けものフレンズ 1+1(わん・ぷらす・わん) 作:CarasOhmi
金属同士がぶつかりあったような固い音が響き、セルリアンは後ろにはじき飛ばされた。頭の前で腕を交差させ、セルリアンの攻撃から身を守るセンちゃんとアルマーさん。セルリアンの鋭い攻撃も、守りに回った二人の「うろこ」には歯が立たないみたいだ。
追い打ちをかけようとする二人に、かばんさんは「待った」をかけた。体勢を立て直す二体のセルリアンの後ろでは、もう一体のセルリアンがこちらの出方をうかがっていた。
「……三体いては、うかつに手は出せないですね」
センちゃんは、セルリアンを警戒しながら後ずさりした。
このまま逃げようにも、このセルリアンは足が速い。きっとすぐに追いつかれてしまうだろう。迫り寄るセルリアンを前に、ぼくたちは身を守ることしかできない。
ぼくは、何か作戦はないかと、すがるようにかばんさんの方に視線を向けた。かばんさんは、ポケットから手のひらほどの赤い筒を取り出し、乾いた音を立てながらそれの先端をすり合わせていた。
――次の瞬間、その筒は先端から激しい光と煙を噴き出した。
「ひっ!?」
センちゃんとアルマーさんは、眩い光に怯えたような声を上げた。かばんさんはその筒を持って、背筋を伸ばした二人の間を抜け、セルリアンの方に歩み寄っていった。
「……大丈夫だよ。これは『発煙筒』って言う道具。危ない物じゃないから」
かばんさんは、ぼく達に背を向けながら語りかけた。そして、光と煙を吐き出す棒を高く掲げ、ゆっくりと左右に振る。セルリアンたちの視線は、かばんさん……ではなく、激しく光を放ちながら左右に揺れ動く「はつえんとう」を追っていた。
「今から、これをセルリアンの向こう側に投げて注意を引く。やつらが私たちから注意を逸らしたら、一斉に道に沿って逃げるんだよ」
ぼくらはうなずいた。かばんさんは、こちらに背中を向けたまま、右足を一歩後ろに下げ、上半身をひねり、筒を持つ右腕をぐぐっと引いた。
「せーのっ……!!」
かばんさんは、発煙筒をセルリアンの後方に向かって思いっきり投げた。かばんさんの手を離れた発煙筒は、投げテープのように煙を伸ばしながら、道の向こうへと飛んでいく。その光と煙の曲線を目で追っていたセルリアンたちは、やがて背後を向き直り、カシャカシャと足を動かして光の筋を追い始めた。
セルリアンの注意がこちらから移ったのを確認して、ぼくたち四人は一目散に駆け出した。セルリアンが振り向かないことを祈りながら、ただひたすらに、道の向こうへと走って行った。
「逃げ切れたのかな……?」
走り疲れて息を切らしたアルマーさんは、歩きながらかばんさんに問いかけた。
「……きっと、時間稼ぎにしかならない。発煙筒は五分程度で光も煙も収まるからね」
かばんさんはアルマーさんの背中をさすりながら答えた。
「それにあいつらは、バスに乗って移動していた私たちの居場所だって見つけることができた。煙が収まったら、また私たちの元に駆け付けてくるよ」
「そ、そんなぁー……」
アルマーさんはがっくりとうなだれた。ぼくもセンちゃんも途方に暮れていた。また追いつかれてしまったら、今度こそ万事休すだ。おうちまであと少しなのに、ここで終わりになるのかと思うと、悔しさがこみあげてくる。
「だから、作戦を立てよう」
かばんさんは、へたりこんだぼくたちを励ますように言った。
「上手くいくかはわからないけど、あと少しなんだから。やれることは全部やらなくちゃ」
センちゃんとアルマーさんは顔を見合わせて、立ち上がった。
——そうだ、おうちには今、ぼくの帰りを待ってくれる人がいるんだ。ここで終わるなんて、絶対いやだ。ぼくは、涙をぬぐって立ち上がった。
ぼくたちの決心を確認し、かばんさんは作戦を話し始めた。
カーブに沿った木々に隠された、道の向こう側。かしゃり、かしゃりと不気味な足音を立てながら、セルリアンたちは現れた。きっと、今度こそぼくたちを捕まえて、食べてしまうつもりなんだろう。
――かばんさんの話によると、セルリアンはフレンズを見つけては、我先にと襲い掛かるけれど、それ以上にヒトや、ヒトの作ったものを狙って壊しにかかることが多いんだって。だから、ぼくとかばんさんは、林の道の真ん中に立って、セルリアンを待ち受けた。セルリアンの狙いを一か所に絞るために。
ぼくたちの姿を見つけると、セルリアンはその細い足を激しく動かし、ぼくらへの距離を急速に詰め始めた。かばんさんはとぼくは、木の枝を折って作った棒を持って、道の真ん中でセルリアンを待ち構えた。
――いくら小さいとは言っても、こんなものではセルリアンは倒せない。ぶよぶよした見た目とは裏腹に、セルリアンは石のように固くて、ヒトの力だけではそれを壊すことはとてもできない。きっと、この棒でセルリアンを思い切り叩いても、棒の方が折れてしまうか、あるいはそれを掴んで飲み込んでしまうだけだろう。
目の前に迫るセルリアン。セルリアンたちは、二本の足で僕らにつかみかかろうと、一本の後ろ足を地面に突き刺して、体を起こした。
襲い掛かるセルリアンに向けて、ぼくらは何度も棒を振る。しかしセルリアンは全く意に介すことはない。そして、空高く掲げた二本の足を、今まさにぼくらに向けて振り下ろそうとしていた。
――その時、林の中から巨大な円盤が飛んできた。それは、一体のセルリアンの胴体を貫通し、もう一体が地面に突き刺して支えにしていた足をへし折った。虹色に光る箱状の破片をあたりにまき散らしながら、やがてその円盤は、着地と同時に、ほどけるように人型の影へと姿を変えた。
円盤の正体は丸まったセンちゃんだ。道の真ん中で、セルリアンをおびき寄せたかばんさんとぼくは、ぼくらに襲い掛かろうとセルリアンが動きを止めた瞬間、棒を振って林に隠れたアルマーさんたちに合図を送った。
フレンズはみんな力持ちだ。アルマーさんは、タイヤのように丸まったセンちゃんを掴んで、フリスビーを投げるように、思い切りセルリアンに向けて投げ飛ばした。岩のように固く鋭いウロコを持ったセンちゃんにぶつかったセルリアンは、パッカァーンと軽快な音を鳴らし、はじけ飛んだ。
「名付けて、『センちゃん大車輪』!!」
アルマーさんが森から出てきて名乗りを上げた。
「うぅ、目が回りますぅ……」
センちゃんは、勢いよく回転したこともあって足元がおぼつかない。けど、足を失ったセルリアンは動きも遅くなっている。
センちゃんは顔をぶんぶんと振って、足の折れたセルリアンに向き直った。
「ふたりとも、あとは私たちが片づけます!!下がっててください!!」
今度のセンちゃんは自信ありげで頼もしい。ようやく危機を抜けたと安心したぼくは、腰が抜けそうになり、枝を杖のようにして体重を預けていた。
しかし、かばんさんは一人、険しい表情のままだ。まだ何か不安があるのかなと声をかけようとした、その時だった。
右の林の中から「かしゃり」という音が聞こえた。ぼくが振り向いたその瞬間、大きな影が僕に覆いかぶさるように体を逸らせていた。二人の戦っているカメラ型のセルリアンと同じ。ただし、足は三本ついている。あっけにとられているうちに、ぼくの持っていた枝は真っ二つに折れて、身に着けていた青いベストは真横に破けていた。
――そうか、さっき追いかけてきたセルリアンは三体。けど、センちゃん大車輪が砕いたのは二体だけ。このセルリアンはその二体とは別に、林を突っ切って、まっすぐここまで来たんだ。かばんさんが不安に思ってたのも、バスを追っていたセルリアンと数が合わなかったからなんだ。
セルリアンに破かれて、宙を舞う上着の切れ端。ぼくを庇おうと駆け寄るかばんさん。もう一体のセルリアンを倒して後ろの異変に気付いたアルマーさんとセンちゃん。ぼくの体を目がけてドリルのような足を振り下ろすセルリアン。
世界のすべてがゆっくりに感じる。さっきまで感じていた、おうちに帰れない悲しさや悔しさ……それすらも置き去りに、今はただ、ゆっくりと迫りくる、セルリアンの鋭い足に対する恐怖だけが、繰り返し、繰り返し、ぼくの頭の中に押し寄せていた。
ぼくはゆっくりと目を閉じた。もう、おしまいだ――。
「もう、大丈夫ですよ――」
――ぼくは、どれだけの時間目を閉じていたんだろう。
聞き覚えのないその声を聞いて、ぼくは恐る恐る目を開けた。ぼくの視界に飛び込んできたのは予想もしなかった光景。
紫がかった灰色の髪、ピンととがった二つの耳、先の丸まった太いしっぽを生やしたシルエット。夕日の逆光に照らされたその人影は、上着の裾をはためかせながら、振り下ろされたセルリアンの二本の足を、しっかりとつかんでいた。
――フレンズ?
人影は、両手をギリギリと握りしめる。そして、両肘を落とすように力を込めて、セルリアンの足をへし折った。投げ捨てられる二本の足。それは、地面への落下を待つこともなく、空中で箱状の破片となってはじけ飛んだ。
セルリアンは、その場から逃れようと地面に突き刺した足を抜こうとする。しかし謎のフレンズは、すかさず足元のドリルを思い切り踏みつけて、セルリアンをその場に固定した。そして、その胴体を両手でわしづかみにして身動きをとれなくしてしまった。セルリアンを挟み込んだ掌は、まるで牙の生えそろった顎のように、メリメリとセルリアンに食い込んでいく。やがて「メキッ」とひび割れる音が鳴ったのとほぼ同時に、セルリアンは破片となって、謎のフレンズの手元から勢いよくはじけとんだ。
あたりに散らばった箱状の破片は、キラキラと虹色の光を放ち、消えていった。セルリアンを倒した謎のフレンズに、かばんさんは語りかけた。
「すぐに気づいてくれて、助かったよ」
「……煙を見たカワラバトさんが引き返して来て、バスが襲われてると伝えてくれたんです」
おそらく、煙というのは発煙筒の話だろう。あれは、セルリアンへの囮だけじゃなく、このフレンズに危険を知らせて、助けを呼ぶための合図だったんだ。
謎のフレンズはこちらに向き直って、じっとぼくの目を見つめた。長いまつげと吊り上がった目尻……これまで出会ったフレンズ達とは異なる、迫力を持った鋭い目つきに、ぼくは一瞬すくみあがった。
けれど、彼女の青と黄色の色違いの瞳は、揺らめく水面のように夕日を反射して、とてもきれいに輝いていた。気が付けばぼくは、怯えることも忘れて、ただ彼女の瞳を見つめ返していた。
「き、きみは……?」
ぼくが口を開くと、彼女はこちらへと歩み寄ってきて、ぼくと視線の高さを揃えながら答えた。
「私はイエイヌ。あちらの二人に、あなたを探すよう依頼したフレンズです」
セルリアンを倒したセンちゃんとアルマーさんが、ぼくたちの方に歩いてきた。つまり、この子がぼくのことを探してた「依頼主」……ぼくの帰りを待っている人?そう二人に聞こうとしたぼくだったけど、その疑問は予想外の出来事にさえぎられた。イエイヌさんが、勢いよくぼくのことを抱きしめたんだ。
「懐かしいな、この匂い――!!」
……力が強く少し苦しい。けど、それを口に出すのは、少しはばかられた。ぼくを抱きしめたイエイヌさんが、時折小刻みに体を震わせていたから。彼女がどんな表情をしているのか、ぼくからは見えない。だけど、きっと——
「会いたかった……!!この日をどれだけ待っていたことか――」
きっとこの子は、ずっと会いたかったヒトに会えたんだろう。
――その日、ぼくらは出会った。
大好きだった世界から、置いてけぼりにされた、
帰る先のないぼくと、帰らぬヒトを待つ彼女。
これは、「星の記憶」の祝福を受けられない、
ひとりぼっちの、ぼくらふたりの、
「出会えた奇跡」の物語。
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● ジャパリカフェ ( じかい よこく )
( カラン♪ カラン♪ )
アルパカ「あらぁ、ロバちゃん!いらっしゃあい!!……そのふたりは?」
ロバ「昨日、セルリアンを退治してもらったんです。今日はそのお礼に」
アルパカ「そうなんだぁ!すごいねぇ~……」
サーバル「えっへん!!」
カラカル「あんなの、大したことないわ。大げさなのよ」
アルパカ「さぁさ、座って!いま、お茶淹れるからねぇ!」
サーバル「カラカルは、お茶飲むの初めて?」
ロバ「あれ、サーバルさんは飲んだことあるんですか?」
サーバル「ずっと前にね。うまく思い出せないんだけど」
カラカル「わ…、私だって『オチャ?』ぐらい、飲んだことぐらいあるわよ!」
サーバル「えぇ~?ホントかな~?」
カラカル「なによ、お姉さんぶって!あんたの助けなんていらないんだから!!」
アルパカ「お待たせぇ、淹れたてのお茶だよぉ」
サーバル「わーい、いただきまーす!……の、その前に」
みんな「次回、『わん・さいでっど・でぃざいあ』!!」
カラカル「……あつッ!!ちょっと、熱いじゃないのよコレ!!」
アルパカ「次は、フーフーして飲もうねぇ」