休憩時間になると、わたしと金髪の女の子は壁に寄り掛かって並んで座った。最初にわたしがそうしていると、彼女が隣にやってきたのだ。先ほどと違ってその表情には温かい微笑みが浮かんでいた。ガスマスクの人は黄色い食べ物を無造作に私たちに手渡すと、白い部屋から次の仕事が始まるまで出て行った。わたしは彼の後姿を眺めながら、このまま扉の鍵を閉めてしまおうかと思案していた。
「煙草を吸いに行ったのよ」と金髪の子が教えてくれた。
「二度と戻って来なければいいのに」と私は言った。
「真面目にやっていれば怒る人じゃないわよ」
私は返事をする代わりに肩をすくめた。
「あなた、名前は? 」
「28番」
「それってどんな意味があるの? 」
「わからない。……あなたお喋りだね」
今度は彼女が肩をすくめた。
「仕事以外ではね」と彼女は言った。「わたし、コスモスって名前なの。理由はコスモスが好きだから。どう、この名前? 」
コスモスね。わたしは心の中で考えたことを口には出さず、相手が満足しそうな言葉を選んで伝えた。コスモスはとても嬉しそうに笑った。
「ここには私たちみたいな子が他にもいるの? 」と私は訊いた。
「ええ、そうよ。少なくともわたしは五人知っているわ。その内の二人は死んじゃったんだけどね」
「死んだの? 」
コスモスは呟くように「そう」と言った。そして下唇を親指に押し当て眉間に皺を寄せた。これが彼女の考えているときの癖みたいだ。数学の新しい定理を編み出そうとするブルーと同じような表情をしていた。
「そうよ」と彼女はたっぷり時間を掛けて言った。「それはそうと、あなた、ここに来るの初めての人よね? 」
私は頷いた。
「たぶん何にも知らないだろうから教えてあげるけど、ここから逃げようとか考えちゃ駄目よ」
「なんで? 」
「そうした子がみんな死んじゃうから。先月のことなんだけど、わたしの友達のドーナツさんもガスマスクの彼がどこかに行っているこの休憩時間に脱走しようとしたんだ。で、そこの扉から出て行ったの。だけど、ここの誰かに見つかって殺されたわ」
「どんな風に? 」
「見てないからわかんない。でも悲鳴が聞こえたの。ドーナツさん、物凄く高い声質だからすぐに彼女だとわかったわ。勇気はあったけど、馬鹿な人よね。で、その穴埋めであなたがここに来たの」
「そうなんだ」
「だから馬鹿なことはしないことね」
それからコスモスは黙った。過去を思い出して切なくなったのかもしれない。私も喋ろうとはしなかった。残りの休憩時間が終わるまで我々はどんな言葉も発しなかった。ガスマスクの人が帰ってきた頃には、我々は既にシールを貼る準備に取り掛かっていた。脳を揺さぶるような凄まじい音が鳴り響き、再びベルトコンベアが動き出した。白い部屋の中はメンソールの匂いが僅かに漂っていた。