けものフレンズ 1+1(わん・ぷらす・わん) 作:CarasOhmi
わん・あわー・れいたー①
獣の吠える声に身をすくませながら、ぼくは背筋をピンと伸ばし、目を見開いた。身体中から冷や汗が吹き出し、心臓は触らなくても分かるほど脈打っている。
……周りを見渡しても、獣の気配は感じられなかった。なにか怖い夢を見て飛び起きたのかもしれない。ぼくは、ドキドキと音を鳴らした胸を撫で下ろし、深く深呼吸をした。
──ここは、どこだろう?
ぼくは辺りを見渡した。真っ暗な建物の中。窓ガラスは割れて、天井や壁は所々が崩れ落ち、鉄骨をむき出しにしていたり、穴が空いている所もある。ぼくの横になっている「殻」の上からも、崩れ落ちた天井から青空が覗いていた。差し込む陽の光は、クッションのように詰められた四角い塊に反射して、きらきらと七色に輝いていた。
目に入る景色は、どれも見覚えのないものだった。……いや、そもそもぼくは、ぼくが何者でどこから来たのか、それすらも思い出せなかった。
あたりは不気味に静まり返っている。ぼくは、どこにも行くあてはない。けれど、ここはぼくの居るべき場所ではない気がする。
──行かなくちゃ。
ぼくは、光が射す方に視線を向け、殻の縁に手をかけた。
「こっちこっち!!」
突如、静まり返った建物の中に大きな声が響き渡った。ぼくは慌てて縁から手を離した。話し声とともに足音がこちらに近づいてくる。
──もしかして、さっき大きな声で吠えていた獣?
ぼくは、慌てて殻の中に戻り、四角いクッションをかき分け、身を縮めて潜り込んだ。
小さかった足音は徐々に大きくなっていく。ひたり、ひたりと、この部屋に近づいてくる。ぼくは、体をふるふると震わせながら、ただただ見つからないことを祈ることしかできなかった。
「本当にこっちで物音がしたんですか?」
「うん、きっとさっきのおたけびに驚いて、何か落としたんだよ」
「……『あいつ』に見つかると厄介ですからね、見つからなかったらすぐに撤退しますよ」
なにやら、話している二人の声が聞こえる。よくわからないけど、この声の主はさっきの叫び声を出した獣ではないみたい。ちゃんと言葉も通じるみたいだし、もしかして話しかけても大丈夫なのかな?
ぼくは、クッションをかき分けて顔の上半分を表に出した。そこには、硬い鱗のような尻尾を生やした二人の女の子が、辺りの匂いを嗅いだり、ガサゴソと機械や瓦礫を動かしていた。ぼくは、殻の中から這い出してそっと地面に降りた。そして二人に声をかけようとしたその時──
キュルルルルルル……
ぼくより先に、ぼくのお腹の虫が声をあげた。突然降って湧いた奇妙な音に、二人はビクッと一瞬跳ねて、勢いよく丸くなった。それを見て驚いたぼくも、後ずさりして尻餅をついてしまった。
「……なにっ?今の音!?」
「……アルマーさん、確認してください」
「……怖いから嫌だよぉ」
二人はなにやら小声で相談している。ぼくはというと、この二人のオーバーな反応が、自分のお腹の音のせいだと思うと、ついつい恥ずかしい気持ちになってしまった。
そんな気持ちを振り払うように、ぼくは膝に手をついて立ち上がり、丸まっている二人に近づいて声をかけた。とりあえず、まずはここがどこなのか、二人がいったい何者なのか、確かめなきゃ。
「あの……」
「……!!」
二人の背筋がびくりと跳ねた。
「すぐそこまで近づいて来てるよっ!!」
「仕方ないですね……『せーの』で顔をあげますよっ!!」
「うん、せーのっ!!」
姿勢はそのままに、二人は勢いよく顔を上げ、ぼくを見上げた。
「やいっ!!おまえーっ!!」
「なんだったんですか!?さっきの音は!!」
「私たちを一体どうするつもりだーっ!?」
二人に問い詰められて、ぼくは顔を火照らせながら答えた。
「えっと……その……お腹がすいちゃって……」
けど、その言葉を聞いた二人の様子は、どうにもおかしい。まるで、なにか恐ろしいものを見るように、青ざめた表情でぼくを見上げていた。
「たっ……」
「たっ……」
「「食べないでぇ〜っ!!」」
二人は、身を寄せ合いながら、また丸くなってしまった。
「た……食べないよっ!!」
ぼくの答えは、静まり返った暗い建物の中に吸い込まれていった。ぼくたち三人が落ち着いて、この建物を出るのは、もうちょっと先のお話。