実力のある彼を 作:祈島
◇
「白川悠里です、よろしくお願いします」
中学三年生になって1か月ぐらい経った時、彼が私の中学の私のクラスに転校してきた。
当たり前のことかもしれないけど、転校生というのはどの時期に登場してもクラスの全員に注目される。受験生になったことを自覚しろと先生たちにも口を酸っぱくして言われ始め、授業一つとっても無下に出来ないと意識してしまうほどのちょっと居心地の悪い緊迫感が出てきた私たちにとって、彼の登場は息抜きとして浮つけるイベントになっていた。
それに、彼の自己紹介は私たちの興味をかきたてるには十分すぎる内容だった。
なんでも、私たちの中学校に来るまでは親の都合で世界中を転々としていたらしく、日本で暮らしたことが殆どなく、今までの人生の大半は欧米で過ごしてきたらしい。因みに両親は共に日本人なんだって。
好奇心旺盛な中学生には見過ごす選択肢なんてあるわけもなく、朝のホームルームが終わって1限目が始まるまでの僅かな時間でも彼はクラスの子達から時間の限り質問攻め。授業と授業の間も質問攻め。放課後になっても彼の周りから人の輪が無くなることはなかった。
テレビでしか見ないような外国の建物を実際に見た感想、聞きなれない名前をした外国の食べ物の味について、日本に居たら経験できないような外国の文化の事。白川くんはどんなことでも丁寧に受け答えしてくれていた。
それに、白川くんみたいな人を眉目秀麗っていうのだろうか、担任の先生に連れられて初めて教室に入ってきて皆の視線を集めた時からクラスの女の子を惹きつけるものが彼にはあった。一部の男子たちから妬み嫉みを込めた目を向けられていたのも仕方ない。
「一之瀬、わるいが白川に学校の案内をしてくれないか」
担任の先生が朝の早い段階で私にお願いしてきた。
自分で言うのも何だけど、私はクラスのまとめ役にもなっていたせいか先生たちに信頼されているという自負があった。周りのクラスメイト達も口を挟んで自薦してくることもなく聞き流していた。断る理由もなく、私は喜んで承諾した。
「私、一之瀬帆波っていうの。よろしくね、白川くん!」
因みに白川くんの席は私の隣だったから、私の彼への自己紹介はクラスの中でも早い順番で終えていた。
学校のどこにどの教室があるのかとか、どんな部活があるのか、あの先生は優しいとか厳しいとか、白川くんが疲れ果てそうなほどの質問の嵐にも丁寧に答えていたように、この学校で過ごすうえで役立ちそうな事を私も一つ一つ教えてあげる。……つもりだったんだけど、いざ案内しようとなった時にはクラスの他の女の子も一緒に付いてきていて、私の仕事は殆ど無くなってしまった。にゃはは、皆が転校生と仲良くしようとするのは良いことだから、まぁいっか。
とにかく、中学三年生というある程度の人間関係が固まっている時期に来たものの、白川くんはクラスで孤立してしまうことはなかった。誰とでも一定の遠くない距離感を保っていて、誰もが気軽に話しかけられるような立ち位置。
クラスの中心に立つことはなかったけど、皆が一目置いていた。
なぜなら……
一位 白川 悠里 500点
白川くんが来てから1か月経たないうちにあった大きなペーパーテスト。
そこで彼は颯爽と学年一位を掴み取ったのだ。しかも全教科満点。なんということでしょう。
廊下に張り出された大きな模造紙の一番上に、2年生まで全く見たことのない名前が表立って刻まれたことで、瞬く間に彼の名前は知れ渡ってしまったのだ。
「凄いね白川くん、全教科満点だなんてっ!」
クラスの女子生徒が嬉々として彼を褒めたたえた。その場にいたのは一人じゃなく、3,4人が彼を取り囲んでいた。私は隣の席だったため、彼を取り巻く子達のことは自然と目に入ってきた。
「え、何で知ってるの?」
テストの上位が公の場に張り出されることを彼は知らなかったらしい。張り出された瞬間に何人もの生徒がそれを群を成して確認しに行くのが定番というか自然の流れになってはいるんだけど、彼は教室から大勢出ていくのを不思議そうに見ていた気がする。
「そうなんだ。あはは、何か恥ずかしいな……」
照れくさそうにそう呟いた。持ち上げられるのはあまり好きじゃないのかもしれない。
ただ、このテストを節目に、皆が白川くんを見る目がちょっと変わった。面白い経歴を持った見た目のいい男子だけではなくなった。勉強を教えてもらうという口実に、彼に近づこうとする女の子も何人か出てきた。
私の中でも彼を見る目が変わった。変わってしまった。
恋愛的な好意を抱くようになった訳ではない。
むしろ逆。
――――私は彼を警戒するようになった。
彼が私より優秀であるという事実を、私は誠意をもって受け入れることができなかった。
私の家は母子家庭で、お母さんと2つ下の妹との3人暮らし。裕福とは遠い生活を送っていた。二人の子供を育てながら働くお母さんはいつも大変そうだった。だから私は沢山のお金がかかる高校に進学せずに、中学を卒業したら働こうと思っていた。
そんな中、先生が私に提案してきた。中学校で優秀な成績を修めることができたら、特待生制度を利用できるようになることを。お母さんの負担を減らして進学できるという道を。
だから私は今、必死に勉強をして、学校では一番を目指している。実際に一番を取ったこともある。
でも、その道が塞がれてしまうのではないかという危機を感じた。圧倒的に私よりも優秀な白川くんという存在によって。
彼はそんな私の気も知れず、毎日私の隣の席で授業を受けていた。勿論彼に非はなく、私の一方通行な意識でしかないんだけどね。
チラリと横目で白川くんに視線を向ける。彼はどのように授業を受けてあの点数を叩き出したのか知りたかった。盗めることは盗んでしまおう。
とても綺麗な背筋で座る彼。机上には開かれた教科書とノート。左手でノートを抑え、右手でシャープペンシルを持ち、首を少し下に傾けて両目を閉じて眠っている。
…………寝てるし。
音も立てず姿勢を崩さずにぐっすりと寝ている。よく見ると彼の手元の教科書は、今やっている内容の4ページくらい前のところで開かれている。30分くらいはこのままだったのだろう。
ちょっと腹が立ってきた。こんな授業態度でテストで満点をとってしまうなんて。顔が正面ではなく絶妙な角度で俯き気味だから前に立つ先生にはバレていないのかもしれない。教科書を見ているようにしか見えないのかな。
「よし。じゃあこの問題を白川、解いてくれ」
そんなことも知らずに、先生は構わず彼を指名した。
名前を呼ばれたからなのか、ゆっくりと目を開け、顔を上げて黒板を見る。同時か直後ぐらいにクラスメイトの視線が集まったからなのか、彼が眠っていたことは気づかれていなかった。
「3番です」
「正解だ。流石だな」
小さく笑みを浮かべて先生は彼を称賛した。周りの生徒たちの何人かも唸っている。
……え、居眠りしていたのになんで解けちゃってるの?
「(白川くん、今さっき居眠りしてたよね……?)」
彼にしか聞こえない声量で尋ねる。
「(あ……、ばれてた?)」
彼はちょっぴり気まずそうな顔をしていた。
「(ううん、多分私しか気づいていないと思う)」
「(そっかぁ、内緒にしておいてね)」
いやそうじゃなくって、
「(なんで眠っていたのに答え分かったの?)」
「(え?)」
なぜかその質問が来ることが予想外だったみたいな顔をされた。
「(……まぁ、英語はね?)」
英語圏での生活が長かったから、英語の問題はお茶の子さいさいなのだろうか。……うん、やっぱりちょっと腹が立つかも。
その後もちょっと時間が経ったらまた白川くんの両目は閉じてしまっていた。
他の教科でも、白川くんは同じように居眠りしていることが多々見受けられた。それでも突然先生に当てられても滞りなく答えられていたから不思議だ。本当に眠っているのかも疑わしいほどに。
なんて羨ましいんだろう。
彼の頭脳に対して、私は正直にそう思った。
◆
須藤が暴力事件を起こした。
7月になってクラスポイントの上昇、及びプライベートポイントの配布を待ちわびていたオレ達Dクラスの期待を裏切った原因がこれだ。
クラスポイントとしては87ポイントと小さいながらも確かな一歩で前に進めてはいたものの、一年全クラスへのプライベートポイントの配布が延期されてしまっている。
告発してきたのはCクラス。
無抵抗のCクラスの生徒三人が須藤一人にボコボコにされたらしい。須藤、そしてDクラスの処分が決まらなければオレ達のお小遣いは手元に来ることもなく、結論付けられる内容によってはクラスポイントがまたゼロになってしまうかもしれない。
クラス全体からのブーイングの嵐が須藤を包み込むのは必至であったが、本人からの主張は意外なものだった。
「正当防衛だっつーの! Cクラスの奴らに呼び出されて痛い目にあいたくねぇなら部活のレギュラー入りを降りろって脅されて! やられる前にやってやったっつう訳だって!!」
仕組まれた事件。
その可能性が容疑者である須藤の主張から示唆された。
同じDクラスとしては黙っておけない。クラスの中心として位置づいている平田と櫛田が事件の目撃者捜しを提案した。平田に釣られてクラスの女子生徒達が、櫛田に釣られて男子生徒達が協力に応じる形となった。
かくいうオレこと綾小路清隆も櫛田に上目遣いで
「たとえ脅されても暴力で対抗するなんて愚かだわ。後々自分が困ることになるなんて明らかなのに」
そうだぞ須藤、堀北の言うとおりだ。何事も暴力に訴えていては平穏は訪れない。人は論ずることで物事を解決できるんだからな。
堀北の苦言が隣の席にいるオレにしか聞こえない声量でなければ須藤の機嫌は更に悪くなっていただろう。
事件解決のキーパーソンとなる目撃者が見つからない中、強力な助っ人がオレ達に加わった。
Bクラスのリーダー役を務める女子生徒、一之瀬帆波だ。
櫛田と仲の良い彼女は目撃者探しを手伝ってくれることになった。同じくBクラスの神崎の提案で掲示板に情報提供を呼び掛ける張り紙を貼ることによってCクラスの生徒の情報が匿名の人物から手に入った。
被害者の一人である石崎という生徒は中学の時は有名な不良であったということ。須藤がどれほどの強者なのかはオレの知るところではないが、喧嘩慣れしている同い年が三人がかりで一方的に痛めつけられることは考えにくい。わざと痛めつけられたという可能性、Cクラスの陰謀説が現実味を帯びて来た。この調子でいけば、逆にCクラスに一泡吹かせることが出来るかもしれない。
「今のところまだ決め手に欠けるね……。事件そのものの情報があればいいんだけど」
櫛田の言う通りオレ達が得られたのは個人のプロフィールに過ぎない。
たとえ過去に大事件を引き起こしたとしても、それを今回の事件の弁明に用いるのは得策とは言えず、相手が軌道に乗るきっかけを与えるだけだ。
あくまで求めるのは事件の目撃証言。そう都合よく出てくるとは思えないが。
「実はね、Aクラスの人にも協力してもらおうと思っていたの」
一之瀬が意気揚々と打ち明けた。
既に落ち合う連絡をしていたらしく、端末を見て時間を確認している。
「Aクラス?」
いち早く反応したのは堀北だ。
「信用できるのかしら。Aクラスの生徒からしたら手伝うメリットなんてないと思うのだけれど」
その理論は目の前にいるBクラスの生徒にも言えるのではないのだろうか。
「大丈夫、信頼できる人だから」
曇りのない瞳で言われたら堀北も楯突く気にはならなかったらしい。
一之瀬が言うにはカフェで待ち合わせをしているらしいため、今からそこへ向かうとのこと。
オレ含め、この場にいた全員が一之瀬に付いていく。メンバーは、Bクラスからは一之瀬と神崎の二人、Dクラスからはオレ、堀北、櫛田の三人だ。
「こんなに大勢で会いに行って迷惑じゃないのか?」
進む先に誰がいるのかは知らないが、これからオレ達はその人物にAクラスでも暴力事件の情報収集をしてもらうために交渉をしに行く。如何に一之瀬と親しい仲であろうとも、他4人はそうではないだろう。不用意に威圧するような人数で協力をあおぐのは良案とは思えない。
「彼はそんなこと気にしないと思うし、絶対に協力してくれるからっ!」
心配のしの字も見当たらない。よほど信頼しているのだろう。一体どんなヤツなのだろうか、今のところ性別しかわからない。
◆
「あ、いたいた!」
待ち合わせ場所であるカフェで優雅にコーヒーを嗜みながら本を読んでいる人物に一之瀬は声をかける。
オレも知る人物、白川だ。
「ごめん白川くん。ちょっと待っていたでしょ」
「そんなことないよ」
白川は本を閉じて仕舞いながら否定する。
「嘘、コーヒー半分も飲んでるじゃん」
「……、じゃあちょっと待ってた」
じゃあってなんだ、じゃあって。
無駄に観察された白川は今度は些かジト目気味で肯定する。二人の口調からは知り合って数日数週間の仲ではないことが推察される。
「一之瀬さんの知り合いって白川くんだったんだ」
今度は櫛田が朗らかな笑顔で話しかける。
「白川くん、この前はありがとうねっ。私びっくりしちゃった」
「櫛田さん。……ああ、あれね。あれは間違えたんだよ、うん」
「またまたぁ、白川くん優しいんだもん。絶対ワザとに決まってるよ」
櫛田桔梗、恐ろしいやつだ。
白川とも交友関係を築いているとは。入学当初に『学園中のみんなと友達になりたい』と目標を掲げていたがどうやら侮れないらしい。一体この二人の間で何が起こっていたのだろうか。おそらく白川がそれはもう麗しい所業を為したのだろう。
「……彼は一体何者なのかしら? 櫛田さんとも仲が良さそうだけど」
蚊帳の外を自覚した堀北が尋ねてきた。
「Aクラスの白川だ」
オレよりも早く答えたのは神崎だ。
お前も知っているのか。
「……あなたも知っているの?」
「いや、直接会ったのはこれが初めてだ。だが割と有名なヤツで、Aクラスの中でもトップクラスに優秀だと断言できる。Aクラスを目指すなら無視できない人物だ」
その眼差しからは白川に対する警戒心が見て取れる。
神崎の言葉で堀北の白川を見る目も変わる。Aクラスに上り詰めることを人一倍強く志している堀北からすれば、この場は白川を味方に引き込むだけのものではなくなっただろう。
待ち合わせをしていたからか、白川は大人数で腰を下ろせるテーブルを確保していたため、オレ達はそこに加わる。
事の詳細を白川に教えるとこから始めるため、ある程度時間を要することになる。そのため人数が増えたことに気づいて近づいて来た店員にオレ達も飲み物を注文した。
「白川くんを呼んだ理由なんだけどね、」
一之瀬は早速本題へと入る。
「プライベートポイントが支給されてないことについてでしょ?」
白川には予想がついていたらしい。
Aクラスにもある程度噂が届いているのだろう。
「うん、DクラスとCクラスが大変なことになっていてね―――」
一之瀬は現状オレ達が知る事件の詳細を全て白川にも共有した。
日時、場所、当事者の名前と人数、須藤の証言を元にした事件の流れ、予想されるCクラスの企み。
白川は情報の一つ一つを噛み締めるように聞く。他クラス間での厄介ごとではあるのに無下には扱わない。力になれるならと歓迎の姿勢だ。
「掲示板の張り紙も一之瀬の仕業?」
「それはね、神崎君が考えてくれたの」
「ふーん」
チラリと神崎を見る白川。
他クラスの事情にそこまで手を貸すのかと感心しているような表情だ。
「それでね、白川くんにはAクラスの中に目撃者がいないか探してほしいの」
「……、その様子だと苦労してそうだね」
オレ達Dクラスの3人に対する同情の念を込めて、ふぅ、と白川は小さく息を吐いた。
いたたまれない気持ちに包まれる。オレ達は藁にも縋る想いで他クラス全てから力を借りようと思っている。白川のことだからクラス中から情報を集めることに苦はないだろう。
「まあ、クラスに聞いて回ることは構わないけど」
「本当? ありがとう!」
一之瀬は満面の笑みで感謝した。櫛田も喜びが顔に浮かんでいる。神崎や堀北も不安が軽減したようだ。
しかし、
「一応聞いておくけど、」
悪気など微塵にも感じられない面持ちで白川は言う。
「本当にCクラス側の策略でこうなったの?」
その疑問は尤もだ。
須藤と同じDクラスの中にも同じ考えのヤツはいる。Cクラスに嵌められたことを証明することがオレ達の今の目的。だからこそ今は須藤の潔白を論理的に示すことは出来ない。協力を呼び掛けた櫛田や平田の行動原理が同じクラスのよしみという立ち位置からであることは明らかだ。部外者からすればDクラスは都合のいいように周りに訴えかけているようにしか見えないのかもしれない。
「うん、間違いないよ」
白川の的確な指摘に、一之瀬は口籠ることなく肯定した。
当事者たるオレ達Dクラスの3人が回答に戸惑う中、Bクラスの一之瀬が須藤の無実を断言しているのは不自然かもしれない。
しかし白川は微笑んで受け入れた。
「……ん、今日中にある程度呼び掛けておくよ」
「ありがとっ、白川くん!」
一之瀬に対する信頼が伺える。
だが、信頼からくる感情論というよりも、一之瀬が迷わず断言するという現象がどういうことなのかを理性論で判断しているようにも見えた。
「あ、そうだ白川くん」
櫛田が思い出したように提案する。
「一応、連絡先を交換しておいても良いかな? 今後何か分かった時に毎回一之瀬さんを経由してたら不便だし、一之瀬さんにも申し訳ないから……」
「勿論いいよ、それぐらいのこと」
おそるおそる低姿勢で尋ねた櫛田の表情が、白川の即答で朝日を浴びた花のように煌めいた。池や山内がその顔を向けられたら鼻の下が顔面の五割を埋めるほど伸びるだろう。いや、あいつ等にはこれ程の表情を見せない気がする。
白川はポケットから端末を取り出し、慣れた手つきで操作してテーブルの中央に置いた。画面には白川の電話番号とメールアドレスが表示されている。端末が置かれたのは櫛田の目の前ではなく、テーブルのど真ん中。櫛田に限らず登録したい奴は自由に登録してくれという配慮が見て取れる。
「俺もいいか?」
察したのか神崎も注文する。
「どうぞどうぞ」
端末はある意味自室よりもプライベートな性質を含有している。ふとした一瞥や指一本で個人情報を知られてしまうため、操作中は常に画面を隠したり、触れられることを毛嫌いする人間も少なくない。
やってはいないが、櫛田や神崎が端末を手元に引き寄せてバレない程度に操作されることは考慮していないのだろうか。
などと要らぬ考えを脳内で巡らしている間に、隣に座る堀北も自分の端末を操作して白川の連絡先を登録している。おい、白川はイイヤツだから気にしないかもしれないが、礼儀として許可はとれよ。あと自分の連絡先を白川にも教えておけよ。
「あなたは登録しなくてもいいのかしら?」
オレの視線を感じ取ったのか、堀北はこちらを向き、オレが端末を操作していないのに気付く。
「……オレは既に白川の連絡先を登録している」
お前たちとは違うんだ。すでに白川とは友人関係にあるんだ。連絡先程度とうの昔(一か月ぐらい前)に交換を済ませているんだ。
「…………綾小路君、個人情報を盗むのはれっきとした犯罪よ? 退学になりたいのかしら」
解せない。酷い。
堀北も自分の連絡先をしっかりと教え、登録し終えた白川は端末を元々入れていたポケットにしまった。
「一応そっちでも分かったことあったら教えてよ、気になるから」
「うん、勿論そうするよ」
立ち上がりながら白川はお願いし、一之瀬が了承する。協力関係となった以上、断る理由もない。柔らかく微笑んだ白川は一足先にこの場から立ち去る。オレ達は見えなくなるまで目で追おうとしていると、白川はカフェの
「あ……、え!?」
何かに気付いた一之瀬は慌ててテーブルの上を見渡し、あるものを探す。身を乗り出しそうな勢いだ。一之瀬に限らず他のメンバーも察したが、
「……にゃはは、やられちゃった」
席はレジから遠く離れており、止めようにも間に合いそうにもない。自分が飲んだコーヒーに限らず、白川はこの場にいる全員が注文したもの全ての代金を何も言わずに支払ってしまったのだ。今更追いかけても、白川の性格上ポイントを受け取ることはないだろう。なんてイイヤツなんだろうか。
「まったく、白川くんは……」
どこか悔しそうに一之瀬は白川の背を見送った。あはは、と櫛田も同調するような諦念を顔に浮かべた。
「……一之瀬さんは彼とどういう関係にあるのかしら?」
オレも気になっていたことを堀北が聞く。
もしかして恋人なのだろうか。美男美女でお似合いだとは思うが。
「中学三年生の時に白川くんが私の学校に転校してきてね、同じクラスだったんだ」
聞いてほしかったのだろうか、その説明には嬉しさが垣間見れた。ほんの僅かに朱に染まった頬が物語るのはただのクラスメイトという関係だけとは到底思えない。
しかし一之瀬は白川と知り合って一年経つということが分かった。白川の友人ダービーでは一之瀬が一歩リードしていることは認めよう。
次点はオレ、その次に櫛田なのは譲れない。
綾小路(いやなんならオレも幼いころに白川と会ったことがあるかもしれないそんな気がしてきたつまりオレの方が一之瀬よりも親し)