個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア 作:ばばばばば
突然学校が休校になった。
なんでも不審者がここら辺に出たらしいと、砂藤少年は聞いていたが、詳しい話は分からない。
ただ、なにか事件があって、そのせいで外へ出てはいけない。とだけ、伝えられた。
だからと言って、この降ってわいた休みを小学生が見逃すわけはなく。砂藤少年も例にもれず、抜け出そうとしたがすぐに両親に見つかった。
今日は外に出るな。
首根っこをつかまれて引き戻した親の顔があまりにも真剣だったため、彼はおとなしく家で過ごすことにした。
どうも今日は大人たちが騒がしい。
そう違和感を覚えつつも家に居ろというならば、ゲームでもしようかと彼は考え、テレビに向かった。
普段ならば、休みの時にテレビゲームをしようものなら、見たい番組が見れないと嫌味を言われるのが決まりであったはずなのに、今日は何故か何も言われない。
それどころか、ゲームしようとリモコンを探すと、親が素早くテレビを操作してゲームの画面を表示し、ゲームをやりたいなら今日はずっとやっていいと言ってくる。
ここまで来たら、何か隠されていることに嫌でも気付いた。
今日の休校、不審者騒ぎ、テレビの方をちらちらとみる親。
なにかテレビにあるのではないか?
そう考えた彼は、親が少し離れた隙にテレビをつける。
いつも通りのテレビだった。
彼は惰性でチャンネルを回すが、特段変わったものはない。
<では次のニュースです。昨夜6時ごろ、T県○市××町で小学高学年の女子児童が遺体で発見されました>
砂藤少年は見覚えのある景色に疑問を浮かべる
(あれ……、ここの近所だ。ホモ子と別れる時に何時も通ってた交差点の……〉
次第に状況を飲み込みだすと、彼は顔面蒼白になる。
<遺体の状態から警察は個性犯によるものと特定、目撃証言から……>
急にテレビの画面が暗転し、後ろから声をかけられた。
大事な話があるから座りなさい。
後ろを振り向くと、硬い表情をした親が立っていた。
話された内容に砂藤少年は歯を食いしばる。
死んだ女の子は彼と同じ小学校の女子であり、ホモ子の友達だったので、話したことや遊んだことだってあった。
自分たちの町で自分たちの知っている女の子が殺される。
彼の腹の中が強い悲しみと怒りでぐちゃぐちゃになった。
なんでそんなひどいことを……
どうしてあの子が殺されなきゃいけないんだ……
犯人がゆるせない……
俺はその時いったい、なにをしてたんだ……
彼はふつふつと湧き出す感情を持て余しながら、拳を握りしめることしかできなかった。
学校に行った時、ホモ子の席には誰も座っていなかった。
そこで彼は知った。
ホモ子は事件に巻き込まれたらしい、と。
それを知った彼と友人はいてもたってもいられず、ホモ子の家まで行くが、ホモ子はそこにいなかった。
「今日は来てくれてありがとう。君たちの思いは私が必ず伝えるよ。いま桃子はお婆ちゃんの家で休んでてね、元気になるまで少し時間がかかるかもしれない。戻ってきた時、変わらずうちの娘とお話ししてくれるかい?」
ホモ子の父は、彼らが来てくれたことにお礼を言ってみせる。
疲れた様子を見せながら最大限気を使う姿を見て、それが逆に自分たちにできることの少なさを突き付けられたように彼らは感じた。
家から出ると、ホモ子の家の周りにはパトカーと警官、それと何か言い合っているマイクとカメラを持った数人の大人たちがたむろしていた。
警察に何かを言われ、その場を離れる彼らとちょうど鉢合わせる。
そのまま追い越して通り過ぎるかと思われたとき、不意に声をかけられた。
「君たち、もしかしてあみちゃんのお友達かな」
その中の一人、キレイ目な大人の女性がしゃがみこんで話しかけてきた。
「悲しい、事件だったね……、すごくいい子だったのに」
本当に悲しそうな顔をして、その目に涙を浮かべていた。つられてか彼の友人の何人かは悲しみの表情を堪える。
「もしよかったら、あみちゃんの思い出のことを聞いてもいいかしら」
そう言われて、彼の友人の一人が学校のことを話し始めようとする。
「あの子、たまに俺らとまじって遊んでたよな」
「……なぁ、学校で事件のことを聞いてくる人には反応しないっていわれてなかったか……」
「そう思うのは当然ね、でもそれじゃあなた達もつらいでしょう。お姉さんに吐き出してみない? 少しは気が楽になるかもしれないわ」
砂藤少年の言葉を優しいほほえみで返すその女性にひとたび口を開ければ、彼の周りの友人はいつの間にかどんどんと話を続けていた。
「ほもこ?」
「あの家に住んでる友達だよ」
「ほもこちゃんは、あみちゃんと友達だったの?」
「親友だって言ってた……」
「だから俺達、ホモ子が心配で……」
「元気そうだった?」
「俺達ホモ子が家に居ないから会えなくて……」
「いまはばぁちゃんの家で休んでるんだ」
「……その家ってどこらへん」
「ちょっと遠いって言ってたけど……」
「たしか隣町だろ、周りに何にもない田んぼのとこだって」
「お婆ちゃんってホモ子のお父さんの?」
「それはしらねーけど……」
「ふーん……、そういうことね。うん、お話しありがとね」
そう言うと女性は会話を唐突に打ち切ってすぐに立ち上がると、呆気にとられるほどの速さで立ち去ってしまった。
<本誌独占スクープ!! 女児コマ切れ殺人事件の犯人を特定!! 現場にはもう1人いた!!! 被害者の親友Mちゃんが語ったその壮絶な最期と犯人の正体とは!!!!>
後日、ホモ子の母が記者に殴りかかったとの噂を砂藤少年は聞いた。
ホモ子のいる祖母の家に連日押し掛け続けたジャーナリストに激したとは、クラスのゴシップ好きの女子の言である。
彼は初めて、自分を殺したいほどに憎んだ。
事件から1週間たった時、亡くなった少女の葬式が行われる。
砂藤少年は親に難しい顔をされながらも食い下がり、葬式についていく。
そしてそこには驚くことに、母親と手をつないだホモ子がいた。
彼は声をかけようとするが、踏みとどまる
その能面のような表情を見て、いったい何をすればいいか分からなくなったからだ。
……だがそれでも
それでも、ホモ子に何か声をかけるべきだと強く彼は感じた。
「ほんとこんなことがあるなんて……、旦那さんも奥さんもやりきれないでしょう……」
「もう遺体は焼いてしまったんですってね……」
「あんな殺され方で、亡くなってから1週間後に葬儀でしょ……、それって……」
「…………まぁ、遺体がそれだけ……、ってことでしょう」
人の波をかき分ける中で、人々の声が耳に入ってくる。
「……本条さん、お子さんも一緒に来てますね」
「あんな小さな子が……、子供のためにも葬式に来させないほうがよかったんじゃないかしら」
「……確かに。あみちゃんのお父さんお母さんに親子連れだってる姿を見せるのも……、その、残酷でしょう」
「本条さんのところだってつらいでしょうにね」
足が鈍る。
両親が葬式についていこうとするのを渋った理由を彼は今思い知る。
「本条さんのお子さんの所にマスコミが殺到したんだろ? まだ11だぞ。犯人を見たからって、そんな小さな子によってたかることはないだろ……」
「警察が事情聴取を遅らせてたから、先に聞ければって魂胆だったんだろうな……、家に不法侵入した人もいるらしいって……」
「それでわざわざお子さんの場所を移したのに、よく調べ上げてくるもんだな……」
人の隙間を歩くごとに罪悪感がのしかかり、足が鉛のように動かなかくなる。
「最後は桃子ちゃんが自分で事情を説明してマスコミにもう帰ってくれって頭を下げたんだって……まぁ、そんな姿をカメラに収めて帰ろうとはしなかったそうですけどね」
「おいおいそりゃマジかよ……」
「それで奥さんブチ切れって話っすよ」
「カメラをぶん投げ、マイクを振り回しての大立ち回りだったそうです。あんなに小さな人がねぇ……」
「だが暴力は悪手だろ? 」
「……そりゃ、でもお母さんだって激高してぶん殴りますよ。子供を守るためですもん」
足が完全に止まる。
今更、自分がホモ子になんて声をかければいいのだろうかと
彼は必死になんと話しかけるか考えるが、口をパクパクと動かすことしかできなかった。
結局、声がかけられず時間だけが過ぎ、葬儀が始まる時間となる。
葬式は初め、しめやかにとり行われた。
しかし途中で、周りに挨拶をして回りながら、気丈にふるまっていた亡くなった少女の父の目に涙がにじみはじめ、母の方が肩を震わせて涙を流してから、会場に悲惨な雰囲気がながれていく。
両親とも膝を濡らすほどの涙を流し、それにつられて多くの人が涙を流した。
最後にそれぞれ、微笑む写真へと歩いていき、手を合わせていく。
砂藤少年の順番になり、親に言われた動きをしながら歩くと、ちょうど通路側の席に座るホモ子が見えた。
「…………」
うつむいた顔とその震える肩と真っ白になるまで握りこんでいる手。
それを見た彼は決心する。ホモ子のそばを通り過ぎながら、この後でホモ子に絶対に話しかけることを誓う。
だが、それでは遅かった。
「……ちがう…………、じゃない」
後ろから、どす黒い、声が聞こえる。
それは、強烈な憎しみの泥を口からまき散らすような呪詛だった。
あのそこ抜けた明るい笑顔で、優し気な声色をしたホモ子の喉から出たとは思えない声に、彼は思わず振り返り、見てしまう。
「おまぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!!!!! お前のせいだぁッ!!!! お前が私の体をのっとってっぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!!!」
彼にとって、ここまで怒りの感情を出した人間は人生で一度も見たことがなかった。
髪は逆立ち、目は血走り、歯は絶えず軋んではじけ、体の筋肉は隆起し、肩をいからせる。
そして、彼女は自身の右手を高くに掲げると、目にもとまらぬ速さで彼女自身の顔面に叩き付けた。
ボーリングの球を床にたたきつけたような打撃音が式場に響き渡る。
「桃子! どうしたの!! 落ち着いて!」
「止めるんだ桃子!!」
ホモ子の両親が必死に抱き留めようとするが止まらない。
それを見ていた大人たちもホモ子を止めようとするが、その腕力で大の大人4人を引きずってホモ子はひたすら自分の頭を殴り続けた。
もう顔は血まみれで、右の顔の形が膨れ上がったり、陥没していた。
その様子に悲鳴も上がるが、さらにホモ子を守ろうと大人たちが集まる。
その中には亡くなった女の子の父もいた。
「クソッ、本条さん!! 私の個性は蜘蛛! 弱い麻痺毒も出せる!! いいか!」
「……構いません! お願いします!!!!!」
「私の個性は
「お願いします!!!! 皆さん、危ないので一度離れてください!!」
「いえ、大丈夫です!!」
「我々ごと縛り上げて構いません!!」
「それより早く桃子ちゃんを!」
しかし、ホモ子の腕力は追い詰めれば追い詰められるほど、より力強くなっていく。
ただ純粋に腕を振り回す。
それだけでその桁外れた力により、しがみついた大人たちが振り落とされる。
「あ゛あぁ!! う゛う゛ぅ、あ゛っ、あ゛あ゛ぁっ!!」
獣のように呻くホモ子はぶつぶつと言葉にならない音を立てているが、その中で意味ある言葉が砂藤少年の耳に届く
「………けて……」
「桃子、大丈夫、お母さんがいるから」
ほとんどの大人が振りほどかれた、しかしただ一人
ホモ子の母だけは背中から抱きしめていた。
一体どういう手品だろうか、力を込めたホモ子の動きはその小さく細い腕に阻まれている。
「ごめんね桃子、頑張ったね、もう大丈夫、私の手を握って……」
一瞬、二回りも大きくなったホモ子のお母さんの体を砂藤少年は幻視する。
「今です!!! 皆さんお願いします!!」
ホモ子の父の声に弾かれたように二人の人影が飛び出す。
蜘蛛の顔を張り付けた異形型の男と、手のひび割れた皮膚から根が張っている女だ。
「体には痛みは無いわ」
女は手を地面に突き刺すと根が地面を這い、ホモ子の足まで達した瞬間に足に突き刺さり、体の内部を駆け巡る。
「すまん!! 傷は残らんように努力する!」
その隙に男はホモ子の腕を牙で軽く引っ掻くと同時に、器用に副腕を交差して体を糸で張り巡らせた。
体をしびれさせ、体を内部から固定しているというのにホモ子はそれでも腕を振り上げる。
「もういいんだ桃子」
体から伸びた根の一部にホモ子の父は触れる。
そこから根はさらに太く生育していき、ホモ子の体を完全に止めた。
ホモ子は周囲の協力のもと救われた。
皆が胸をなでおろす中
ただ、一人砂藤少年だけは、微動だにしない自分の足を呆然と見ていた。
しばらくすれば、誰かが呼んだだろうヒーローが到着し、ホモ子は担架に乗せられ、個性で消耗していた母の付き添いで病院へ運ばれる。
大人たちは葬儀の人と話し合いながら、これからひとまずどうするか話し合っている。
ホモ子の父は方々で頭を下げて回っているが、皆それを押しとどめていた。
砂藤少年は、ただ立っていた。
ホモ子の姿を見たその場所から、一歩も動いていない。
砂藤少年は考える。
自分には強力な個性があったはずだ。たとえ止められないとしても、時間は稼げた。そして協力すれば、もっと早く助けられた。
俺の個性を使えば容易に取り押さえられるような大人や、少女を亡くしたばかりの父親だって動けていたのに、なぜ俺は一人突っ立っていただけなんだ。
いやそもそも
あの時自分の耳には届いていたはずだ。
血にまみれる中でかすかに開いた唇。
た す け て と動く口を
リキくんは絶対なれるよ、きっとみんなを守れるヒーローになるんだろうなぁ
当たり前よ! 困った人みんなをかっこよく守れるすげぇヒーローに俺はなるぜ!
リキくんが望めばそんなヒーローになれるよ
俺がヒーローになった時には助けを呼べよ! 飛んで駆けつけてやる
うん! ありがとう!
「はは、こんな俺がヒーローかよ」
彼には幼馴染がいた。
今はもう分からない。
もう何も分からない
砂藤くんがホモ子のせいでネガティブをポジられてますね……
RTA走者がいないとホントにただのシリアスで、カタルs(噛み)……カタルシスに至る逸話も出てこない……ただただ(タラタラ)暗いだけだ!
さっさとRTAパートに戻りてぇな~、俺もな~
あっそうだ(唐突)映画『シュガーマン』創作者の悲哀みたいなテーマでクソ面白かったから見ろよ、見ろよ