個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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4話

『第四章、確率レ○プ、パワプロペナント観戦編と化した名作クソ運ゲー、はぁじまぁるよー!』

 

 

 

「桃子……、雄英から合否通知が来たぞ」

 

「ありがとうお父さん」

 

「大丈夫、お母さん桃子が頑張ったことちゃんと知ってるわ」

 

 

 合否については流石に両親に話さなければいけないだろう、私は部屋の扉の前で無造作に封筒を開ける。

 

 

 中身を見ると何枚かの書類と小型の機械が入っており、それを取り出してみた瞬間に空中に画面が浮かび上がりだした。

 

 

「私が投影された!!!」

 

 

『はい、トイレタイムです。小さいほうなら急げば間に合います。大は諦めてください、私は喉が渇いたので飲み物を取ってきます

 

 ここで草(緑茶)飲めるんで』

 

 

 どうやら投影装置の一種らしい、映されたオールマイトは私が主席合格であること、試験中に見ていたヴィランポイントとヒーローポイントの話を含め私を称賛している。

 

 それをどこか他人事のように眺めているといつの間にか映像は終わっていた。

 

「やったー!! 雄英よ! お父さん!」

 

 知っている。

 

「おまえは大したものだよ、桃子」

 

 私がすでに合格することも

 

「今日はごちそうね!!」

 

 本当はお母さんは私にヒーローなんて危険な仕事について欲しいとは思ってなくて、いつも泣いていることも

 

「お前は俺たちの自慢の娘だ」

 

 お父さんはお母さんと私、何より家族を優先していつも支えてくれていて……、でもその所為でお酒が増えていることも

 

「ありがとう」

 

 全部知っている。全部私のせいだということも

 

 

『さーて、雄英に受かったわけですが、入学に備えてやることは変わりません「個性を育てよう」一択です。 プルスウルトラァ!! RTAに遊びなんざ必要ねぇんだよ!!』

 

 

「ごちそうもいいけどさ、雄英はすごい所だから、きっと私の力じゃ全然足りないと思うんだ。だから外に行ってくるよ」

 

「っ……い、行ってらっしゃい桃子、準備して待ってるわよ!」

 

「……車に気をつけてな」

 

 だけどこの声は無慈悲だ。

 

「……もし……、あのね、もしなんだけど……」

 

 でも一言、どうか一言だけでいいから許してほしい

 

「もしも私がプロヒーローになれたらお花見に行きたいな、昔みたいにみんなで……」

 

 いつか自由になれたなら

 

 そう言って返事は聞かずに私は玄関に向かった。

 

 

 

 

 私の自由を勝ち取るための学校生活が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今雄英高校教室の前にいる。

 

『さてここからが本番です。教室にはゆっくりめに、大体の人数が集まってから入りましょう、新しい生活とクラスメイト達、ここで一番大事なことは初対面の印象です。言い争いをするトンガリコーンとメガネのイベントを無視して颯爽と席に着きます』

 

 なぜか言い争いをしている爆豪君と真面目そうな人を遠巻きに避けながら指定された席に無言で向かうと席に着いた。

 

『試験で首位を取った場合、高確率で誰かが話しかけてきます。ここで話しかけてくる人たちはランダムですがこの会話イベントに限り周りの好感度も変動しますので、会話の失敗を祈りましょう、初期値の好感度を下回ると話しかけられる確率がぐっと減るので運のくせに実はかなり重要な場所なんですよねここ、ちなみに個人個人との好感度とは別にクラス全体での好感度が設定してあり……』

 

 私が頭の声を聴き流しながら席について空いた時間で勉強していると話しかけてくる人がいる。

 

「……おい根暗女」

 

 

『あっ…そっかぁ……(痴呆)ボンバーマンと幼馴染だとこっちが強制されるんだ。あまり走らないから勉強になるゾ……』

 

 

「テメーといい、デクといいことごとく俺の人生設計をぶち壊しにしやがる。史上初の雄英進学者!! その箔をよぉ!!!!」

 

 そういえば自由登校は学校に一切行かず、三年目は別のクラスだったので受験から会うのは初めてだった気がする。

 

 でも、私立中学史上初の雄英高校合格者が3人も同時に現れたことはむしろ地元で伝説と噂されているのでそれで納得してはくれないのだろうか?

 

 私は息を吸ってこわばった顔を作る。

 

「そのあなたの都合、私に関係あるのかな? 勝手な考えを押し付けられて正直不快だよ」

 

 ……ごめんなさい爆豪君。

 

『このイベントでは感度3000倍男にどれだけ攻撃的な会話をしても周りの好感度は下がりません、向こうがそもそも喧嘩腰だからね、しょうがないね』

 

 

「あ゛ぁ!!!!!????」

 

「こら、君たち喧嘩は良くないぞ!」

 

『相手がカンカンでいらっしゃる。咥えて差し上げろ(煽り)』

 

 

 そうしてわたしたちがうるさく言い合いをしていると

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」

 

 

 廊下に何かいるとは思っていたが寝袋に包まり、無精ひげを生やした人が横になっていた。

 

 学校における学生以外の大人なんてものの職業を用務員以外に一つしか思いつかないが、目の前の光景はそういった私の常識を揺らがせる。

 

 

『出ました合理性マン、1-Aのツンデレ教師ですね』

 

 

 ……どうやら本当にこの人は教師らしい

 

 

 ポカンとしている私たちは、ごそごそと寝袋から這い出す先生らしき人を黙って見る。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 

『時間は有限、それには同意です。コイツまさか私と同じ走者か?』

 

 

「担任の相澤消太だ。早速だが体操着着てグラウンドにでろ」

 

 

『うーんこのスピード感、ちゃっちゃと展開が進んで素晴らしいですね』

 

 

 私たちは言われるがままに着替えて急いでグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからお前らには個性把握テストを行ってもらう」

 

 

 先生の説明によれば自分の個性を把握しようということらしい

 

 今まで個性を禁じられて生きてきた周りのみんなはやる気に満ち溢れた顔をしている。

 

 

「なんだこれ!! すげー面白そう!」

 

「個性を思いっきり使えるんだ!! 流石ヒーロー科!!」

 

 それを見ていた相澤先生が呟いた。

 

 

「……面白そう……か」

 

 不気味に目を細める先生に私は何か嫌な予感を感じた。

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりか? よし、トータル成績最下位の者は見込みなしとして除籍処分としよう」

 

 周りから驚愕の声が響き渡る。

 

 

 ……こんなところで立ち止まってなんかいられない、私はヒーローになるんだ。

 

 

「はじめは50メートル走だ。さっさとならべ」

 

 

 私は緊張をほぐす為に一つ息を吐いて、集中を高めた。

 

 

 ……大丈夫、私の個性は入学試験でも通じた。いつも通り頭の声にまかせて体を動かせばそれでいい、ただ歯を食いしばればそれでいつか終わるんだ……。

 

 

『個性把握テストは特に操作することもないのでオート放置です。ホモ子一人で頑張ってもらいましょう』

 

 

 え……?

 

 

『ここで続けてのトイレ休憩です。偏りスギィ!もっと後半にトイレ休憩を作ってほしいです……、そんな蛇口みたいにおしっこは出ないから……、なおウンコができるほどの時間でもない模様

 

 長時間かかるRTAでは尿意と便意は大敵です

 

 利尿作用の強い緑茶、紅茶、コーヒー、コーラなどの飲み物はRTAでは避けましょう』

 

 

 実を言うと私は自分の個性を使いこなせる自信が全くない。

 

 確かに私は個性を育て続けていたが、その使い方の練習なんて一度もしたことはないからだ。

 

 とてつもない力を出すことはできるが、ある一定以上の出力を出そうとすると全くコントロールできない、張りぼての個性が私だ。

 

 走るにしてもそうだ。個性を一般人がむやみに使うのは禁止されている。だから私は隠れて鍛えるしかなく、足だって走るのに必要な筋肉をただ育ててきただけで、一度だって全力で走ったことなどない。

 

 中学時代、個性を使って学校の子たちの後ろに回りこんだ時も、あれは本来なら目の前に止まるつもりが行き過ぎただけであり、むしろ自分の力に振り回されて転ばなかったことが奇跡だった。

 

 たとえ、この個性で50メートル走をしたところで、私は前に向かって動くことすらできるか怪しいだろう。

 

 

 声の操作なしの私は弱い。

 

 私一人に、ヒーローになるなんて、そんな実力はありはしない。

 

 

 嫌悪していたこの声に実は期待していた自分に気付いて情けなくなるが、それ以上に不安が出てきた。

 

 このままだと記録なんて出せるわけがない、下手をすれば除籍するのは自分かもしれないのだ。

 

 握力や視力、聴力などの純粋な身体機能ならまだ望みがあったのに……、いや違う……、そもそもまともに個性を調節できないような人間をあの先生が許してくれるだろうか……?

 

 

 

『操作することもないので今のホモ子の育ち具合についてでも語りましょうか。

 

 実はホモ子の個性は言うほど強くはありません。

 

 敵の強キャラやプロヒーローたちには及ばないうえ、これから仲間たちの戦闘力もインフレしていくのですごい勢いで追いかけられます。

 

 安定して無双ができるのは序盤ぐらい、だから無理にでも入学試験で稼いだわけなんですが……』

 

 

 

 当然だ。

 

 ここにいる人たちは私と違ってヒーローになるべき人たちだ。私とは何もかもが違う

 

 

 

「飯田天哉、3秒04」

 

(50メートルじゃ3速までしか入らんな……)

 

 

 すごい個性だ。足についているエンジンのような機関で、圧倒的な速度を走り抜けている。

 

 

「ふふ、みんな創意工夫が足りないよ、個性を使っていいってのはこういうことさ」

 

「青山優雅、5秒51」

 

 

 レーザーのような個性の反動を利用した移動方法に個性の工夫なんて考えたこともない私は驚かされた。

 

 

「オラァ!!」

 

「爆豪克己、4秒13」

 

 

 みんな自分の能力を十全に出しながらタイムを出している。それを見て既に喉はカラカラだった。

 

 私の体が動くとき、その時は全部が声任せだった。

 

 あの悪魔じみた効率的な体の運用、あれがあって初めて私はヒーローになれる可能性があったのだというのに……

 

 

「おい本条、お前の番だ、早く準備しろ」

 

 

 除籍はやだ。やだやだやだ……

 

 

「なんかあいつ顔色悪くないか?」

 

「……顔が真っ青、もしかして体調がすぐれないんじゃ……」

 

 

 ふるえる足を何とかおさえながら、私はスタートの白線の前に立つ。

 

 

『ホモ子はいわゆる早熟型の天才って感じです。

 

 神童も二十歳過ぎればただの人、普通にイベント前提のゲームだからね、パワポケでただ野球だけをしても強くなれないのと同じです』

 

 

 

「スタート!」

 

 

 ただがむしゃらに踏み込むしか私にはできなかった。

 

 

「…………ッはぁ!!……」

 

 

『ですがその20までの才能で逃げ切るのがこのチャートなんですけどね』

 

 

 

 

 

 

「……本条桃子、2秒50」

 

 

「おいおい、なにが体調が悪いだよ……」

 

「……すげぇ、まじかよ、地面がえぐれてるじゃねーか」

 

「クッ……、走りで負けるとは……、さすが雄英主席」

 

 

 

『ヒューッ! 自慢じゃないがうちのホモ子は百メートルを五秒フラットで走れるんだぜ(宇宙海賊感)

 

 なんで受験でアホほど目立ち、イベント発生の危険を無視して1位を取ったと思っているんですか、まさか皆さん何も考えていないガバと思っていませんよねぇ(ねっとり)

 

 というか増強型がこのテストに有利なのは当たり前だよなぁ?』

 

 

 動けている。

 

 あの受験会場での体の動かし方がなぜか自分にも刻み込まれていると感じる。

 

 いやそれどころかあの時よりも体の動きが自分で理解できてずいぶんと楽になったと言ってもいい

 

 

『前回分の強化でさらに育ったので、本RTAは個性だけで見ればホモ子の仕上がりは理想的です。

 

 一気にスキルも取得したので多少のガバはお釣りがくるのでガンガン行こうぜ!!』

 

 

 情けない話だが、私は全てが声の掌の上のような気分に対する怒りよりも、なにより除籍にならないことにほっとしていた。

 

 

 

 

 

 第2種目 握力測定

 

「おいおい、筋肉ダルマみたいな男を超えた記録を出している女がいるんだが……」

 

「ゴリラか?」

 

「メカゴリラだな」

 

 

 第3種目 立ち幅跳び

 

「ミサイルかよ……、まだ飛んでるぞ」

 

「アレ着地大丈夫か……、うっわ落ちた所がすげぇ土煙だ」

 

「着地っていうより着弾だろ」

 

 

 

 第4種目 反復横飛び

 

「速っ! 目で追えねぇ」

 

「残像が見えてというか……、あの子地面がすり減ってどんどん埋まってない?」

 

 

 第5種目 ボール投げ

 

「レーザービームかよ……、ってさっき似たようなこと言ったな俺」

 

「全身凶器かあいつ」

 

「全身兵器のゴリラとか恐ろしすぎるぜ」

 

「アンタら女の子に何失礼なこと言ってんのよ!」

 

 

 私は自分の女としての評価が著しく下がっていくのを感じたが除籍にさえならなければなんでもいい。

 

 

 こうして私は自分のテストを終えると、クラスメイトの結果を見て、自分が除籍にならなそうだと分かり卑しくも安心した。

 

 

 

 

 

『結果発表おおおおお!!!!!(一般レジェンド芸人型ゴリラ)

 

 ……の前に、主人公のイベントです』

 

 

 

「緑谷出久、46メートル」

 

 

 緑谷君はまだハンドボールを投げようとしている。

 

 ……が、どうやら様子が変だ。

 

 

 先生は緑谷君を睨みつけ。

 

 緑谷君は先生に向かって信じられないものを見たように硬直している。

 

 

『あれれ~おかしいぞ~、一人だけロクな成績出せてない人がいる~、なんで~、教えて相澤のおじさん』

 

 

「……つくづくあの入試は合理性に欠くよ、お前みたいな奴らも入学できる」

 

 その冷たい目がこちらをチラリと見た気がして背筋が凍った。

 

「個性を制御できていない、また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりか」

 

「そっ、そんなつもりじゃ…」

 

「お前がどう思おうが周りがそうせざるを得ないって話だ」

 

 そういわれた緑谷君は口をつぐんで苦しそうな顔をする。

 

「さっきはお前の個性を消した。ボール投げは二回だ。さっさと済ませな……」

 

 

 

 個性を消した!?

 

 そんなことができる個性があるなんて、だとしたら私の中の声にもきくのだろうか

 

 

『頭マリモッコリ君がオールマイトからもらった個性「ワン・フォー・オール」を使いこなせていませんね、純粋な殴り合いに限って言えばホモ子の個性の完全上位互換です。ちょっと主人公補正強すぎんよ~』

 

 

 ……………は?

 

 緑谷君がオールマイトの個性?

 

 

『今年の夏にオールマイトが引退するんだから頑張るんだ主人公! 悪の秘密結社ヴィラン連合を打ち倒すため、男なら背負わにゃいかん時はどない辛くても背負わにゃいかんぞ!』

 

 

 引退!? オールマイトが!? なんで!!??

 

 

『ヒーローが負けたら、この国、かなり修羅って大変なことになっちゃうので、ひろあきゃあのみんな~ がんばえ~』

 

 

 …………国が大変なことになる?

 

 

 私は顔色を一人でくるくると表情を変えながら、緑谷君を見る。

 

 

 彼は無個性のはずだった。

 

 

 だれも彼が雄英に来るなんて思ってはいなかっただろう。

 

 しかし、この声は彼がこの雄英に来ると昔から確信していた。

 

 

 声の話す未来のほとんどは、外れたことがない。

 

 この雄英に入る学生のほとんどの名前を、ここに来る前から言い当てていたのもそうだ。

 

 この声が話す未来の内容はおきる可能性が非常に高いと考えていい、それが12年間この声を聞いてきた私の結論だ。

 

 

『下手に友情ムーブに巻き込まれると死ぬ確率が跳ねあがるので、彼らに期待して、私たちはポップコーンでも食べてましょう』

 

 

 つまりこの高校生活は恐ろしい何かが待ち受けている。

 

 それはこの国が変わるような重大な何かだ。

 

 私にそんな大それたものを左右するヒーローみたいなことができるわけがない

 

 長考して下した結論は何もしないという呆れるほど情けない答えだった。

 

 

 

 ……私が見捨てたわけじゃない

 

 見捨てたんじゃない、元の運命がそうなだけ、私が知ったのは偶然で……、私が悪いわけじゃ……

 

 だれだって私と同じように考える。

 

 仕方がない、仕方ないんだ

 

 

 

 

 その時、空気を無理やり割くような大きな音が私の考えを中断させる。

 

 

 

 緑谷君が全力の一投を投げていた所だった。

 

 

「まだ……、動けます」

 

 

あぁ、なぜ皆はあんなに輝いているのだろうか

 

 

「すっげぇ!!!!」

 

「とんでもねぇ記録だ!」

 

「あいつかなり熱い奴だぜ!」

 

 

 どんな逆境でも諦めない緑谷君。

 

 自分以外の誰かを蹴落とさなければいけない、この状況で、こんなに誰かの活躍を喜べる人たち。

 

 彼らは本物のヒーローで、ここにいる全員がおそらく私のような答えは出さないと確信できた。

 

 

 そんな自分の醜さを照らされた時、もう限界だった。

 

 

 

「……先生、体調が悪いので、保健室に行かせてください」

 

 

 

 ここにいるのが嫌で嘘を言ったわけではない

 

 ただ私は本当に気分が悪くて……、吐きそうで立っていられなかっただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は目の前にいる自身の教え子である女生徒。

 

 

 本条桃子を前にどうしたものかと頭を悩ませていた。

 

 

 

 うつむく彼女を見ながら、受験試験直後のことを彼は思いだす。

 

 

 

 

 

 

 

「YEAH! 今年は豊作だ! どいつもこいつもなかなかに活きがいいじゃないの!!」

 

「えぇ、今年は例年に比べて実技、筆記と高いレベルです」

 

「しかしその分、はねっかえりも多そうだ。今年の一年の担任は相澤先生と管先生ですが大丈夫ですか?」

 

「1のB組は面白くなりそうです。うまくやりますよ」

 

「……………」

 

「相澤君のほうはどうだい? ……ん?どうかしたのかい相澤君」

 

 話を向けられた男は静かに顔を上げる。

 

 世間話に興じる教師たちの中でただ一人、眉をひそめるのを隠しもしなかった彼は静かに口を開いた。

 

 

「私は再三言ってきたはずです。この本条という受験生は他の受験生を危機にさらしてポイントを稼ごうとした。だからそんな奴にヒーローポイントなんて与えるべきではないと」

 

「………それは全て偶然だったという結論に落ち着いたじゃないか」

 

 

 そんなわけがない。あれは意図的な誘導だったと彼は確信していた。

 

 あれほどの実力をもっていたにもかかわらず、あの一帯だけ不自然に残された仮想敵は、一つの場所に通じるように配置されていたのはなぜか

 

 すべてはあそこに他の受験生を集め、自分がそれを救ったように見せかける彼女の策略であると彼は周りに意見した。

 

 

「あの時、あの場所でロボを襲わせたのはこちらのアドリブだった。そうだろう? そして彼女のレスキューポイントが0点だとしてもヴィランポイントだけで主席だ。結局合格になることは変わらない、違うかい?」

 

 

 目の前の優秀な上司がそのことに気付かないわけがないことは彼には分っていた。

 

 だというのに、そのとぼけるような態度がさらに彼を苛立たせる。

 

 

「えぇ、私が彼女を認めなかった。それだけの話です」

 

 

 だからこんな入試は合理的ではないと言い続けているというのにと、彼は内心で毒づいた。

 

 

「ではなぜそんな奴をよりによって私のクラスに入れたのでしょうか」

 

「不満かね?」

 

「疑問です。言っておきますがそこまでして入れても、私はヒーローにふさわしくないと感じたら除籍させますよ。彼女に可能性を感じるならB組にでも入れておいたほうが合理的だ」

 

「ふむ、じゃあどうすれば君はあの子の担任になってくれるんだね?」

 

 

 彼にはなぜ頑なに自分にあの少女を預けようとするのかが分からなかった。

 

 

「……繰り返しますが私は彼女をすぐに除籍させます。全く以て非効率的だ。彼女の担任をするなら他の受かるはずだった奴の担任に私がなるほうがまだ合理的ですね」

 

 

 嫌味も多分に含んだ言葉だったが、相手の顔は涼しく、まったく堪えた様子はない。

 

 

「なるほど分かった。ならば君のクラスは21人目の枠で用意しよう、これで君の心残りはないわけだ」

 

 

 あまりの無茶苦茶に思わず彼は返答に詰まった。

 

 

「……そういう話ではないでしょう」

 

「君が即除籍させれば、ちょうどぴったりクラスは20人、したいならすればいい、君の言う合理的な判断という奴ではないのかな」

 

 

 どうやらどうしても自分に主席様の担任をさせたいらしいと彼が気づくと、押し黙る。

 

 わだかまりはあったがこれ以上、理屈をつけて反論しても意味はない。

 

 彼は合理的に考えて口を開くのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 反論を止めたがもちろん彼は彼女を認めたわけではない。

 

 

 

 

 

 

 本条桃子の試験結果は完璧だった。

 

 

 ルールの中で自分の最大最高率を打ち出す。

 

 

 合理主義者の彼に言わせても反吐が出るほどの合理的行動だった。

 

 

 人の獲物の横取りは当たり前、偶然に残した敵は他の受験生を敵の多い場所に近づかせないよう誘導する囮

 

 そして何より最後。

 

 

 彼女は他人を踏み台にしてレスキューポイントを総取りにしようとした。

 

 自分で危険を作り自分で救うマッチポンプ

 

 

 その時、この女は人を助けようなんてことは微塵も考えていないと彼は確信した。

 

 だからこそ彼女が雄英にふさわしくないと彼自身の考えを意見したのだ。

 

 彼の提言は試験当日の教師の中でもかなりの議論となり、結果として巨大ロボの最後の一撃はヒーローの資質を見るために学校側で仕組まれたランダムなもので予測は不可能とされ、横取りや狡猾な誘導、露骨な救助などの不自然な動きは試験開始から受験生の動きを俯瞰して予測し、レスキューポイントの存在を推察した彼女の優秀さとして主席合格となった。

 

 

 

 そもそも主席合格者を入れるか入れないかなんて議論が白熱した時点で察せられるだろう。

 

 あれだけの人を救ったのに緑谷の救助ポイントより低いのは、あの場の教師全員が彼女の目を見た時に分かっていたからだ。

 

 

 

 あれはヒーローになるべきではない

 

 

 

 だが一人の少女のことをそんな風に言えるヒーローがあそこにはいなかった。

 

 ……いやヒーローだから言えなかったのかもしれない。

 

 だからこそ合理性を考えて彼が言った。

 

 

 そしたらこのざまだと彼は自嘲する。

 

 

 こうしてすぐにでも除籍してやろうと考え、今実際にその本条桃子の目の前に彼はいるわけだが……。

 

 

「……先生、付き添ってもらってすみません」

 

 

 目の前で本条はベッドに腰かけながら浅い呼吸を繰り返していた。

 

 

 平凡

 

 

 普通すぎてヒーロー科には向いていないだろうと彼は思った。

 

 もっと破綻した性格の人間かと思っていたらそうでもない。

 

 おとなしく、目立とうとしない、悪く言えば流されやすそうな雰囲気、全く以て現代の大多数をしめる若者の典型。

 

 自分以外の全てを道具としてしか見ないような、残酷なまでの冷徹さを見せた奴とは思えない、いたって普通の学生だ。

 

 そこまで考えて、彼は体力測定の彼女を思い出す。

 

 

 思い返せば普通ではあるがおかしい所がないわけではなかった。

 

 

 テストの最中それとなく観察していたが、彼女はテスト中、一人で緑谷や周りを見ながら打ちひしがれていた。

 

 それはあまりにも大きな他者と自分の差を見たかのような深い絶望の顔だった。

 

 

 最下位ならわかる。

 

 自分の力が周りに及ばず、除籍処分を覚悟した顔

 

 

 というか途中の緑谷少年がそうだった。

 

 

 ……だがなぜそんな顔をこのテストで他をよせ付けずにトップに立った彼女がするのかが彼にはわからない。

 

 

 

「本条、お前はなぜ雄英にきた」

 

 

 目の前の少女がびくりと肩を震わせる。

 

 その目には涙がうっすらとたまっていて、見ていて哀れになるほどの怯えだった。

 

 

 彼はさらに混乱してしまう。

 

 わからない、なぜこんな反応をするんだ?

 

 そうしばらく考えるが、聞いたほうが早いと思いなおす。

 

 

「正直お前にはヒーローは向いていないと思っている。

 

 受験の時他人を危険に晒して蹴落としただろう、俺はそれが気に食わない。

 

 俺が納得できる返答ができなければ今すぐにでも理由をつけて除籍処分を下すつもりだ」

 

 

 少女はうつむき黙り込んだ。

 

 目の前で震える少女にこのような言葉をかければそれも当然だったと彼も思うが、容赦はしない

 

 そもそもこの程度の質問に即答できないならヒーローに向いていない、ここで辞めさせるのが一番傷が浅いと彼は考えていた。

 

 

「黙っていても除籍は取り下げないぞ本条、答えろ」

 

 

 無言の沈黙がしばらく続く

 

 これ以上は時間の無駄か……、彼がそう思った時だった。

 

 

「ここに来た理由はヒーローになるためです……」

 

 

 上げたその顔は意外にも強い意志があった。

 

 

「なぜヒーローになろうと思った」

 

 

そう彼が問いかけると低い声で返す。

 

 

「理由は話せません、ただ私がどれだけヒーローに向いていなくても、私の人生はヒーローになってようやく始まるんです」

 

 

 それは怨嗟だった。

 

 

「すごく苦しいんです……。でも……だれも、……だれも助けてくれない……、だから私が私を救う以外に私が救われる方法はない」

 

 

 理由は分からない、だが確かに彼女は何かを呪い、呪われていて、それをどうにかするためにここにきたのだと、彼はうすぼんやりと理解した。

 

 

 

 

「…………とりあえず、除籍は保留としておく、俺は先に教室に戻るぞ」

 

 

 

 

 彼にはなにが彼女にここまでさせるのか分からなかった。

 

 

 ……だがそれをはっきりさせるまでは判断はつけられない。

 

 

 そう考えて彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保健室を出たところで彼は横から話しかけられる。

 

 

 

「……校長」

 

「やぁ、たった今しがた今年の生徒の追加調査票ができたから後で目を通してくれ」

 

「ずいぶんタイミングが良いことですね」

 

 

 どうせ今までの会話も聞いていたのだろうと彼は考える。

 

 

「本条桃子、人物評は学業優秀だが対人関係をうまく築けておらずクラスでは孤立気味、学校側は隠しているけど個性によるクラスメイト傷害の疑いあり、うーん、同じ学校でうちに三人もくるなんてすごいね、小学校は君のクラスの砂藤くんと同級生だったらしい」

 

 

 生年月日、出生地、家族構成、素行、聞いてもいなければ返事もしていないのにも関わらず彼女のプロフィールを校長はわざとらしく羅列していく。

 

 

「小学校卒業後は父の転勤により折寺中学校へ入学と書いてあるが実際はそれだけじゃない、向こうで事件に巻き込まれて引っ越したらしい」

 

 

 今言われたことは中学の内申書や調査書から彼も大体は把握している。しかし傷害やその出来事とやらの話は聞いたことがなかった。

 

 

「11歳の彼女は親友との帰り道に個性犯に襲われる。

 

 犯人は彼女の親友の方に気を取られ、幸運にも本条君はケガもなく助かった。

 

 犯人の名はムーンフィッシュ、あの死刑囚だよ」

 

「…………」

 

 

 ムーンフィッシュ

 

 その名前を聞いて、当時の事件と照らし合わせれば、その親友がどうなったかは察せられた。

 

 つまり彼女は自分たちヒーローが助けられなかった被害者の一人というわけだと彼は気づく。

 

 ならばそのヒーローになるのは復讐か、それとも一人生き残った贖罪か

 

 

「復讐や後悔でヒーローになるのは止めたほうがいいと私は思いますがね」

 

「僕は思うんだ。

 悪に強いは善に強いという言葉がある。 

 もし彼女が正しい形でヒーローを目指すのならきっと素晴らしいヒーローになる。

 そして君ならそういった生徒をうまく導けると確信して任せたいんだ」

 

「私は授業の準備があるのでここで失礼します」

 

 彼は足早にその場を後にしようとする。

 

「やっぱり、納得はしてくれないのかい?」

 

 

 背後から声をかけられたので体はそのまま、後ろのほうを少し振りむいて彼は答える。

 

 

 

 

 

 

「……………とりあえずは21人分の授業の教材を揃えなければいけないので」

 

「君ってもしかしてツンデレって言われることが結構あったりしないかい?」

 

 

 今度は振り向きも答えもせずに彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




※私は青山君が好きなので話の整合性や設定に矛盾が起きても、適当な設定を作って1-Aに無理やりねじ込みます。

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