少女達ノ日常譚   作:現実と幻想の境目の住人

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スランプだったので復帰投稿。
しばらく読み専に徹することで様々な方々の小説を読んでいたので多少は前と変わったと思います。



普通ノ日常

木が鬱蒼と生い茂る深い森の中、一人の少女が瑠璃色の総髮を揺らしながら釣竿と大きなクーラーボックスを持って歩いている。

光を反射する蒼玉の瞳は鋭い目つきにより可愛いというより冷たい印象を与えていた。

ところどころ地表に飛び出た木の根を踏みつけるも、バランスを崩す事なく進む。

しばらくすると森を抜け、海と見紛うほど広大な湖に出た。

岸辺まで歩いた少女はため息を吐くと、腰を下ろして釣りの準備を始めた。針に手早く餌となる虫をつけ、湖に放る。しかし30分も経たぬうちに飽きたのか、胡座をかいて肘を乗せ文句を言い始めた。

 

「チッ、なんでオレがこんな面倒な事しなきゃならねぇんだ。家事炊事とかなら兎も角釣りとはな。アイツはどうせ畑弄ってるだけだろうし他の奴らだって暇だっただろうが。・・・・・・くそッ、めんどくせぇ」

 

悪態をつきながらも座って待ち続ける少女。少し経った時、竿がしなり始めた。

 

「あ?なんかかかったか?」

 

釣竿を手に取り、リールを巻く。バシャバシャと何かが暴れているのが見えた。

 

「ソォラァ!」

 

気合いの掛け声とともに勢いよく釣り上げる。果たして釣れたのは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クエって湖で釣れるものだったか・・・・?」

 

全長70cmくらいのクエだった。

 

「クーラーボックスにははいらn、いや、入るか。原理も理屈も意味不明だが役に立つからなぁ。うし、もう一匹なんか釣ってくか」

 

クエをクーラーボックスに押し込んだ少女は再び餌を付け直して釣りを再開する。

その顔は先程とは打って変わって、微かな笑みが浮かんでいた。

 

数時間後、再び深い森の中を少女が上機嫌な様子で釣竿と大きなクーラーボックスを持って歩いている。

 

「二匹で止めるつもりだったが、思ったより楽しくて釣り過ぎちまった。つうかもう夕方じゃねえか!ヤベェな。早く帰らんとアイツに怒られるか。チッ、仕方ねえ」

 

呟くと同時に、少女の姿が消える。後に残ったのは、轟音と衝撃波によってなぎ倒された木だけだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「帰ったぞー」

 

気の抜けた言葉とともに少女が扉を開ける。すると、桃色のショートヘアをした小学生くらいの少女が飛びついてきた

 

「おかえりなさい!リル様!」

 

飛びついた少女に苦笑しながら、リルと呼ばれた少女は答える。

 

「おう。ただいま、ファイ」

 

喜色満面の笑顔で頭を腹に擦り付けるファイと呼ばれた少女を優しく撫でるリル。そのまま二人だけの空間が形成されると思いきや・・・

 

「おー、相変わらず仲良いねー?でも夕飯が近いから早くして欲しいんだけどなー」

 

別の少女の声が割り込んできた。その声を聞いたリルは嫌そうに顔を顰めて声の主を見る。

 

「ウルセェ珠血(しゅち)。ちょっとぐらい妹分とじゃれあってもバチなんかあたらねぇだろ」

 

「バチどうこうじゃなくて、もう夕飯が近いって言ってるの。そろそろイリスが暴れだしそうだしね」

 

新緑の長髪をなびかせる珠血と呼ばれた少女が苦笑しながら言ったのが聞こえていたのか、奥から「誰が暴れるか〜!」という声が聞こえてきた。

 

「地獄耳だねぇ。やっぱり()()()だから?」

 

「まあそうだろうな。んじゃ入るか、ファイ」

 

「はーい♪」

 

嬉しそうなファイを連れて家に入っていくリル。雑に返された珠血は憮然としながらも後をついていく。

釣竿を部屋に置き、クーラーボックスをリビングに置いてソファーに座る三人。

 

「何が釣れたんだ?」

 

興味津々と言った様子でクーラーボックスを見るのは橙色の髪を切り揃えた少女。

感情を表すように銀朱の瞳はキラキラと輝き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「色々、だな。淡水魚だけじゃねぇぞ?海水魚も釣れた。なんで湖で海水魚が釣れんだかねぇ」

 

「アッハハ!そういうのは気にするだけ無駄だってわかってるだろ〜?ってそれよりも珠血!さっき暴れそうって言ったのを訂正しろ!あたしはそんなことじゃ暴れないぞ!」

 

「フフフ、嘘言わないのイリス。さっきまでリルが遅いってイライラしてたじゃない」

 

「そ、それは過去のことだろ〜!事実暴れなかったんだからいいじゃないか〜!」

 

リルのぼやきに笑ったかと思えば珠血に怒り出すイリスと呼ばれた少女。

「うがー!」と吠えるイリスを尻目に笑い合うリルと珠血に声をかける者がいた。

 

「イリスさんが暴れる暴れないはどうでもいいので、クーラーボックスの中身を出してもらえますか?そろそろ夕飯の支度に移りたいので」

 

キッチンの方からひょっこりと顔を出して言うのは紫の長髪を整えた背の高い少女。

リルはさらりと口撃されてショックを受けるイリスを無視し、クーラーボックスを開ける。

 

「はいはい、悪かったよ灰苦(はく)。全くそんな急かさんでもいいだろうに」

 

「そうもいきません。メフィさんが騒ぎ出すと面倒なので早くしなければなりませんから」

 

苦笑気味に言うリルに対しどこまでも真面目に返す灰苦と呼ばれた少女。

リルから魚を受け取るとすぐにキッチンに引っ込んでしまった。

程なくして包丁の音が聞こえてくる。

 

「本当に真面目だよなぁ。息苦しく無いのか?」

 

「さあ?でも言うほど真面目じゃ無いよ。割とノリも良いし、はっちゃける時ははっちゃけるからねえ」

 

「そうですよ!灰苦さんは優しくて面白いのです!」

 

「まあでも、はっちゃけ度合いは一番やばいよね。あの人」

 

「だなぁ。あん時は・・・・・何やらかしたんだっけ?」

 

「あの時?えーと・・・・・・・ああ、サバゲーで暴れ散らかして真琴ちゃんに怒られた時?」

 

「そういえばそんなこともあったっけ。確か一番暴れたのが灰苦だったんだよね。いやー片付けが大変だった!」

 

「それはそうですよー。皆さん調子に乗って本物の手榴弾とか地雷とかロケットランチャーとか使い出すんですから。ちぎれ飛んだ腕とか内臓が凄かったんですからね!」

 

「当たらないからってミニガン持ち出した子が何か言っていますねぇ。草不可避」

 

「そう言うお前も火炎放射器持ってきてたけどな。大人しくサブマシンガンで頑張ってたオレを見習え」

 

「あれ?最終的には『お前らがその気ならこっちも』とか言ってDP28で暴れてたじゃない。私の方がまだ大人しかったよ?」

 

「いやいやいや、どのツラ下げてそんなこと抜かしてんのお前?ミサイルランチャーデタラメにぶっ放しやがって、めちゃくちゃ大変だったんだぞこっちはよ!」

 

「えっ!うっそだー!私そんなことしてないよ!・・・・・・・・・あっでも途中で自走(グリレ)と変わったからその時かなぁ」

 

「多分そうだねー。ものすごい悪い顔してたもん」

 

「本当ですよ。すっごく怖かったんですからね!」

 

「あはははは・・・ゴメンナサイ」

 

「ったく、ちったあ気をつけろや。んで、何の話だっけか?」

 

「灰苦さんは真面目なように見えてはっちゃけるとすごいって話ですよ、リル様」

 

「ああ、そうだったな。それで、あいつは何やったんだっけ?」

 

「えっとー、両手にサブマシンガン乱射しながらスナイパーライフル持って突撃してきたんだよね。自爆特攻もしてきたし。まさに地獄って感じだったねー」

 

「ほんとほんと。もー何回死んだか分からないくらいだったよ」

 

常人が聞けば正気を疑うであろう会話をソファーで駄弁る少女達。

その顔に従来の感性ではあるはずの嫌悪感は無く、代わりに懐かしむような笑顔が浮かんでいた。

そのまま時計の針は回り外がすっかり暗くなった頃、灰苦が再びキッチンから顔を出したことで長く続いた会話は終わりを告げた。

 

「皆さん、お待たせしました。出来たので他の方を呼んでくださいますか?それと、先程までの面白そうな話は私も混ぜってもらってよろしいですね?」

 

額にうっすらと青筋を浮かべながらも笑顔で言い放つ灰苦。

それに対し苦笑いを浮かべる珠血。

リルは額を抑えて溜息をついていた。

ファイとイリスは顔を強張らせて後ずさっている。

 

「じゃあ私は魅琴ちゃんを呼んでくるから後でねー」

 

「あっテメェ逃げんな!待ちやがれ、コノヤロー!」

 

スタタタ〜っと階段を登っていく珠血を追いかけていくリル。

相変わらずの2人の様子に笑いつつも同じように階段を登るファイ。

イリスは何が楽しいのかスキップしながら廊下を走っていった。

 

「相変わらずですね、皆さんは」

 

その様子を眺めていた灰苦は、唐突にその顔を綻ばせた。

 

「皆さんがいて、この家があって、今の私がいる。・・・・・私はとても幸せですよ、お父さん」

 

窓から空を見上げる葡萄染(えびぞめ)色の瞳には、微かに涙が浮かんでいた。

 

「灰苦もそんな顔をすることがあるんだね。意外だなあ」

 

「私も生きています。郷愁に浸ることもありますよ、魅琴さん」

 

灰苦が声の主に振り返ると、そこにいたのは黒髪黒眼の少女だった。

 

「魅琴さんは大丈夫ですか?その・・・・・最近不安定でしたから」

 

「ああ・・・・・・・大丈夫。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なら良かったです。家族が苦しいと私も苦しいですから」

 

「家族、か。・・・・・・・・・・・・・ありがとう」

 

「魅琴さん?」

 

「・・・・・・いや、何でもないよ」

 

「もしかして・・・・」

 

暗い顔をして黙り込んでしまった魅琴を哀しそうな顔で見る灰苦。

 

「すみません、嫌なことを思い出させてしまいましたね」

 

「ううん、良いよ。もうあいつらは関係ない、今ここにいるみんなが俺の家族だから」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

「お礼を言うのは俺の方だよ。あんなクズみたいな奴らと引き離してくれたんだ。俺に、俺に本当の、家族の愛をくれた・・・・・・・・・()()()()()()()()()()()()!・・・・っぐ、うぅ」

 

「魅琴さん・・・・」

 

堪えきれなかったのか、嗚咽を漏らす魅琴を優しく抱きしめる灰苦。

灰苦の胸でひとしきり泣いた魅琴は涙を拭って輝くような笑顔で言った。

 

「さあ、行こう?辛気臭いのは終わりにしてさ。夕飯は、みんなで楽しく食べるものだからね」

 

「そうですね。私達が暗い顔をしていたら、他の方まで暗くなってしまいますから」

 

笑いあった2人は、愛する家族が待つ食卓に並ぶ。

程なくして、そこは少女達の笑い声に包まれた。




いかがだったでしょう。
もし面白い、続きが楽しみだと思ってもらえたのなら幸いです。

登場人物のプロフィール、経緯は必要?

  • 必要
  • いらんわドアホ
  • ふん、好きにしろ
  • それよりもさっさと続き書けよ

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