けものフレンズ 1+1(わん・ぷらす・わん) 作:CarasOhmi
わん・あんど・おんりー
「おかえりなさい」
毎日のように顔を合わせる大きな女のヒト、彼女はテーブルを拭きながらぼくに話しかけた。ぼくは、カバンをソファにぽいっと放り投げて、足早に彼女に駆け寄った。カバンの中では、筒に入った色鉛筆がじゃらっと音を立てた。
ぼくは、脇に抱えた大きなスケッチブックを開いて見せた。さっきまで、ベンチに座って描いていた夕方の河川敷。
「今日も、遅くまで沢山描いてたのね」
感心したようにページをめくる彼女の表情に、ぼくは自慢げな気持ちになっていた。そこに、もう一人の体格のいい男のヒトが、台所から料理を運んできた。彼は皿を運びながら、首を伸ばしてスケッチブックを覗き込んだ。そして、ひとしきり眺めるとぼくの方に視線を移した。
「まだ夏休みに入ったばかりなのに、もうこんなに描いたのか。この分だとまた新しいスケッチブックが必要そうだね」
彼は、テーブルの真ん中に料理を置いた。白いお皿に乗った出来立ての料理は、ほかほかと湯気を立てて、ぼくの鼻に吸い込まれていく。とても美味しそう。今にも口の中からよだれがあふれそうだ。
絵を見せていたこともすっかり忘れて、今晩のおかずに気をとられるぼく。それを見て、二人はふふっと笑い声を漏らした。
「――」
女のヒトは、ごはんを食べ終えて、テレビを眺めていたぼくの名前を呼んだ。ぼくが生まれてくる前に、この二人がつけた、ぼくの名前。
「あのね、来月二人ともお休みが取れたの。前に話してた動物園、行きたい?」
ぼくは目をパチクリとさせた。二人の取り出したパンフレット。テレビでも紹介されていた南の島の動物園。すごく遠くて、すごく広くて、泊りがけじゃないと全部見て回れないって、友達は言ってた。
そして、そこにはとっても不思議な、ぼくたちとお話しすることができる動物がいるんだって。ぼくは、しゃべることができない動物しか見たことないから、ちょっと信じられなかったんだけど。
でも、もしそんな動物がいるんだったら、ぼくもお話してみたいし、友達になりたい。……このスケッチブックに絵を描いてプレゼントしたら、喜んでもらえるかな?
「ただし、いい子にしてたらの話だからね。ちゃんと宿題も進めて、毎日歯を磨いて、早く寝るんだよ」
ぼくは、大げさに頷いて、洗面台に向かった。鏡を見てゴシゴシと歯を磨く。今月はいつもよりもっと良い子でいなくちゃ。
動物園には何を持って行こう?泊りがけなら着替えを持って、色鉛筆とスケッチブック、お気に入りの帽子も忘れないようにしなくちゃ。このあいだ買ってもらった青い上着は、着て行くようにって言われるかも。うーん……。
ぼくは口をゆすいで洗面所から出た。パジャマにも着替えたし、髪のゴムも外して、これでもういつでも寝られるぞ。……でも、今からもう楽しみで、早く寝るのは難しいかもしれないや。
ふと、食卓でくつろぐ二人と目があった。こちらを見てニコニコしている。二人につられるように、ぼくも笑顔で寝る前の挨拶をした。
「おやすみなさい、――さん、――さん」
部屋の電気を消して、布団に潜り込んだ。ずっと行きたかった、南の島の動物園。たくさん絵を描いて「フレンズ」がいっぱいできるといいな。