個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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5話 前編

 私は登校しながら、先日の相澤先生とのやり取りを思い出す。

 

 

 

 なぜヒーローになろうと思った

 

 

 

 そんなのは決まっている。

 

 私はこの声から解放されるためにヒーローになるんだ。

 

 人を救いたいだの守りたいだのそんな余裕は自分にはない。

 

 私は私を救うためにヒーローになる。

 

 

 それがいけないことなの?

 

 

 ずっと助けて欲しかった。

 

 自分をこの地獄から救い出してくれる誰か、それこそヒーローが来てくれないかと夢想した時もある。

 

 でも、助けてなんて言葉、大声で叫んでも、絞り出すように呟いても、心で祈ってもなんの意味もなかった。

 

 

 誰も来てくれなかった。

 

 

 じゃあ私が頑張るしかないじゃないか

 

 

 だれも助けてくれないから私が自分を助けようとしているのに、よりによって今まで私を無視してきたヒーローから除籍を言い渡されそうになった時、思わず先生に言い返してしまった。

 

 ……私がヒーローにふさわしくないのは事実で、先生がわたしを認めないのは正しい

 

 個性「抹消」は気になるけど、あそこまで先生に睨まれては私に個性を使ってくださいなんて頼むことも難しい。

 

 おまけに先生が保健室から出た後に、雄英は私の過去を把握していると知った。

 

 中学で私がおこした個性による暴力行為の可能性の話をしだしたあたりからは耳をふさいでうずくまった。

 

 

 自分の過去を知れば雄英が私を認めることはないだろう。

 

 

 だからこそ圧倒的成績で周りを黙らせなければいけない

 

 

 

 

 そんな考え事をしながら私はうつうつとした気分で校門をくぐった。

 

 

 

『ただし陽キャは通さない、陰キャによるタワーディフェンスRTA part5はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 今日も他人のような私の人生が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に入った時、私は面を食らってしまった。

 

 

『……とうとう来てしまいましたね、トラウマルート最大の関門。

 

 以前説明したと思いますがトラウマルートはこちらからのフラグがたちづらくなり、うまくいけばイベントをスルー出来るといいました。

 

 ……そう、うまくいけばです』

 

 

「あっ本条さん体大丈夫? 昨日は早退したんでしょ?」

 

「みんなあのあと心配してたんだよー」

 

「本条!! あの記録で本調子じゃないとかすごすぎるぜ!!」

 

 教室の扉を開けてなだれ込んでくるクラスメイトの勢いに押されてしまう。

 

 

『私は以前「トラウマになると向こうから声をかけられやすくなる」と話しましたね?

 

 通常プレイですら頻繁に話しかけてくるこの1-Aは、トラウマ持ちだとえげつないぐらいこちらに関わってこようとしてきます

 

 えっ……なにこいつら、こんなに無視したら普通は察してくれるだろ? パーソナルスペースの概念とか理解してる?

 

 そう言いたくなるほどぐいぐい来ますし、すごい勢いで自ら好感度をガンガン上げていきます。

 

 クリアを無視した好感度減少でも狙わないと最後まで話しかけ続けてくる1-A達はナチュラルボーンの陽キャ(陽性キャリア)集団です。

 

 こちらがどんなに嫌っても、向こうはこちらを嫌わないとか聖人か何か?

 

 人に好かれる奴は人を好きになるのがうまいんやなって……

 

 圧倒的な光パワーでダークサイドのこちらに勝てる道理はありませんので逃げるしか方法はないです

 

 なお、ヒーロー科では好感度が上昇すればするほど個別のイベントの発生やエンカウントが起きるので、後半になればなるほど逃げるのが困難になります』

 

 

「……私、うるさいのがだめなの、用がなければあまり話しかけてこないでくれるとうれしいかな……」

 

 

 私はそういい捨ててすぐさま自分の机に座り、拒絶するように参考書を開いた。

 

 あまりにも嫌な奴だ。

 

 こんな奴は集団から迫害されても周りに全く罪はないだろう。

 

 

「朝のわずかな時間も自己学習に充てる。ふむ、やはり彼女の優秀さはその勤勉さにある!! 俺も見習わなければいかんな!!」

 

「ケロ、クールな子なのね」

 

「……頂点に立つ者は常に孤高だ」

 

 

 ……どうしてそうなるの

 

 

 どうも今までと手ごたえが違うので戸惑うが、私は周りを完全に無視して机にかじりつく。

 

 結局は一緒だ。

 

 拒絶し続ければいつかは拒絶される。

 

 

 

 

 だが声の言う通りに私の予想は裏切られる。

 

 

 

『そもそもこの個性があるという世界で、すぐれた個性を持つものは総じて陽キャです。

 

 ましてやヒーローを目指す者が集まるこの雄英で個性がしょぼい奴なんていません、ここに来るような奴らはもともとクラスの中心人物、スクールカースト頂点の怪物どもです。

 

 クラスの生徒全員がクラスの中心とかここは小宇宙かなにか?

 

 陰に潜むような人間は、なすすべもなくここの重力に引き裂かれる運命しかありません』

 

 

「私は芦戸三奈! よろしくね! これから仲良くなりましょ!」

 

「ほどほどの距離感でいいよ」

 

『性格がいい・運動ができる・顔がいい、三拍子そろった陽キャ中の陽キャですね、恐ろしいことにこのクラスのほぼ全員が当てはまります』

 

 

「元気そうでよかったわ、私は蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで桃子ちゃん」

 

「よろしくね蛙吹さん、私のことは本条さんと呼んで」

 

『大胆な名前呼びは陽キャの特権』

 

 

 

「葉隠透! 見ての通り個性は「透明」よろしくね!」

 

「……人に話しかけられるのは嫌いなの、その目立たない個性がうらやましいな」

 

『陰キャに陽キャは直視できない、つまり視認できない透明人間は陽キャ(暴論)』

 

 

「ウチは耳郎響香、あんまこういうの好きじゃなさそうだけど、これから長い付き合いになるかもだしよろしくね」

 

「一人が好きなの、今後はそうしてくれると助かるな」

 

『楽器ができる奴は総じて陽キャ(偏見)』

 

 

「おっ、自己紹介なら交ぜてくれよ、俺は上鳴電気、顔だけでも覚えてくれよな」

 

「別に忘れはしないよ、話さないと思うけど」

 

『女、女、女ときてこの流れに入っていくなんて陽キャ以外できるわけないだろ! いい加減にしろ!!』

 

 

 その後もこんなに突き放しているというのにクラスのほとんどの人が話しかけてくる。そのたびに私は嫌味や失礼な言葉をかけるのが申し訳なかった。

 

 

『ファッション不良なので爆豪は陽キャ、女子に下ネタを振れるので峰田は陽キャ、鳥の頭のような髪形をしているので常闇は陽キャ、親と仲が悪いので轟は陽キャ、親と仲がいいので緑谷は陽キャ、動物が好きなので……』

 

 

 後半になるほど理由が雑になっている気がする……。

 

 それにしてもこの声はよくわからない造語を使う、陽? 陰? 人間的に明るい暗いという話だろうか、言葉の意味は少ししかわからないがすごく嫌な気分になる……。

 

 

 

 こうしてクラスメイトとの交流を避ける私は昼休みになると逃げるように教室を後にした。

 

 雄英の敷地は大きいので一人でご飯が食べられるところはたくさんあった。

 

 私は特に目立たない場所を探し、そこで一人、お母さんのお弁当を食べる。

 

 

 

 午後からはヒーロー基礎学、実際に体を動かす授業もあるらしく気分は憂鬱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 

 

「オールマイトだ……!! すげぇや、ほんとに先生やってるんだな」

 

「本物だ……、画風がちがいすぎて鳥肌が……」

 

 本物のオールマイトを見て、ヒーローにあまり詳しくない私も思わずまじまじと観察してしまう。

 

「ヒーロー基礎学、ヒーローの下地を作るため様々な訓練を行う科目だ。

 早速だが今日の科目はコレ!! 戦闘訓練を行ってもらう!!!」

 

 だが、オールマイトが手元から取り出したカードを見てそんな興奮も一気に冷めてしまった。

 

 

 戦闘訓練、おおよそ嫌な予感しかしない。

 

 

 私に戦闘なんてできるわけがないのでこのままいけば無様をさらしてしまう……、それだけならまだましだ。

 

 もしも頭の声がでてきたら……、いったい何が起きるか分からない。

 

「そしてこれが今回の訓練に合わせて、入学前に送ってもらった個性届と要望に沿った君たちの戦闘服(コスチューム)だ」

 

 

 まだ学校が始まったばかりというのに追い込まれた私は、この先の学校生活の先行きが明るくないと予感した。

 

 

 

 

 

 

『コスチュームですが今回のホモ子は簡易選択で性能を「機動重視」にすれば見た目や他の選択はなんでもいいです。

 

 コスチュームの見た目は細かく自分で作るキャラメイクモードといくつかの選択を選べばオートで作ってくれる簡易選択モードがあります。

 

 見た目がかっこいいとテンションが上がって操作性が増すと言い張り、RTA中にいきなりキャラメイクを始める心臓に毛が生えた兄貴もいますが、私は凡人なので簡易選択一択、やったとしても自分のプリセットからペイントを張り付けるぐらいです』

 

 

「飯田お前のその鎧みたいな戦闘服、動きにくくないか?」

 

「見た目よりずっと軽い、それどころか俺の個性に合わせてあって動きやすいまであるよ」

 

「ヒーローのコスチュームは個性由来の素材が使われたりもするからな、飯田のもそうなんだろ」

 

 

「あっデク君、かっこいいね、地に足ついてるって感じ」

 

「麗日さ……うぉぉ!!」

 

「あはは、要望ちゃんと書けばよかった。パツパツスーツになっちゃった」

 

 

「どうだい僕のきらめくマントは」

 

「マントが光を反射して目に良くなさそう」

 

「まさにきらめき☆」

 

 

 みんなそれぞれ個性的なスーツで似合っていた。

 

 私のスーツも基本は声の指示を聞いて機動重視だがそれ以外でつけた要望もある。

 

 

「本条だよな? 飯田みたいな全身装備で良くわからねぇ」

 

「……あまりじろじろ見ないでもらっていいかな?」

 

「声が変!! えっなんでそんな合成っぽい声なの?」

 

 

 まずは目と声を隠すための変声機付きのフルフェイスヘルメット、これは何より強く訴えた。

 

 あとはとにかく機能重視、見た目は目立たない色であれば何でもいいと希望を出し、

スーツの基本色は都市迷彩のような灰色となっている。

 

 その結果、あまりにも飾り気がないスーツだと頼んだ企業に思われたのか、ヘルメットにデフォルメされたちょっと下手でゆるい顔が勝手に書かれていたのは余計だと思う。

 

 

「なんか正に戦闘服って感じだな、軍隊とかにいそうだ」

 

「う~ん、でもヒーローって顔を売る所もあるじゃん、顔を隠すのはどうなんだろう」

 

「というかなにそのリラックスしちゃうような顔、かわいいー」

 

「……ヒーローなんて暴力を商売にしている職業が恨まれないわけないよ、敵に素性がバレたら自分の周りの人が狙われるよね?」

 

「なるほど、そういう考えもあるか……って声が間抜けすぎて頭に入んねぇな!」

 

 

 もちろんそれも理由に入るが、とにかく声に操られている時の私は自分で見てもどうかと思うほど非人間的だ。

 

 なので不気味な顔は隠し、感情のない声は合成音にしていっそ本当に機械の声のように加工することを思いついたのだ。

 

 

 そんな風に互いのスーツの感想を言い合うクラスメイト達にオールマイトが咳ばらいをして注目を集める。

 

 私もやっぱり自分のスーツが届いて少しはうれしいので、無駄に多いポッケなどいじっていたが、それを止めてオールマイトを見る。

 

 

「今回の戦闘訓練は屋内での対人戦だ。君たちはこれから敵組とヒーロー組に分かれてもらい、2対2の対人戦を行ってもらう!!」

 

 

 今回は基礎訓練ではなく実践的な戦闘訓練、ということは恐らく声が出てくる。

 

 

「状況設定は敵が核を持っている。それをヒーローが処理……」

 

 

『はい、おなじみの屋内対人戦闘訓練、21人目の生徒であるホモ子は自動で3人チームを作り、3対2のチーム戦に参加することになります。

 

 3人に勝てるわけないだろ! 勝ったな、そう思われるかもしれませんが簡単にはいきません、3対2の不均衡を補うため、こちらにランダムでハンデがつけられます。

 

 内容は、敵の核が隠しやすい小型のものになる。撃たれたら撃破扱いになる銃の使用。ヒーロー側の制限時間が減るなど様々です。

 

 個人的に一番最悪なのはこちらの位置が敵に伝わるレーダーですね、タイムが伸びる上に高評価が取りにくくなります

 

 とにかく運要素が強すぎるゲームですので相手と仲間から最善の行動を組み立てていきましょう』

 

 

 やはり来た。声の通り私は芦戸さんと青山君の3人チームになる。

 

「よろしくね! ふたりとも頑張っていこ!」

 

「僕のきらめき、みせちゃうかな?」

 

 

『悪くないですね、ビームと酸、意表を突いた作戦が可能なのでどちらかと言えば攻撃側が望ましいです。というか私が脳筋なので防衛より突撃するヒーロー側が好きです。

 

 一応この訓練のペアで気を付ける点でも解説しましょうか。

 

 仲間ペアで一緒になると最悪なのは轟、障子のBチームです。これは強すぎて活躍の場がほぼないので評価が取りづらいからですね。

 

 次点は爆豪、飯田ペアのDチームです。このチームに入れられた状態で緑谷のチームと対戦すると爆豪の私怨に巻き込まれ、評価が下がりますし、それ以外でも大抵突出する爆豪をフォローするプレイに終始することになり高評価が狙いづらいです。

 

 相手にすると厄介なチームは個性やプレイングによりかなり個人差があると思うのですが、増強型脳筋プレイの私は峰田、八百万のCチーム、特にこいつらの敵組が苦手ですね』

 

 

「おっと、3人組のDチームはヒーロー側、敵組は峰田少年と八百万少女のCチームだ!!」

 

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛

 

 救いはないんですか!?(哲学)』

 

 

「ハンデは……GPSでヒーローチームの位置が分かる小型レーダーを渡しておこう」

 

 

『救いはないね(絶望)

 

 おかしい……こんなことは許されない……』

 

 

 何やら頭の声はかなり憤っている様子だ。

 

 

『このぺアの何が嫌だというと八百万の個性「創造」の道具作成と峰田の個性「もぎもぎ」の強力な粘着ボールによって罠や飛び道具を量産し、適当にプレイすると仲間に引っかかって高評価を逃すことです。

 

 この授業で高評価をとるには一人の力押しで敵を鎮圧したり、高速移動で核を確保してももらえません、仲間との共同と連携、屋内戦に即した行動をとる必要があります。

 

 具体的に判明しているのは自分と仲間の低ダメージクリア、仲間の危機を助ける、核や敵情報の発見と共有、連携技での敵の撃破、核の確保、これらを満たすと高評価が期待できます。

 

 ですが味方には大まかな指示しか出せません、それでも当然勝手に動きます。そしていつの間にか自分より先に核を見つけたり、単騎で敵を撃破したり、罠にかかってしまったりで評価が下がります。

 

 つまり敵のガン待ち遅延マンと仲間の要介護あへあへAIの両方に対処しなきゃいけません。3対2? いいえこの戦いは1対4です。馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前!!

 

 まさにクソゲー、そして敵にこちらの位置がバレると遠距離攻撃や進行方向に罠を仕掛けてくるのでハンデのせいでクソゲー度は加速します。

 

 作戦「固まって行動」「付いてこい」などで味方を介護しながら戦うしかありません……これもうわかんねぇな(思考放棄)』

 

 

 どうやら頭の声は敵味方から活躍を奪い、自分だけが目立とうとしているようだ。

 

 声が話す評価されるポイント、相手の個性や行うだろう作戦の内容を疑うようなことはもうしない、どうせ真実だ。

 

 私は声の仲間への物言いを不快に思いながらも、どうすればこの試験で高評価を取れるか思案しながらチームの2人の方に近づく。

 

 

「……お互いの紹介をすべきだね、私の個性は成長、増強型で性能はこの前のテストで見せたけど、目や耳みたいな感覚も鋭いよ」

 

 急にしゃべりだした私に芦戸さんが驚いたような顔をしたが直ぐに意図を察し、笑顔で答えてくれた。

 

 

「私の個性は酸、体のどこからでも溶解液を出せるけど強すぎて人には使えないんだよね」

 

 強力な個性だ。

 

 だけどすごいのはそれだけでなく、純粋な運動神経だとこの前のテストで私は知っている。

 

 

 次は青山君の方に顔を向けるとポーズをつけながら自分の個性を語りだしてくれた。

 

「僕の個性はネビルレーザー、僕のきらめきは止まらないよ」

 

「あはは、でも1秒以上発射し続けるとお腹が痛くなるっていってたよね」

 

 こちらもすごい個性だ。

 

 遠距離性かつ高威力のレーザはこのチーム唯一の飛び道具なので切り札になるだろう。

 

 

「相手の個性は八百万さんが自由に道具を作る個性、峰田君がおそらく強力な粘着ボールのようなものだと思うけど何か意見はあるかな」

 

「あの子の個性ってあのボールだとは思ってたけど自分で普通にさわっていたよね、自分にはくっつかないのかな」 

 

「そうだと思う、自分で剥がせるのか、他にも機能があるか分からないけど、相手の個性から考えて、向こうは罠や武器を量産して待ち伏せ、レーダーでこちらの動きを把握して攻撃してくると思う」

 

「なるほどね、いい分析だよ」

 

 

 こんなものは頭の声をそのまま垂れ流しているだけで分析でもなんでもない

 

 

「私の個性の感覚器を使えば向こうの大まかな場所や罠の発見に有利、だからこちらは各個撃破されないよう、私たち3人が、かたまって連携をとる作戦がいいと思うの」

 

 実際、敵の位置が分かるなら数に物を言わせて各個で動く作戦も悪くはないような気がするが、私の声は固まって行くつもりなのでそれらしい理由をつけて話す。

 

「目と耳がいい私が斥候で前衛、その酸でどんな罠も壊せる芦戸さんが中衛、唯一の遠距離攻撃持ちの青山君が全体を見て私たちを援護する後衛、これがいいと思うんだけどなにか意見や不満はある?」

 

 何が起きるか未知数の訓練で、別に今すぐ自分たちの役割を固める必要があるかと言われたら疑問だが、声の支配で私が動けば絶対に突っ走る。そう考えてあえて役割を分担した。

 

 傍から見れば、上から自分勝手に作戦を決めつけてくる偉そうな奴なので、内心は反発があるのではないかと手に汗を握っていた。

 

 

「……いいね」

 

「トレビアン、僕もそう思うな」

 

「……えっ」

 

「いいじゃん!! 罠の破壊とかって、すごい私向きの役割! よく短い時間でそこまで考えられるね!!」

 

「僕は後ろから君たち二人を守るよ」

 

 

 こんな頭ごなしに伝えた作戦でも素直に受け入れ、真っすぐな称賛をしてくれる彼らに、頭の声というインチキを使っている私は目をそらした。

 

 

「……じゃあそういうことで、まず相手がしてくるだろう攻撃の予想なんだけど……」

 

 

 声に操作された私がまともな指示を出せるとは思えないので今のうちに作戦を詰める必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の話し合いが終わった後、ニコニコとした顔を向けてくる芦戸さんとほほ笑む青山君の視線を避けるように私は訓練が映し出されているモニターを注視した。

 

 

 モニターでは爆豪君、飯田君ペアと緑谷君、麗日さんペアの試合が始まっている。

 

 

 緑谷君と爆豪君の戦いは訓練を通り越した気迫で周りを圧倒させた。

 

 

 次の試合、障子くんの索敵までこなせる高い汎用性を持つ個性とビルを丸ごと凍らせる轟君の圧倒的な強さを見て、この二人と組むと活躍できないとぼやいていた頭の声の意味を知る。

 

 

 他にも硬化した切島君とテープで陣地を構築した瀬呂君の圧倒的防衛力、常闇君と蛙吹さんの普通の人間では考えられないような立体的な戦闘、耳郎さんと上鳴くんの単純な力では測れない巧みな個性の応用、どれも見ごたえがあり、素晴らしい個性だった。

 

 

「次はDチーム対Cチームだ」

 

 

 そんな光景に現実を忘れかけていたが、当然順番は回ってくる。

 

 

 

 

 

 悪寒がする。

 

 なんとなく分かってきた。

 

 

 あの意識が切り替わる感覚が来る。

 

 

 自分の自由がそれほど残されていないことを感じ取ると私は芦戸さんと青山君にせめてもの警告をする。

 

 

「……訓練が始まる前にこれだけは言わせて、私達はチームだけど仲間じゃない、私はこの訓練で自分が高い評価を受けることにしか興味がないの、必要であれば誰であろうと犠牲にする。私はあなた達を信用していない……、だから私に気を絶対に許さないで」

 

 

「それって……」

 

 

 突然の宣言に呆気にとられる二人、彼らは何かを言いだそうとするがその前に私の体がきりかわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練の開始は静かな立ち上がりだった。

 

 本条、芦戸、青山のDチーム3人はお互いの動きを決めているのか、よどみなく縦隊でビル内に侵入した。

 

 一方で事前に大量の罠を仕掛けた八百万と峰田のCチームはレーダーだけでなく、映像で相手の動きを確認しながら初めに仕掛けた罠の反応を窺う。

 

 八百万の個性である創造により監視カメラを作り、要所に設置することでCチームは位置情報と視覚情報を同時に把握することができた。

 

 

 それは作られた多量の罠との相乗効果を考えれば凶悪すぎる組み合わせだった。

 

 

 ただのビルはもはや要塞と言っていいほどの拠点と化している。

 

 

(もうすぐですわ、あともう少し先に入れば、いかに本条さんでも回避不可能の罠にかかります)

 

 

 本条が止まることなどは一切考えていないような速度で罠に向かって移動している。

 

(あと10メートル)

 

 罠の存在など考えていない進行速度であった。

 

(6メートル、3、2、1……今!)

 

 

 

 だが本条はまるで予兆などを見せずに機械のように急停止した。

 

 

(罠がバレた!?)

 

 

 特に力を入れて作成した気づかれにくい罠の群れ、そのキルゾーン一歩手前で、付いてきた後ろの2人に本条は合図を送る。

 

 

 

 するとDチームが一斉に動き出す。

 

 

 

 本条は巧妙に隠された罠の位置をまるで知っていたかのように次々と指をさして仲間に伝える。

 

 その指示に従って芦戸は酸を撒いて、罠の機構ごと壊して無効化していった。

 

 運よく作動した罠も青山によるビームの的確な援護射撃によって破壊される。

 

 

 初めで勝負を決めることも考えて設置した多量の罠が次々と無効化されている状況を八百万達はディスプレイ越しに分析する。

 

 

(……単純に筋力を増強させているだけじゃなくて、他の機能も人間以上なのかしら、主席合格者を普通の罠だけで倒そうなんて虫が良すぎる考えだったようですわね)

 

 

 すぐさま八百万は手元に握りこんだ機械のダイヤルを操作し、スイッチの一つを押し込む。

 

 罠の中には遠隔操作できるものも隠されており、八百万は罠の暴発に見せかけて罠を起動させた。

 

 壊れゆく罠たちの中から、芦戸と青山に向けてそれぞれ矢が発射されようとカチリと音を立てた。

 

 

 青山がその異音に気付いて迎撃するが一つしか破壊できない、残ったもう一つは青山自身に飛んでいく。

 

 

 その初速400キロで撃ち出される矢じりを青山はよけられない。

 

 

 しかしそれは横合いから伸びた手にひょいと掴まれる。

 

 膨大な運動量が逃げ場を失い、止められた矢は小刻みに震えていた。

 

 

(想定はしていましたわ。私はヴィラン、卑怯とは思わないでくださいね)

 

 

 すでに時間差で押しこんだもう一つのスイッチと連動して発射された麻痺毒入りの矢は別方向から4本、それが同時に飛び出す。

 

 

 

 いかに本条と言えども死角を突いた4方向の攻撃、しかも仲間を救うために体勢を崩した状態では避けられまいと二人は確信する。

 

 

 だが現実は違った。

 

 

 

「おいおい嘘だろ?」

 

 

 

 そう呆然と呟く峰田は八百万の内心を強く代弁していた。

 

 

 本条は空間を把握しているかのように少しだけ体を捻って避け、どうしても避けられない一本は2本の指で挟んで受け止めていた。 

 

 

 序盤の罠はもうほとんど残っていない

 

 唇を噛みしめる八百万は、せめてカメラ越しに映る本条から少しでも情報が取れないかとにらみつける。

 

 

「えっ……」

 

 

 そしてふざけたデザインの絵と目が合う

 

 

(……偶然です)

 

 

 八百万はそう考える。

 

 

 ビルにはいくつもの監視カメラがあり、これは教師と待機している生徒が評価を行うためのカメラであるため攻撃は禁止されている。

 

 だからこそ裏をかいて同じような監視カメラを設置した。

 

 

 勘付かれる要素はないはずだ。

 

 

 そう自分を納得させようとするが本条はカメラを見たまま動かない。

 

 本条はしなるムチのように体を捻って、掴んだ矢を投げ返す

 

 八百万の自信はカメラと共に砕け散った。

 

 

 

 

「気づかれた……!? とりあえず立て直さないと、今の罠じゃまるで意味がない、対人程度に威力を抑えた物じゃ彼女の足止めにもならないなんて……」

 

 

 動揺を押し殺したまま八百万は次の一手を考えるが、まるでその感情を見透かしたように進行速度が跳ねあがる。

 

 レーダーに映る敵の位置を示す光点の1つが、2つを置き去りにして突出する。

 

 その速度はもはや罠の中を駆け抜けるような速度、そしてその動きはどう考えてもこちらの位置を特定していた。

 

(早すぎる……! 今からここで罠を作り直す時間はない、撤退しながら罠を作れば、ダメ、私達の後退よりこっちにくる方がずっとはやい)

 

 ここで陣地の構築、罠を作りながらの撤退、彼女の脳内で様々な可能性が浮かんでは否定される。

 

 次の対応を考えようとするが思った以上に敵の接近が早い、八百万は動揺と緊迫感で咄嗟の判断ができないでいた。

 

 

「時間がねぇ、あれを倒せる道具を作れるのはお前だけだろ?」

 

 

 ここで動けたのは意外にも峰田だった。

 

 

「そうなっちまったら俺がしなきゃいけないことは決まってるよな、やりたくねぇけどよ……」

 

 事前に作られた飛び道具を掴むと、敵の方向に歩き出そうとする。

 

 

「峰田さん……、まさか私のために……犠牲に?」

 

「その言い方やめろ! なんか俺が死ぬみたいで縁起悪いだろ!!」

 

「下品な人だと思っていましたが……ちょっと見直しましたわ」

 

「惚れたか?」

 

「それはありえません、それに時間がないので早く行動にうつりましょう」

 

「…ッチ、そーですね」

 

 

 

 彼らは背中合わせに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 峰田は託されたクロスボウ、空気銃、ネットランチャー、ありったけの武器を担いで、生きている罠がある所まで走る。

 

 峰田の前方には罠を破壊しながらこちらに突っ込んでくる本条がいた。

 

 

「くっそ、訓練だって言ってるのにどいつもこいつも初めから全開じゃねーか! めちゃくちゃ怖えーよ!!!」

 

 

 峰田は震える銃口を自覚しながら引き金を引いた。

 

 

 その弾丸は本条にはかすりもせず、あらぬところに飛んでいく

 

 

 本条は峰田をまるで無視したように変わらない動きで前進を続ける。

 

 

 しかし、ふいにその足が止まった。

 

 

 作動するはずのない罠である矢じりが本条の鼻先をかすめたからだ。

 

 

「足止めだと思ってなめんなよ!」

 

 

 もともと峰田の狙いは本条などではなかった

 

 本体をねらってまともに当たることが無いのは先ほどの映像で峰田は理解していた。

 

 

 

 だからこそ峰田は罠を狙う。

 

 

 

「叩けば動く罠も多いからな、一人で来たのは早計だったんじゃねーの?」

 

 

 今まで活躍できなかった罠達が思うがままに弾ける。

 

 

 完全に本条の足が止まり、罠の対処に集中する。

 

 どうやら峰田と罠の2方面を相手にするのはリスクがあると、周りの罠を無効化させながら追い詰める作戦に変更したようだ。

 

 

「くそ、とんでもねぇ動きしやがって」

 

 

 次第に周りの罠がなくなっていく、もう少し先にある罠まで走らなければいけないが峰田には目の前の女がそんな隙を見せるとは思えない。

 

「くっ、くるんじゃねぇ!!」

 

 峰田は怯えたようにそう口にしながらも気づかれぬよう、後ろ手で八百万に渡された罠のコントローラーを操作する。

 

 

 峰田の個性を利用したトリモチ

 

 高速で動くだろう本条をとらえるためのネット

 

 行動を制限するためのまきびし

 

 足の踏ん張りをきかなくさせるための潤滑剤

 

 

 それらの数々の罠を峰田は適切なタイミングで起動させた。

 

 

「へへ、ローションはオイラ考案だぜ?」

 

 

 峰田は健闘し、足止めの役目を十分に果たした。

 

 だがそんな追いかけっこも永遠には続かない。

 

 とうとう罠などは配置されていない場所まで追い込まれた峰田が最後に逃げ込んだ先は開かれた空間だった。

 

 

 「峰田さん!!!」

 

 

 八百万もそこにいた。

 

 ボロボロになった峰田は転がりながら合流する。

 

 

「最後の罠もダメだった! すぐに本条が来る!!」

 

「峰田さん!! 伏せてください!!」

 

 八百万の目の前には巨大なクロスボウ、それは建造物への攻撃するためのもので人に使えば四散するだろう。

 

「おいおい、なんてもの出したんだよ!!!」

 

「今、私声が聞こえませんの! だから早く伏せて!!」

 

「ハァ!?」

 

 

 叫んだ八百万は手に持った筒状の物体を入り口にいくつも投げ入れた。

 

 ほぼ同時に瞬間に部屋に飛び込んでくる影。

 

 

「いくら貴女が駆けっこの一等賞でも光には勝てませんでしょう」

 

 

 目の前で炸裂する道具は八百万が作り出した非殺傷兵器。

 

 常人なら突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生させる程度で済むそれは、鋭敏な感覚器を持ち、それを研ぎ澄ました状態でいる本条には致命傷だった。

 

 スタングレネード。180デシベルの爆音と100万カンデラの閃光がたたきつけられ本条は膝をついた。

 

 

「あなたのためだけに用意させていただきましたわ」

 

 

 八百万はすでに狙いをつけていた。

 

 通常の矢とは素材も大きさも違う特別製、射出機構に使われるバネや糸も特別仕様で弓を引くためにも専用の機械を作らなければいけない。

 

 本条を倒す目的だけに作られたワンオフの一品

 

 そんな化け物を退治するための銀の弾丸が本条に襲い掛かる。

 

 

 

 怪物はそれでも反応した。

 

 

 

 ぎこちない動きで回避が間に合わないと悟ると、ぐるりと首と手だけを回してその矢の中ほどを両手でつかみ、耐えようと試みる。 

 

 だがその膨大な運動エネルギーはいくら足を踏ん張ろうが床の方が持たなかった。

 

 矢ごと吹き飛ばされ、鉄筋コンクリートの壁にたたきつけられる。

 

 

 

 

「や、やったの?」

 

「それを言うと大抵は……、いやマジで生きてくれているよな?」

 

 

 

 

 正直その破壊現象をみて八百万と峰田はやりすぎてしまったのではないかと不安になる。

 

 

 しかしその残骸から動く人影をみてそんな同情は一切なくなった。

 

 

「おい、もう手なんて残ってねーぞ」

 

 

 その動く人型はボロボロでスーツは破け、頭部のヘルメットは砕けて取れかけていた。

 

 瓦礫の中から這いずるように出てくる姿は人間とは思えない。

 

 それは地面に手を突き立てるがぽろぽろと崩れ落ちては頭を地面にたたきつけている。

 

 

「お、おいもうやめろ」

 

 

 何度かするとごとりと首が落ちるようにヘルメットが脱げる。 

 

 

 そして二人は不幸にも目を合わせてしまった。

 

 

 

「……のあと…………なら………おつり……」

 

 

 

 何も映していない空洞。

 

 あれは人間の目ではない、あれに見られたくない。

 

 強烈な生理的嫌悪感と恐怖。

 

 何も映っていないのにその目はこちらに固定されていた。

 

 

 よく聞けば、うわ言のように無感情に何かを呟いている。

 

 

 二人は今が訓練中で自分たちがヒーローを目指していることを忘れて祈った。

 

 

 

 目の前のこれが二度と立ち上がらないことを……

 

 

 

 

 

「……ぞっこうします」

 

 

 

 

 

 だが無慈悲にも怪物はゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 その異様な光景に圧倒され二人は動くことができない。

 

 

 

「ヒーローチーム!!!!! ウィィィィーーーーン!!!!!!!!」

 

 

 歩きだそうとする本条を止めたのは試合終了の合図だった。 

 

 

 オールマイトは本条の肩に手を置いている。

 

 

 

 

 

「そこまでだ。核は青山くんと芦戸くんが確保した。とりあえずは講評をしようか本条くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後がすべてノーミスならばタイム的にはお釣りがでるので続行します(ウンチー理論)

後半はホモ子視点です。

これはRTAなのか、通常プレイなのか、度重なるクズ運、加速するガバは、ついに危険な領域へと突入する。

次回 走者レイプ! 鎖マンと化した同輩

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