〉

 

 

 先生はそう思ってくれていたのか、……いや、この場で聞かれたらそう答えるしかないだろう。

 

 

〈失礼、集瑛社です。重ねてご質問させてください、彼女が悪に染まることはない、そうおっしゃられましたね〉

 

〈はい、そうです〉

 

〈彼女は五年前、ある事件に巻き込まれたことについて雄英はご存じでしょうか?〉

 

 

 ほんの一瞬だけ先生の顔が無表情になる。

 

 

〈生徒の来歴については個人情報にあたりますのでお答えできかねます。またこの場で話すことも適切ではないでしょう〉

 

 その言葉を無視するように記者は手元のメモを周りに言い聞かせるように朗々と読み上げた。

 

〈私共の掴んだ情報によると、今回捕まったムーンフィッシュによる五年前の女児コマ切れ殺人事件、彼女はその被害者だそうですね、一時は心を病んでいたとも聞かれました〉

 

 

 今度ばかりはこらえきれず息が漏れた。

 

 

〈……この場で話すことではないとお伝えしたはずですが? いえ返答は結構です。他の質問の方はおられましたら……〉

 

〈否定しないということは肯定と考えてもよろしいのでしょうか?〉

 

 

 そこに畳みかけるように質問をする記者

 

 

〈そんな過去を持つ人間がヒーローを目指す。その理由は明白でしょう。それはヒーローにふさわしいものでしょうか?〉

 

 

 お前らにわかるものか

 

 

〈今回のヴィラン達は瀕死、手当が遅れれば命を失う者もいたという情報もあります。その時点で彼女は敵と言えども相手の死を許容した。それはヒーローとして既にたがが外れていると言ってもいいのでは?〉

 

 

 お前らなどにわかるものか

 

 

〈雄英はこの事実を知ってそのうえで何か対応を行ってましたか? それをもって彼女が本当に悪に染まらないと言い切れるのでしょうか?〉

 

 

 誰にこんなことがわかるというのだ

 

 

「こんなもんさ。お前らヒーローが守ろうとしてるもんなんて」

 

 

 私の顔を見て同じように死柄木は口の端を歪めた。

 

 

「おい荼毘、拘束外せ」

 

「は? 暴れられたらどうする。つーかコイツが何したかわかってんだろ、さっさと殺そうぜ」

 

「いい、対等に扱わなきゃな、これはスカウトだ」

 

「えへへ、実はデクくんみたいでカアイイなぁ~って思ってました。それに敵連合にも女の子のお友達が欲しいです」

 

「あら、私はハブかしら」

 

「……話が進まないから黙れ、ならコンプレス、もう脅しはしまいだ、枷を外せ」

 

「へいへい、……まぁおかしな連中に見えるかもだけどよ、俺達は悪事に勤しむただの暴徒じゃねえのは分かってくれ、君を攫ったのも偶々じゃない」

 

 

 私の体を縛り付けるベルトが外されるのを待ってから、死柄木は両手を軽く広げてこちらを見る。

 

 

「おかしい? 違う、おかしいのは俺達じゃない、見ただろ? 人の命を金や自己顕示に変換する異様、それをルールでぎちぎちと守る社会、敗北者を励ますどころか責め立てる国民、異常だ。この世はどう考えてもおかしい、俺達はそう社会に問いかけている」

 

 

 一息で言い切ると真剣な目でこちらを見る。

 

 

「テレビの奴らは言ってるぜ、お前は(ヴィラン)を憎んでここにまで来たってな、だが本当に憎いのはそれだけか?」

 

 

 いつものふざけた印象とは違い、こちらを見透かすような問いかけ

 

 画面の向こうの空虚な言葉に比べれば、それは確かな熱をもっていた。

 

 

「違うだろ、お前を助けなかったヒーロー、飴に集る虫の様にお前に付き纏った奴ら、お前の気持ちも知らないで勝手な事を言う周りの人間」

 

 

 死柄木の純粋な憎しみ

 

 それは私の心へ真に迫った。

 

 

「……おまえ、本当はこの世界全部が大っ嫌いだろ?」

 

 

 そんなこと、あえて口には出さなかった、だがその囁きは嫌というほど正確に私の心に染み込んでくる。

 

 

「俺の仲間になれ本条」

 

 

 前に会った時とずいぶん見違える。

 

 今、目の前のこの男は一部の日陰者を引き付ける鮮烈な何かを放ち始めていることに私は気づいた。

 

 

「俺はするぜ、気に入らねぇこの世界をぶっ壊す」

 

 

 思わないことではなかった。

 

 心の隙間からそんな考えがにじみ出てくることが無かったとは言えない。

 

 己を縛る邪魔な重さを全て捨てたのなら、それはどれだけ楽であろうか

 

 

 死柄木は黙ってこちらの返事を待っている。

 

 私はすぐに否定しようとするがうまく口が回らない

 

 しばらく黙り込んでしまった後、私は脱力して背が丸まるほどに頭を垂らした。

 

 そして自身の敗北を認め、諦めたように口を開く。

 

 

 

「あなたの言った通りだよ、ホントはね、もう全部が嫌なの、嫌で嫌で仕方がないの」

 

「そうか、なら」

 

 

「でもごめんね、それはできないんだ」

 

 

 私は体を丸めたまま、手にハメられた枷を足で踏むと、思いっきり飛び上がった。

 

 手枷に突っかかる右手の親指部分を無視して引き抜くと、空中で足に繋がっている錠を掴んで腕を突っ張る。

 

 同じように今度は踵を無視して右足を引き抜いた。

 

 

 

「私ね、世界よりも私が嫌いなの」

 

 

 

 一連の動作、空中に飛び上がってペキンパキンと二度鳴らして着地した後は、私から近い位置にいたコンプレスに飛び掛かる。

 

 

「グァッ!」

 

 

 そのあご先を右手についたままの金属錠で殴りつけ、締め上げた。

 

 

「動かないで、動いたら首をへし折る」

 

 

 左手の親指の根本が砕け、同じ側の踵が抉れた。

 

 優先すべきは足、私の左かかとがある程度まで戻ればそれでいい、思考が纏まらなかろうが、その時まで時間を稼げれば私は逃げれる。

 

 だるい頭のままではあるが、この手の限定された状態でこそ『アレ』の本領は発揮される。

 

 示す道を見れば、それは部屋の一角にある窓をさし示していた。

 

 

「ほら言っただろ、殺しとけばよかった」

 

「じゃあ刺しましょう! ボロボロの桃子ちゃんが見たいです」

 

「ちょっとおいたが過ぎるわね」

 

 

「……手をだすな」

 

 

 死柄木が厳しい目で私を見る。

 

 

「こいつは……、大切なコマだ。どうせこいつにコンプレスは殺せない、そうだろ? なんせ仇すら殺せない甘ちゃんだ」

 

「じゃあ今からコイツの両手を切り落とす」

 

「お前がそうしようがしまいが、俺のやることは変わらない」

 

 

 ……やはりこの男は変わった。

 

 前のような幼稚な心の隙が見当たらない。

 

 

「もう少し時間があれば分かり合えると思ってた、仕方がない、ヒーロー共も調査を進めていると言っていた。悠長に説得もしてられない」

 

 

 死柄木は椅子から立ち上がって一つ息を吐く。

 

 

 

 

 

「先生 力を貸せ」

 

 

 

 

「良い判断だよ 死柄木弔」

 

 

 

『敵味方から(命を)狙われるおもしれー女と化した乙女ゲーRTA part12はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 




原作が一区切りついてからとも思いましたがオリチャーでもママエアロ(風魔法)

チャートも必要ねぇや。へへへへっ……誰が話の整合性なんか……、(設定の矛盾)なんか怖かねぇ!

(※12話以降は投稿後の大規模な改稿が起きる可能性があります。ご了承ください)

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