「本当にすみませんでした!」
真っ白な部屋で俺は唐突にそんな事を言われ驚きを隠せなかった。
部屋の中には事務机と椅子があるが声をかけてきた存在は床に手をつきそれは見事なフォームの土下座をかましていた。
頭を下げている為顔は分からないが、ここは多分さっきと同じ場所で、この銀髪の人も女神なのだろう。勝手に決められた異世界ライフが始まると思ったところでこの状況。いまいち理解が追い付かない。そもそもさっきいた青髪のアクアとか言う奴はどこに行ったんだ?それに明るい光に包まれた後、微かに見えたあの景色はなんだったんだろうか?よく分からないから仕事モードで対応しておこう。
「とりあえず頭を上げてください。そして説明をしてほしいのですが・・・・・・」
女神様に頭を下げられたままなのは流石に居心地が悪い。
「本当にすみませんでした、貴方に起きた事態はこちらでも把握するのに時間がかかっていまして、説明をしたいのですが確認をしているので少しだけお時間を頂きたいのです」
ようやく顔を上げてくれた女神様は先ほど会った悪徳業者のようなアクアとは違って真面目で少し焦ったような顔で俺を見つめてきた。
「待つのは構いませんよ。一度死んだ身ですのでここでこうしてるのも本来はあり得ない事でしょうから・・・・・・」
「ありがとうございます、それでは少しだけお時間を頂きます」
女神様はそう言うと立ち上がり光に包まれて消えて行った。
・・・・・・この空間で一人になった俺は待ってる間、左手首に付けられたシルバーのブレスレットを撫でながら目を閉じ先ほど自分に起きた事を思い出す事にした。
■
「相沢唯人さん、ようこそ死後の世界へ。貴方はつい先ほど不幸にも亡くなりました。貴方の生は終わってしまったのです」
目の前の青髪の女はそう俺に告げた。
俺は死ぬ前は何処にでもいる仕事に疲れたくたびれた三十半ばのオッサンだった。結婚はしたが子供はいない。その生活が幸せだったかと聞かれたらそうでもないと答えられる。
何故なら俺が死ぬ事になった理由は嫁さんのストーカーに刺されたからだ。
ストーカーが出現したせいで嫁さんは心を病んでしまい、仕事帰りに別居中だった嫁さんに会いに行く途中、『何で!』だの『お前のせいだ!』だの虚ろな目で喚き、『殺してやる』と叫びポケットから出したナイフで俺を刺した。いろいろやり返したがやはりこれが致命傷だったようだ。
「一つ聞いても良いですか?」
目の前の女は頷く。
「どうぞ?」
「俺を刺した奴はどうなりました?」
「あの男なら病院に運ばれたわよ。まぁ、貴方が死ぬ前にやった攻撃で、二度と病院から出れない生活になるでしょうけど・・・・・・」
顔を引きつらせながら答えてくれた。まぁ、他人に暴力を振るうなんて二十年ぶり位だから手加減なんか出来なかったよ。だって俺、刺されたし。
「・・・・・・しょうがないさ」
「しょうがないじゃないわよ。最後のあれは何なのよ!リアルに格ゲーの超必殺技を使う人間を私は初めて見たわ!マックスコンボ!って聞こえてきたもの。そして右手を天に掲げそのまま立ち往生。アンタは何処の拳王様なのよ!」
昔はヤンチャだったから・・・・・・っていうかあのポーズのまま死んだのか・・・・・・
「今病院に着いたアンタの家族はその話聞いて『よくやった!』って爆笑してるわ。もちろんアンタの奥さんもね」
なんかあれだな葬式も楽しそうだな。そういうのにも出てみたい気がする。それに嫁さんも笑えるくらい元気になってくれたのか・・・・・・ストーカーが病院から出れなくなったのは良かったけど、もうあの笑顔が見れないのは辛いな・・・・・・・
「・・・・・・さて。その話はここまでにして。初めまして相沢唯人さん。私の名前はアクア。日本において若くして死んだ人間を導く女神よ」
ん?若くして死んだ?
「俺、そこまで若くないけど」
「そうなのよ。アンタは特例なのよ!本来であれば人間として生まれ変わり新たな人生を歩むか、天国的な所でおじいちゃんみたいな暮らしをするかの二択なの」
「じゃ、生まれ変わりで」
「そうね!生まれ変わりね。って違ぁぁぁぁう!」
こいつ本当に女神なのか?キレの良いノリツッコミだぞ。それにさっきから話をしてたら言葉遣いも軽くなってきてるし、なんか残念な感じがする。今もゼーハーいいながら肩を揺らしてるし。
「アンタは特例って言ったでしょ!もう一つの選択肢があるのよ!」
選択肢・・・・・・あぁ、あれか?
「地獄か・・・・・・」
「そう、アンタ昔ヤンチャしてたみたい・・・・・・って違ぁぁぁぁう!」
違うの?
「何で地獄行きの人間を女神である私が案内しなくちゃいけないのよ!」
「思い出作り?」
「何でよー!地獄行きの奴は死神がちゃんと案内してるわよ」
地獄もちゃんとあるのね。それじゃ分からん。死んだ俺に何させる気だろう。このそこはかとなく不安だ。
「ふぅー、まぁいいわ。アンタに与えられた選択肢は、異世界転生よ!」
異世界転生?夜中にアニメでやってたスライムになっちゃうやつ?普通にスライムは嫌だな。
「そういうのいいんで、生まれ変わりでよろしく」
「だから最後まで話を聞きなさいよー!」
アクアが言うことには、その世界には魔王がいてそいつらによる侵攻のせいでピンチらしい。んで、そこはロープレ的なファンタジー世界らしい。
ただの日本人にどうしろと?中年太りでお腹ポヨポヨだし、魔法?モンスター?無理でしょ。何か面倒臭くなってきたな。
「何を聞けば良いんだ?俺は生まれ変わりで良いと言っているだろう?」
「魔剣マスターって知ってるわよね?」
もちろん知っている、近衛山彦先生の作品だな。世の中を見るとそこまで評価されてないけど俺は好きなラノベだ。中学生の時に一巻が出て七年かけて全二十巻の大作だ。ちょうど青春時代と呼ばれる時期に買って読み続けたから今でも部屋の本棚にある。
「それがどうかしたか?」
「『
確か魔剣マスターってファンタジー世界だったから魔法もあったけど基本的に皆身体強化をして剣で切り合う脳筋ファンタジーだったはず。それに『
「アンタの腕にもう付いてるでしょ」
そう言われ腕を見ると確かに手首の所にシルバーのオシャレなブレスレットが付いてる。いつの間に付いたんだ?
「挿し絵だと白い輪だったけど、オシャレにしておいたわ。いやー技術開発局が苦労していたけど、ようやく完成したのよ。そうしたら原作知らない世代になっちゃったから上に無理言って特例を認めさせたらちょうどアンタが来たってわけ。オマケで肉体年齢も16歳くらいにしといたから感謝しなさい!それに魔王を倒したら何でも願いが叶うから良いでしょ!」
強制かよ!それにデメリットを思い出したぞ。確か魔力を吸収し続けるだったはずだ。魔力が尽きたらそのまま生命力も吸われ、主人公が最初は死にかけてたな。
「チェンジで!」
「何なのよー!もうアンタで登録完了してるから外せないし、特典は一つしか与えられないから無理に決まってるでしょう!」
「ドヤ顔で呪いの装備をやるから魔王を倒せって何処の悪徳業者だよ!」
「呪いの装備ってなによ!悪徳業者って!わ・た・し・は女神様なのよ!それに私だってあの作品大好きなんだからそんな事言わないでよ!」
「呪い以外の言い方があるわけないだろう。デメリットのほうが
最初の緊張感もなく相手が女神だと言うのに気がつくと怒鳴っていた。まぁ、話の内容事態十割がた向こうに非があるのは一目瞭然だが・・・・・・
「こうなったらさっさと行ってもらうわ」
そうアクアが告げると俺の周りに青白い魔方陣が現れた。
・・・・・・おい、まさかこのまま異世界に行く事になるのかよ。
「ふざけんな!」
「・・・・・・プークスクス!さぁ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、貴方が魔王を打ち倒す事を祈っています。・・・・・・さぁ、旅立ちなさい!プフー」
笑いを堪えながらそう告げるアクアを見た。
「次に会ったら絶対にぶん殴ってやるぅー」
そして俺は自分の叫び声と共に青い光にのみこまれた。
■
目を開き、大分ムカムカする気持ちを落ち着かせるように深呼吸を繰り返していると何もないところから光が溢れ先ほどの銀髪の女神が現れた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。貴方に起きた事態もだいたい把握できたので、説明させて頂きます」
そう、転生したはずなのに元の場所にいる理由は何でだろうか?それにアクアはどこに行った?
「先ほどは名も名乗らずにすみません。私の名前はエリス。貴方が転生するはずだった世界の女神です」
違う世界の神ということか?アクアみたいなテキトーじゃなく神々しい感じがする。
「まず貴方に起きた事態を説明させて頂きます。貴方が付けている転生特典の『
ん?ということは?
「あの、俺って勝手に付けられた呪いの装備のせいでまた死んだの?」
素で出た俺の一言で気不味い空気になり、エリス様も申し訳なさそうな顔をしている。そうか死んだのかぁ。何か二回目になると耐性がつくというか、どうでもよくなるな!
「聞きたいんですが、此処にいたアクアは何処にいますか?」
「女神アクアは先ほど来た転生者に特典として選ばれて向こうの世界へ行きました」
え!あんなのを特典に選んだの?そいつはバカなのか?
「それで俺はこの後どうなりますか?」
「まず確認させていただきたいのですが、相沢唯人さんは、転生ではなく生まれ変わり希望でよろしかったでしょうか?」
そう言うエリス様に俺は驚きを隠せなかった。また、選ぶの?それに・・・・・・・
「『
どちらを選んでもすぐ此処に戻る事になるだろう。予想通りなら魂レベルで繋がってる『
「その質問をするということはある程度理解されていると思いますが、上との協議の結果、貴方には『無限魔力回復機』が特典とは別に与えられる事になっていますから、天国以外選んでも大丈夫ですよ。生まれ変わりの場合は外す事が可能になった時点で、両方回収させていただきますし、さらに転生の場合今回の件のお詫びとして一つ特典を選ぶ事が出来ます」
何その厚待遇!怖いんですけど・・・・・・選べるのは一つだけど肉体の若返りも含めると実質4つとか凄くない?一つは呪われてるけど。
「転生の場合、本来であれば最初に特典を一つ選ぶ事が出来ます。今回は
蘇生って!そんなのあるのか・・・・・・まぁチートをもらってるんだからそこまでOKにする訳にはいかないのかもしれない。俺の場合は
「教えてほしい事があるのですがいいですか?」
「何でしょう?」
「まず、選択肢についてです。アクアと名乗った女性はほとんど説明がなかったものですから」
あっ!俺の言葉でエリス様が頭抱えてる。やっぱりあいつ問題児なんだな。
「取り乱してすみません。最初の選択肢ですね。生まれ変わりはそのままの意味です。記憶は消されてしまいますが元の世界に新たな命として誕生します。天国的な場所は貴方の世界の言葉で説明するのは難しいのですが、簡単に言うと何もない所でボーっとしてるだけの場所ですね」
記憶が消されるのか・・・・・・嫁さんに会うことも出来なくなるな。まぁ前世の記憶があっても生きにくそうだし生まれ変わりはしょうがない話だな、だけど天国って何もないのかよ。
「なら転生する世界について教えてください。俺のいた世界でのゲームみたいなファンタジー世界としか聞いてませんので・・・・・・」
エリス様は顔をヒクつかせてる。今の俺ってゲームでいう所のチュートリアルがほとんどなされていないクソゲー状態なのにラスボス戦で使用する装備持ち状態だからなぁ。エリス様もアクアが趣味全開で仕事放棄してるとは思ってなかったんだろうさ。
エリス様の説明は細かい所まで教えてくれた。アクアとは大違いだ。転生にしようかな。そもそも生まれ変わりをと言ってたのは意味も分からず勝手にされるのがいやだったからだしな。向こうに行けばアクアも殴れるし魔王を倒せば願いを叶えてくれるらしいから、そうすればもう一度嫁さんに会えるかもしれない。なら俺は・・・・・・
「俺は転生することにします」
「分かりました。それではこちらから特典を選んでください」
エリス様はそう言うと俺にカタログらしき本を差し出した。
ページをペラペラめくるとゲームではお馴染みの伝説の武器やら防具やらが色々と載っている。でも『
ん?これは?
「ちょっといいですか?」
「はい?」
「このスキルポイントボーナスって特典は何ですか?」
俺はカタログに載ってるページを指差した。これだけ名前で説明がない。
「まずスキルポイントですが、各職業につくと様々なスキルがあります。例をあげると、魔法を使う為にはその魔法を習得しなければなりません。その習得にスキルポイントが必要になります。適正があれば消費ポイントが少なく、適正がなければ多く必要になります。基本的にレベルが上がればスキルポイントを少しずつ手にいれる事が出来ますのでポイントを貯めて習得するのが一般的ですね。それでそのスキルポイントボーナスはレベルアップ時に手にはいるスキルポイントにボーナスが付くというものです。ボーナス量はその人の幸運に依存しますがそれでも通常の倍は手にはいります」
これにしようかな。レベルアップするのは当たり前だが、それだけじゃ勝てないのは過去の転生者達がしてるしな。
「これにします」
「承りました。それでは此方の魔方陣へどうぞ」
俺は促された魔方陣へ向かおうとずっと座っていた椅子から立ち上がろうとした。
「何事です!」
エリス様が突然魔方陣の上に溢れ出した光に問いただし始めた。光から現れたのは背中に翼を持つ天使と黒い大剣だった。流石天界。天使もいるんだな。
「申し訳ありませんエリス様。ですが、相沢唯人さんにはこちらを渡すように指示がありまして」
「それは?」
「アクア様より頼まれた技術開発局が開発した一振りなんですが、使用できる適正があるのが『
大剣をよく見ると『魔剣マスター』で主人公が使用していた人間が作り出した最高峰と呼ばれた『
「これも持って行きますか?」
「こちらにあってもその剣が不憫ですし貰えるならもらいます」
「分かりました。それとこれが向こうの世界で使えるお金になります。少しで申し訳ありませんがギルドの登録料と3日分位の生活費になります」
「ありがとうございます」
「こちらこそ多分なご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。それではこちらに」
いつの間にか天使は魔方陣からエリス様の後ろに移動しているな。さぁ異世界に行ってさっさと願いを叶えてもらおう。
「最後に相沢唯人さん、貴方に私の加護を」
俺の身体を光が覆う。なんだろう、何か暖かい。
「貴方の生に幸福があることを祈っています」
そして二回目となる青い光に包まれた。