「特別指定モンスターのゴブリンキングが元は人間で冒険者だったと・・・・・・」
「本人が言ったことが事実ならな」
騒ぐ冒険者をよそにポツンとカウンター前に立ち尽くした俺は、お偉いさんの部屋に通される事になった。
「それに育てられたゴブリン兵・・・・・・」
「多分あそこは練兵場だったんだろう」
ここに通された時に確認したゴブリン討伐数は百を越えていた。それにゴブリンキング討伐数1。
これが意味するのはシュウと名乗ったやつはモンスターに変化することでモンスターの魂も持つことになっていたということ。討伐されたことで人間としての魂は天に還り、モンスターの魂は俺に吸収されたということか。まぁ、経験値が貯まるなら良いんだけどね。
「とりあえず、魔王軍の当面の脅威を取り除いていただいた礼を言いたい。それに特別指定モンスターには賞金が掛けられているからその支払いの手続きもしよう」
マジですか?
「魔王軍準幹部ゴブリンキングの賞金は五千万エリスになる」
何だって!やったね唯ちゃん!これで家が買えるよ。
「だが今回の件で君は魔王軍からも狙われてしまうだろうね」
何ですと?
「まぁ、冒険者3日で特別指定モンスターを倒せる実力があるなら問題もないだろう」
おい、馬鹿やめろ!
「これからも君の活躍を応援させてもらうよ」
そんなんでお偉いさんとの話は終わった。人を殺した悩みなんてぶっ飛んでしまった。俺って狙われちゃうの?
「それではクエスト報酬は指定口座に振り込ませていただきます」
絶叫美人さんに伝えるだけ伝え帰る事にした。騒ぎが凄いし落ち着いて食事も出来ない。
食事の前に風呂と洗濯を終わらせ何かないかと歩く。暗くなっているが夜はまだまだこれからとばかりにこの街の喧騒は終わりそうにない。
今日は何を食べようか・・・・・・
そう考えキョロキョロ屋台をひやかしてると、杖に体重をかけふらふらしているとんがり帽子の小柄な女の子がいた。眼帯もしてるしケガでもしているのだろうか?
そしてふらふら俺の前で倒れた。
そう、俺の前で倒れたのだ。
思わず二度見してしまった。こういう時はどうしたら良いんだ?
声もかけずオロオロしてると盛大に音がなった。
その音を聞いて周りも止まりもちろん俺も止まった。本当にピタッと止まるんだな。こんなコント見たいな事態に合うのは生まれて初めてだからリアクションがこれで良いのか分からない。
「図々しい・・・・・・お願いなのは分かっていますが・・・・・・誰か食事を・・・・・・いただけませんか?」
そう、盛大に響いたのは腹の音だったのだ。
■
「すみません。助かりました」
食事の合間に礼を言われた。そりゃ探してたよ。静かに夕飯食べれる場所・・・・・・でもこれは少し違うとおじさん思います。
本当に女の子?っていうかフードファイターみたいにどこに入ってるのその食事という量を食べるちんまい女の子。
その量に周りも驚き店内は女の子の咀嚼音が響く。
俺が食べているのはサンマの塩焼き定食。こっちの世界にもサンマがあるとは思わなかった。
ギルドの場所も知らなかったちんまい女の子を案内するべく嫌々ギルドの併設している酒場に戻る事になり、食事を奢る事になってしまった俺は扉を開けた瞬間『威圧』により強制的に店内を静かにさせた。
「ここのギルドは静かですね」
なんて言って俺の後ろをついてきたちんまい女の子は、俺よりも早く席に付きメニューを開くとウエイトレスを呼びここからここまでなんて何処かのセレブみたいな頼み方をしていた。
ため息をついたのは仕方のないことだろう。
俺はちんまい女の子が座ったテーブルではなく隣のテーブルの席に座った。
「なんでそっちに座るんですか?」
「俺はタバコを吸うからだ。とりあえずメシ代は出してやるから黙って食事が来るのを待ちな」
タバコを出して灰皿とクリムゾンビアを注文する。さて何を食べようか?メニューを開くと、前回は気がつかなかったがサンマの塩焼きがある。定食もあるしこれにしよう。
灰皿とクリムゾンビアを持ってきた相変わらず語尾を噛んだウエイトレスに注文し、タバコに火を付け一本吸い終わる頃にはちんまい女の子の注文したものはあらかた届いていた。俺が注文したものが届くのを待っているのかあからさまに我慢してる感じだ。
「腹へってるんだろ、先に食え」
「いいんですか?」
ちんまい女の子は驚いたようにこちらを見る。
「出来立て食った方が旨いだろ」
「では遠慮なく、いただきます」
俺はタバコをもう一本取り出し火をつけてその様子を眺める。もしかしたらこのくらいの子供がいた未来があったのかもしれない。
そんなことを考えながらタバコを吸う。ちょっとセンチな気分だ。
吸い終わるのに合わせたのか定食が届いた。
クリムゾンビアを追加で頼み、俺も食事を始めた。
と、さっきまでを脳内回想してみたんだが・・・・・・
「ちょっと聞いてるんですか?お礼を言ってるんですから反応くらいしてください」
「あぁ」
「そう言えば名乗ってませんでしたね」
「俺は相沢唯人だ」
ちんまい女の子は椅子から立ち上がりバサッとマントを翻し、
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの・・・・・・!」
「そうか・・・・・・とりあえず座ったらどうだ?ちんまいの」
「ち、ちんまいの!」
ちんまい女の子。めぐみんだったか・・・・・・変な名前と紅い瞳。確か紅魔族ってやつか?図書館の本に書いてあったな。
「発言の撤回を!小さいのは認めますが今が成長期なんです!」
「成長期なら残ってるメシをちゃんと食え、足りなきゃ頼めよちんまいの」
「ま、またー!分かりましたよ。食べてやりますよ。すぐに大きくなってやりますよ!ってどこへ行くのですか?」
「トイレ」
「早く帰って来るんですよ!」
めぐみんに見送られ俺は席をたった。タバコをポケットにいれトイレに向かう。
あんなちんまい子供も冒険者になるんだな。さてどうしようか?あのちんまいのはメシ代がない。ってことは泊まるところもないんじゃないか?うーん、俺がこのまま宿に連れて行くとロリコンだと思われるんじゃないだろうか・・・・・・まずいな。非常にまずい。なんて考えてると、受付の絶叫美人さんが私服姿でいた。帰宅するんだろうか?
あの人に頼もう。
「すまない。ちょっと良いだろうか?」
「は、はい」
引き気味に対応された。ちょっとキズつくな。
「あそこにいるちんまい女の子だけど、街で行き倒れてたんで食事を奢ったんだけど、あの様子だと泊まるところもないだろうからこの時間からでも泊まれる宿を紹介してやって欲しいんです。もちろんお金は出しますんでお願いできませんか?」
「構いませんけど、なんでアイザワさんがそんなことするんですか?」
うーん、なんでだろう?
「・・・・・・ちんまい子供が行き倒れるような状況に思うところがありまして」
ちんまい女の子に嫁さんの小さい頃を重ねてしまったのは悪くないだろう。
「優しいんですね」
そうなのかな。
「分かりました。引き受けましょう」
「それじゃこれお金です」
財布からお金を出す。
「こんなに!」
「あの子たくさん食べてたんで。それと余ったらあの子に渡してあげて下さい」
俺はそこまで言いお金を渡し帰ることにする。
「よろしくお願いします」
めぐみんに見つからないようにスキル『
あぁ・・・・・・嫁さんに会いたいな・・・・・・
俺は星空を眺めながら宿に帰った。
■
今日は不動産屋で家の話しをした。少し街の中心から離れるが自然が残る良い場所だ。他の家もあるが隣と言っても離れているし貴族の別荘なので普段は静かだ。そんなに離れてない場所に墓地があるからかもしれないが土地代も安かったのでそこに決めた。家の形も図面で決めたので支払いも銀行から引き落としということになった。大工も余ってるので突貫でやってくれるらしい。
という訳で今は街で見つけたカフェに来ている。家も買うことが出来たし、しばらくはのんびりできると思いたいがギルドマスターの話しであった「今回の件で君は魔王軍からも狙われてしまうだろう」という言葉。からもってなんだ?準幹部を倒したんだからそんなの当たり前じゃないのか?もしかして魔王軍以外にも危険なやからがいるのか?ちょっと勘弁してほしい。そもそも魔王を倒すのもかねて女神というか天界は他所の若いやつが死んだら移民させてるんだよな?なのに魔王以外の勢力があるとするなら話しは変わってくる。願いを叶えると言いつつ魔王を倒しても別の魔王がいるからそいつも倒せと最悪エンドレスな状況になる可能性もあるのか?まぁ、今度クリスにあったら聞いてみよう。
それにジャイアントトードとゴブリン、シュウ相手にはスキル補正の脳筋作戦でどうにかなってるけどこれからはやっぱりいろいろ考えないといけないよなぁ。実際剣の振り方なんかはスキル補正でどうにかなってるけどこんな戦い方じゃ底が浅すぎる。格闘技ならなんとかなるんだけど体さばきから違うから考えないといけない。図書館に良い本ないかな。
ちょっと行ってみるか・・・・・・
ありました。『ソードマスターへの道』著者はもう亡くなった王様だ。この本を元に王国の兵士達は日夜訓練に明け暮れてるらしい。極めると『エクステリオン』という光る斬撃を放てるようになるらしい。聖騎士のスキルでもなかったということは訓練により何かを得るのだろう。
すでに『ライトニング・ソード・ビーム』があるが、これはスキル脳筋の産物だ。己の力で成してこそのスキルなんだろう。レベリングも兼ねてクエストを受けながらやっていこう。
■
あれから『スキル図鑑』と『ソードマスターへの道』を本屋で購入し、毎日、討伐クエストと修行をこなし続けている。あのちんまいのは元気だろうか?
今はギルドでクエスト終了の報告を行っている。
「そう言えばアイザワさん!そろそろキャベツの季節ですけど準備とかしてますか?」
「キャベツ?」
「キャベツの収穫の時期が近いんです」
「キャベツって野菜の?」
「緑で丸くて噛むとシャキシャキする歯ごたえの美味しい野菜です」
どうやらこの世界ではキャベツの収穫に冒険者まで駆り出されるらしい。
「今年のキャベツは出来が良いらしく良い値で買い取りになりますから傷つけないように収穫してくださいね」
うなずくしかなかった。そう言えばクエストと修行にかかりっきりになってこの世界の常識を調べるのを忘れてた・・・・・・
図書館ナウ。困ったら図書館。そんな図式が成り立ってきた今日この頃。キャベツについて調べたが、どおりでおかしいと思った。今まで野菜を頼むのが飲んでからだったから最初に掴めないのは酔ってるからだと思ったけど違ったみたいだ。生きがいいから逃げてたのか!この世界の野菜は根性あるな!捌いてからが勝負とは・・・・・・
・・・・・・いまいち気分がのらない。
なんでだよ!キャベツが空を飛ぶなよ!毎年ケガ人がでるって何?何が悲しくてキャベツと死闘を繰り広げないといけないの?
当日は別のクエストに出よう。
毎日のクエストでお金はあるし、レベルも中盤で困らないくらいまで上がったし、修行のおかげで意識と身体のズレもなくなった。
調子にのる訳ではないが、最初にくらべればだいぶ強くなった。『エクステリオン』はまだ出来ないが・・・・・・
とりあえず1日がかりのクエストを明日から受けよう。宿も家が出来るまでの宿泊料を払ってある。そうしたら朝食と夕食が出るようになった。クエストでいない日の宿泊料が当てられてるらしい。荷物も置きっぱなしなのに申し訳ない。
それにしてもこの世界の常識と元の世界の常識が微妙に違うから戸惑ってしまう。さっきの本にも書いてあったが、この間食べたサンマの塩焼きのサンマは畑で獲れるらしい。
図書館を出た俺は街を歩く事にした。ここのところ宿とギルド、そしてクエストで街の外とほとんどこの街を見ていない。
修行は休んで街を散策でもしよう。
この辺は初めて来たな。大通りから外れ路地を歩いて行く。今までは買い物も含めほとんど大通り沿いですんでいたので違った景色だ。
なんて考えてると黒いローブの塊がふらふらしている。なんか似たようなことが最近あったな。
きゅーと切ない音が響く。
あっ!倒れた。俺の幸運値って『幸運の女神の加護』のおかげで結構な数値だった気がするんだがどこへ行った?ちゃんと仕事しろ!
■
「本当に危ない所を助けて頂きありがとうございました」
大通りで開いていた屋台で食べ物と飲み物を買い与えた。
とりあえず一食分だが足りるんだろうか?
「もうこの一週間砂糖水で生活していたものですから固形物を食べるのが久しぶりで、何ででしょうか涙が止まりません」
そこまでー!
「本当にありがとうございます。命の危機でした。私は不死者のはずなのにおかしいですね」
ん?不死者?確かさっき読んだ本にあったな。
「あんたもしかしてアンデットなのか?」
少し距離を取りハイペリオンに手を掛ける。
「あっ!」
「何の目的でこの街に来た?」
「ち、違うんです。違くないけど違うんです。私はこの先にあるところで魔法具店を営んでいる。ウィズと申します」
何言ってるんだこいつ?
「・・・・・・結局アンデットじゃねぇか!」
「あうぅ、人に危害をくわえたことはないんです」
こんなアホなアンデットなら人に危害は加えないだろうな。言葉を信用するなら一週間以上まともな食事をしてないみたいだし、そんな状況なら普通は人に危害を与えて自分を満たすだろう。演技をしてるようには見えないしな。
「分かった、今回は引いておこう」
俺の言葉にほっとしたように安堵の表情を浮かべたウィズは「そうです」と言いポケットから何やら紙を取り出した。
「こちらをどうぞ」
元の世界で見慣れたもの。それは『名刺』。
「これはご丁寧にどうも。ただいま名刺を切らしておりまして・・・・・・」
思わず仕事モードになってしまった。
「名刺持ってるんですか?見たところ冒険者さんみたいですが?」
いかん、社会人の時のクセが出ちまった。
「今は理由があって冒険者だが、以前は名刺も必要な仕事をしていたんだ」
「若いのに苦労されたんですね」
若い?そうか肉体年齢が変わってるから見た目も若いんだっけ。
「これでも36歳なんだ」
「・・・・・・え?」
「実は水の女神とかいうやつに呪いをかけられて若返ってるんだ」
「水・・水の女神と言いましたか?まさか・・・・・・アク・・・シズ教の女神アクアですか?」
アクシズ教?宗教か?え?アクアってこの世界で奉られてんの?ろくでもなさそうだな。
「そんな名前だったな」
「そんな・・・・・・女神が降臨してるなんて・・・・・・」
ウィズはびっくりしてる。そりゃそうか、一応あんなんでも神の一柱だしな。
「そのアクアに呪いをかけられてな。運良くエリスって女神が助けてくれたんだ。危うく死ぬところだったな」
「エリス様まで!世界で何がおきてるんですか!」
この世界で会った訳じゃないんだけどな・・・・・・あっ!エリス様には会ったな。
「それは知らないが、まぁ特に何もおきてないだろ」
「そうなんですか?」
「何かおきてたらとっくの昔に何かしらの話が出てるだろう?」
「そうですね」
チョロいなこいつ?ホントになにしてんだろう?アンデットが店やってるのもそうだがこの街の治安はどうなってるんだ?
「そう言えば魔法具店をやってるんだっけ?」
「は、はい。なかなか売れなくてこんなありさまですけど・・・・・・」
「お前が人を襲わないんならいいさ」
よく分からないやつだが店やってるくらいだから認知はされてるんだろう。それなら倒さなくてもいいだろう。
「人を襲うなんてしません。これでも心は人間のつもりですから・・・・・・」
こいつにも何かしらあったんだろう。ただこういうのに関わるとろくなことがない。
「まぁ、それを信じよう」
こうして俺のアクセルの街の散策は終わりをつげた。