けものフレンズ 1+1(わん・ぷらす・わん) 作:CarasOhmi
ジャパリまん、ジャパリパン、ジャパリチップスにジャパリソーダ、あとジャパリコロネ。テーブルの上に並んだ食べ物は、どれもとてもおいしかった。もうお腹いっぱいで、少し苦しいぐらい。
「さて、お昼ごはんも食べたことですし、そろそろ行きましょうか」
センちゃんはぼくを見ながら立ち上がった。……行くってどこへ?
「依頼主の『おうち』ですよ。私たちの任務は、『ヒト』を探し出して、依頼主の元へ届けることなのです」
丘を降りて草原の道を歩き進む。二人はぼくを「おうち」まで送り届けてくれるみたい。ここから歩いてだと結構かかるから、乗り物に乗って行くんだって。二人がここまで来たのも、その乗り物に乗せてもらってって話だった。ぼくたちは、サバンナの入り口にあるという、その乗り物に向かって歩みを進めていった。
──「おうち」。その言葉を聞いて、ぼくの鼓動は高鳴った。ぼくは「そこ」を覚えてる。茶色い三角屋根の二階建ての建物。そこは、明るくて、優しくて……。ぼくが帰るただひとつの場所。ぼくの帰りを待っていてくれる人がいた、暖かい場所。
「依頼主」は、その「おうち」に住んでるの?その人が、ぼくを探していて、帰りを待ってくれているの?
「どうしたの?どこか打った?」
アルマーさんはぼくの顔を心配そうに覗き込んだ。気がつけば、ぼくは涙をぽろぽろと流していた。
……ちがうよ、辛いんじゃない、安心したんだ。薄暗くてボロボロの建物、恐ろしい獣の雄叫び、フレンズを食べてしまう怪物……、目を覚ましてからは不安なことばかりで、これからどうなっちゃうか、まるでわからなかった。けど、ぼくに帰る場所が、待っていてくれる人がいることに、とてもホッとしたんだ。ぼくは、半袖で目元をぐしぐしと拭って顔を上げた。
「大丈夫だよ。行こう!!」
ぼくは、「おうち」に帰れるんだ。ぼくの住んでいた、安心できる場所へ。足取りが軽い。……早く会いたいな。ぼくの事を待ってくれている人に。
「なんか、私たち良いことしたのかな?」
「……かも、ですね」
「ところで、ぼくのことを待ってる『依頼主』って、どんな人なの?」
ぼくは二人に質問した。おうちのことはぼんやりと覚えているんだけど、「帰りを待つ人」の顔がどうしても思い出せない。会えば思い出せるかもしれないけど、どうしても気になったんだ。
「えっとねぇ……、怒らせると怖い子だよ〜?わたしとセンちゃんも、中々見つけられなくて、よく怒られてね……」
「アルマーさん!!私たちは依頼人については『しゅひぎむ』があるんですよ」
センちゃんに釘を刺される形で、アルマーさんの言葉は遮られた。その人に叱られたのが恥ずかしかったのかな。……でも、怖いってことだけ聞くと、なんか不安になってくるなぁ。……ぼくも、その人にきつく怒られちゃうのかなぁ。
「けど、悪い子じゃないと思うなー。まあ会ってからのお楽しみってことで」
ぼくは依頼人がどんな人なのか想像を巡らせていた。怖くない、優しい人だったら良いなぁ……。
ふと、センちゃんが何やら気づいたように、足を止めてぼくに問いかけた。
「そういえば、あなた名前はなんて言うんですか?」
「……えっ?この子『ヒトちゃん』じゃないの?」
アルマーさんは驚き気味にセンちゃんに問い直した。いや、確かにぼくは「ヒト」……だと思うけど。
「ヒトは、私たちフレンズとは違って、元の動物の名前とは別に、特別な呼び名を持っていたんだそうです。この子にも、何か名前があるんじゃないでしょうか」
「へぇー。私も知りたいな、君の名前!!」
──ぼくの、名前?……あれ、ぼくはなんて呼ばれてたんだっけ?お家に帰って、「あの人たち」に呼ばれていたぼくの名前。数え切れないほど呼ばれていたはずなのに、どうしても思い出せない。
「ごめん、思い出せないや……」
興味津々だったアルマーさんは、残念そうに肩を下ろした。
「……でもどうしてさ、センちゃん。私たちと同じように『ヒトちゃん』って呼んでもいいんじゃない?」
「そうはいかないでしょう、アルマーさん」
そう言って、センちゃんは草原の遥か向こう側を指差した。草の隙間から顔を出した獣道に、黄色と緑で別れた配色の、四角いおもちゃのような何かが小刻みに揺れている。あれが、二人の乗ってきた「乗り物」……?
「私たちはこれから、もう一人の『ヒト』に会うんですから」
遠くにある黄色い箱の中では、灰色の人影と、深緑と黒の人影が動いていた。やがて、灰色の影は黄色い箱から出て行って、空高く飛んで行った。少しずつ近づいて行く黄色い箱。その正体は一台のバス、そしてその運転手である、白い帽子を被った、もう一人の「ヒト」。
双眼鏡を覗き込んだ先には、私がここまで乗せてきたオオアルマジロとオオセンザンコウの探偵コンビが、そしてひとまわり小柄な子供が、横並びにこちらに向かって歩みを進めていた。
青いジャケットに白いズボン。緑がかった黒髪のてっぺんに、野菜のヘタのような形の癖っ毛が揺れる。肩掛けの大きなカバン。この子供が「あの子」の探し求めていた「ヒト」だろうか。
「……どうやら、ちゃんと見つけられたみたいだね。一足先に、依頼主の子に伝えてあげて」
「ほえー、任せといてー」
メッセンジャーを務めるカワラバトのフレンズは、翼を羽ばたかせて空に舞い上がった。彼女に伝言を託し、私はサバンナとの気候帯の境目で、三人の到着を待った。「私以外のヒト」……かつて共に冒険を繰り広げた親友と、一緒に追い求めた到達点。私はそれと一人で対面する。
……ジャパリバスなら並みの悪路程度なら走破できる。「ここで道が途切れているから」は、あくまで言い訳だ。私は、サバンナに足を踏み入れることに、未だにためらいを持っている。私の孤独や悲しみ、あるいは身勝手さを揺り起こすような……、そんな存在がこの景色のどこかに眠っているような、そんな気がしてならない。
やがて、三つの人影は大きくなり、お互いの顔を認識できる距離までやってきて、こちらに手を振った。私も、それに応えるようにバスから降り立った。
バスから降りてきた白い帽子の女の人。帽子の両脇には、赤と青の鮮やかな羽。丈の長い黒いジャケットの上には、大きな白いリュックを背負っている。
「この方が、私たちをバスでここまで乗せてきてくれた『ヒト』です」
「はじめまして……」
ぼくは、初めて出会う「大人の人」を前に、深くお辞儀をした。
「はじめまして。……君も、ヒトなんだね」
顔を上げると、彼女はぼくのことを神妙な面持ちでじっと見つめていた。こちらもつい緊張してしまったけど、やがて女の人はふっと朗らかな表情を浮かべた。
「私はパークガイド、みんなからは『かばん』って呼ばれてる。よろしくね」
──かばんさんは、帽子を取り軽く会釈をして、ぼくに向かって優しく微笑みかけた。