実力のある彼を 作:祈島
頭の中では6巻の内容まで書いてます。
『なるほど、CクラスがDクラスに虚偽の罪を着させようとしているのですね』
一之瀬含めたB,Dクラスからの協力の要請を快諾した白川は、カフェから離れ去って早速坂柳に連絡を取っていた。
Aクラスで情報を集めるならリーダーの地位に立つ彼女に声をかけるのが何より手っ取り早いからだ。
協力してもらうために、白川は先程得た情報を惜しみなく提供する。
「できる範囲でいいけど、情報を集めてもらってもいいか?」
『フフ、そうですね。白川君が私の派閥に入ってくれるなら欲しい情報を全て集めて差し上げますよ』
玩具を貰った子供のような嬉々とした態度で坂柳は提案する。退屈な日々が続いている中で突如現れた他クラスのひと悶着が彼女には興味深いことのかもしれない。
冗談半分未満、本気半分以上の提案が白川に届いた。
「葛城にも頼むから」
『……そうですか、手の届く範囲で調べてみますね』
一時的に難聴にでもなったかのように、感情の起伏のないままの白川に対して、坂柳は今回も勧誘を諦めて電話越しに肩を落とした。
葛城なら無作法な条件もなしに力を貸すことは容易に想像できる。
「さんきゅー」
『ところで白川君』
「ん?」
事件など些末であると言わんばかりに坂柳は真剣な声色で話題を変換する。
『Bクラスのリーダーである一之瀬さんと、なぜそんなにも親しいのでしょうか?』
「中三の時のクラスメイトなんだ」
『……そのような大事なこと、初めて聞きましたよ?』
「初めて言ったからね」
事もなげに白川は説明するが、坂柳からは不思議と不満が伝わってくる。
「……どした?」
『……いえ、何でもないですよ? 白川君の交友関係が思いの外広くて感心しているんですよ?』
「……そう、それは良かった」
多くは尋ねない。尋ねるべきではないと白川の優秀な頭脳が結論付けた。
◆
白川が坂柳と通話をしながら向かい、通話を終えたころにたどり着いた場所は図書館だった。
彼は週に一回ほどここに訪れては気儘に書物のダンジョンを探索し、当たりか外れかわからぬ宝物を借りては堪能している。
今日は探しているものが二種類あった。
一つは例のごとく一冊の小説。それは早々に見つけ他人に取られぬよう手に取った。そして落とさぬよう本を大切に小脇に抱えながら、読書用もしくは勉強用にテーブルとイスが整然と並べられたスペースに移動し、見渡す。今日は図書館の利用者が比較的少なかったため、お目当ての人物を見つけるのに時間はかからなかった。
「椎名さん」
サラサラとした長髪、穏やかな目元が特徴の美少女と言って差し支えない1-Cに在籍している生徒、椎名ひよりに白川は声をかけた。
「白川くん、こんにちは」
「こんにちは」
軽くだが丁寧な挨拶を済ませて白川は彼女の向かいの席に腰を下ろし、所持している小説を開いて読み始める。
彼が今日はどのような本を選んだのか興味を持った椎名は向かいの席で読まれている本の表紙を確認し、あることに気付いた。
「あっ、その本は……」
「ん、椎名さんが勧めてくれた本。返却されてたから読んでみるよ」
「ふふ、是非感想を聞きたいです」
「いいよー」
自分のお気に入りの一冊を選んでくれたことに対する喜びを、椎名は柔らかいほほ笑みで示した。
二人が親しい関係になった経緯は外でもない、読書だ。初めて出会った場所は今二人がいる図書館。読書が趣味の生徒が同じクラスにいなかった椎名は、自分の好みに当てはまる本に手を伸ばす一人の少年、白川を見つけては声をかけ、人格としても親しみやすかった彼とは直ぐに意気投合し、そして度々本を勧める仲にまでなった。
「本を読んでいるままでいいんだけど、椎名さんに聞きたいことがあるんだ」
ある程度読み進めたところで視線で文字をなぞるのは止めないまま、白川は本題を持ち出す。
「何でしょうか? 私が力になれることならいいんですけど」
同じく彼女も読書を続けながら聞き返す。白川が要望を持ってくるのは今までになかったことだ。
「CクラスとDクラスの間で起こった暴力事件についてなんだけど」
椎名のページを捲る手が一瞬止まる。ある程度予想がついていた内容だが、気が進まない事柄でもあった。
「……私はあまりクラスの輪に加わることがありませんので。事件が起こっていることは知っていますが残念なことに詳しくはありません」
「そっか、なら仕方ないよ」
白川からは深く掘り下げる意思は感じられない。得るものがないことに対する落胆もない。日常会話の延長、明日の天気でも尋ねるかのような扱いだった。
そんな彼に、一連の事件の肝と呼べる情報を椎名は提示する。
「ですが今回のことは龍園君が大きくかかわっていることは予想できます」
「龍園? 誰それ?」
「俺だよ」
温和である、聞き心地が良いとも評価できる白川や椎名の声色とは正反対な、荒々しく骨太な声の持ち主が登場した。白川の背後、椎名の正面。男としては長髪で、鋭い目つきと怪しげな笑みを浮かべる口元。白川とは違い黒のカッターシャツを身にまとった椎名と同じ1-Cの男、龍園翔がそこにいた。
「――俺が龍園だ」
その場に登場したのは彼だけではない。龍園の後ろには、恵まれた体格を持つ黒人の男子生徒、短髪でクールな印象を受ける女子生徒、そして顔面の所々に絆創膏やガーゼによる医学的な措置が施された男性生徒を召し連れている。
白川は本に栞を挟んで閉じ、振り向いた。龍園と名乗る生徒、その後ろの三人の生徒の顔を見て、口を開く。
「…………初めまして龍園君。俺の名前は――」
「Aクラスの白川だろ? 坂柳派にも葛城派にも加わっていないAクラス唯一の一匹狼」
名を先に言われたことに対して白川は動揺した様子はない。しかし威嚇ともとれる鋭い目つきに白川はどこか居心地の悪さを覚えた。
「ふふ、白川くんは有名人なのですね」
「……他クラスにまで目立つようなこともした覚えないし、ぼっちのつもりもないんだけどね」
変わらず呑気な椎名、不満げな白川。そんな二人を龍園の背後にいる三人は違和感を持ちながら見ていた。自分のクラスの中でも誰かと親しく過ごすことが少ない椎名と仲良く読書をし、常に高姿勢で攻撃性を隠そうともしない龍園に背後に立たれても警戒心が微塵にも沸いている様子もない白川という得体のしれない人物。
そして椎名を呼びに来た龍園が、彼に明らかに興味を示していた。
「ひより、そろそろミーティングの時間だ。また参加しねえつもりか?」
「私はあのような場があまり得意ではありませんし、参加したとしても私に言えることはありません」
龍園は視線を白川から外し、当初の目的であった椎名の連行を試みるが、見込みは薄いようだ。
「ンなもん参加しねえと分かんねえだろうが。他の馬鹿共と違って頭はキレるんだからよ」
「無理して誘うもんじゃないでしょ。得意不得意があるんなら好き嫌いもあるんだから」
「部外者が口を挟んでんじゃねェ」
「それもそうだ。俺には縁のない話だった」
一言添えてみたら想像以上に凶暴に突っぱねられ、諦めを感じた白川は読書でも再開しようと栞に指をかける。
「……いや、」
眉間に込めた皺をほどいて、龍園はあることを思いついた。
いたずらっ子とは違う、悪巧みが芽生えた男の笑みが白川に向けられる。
「そうだ、ひよりを庇うってんならテメエが代わりに参加しろ」
「……はい?」
◆
何故か椎名の代わりに白川が連れていかれたのは、高級感漂うソファが壁をなぞる様に設置され、天井に吊るされたミラーボールが空間を派手に彩る団体客には御用達のパーティルーム、ではなく、灰色のコンクリート構造物に囲まれた路地裏だった。
夏に片足突っ込んだこの季節、鋭い直射日光を浴びなくても多湿という日本の特徴的な気候はある程度の居心地の悪さを皆に等しく与えている。
勿論このような場でCクラスが会合を催しているわけもなく、白川が龍園達に連れてこられるまで人影もあるはずもなかった。それどころか、見渡しても耳を澄ましても人の気配を感じることのない。一般的に用途などないこの場には意図的に足を運ばねばたどり着くことは無いだろう。
先頭を歩んでいた龍園が立ち止まり、振り返る。それを合図に白川も足を止める。龍園が引き連れていた生徒でる、山田アルベルト、伊吹澪、石崎大地の三人は白川の少し後ろで彼の逃げ場を塞ぐように横並びになる。
龍園の鋭い視線と白川の穏やかな視線が重なる。数秒の沈黙。形から見れば白川が袋の鼠なのは間違いないが、
「……で、何のよう?」
白川には緊張感の欠片もない。まるで見知った友人たちに囲まれているかのように。
「ククク、話が早くて助かる」
似つかわしくない態度の白川が面白いのか、己の優位性を疑わない龍園の口元が吊り上がる。そして探る様に白川の足元から頭まで観察する。
「黙ってノコノコついて来たのは考えがあってなのか、それとも単なる馬鹿なのか……」
「…………、」
「まあイイ。まずは……伊吹、コイツにボディチェックしろ」
「は? 何で私がそんなこと……」
不意に思わぬ命令が飛んできたことに、伊吹は顔を顰める。
「つべこべ言ってねえでサッサとやれ」
「連れて行った上にそれはちょっとひどいんじゃないの」
お預けを食らった白川は眉をハの字にしてため息を吐いた。
「ウルセェ、黙ってそこで立ってろ。テメエのことだ、盗聴器かなんか仕込んでいるかもしれねえ」
「そんなカッコいいモン持ってないよ」
文句を言いつつも、白川は両腕を軽く浮かせ、無抵抗の意思を示す。
伊吹は渋々ながら白川のボディチェックを始めた。龍園が言った盗聴器などが隠せそうな場所を両の手でパタパタとはたく様に調べる。粗雑に済ませてやり直すように再度命令されるのも不愉快だからなのか、やれるだけのことはやるつもりらしい。終えた後、龍園に顔を向けて結果を報告する。
「……携帯しか持ってないわよ」
「そう簡単に結論付けんなよ。パンツの中に凶器仕込んでるかもしれねえだろ」
「やめてよえっち」
路地裏で全裸になることは白川も避けたい。
下品な発言に、伊吹もゴミを見るような目を龍園に向けた。
「クク、冗談だ。……伊吹、携帯を奪って寄越せ」
伊吹はチラリと白川を見ると目が合った。ご自由にどうぞとでも言いたげな表情を確認した伊吹は白川のポケットに手を突っ込んで携帯を取り出す。二つ折りのカバーを開くことなくそれを龍園に手渡した。
受け取った龍園は携帯を起動し、チェックする。学校から生徒たちに例外なく配られたこの端末でも盗聴の役割は十分に果たせるのだ。
「……チッ、何もなしか。ひよりに暴力事件のこと聞こうとしてた割には何も準備してなかったってか?」
審議に役立てるには伝聞するだけではなく、データとしての記録が望ましいのは明らかだ。
「何いってんだか。俺は今話題のことを聞いていただけだってのに」
携帯端末には問題なしと判断した龍園は乱暴に放り投げて白川に返す。難なく受け取った白川は元あったポケットに仕舞い直す。
「ククク、まるでボディチェックを受けることも予想していたような態度だな」
「そんなわけないでしょ。……帰っていいか?」
「まあ待て。オマエには聞かなきゃいけねえことがある」
ここからが本題と言わんばかりに龍園はポケットに両手を突っ込んだままで白川に一歩、二歩と歩み寄る。
「Dクラスは今どんな状況だ?」
「……どんな状況、とは?」
龍園が両足を揃え止まるときには二人の距離は2メートルにも満たない。相手の不意の中に拳でも蹴りでも届けるのに苦はないだろう。
「Dクラスが自分たちの無罪を主張するためにあちこち聞いて回ってんのは知ってる。中心人物は誰だ? 今はどこまで調べがついている? そのうち開かれる審議ではアイツ等はどう出てくる?」
「……俺はあくまで情報収集を頼まれただけだから、詳しいことは聞いてないよ」
「内情伝えずにただ協力を要請するだけのヤツがいるかよ。知ってること全部吐け」
「例え何か知っていても言えるわけないでしょ。Dクラスの皆に怒られちゃうじゃん」
目の前には今にも手を出してきそうな男が一人。背後にはその男の指示一つでいつでも動く三人。四面楚歌もいいところではあるのだが、白川は涼しい顔をしたまま、非常事態に備えた構えの影もないままだ。
「……龍園さん、コイツ完全に舐めてますよ。俺たちが絶対に手を出さないと思ってやがる」
背後にいる石崎が、白川の態度に苛立ちを覚えて口を出す。
事実、新たに暴力事件が起こり、そこにもCクラスの生徒が関わっていたら印象は悪化するだけ、誰より困るのは龍園達Cクラス側だ。
「ここにはカメラも目撃者もない。懲らしめてやっても問題ないですよ!」
脅しじゃないと証明するかのように、石崎の右手が背後から白川の肩へと延びる。お世辞にも白川の見た目は喧嘩慣れしているようには見えない。
一発か二発、服の下など目立たぬところにダメージを与えれば話は変わるだろう。
そう目星をつけた矢先、石崎の手は白川の服を掴む前に止められた。
「……あ?」
白川は一歩石崎に迫り、触れられたことに一瞬気づくのが遅れるような、添えるように柔らかい手つきで腕相撲でもするかのように手の平を十字に重ねた。一拍置き、石崎の両目が手に向いた瞬間、離されないように白川は手を強く握り、そして捻った。
「ぁ……ちょ、待……」
想定外の握力、人体の構造上動かぬ方向への関節のねじれが重なり、大して踏み込んでいない下半身からバランスが崩れ、膝が地に着く。
石崎が手首や肘の痛みから逃れるように力を入れ返し体を持ち上げるが、それが仇となってしまってどういう訳か込めた力が胴に伝わり、白川に右手を握られたまま全身が半回転して背が地面についてしまった。加えてシャツの裾を踏まれたせいで石崎は上体を持ち上げられなくなってしまう。
「ククク、ただのインテリって訳じゃあ無さそうだな」
「焦りが見えすぎだよ、石崎君。やり方が強引だし、何かやましいことがあるんじゃないの?」
「そう言うなよ白川。こっちはDクラスが何か卑怯な手を使って無実をでっちあげんじゃねえかとヒヤヒヤしてんだからよ」
どの口が言うか。三人から少し離れたところで待機したままの伊吹が心の中で吐き捨てた。
「暴力事件、ねぇ……」
ため息のように呟いた白川は足元に転がる石崎の顔を改めて見る。
まだしばらくは外せそうにない外傷の措置や、目を背きたくなるような皮下出血が存在を主張していた。
「石崎君、顔すごい痛々しいことになってるけど、誰にやられたの?」
「お、お前も知ってるだろ、Dクラスの須藤に殴られたんだよ!」
不安定な態勢のまま、石崎は白川の問いに絞り出したような声で答える。
「ふぅん」
痛みに抗おうとする石崎を片手だけで完璧に押さえつけながら、白川は微笑む。
「…………
「は? 何を言って――」
「君じゃないよ、……伊吹さん、だっけ。俺が石崎君に誰にやられたのか聞いたら、一瞬だけど隣にいる黒人の彼の方向いてたよ」
顔を上げた先にいる伊吹の僅かな機微を白川は指摘する。
突然意識を向けられた伊吹は声を上げずに何とかして平静を保とうとするが、もう遅い。
「君が後から上乗せしたんでしょ? そうでなきゃ不自然だよ、その傷は」
「……ぁ……っ、……」
アルベルトは白川の言葉に反応を示さない。もしかしたら日本語が通じ切っていないからかもしれないが、彼以外の反応で白川は確信した。
石崎も心を落ち着かせるよう努力するが、逆に膨れ上がる鼓動音を自覚してしまい、頬に不快な汗が伝う。
「顔は見るに堪えないほど痣だらけなのに体は異常が見られない。顔殴るのって背や腹に比べたら難しいし、君らがいくらワザと無抵抗に殴られたとしても顔だけ重症なんてありえないでしょ。……問題は、何のためにそうしたのか」
白川の一言ずつに喉が締められるような錯覚を覚える。
「審議で優位に立つため? 傷が派手だと第三者は同情してくれるかもしれないから。……もしくは」
拘束から逃げ出すのを忘れるほど、精神的に追い込まれる。
「何か
強引な反論すら思いつかない。示す前に無駄と察してしまう。
「そうだな……、例えば、須藤君に殴らせていた時に目撃者の存在に気づい――」
「――アルベルト」
龍園の一言。それだけで今まで一音も発することなく一歩も動かなかった、この場で最も体格に恵まれた男、山田アルベルトから躊躇のない拳が白川に叩き込まれる。
肉と肉がぶつかる音。ただしそれは白川を殴り飛ばした音ではない。
白川は石崎を抑えている手を離し、投げられた球を丁寧に捕らえるように胸の前で両の手を重ね、日本人では得られない、豪気なカラダから放たれるその一撃を受け止めた。
「……危ないじゃん」
「ククク、意外とお喋りじゃねーか白川よ。しかも脈を測りながら石崎に尋問しやがって。強かもいいとこだ」
ただの敵の情報源、ただの警戒対象。その程度の扱いじゃ収まりきらない相手だと龍園は確信する。
「――気に入った。どうだ白川、オレと組まねえか? Aクラスの温室よかスリルある高校生活が送れるぜ?」
「……冗談でしょ?」
白川の口から呆れが零れた。
「テメエは坂柳派にも葛城派にも属してねえと聞く。……
龍園の笑みに新たな味が加わる。優位性の誇示や脅しとは異なり、そこには快や悦を孕んでいた。
「オレには分かるぜ、テメエはオレと
「……、」
「俺と遊ばねえか? テメエが求めているモノを与えてやるよ」
「……龍園君、」
白川の笑みも色が変わる。
彼は龍園に
「
ズレた内容ではない。むしろ正解といっても良い。
しかし、それは完全に的を射ているわけではなかった。
「でも俺はね、
◆
私の名前は神室真澄。
趣味の万引きが坂柳にバレてしまってそれからはヤツにいいようにこき使われているAクラスの女子生徒。
自己紹介終わり。
今日は坂柳にケヤキモールに連れられていた。
身体的にハンデを抱えている坂柳の荷物持ちになることは多々ある。同じ女子生徒ということもあり男子共には手が届かないことを任されることも割とある。正直なところ、面倒くさいというのは本音だけど仕方ないという見切りもあった。
今はカフェで一休みという状況だ。
先程までのショッピングの途中で白川からの着信に気付いたら朗らかな笑顔を浮かべて通話を始め、通話を終えるときには何故か何かに納得がいかないように表情を曇らせていた。そのアンタの他では見られない情緒不安定は一体なんなの。
どうやら白川はCクラスとDクラスの間で起こった暴力事件の目撃者を探すことを協力するように頼まれたらしく、手っ取り早くAクラス内で情報を集めるべく坂柳に声をかけたってわけね。多分葛城にも声をかけるっぽい。
坂柳は自分の派閥に属するクラスメイト全員にグループチャットを通して情報の提供を呼び掛けていた。
まあ、そんなに都合よく事件の目撃者が見つかるわけでもないから、白川が一番欲しい情報は手に入らなかったけどね。
分かったことといえば、Cクラスは度々大人数を収容できるパーティルームをレンタルして親睦会めいた事をしているとか、他クラスに妨害行為をするようにリーダーの龍園が命令しているとか、役に立つのか立たないのか分かんないことばかり。
まあ、Cクラスを褒められるような言葉は聞かないから、禄でもないクラスっていうことは十分に分かったけど。
「――まあ、これぐらいの内容で十分でしょう」
坂柳的には事足りているらしい。
携帯を操作して白川に集まった情報を送信している。
「そんなもんでいいの? 事件の解決につながるとは思えないんだけど」
「白川くんもあくまで一之瀬さんに頼まれた内容をこなすことが目的ですから。ない
そんな綺麗ごとに従う
白川を引き込もうとしている立場上、下手なことは出来ないんだろうか。私にもそういう扱いをしてほしい。
「それに、これだけでも白川君なら十分に役立てられますよ」
その絶大な信頼はどこから来ているのか。
「さて、お買い物の続きに行きましょうか」
席を立った坂柳に私も付いていく。さっきまでは本屋で小説を探していた。それも白川が勧めてきたものらしい。
カフェで小休憩を挟んで私たちは通りに出た。時間帯もあって学生で賑わっている。あまり人で溢れていると坂柳には移動が辛いところではあるけど、それほどではない。
しばらく歩いていると、前方に5,6人ほどの団体が私たちとは反対方向、つまり現状こちらに向かって歩いているのに気付いた。
特徴的といってもいい集団だ。男女比が偏っている。先頭を歩いているのは金髪をオールバックにした、集団の中で唯一の男子生徒。同じクラスの橋本ではない。橋本よりはガタイが良く、何故か誇らしげな笑みを絶やさずに歩いている。そしてその男に複数の女子生徒が御供している。なんだそのハーレム。
先頭の男は他の通行人には気を遣う様子がなく、進路が重なりそうならお前が逸れてすれ違えといった態度だ。
それを察した坂柳は何も言わずに通路の端に少し寄った。
「おや、君は――――」
すれ違う直前、男が立ち止まり、こちらに体を向けてきた。
まさか声をかけられるとは思ってもみなかった。坂柳も見るからに面倒そうな集団に関わる気はなく意外だったのだろう、反射的に立ち止まって振り向いていた。
ここまで近づいて私も気が付いた。この男は私たちと同じ一年生で、他クラスの生徒だ。女子生徒たちは見覚えがないから恐らく2年もしくは3年の上級生だろう。
坂柳を体格でも態度でも見下しながら、男は言う。
「――君は確か、我が親友である悠里に付きまとっている、リトルガールじゃあないか」
「……何ですって?」
私は察した。確信した。
あ、これ面倒なやつだ、と。
龍園「伊吹、そいつのボディチェックをしろ」
伊吹「なんで私が……」
伊吹(……え? コイツ、結構鍛えてる……。あ、腹筋割れて…………うそ、胸筋分厚っ……。細身だと思ったのに……着痩せ? ……二の腕も締まっていて……わ、ふくらはぎ硬ぁ!)
伊吹「……携帯しか持ってないわよ」キリッ
白川(めちゃくちゃ隅々までチェックするじゃん。……Cクラス怖っ)