IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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 休みが……明ける……?

 終わる……終わってしまう

 ゴールデンウィーク……

 休みが……消えていく……

 これは……面倒なことに……なった……


第84話 法師

「……頼み事……?」

「うん……井上さんに……」

 

 結局三十分くらい髪を梳き続けた後、ようやくここに来た目的、本題を切り出した。

 ……なんだか井上さんの眼がすごく怖い。サメみたいに光がなくなってる。

 

「……何だ……?」

「えと、あの……井上さん、毎朝……走ったり、剣術の稽古をしたり……してるんでしょ……?」

「…………」

 

 黙って頷く井上さん。まあ、これは有名な話だ。織斑くんや代表候補生のみんなと一緒にトレーニングをしていて、一般生徒も何人か参加しているらしい。他にも剣道部の朝練にお呼ばれしたり、陸上部が挑戦しに来たりするとか。

 

「わ、私も……入れてもらえないかな……て」

「…………」

 

 井上さんは、また呆れたように小さく息を吐く。

 もちろん、そのトレーニングが参加自由――というか、単なる井上さんの日課であり、みんな勝手について行ってるだけなのは知ってる。けれどペースの速いランニングや、見ているだけで練習になるとまで言われているハイレベルな組み手が毎朝行われているということで、密かな人気行事でもある。かなり朝早いので、ちゃんと毎朝参加できている人は少ないらしいけれども。

 というわけで、一応断っておいた方がいいと思った、というのが一つ。それと、こっちの方が重要なんだけど――

 

「そこで、その……私に、稽古をつけて……もらえないかな……?」

「…………」

 

 そういうわけだ。私のお姉ちゃん、あの更識楯無を相手に完勝したという、生身での戦闘では学園最強の実力者。そしてその井上さんと稽古をしている人たちは、みんな優れた接近戦の技術を持っている。

 ……オルコットさんは、その……いまいちらしいけれど。でもそれは、組み手はあまりしてないからという話もあるし。

 

「……一夏に頼め……」

「う、うん……織斑くんにも、頼んでみたんだけど……井上さんの方が、勉強になるって言われて……」

「………………」

 

 なんだか井上さん、眉が片方ひくついたような。多分気のせいだ、そういうことにしておこう。でないと怖い。

 

「…………」

「ええと……ダメ、かな……?」

 

 私が織斑くんから聞いたのは、井上さんは実は、剣士としての才能はあまりない、ということ。なのにどうして強いのか、と訊いたら、織斑くんは「簡単な算数だ」と答えた。

 例えば。優れた才能のある人は、一のことから十を学ぶけれど。

 井上さんは、その間に百をこなし、十一を学ぶのだ。

 

 ……聞いただけで気の遠くなるような話だ。けれどそれを、井上さんは平然とやってのけて、そしてずっと続けている。もし井上さんに才能があるとするのなら、それはただ一つ、「努力の才能」だろう。

 そんな井上さんの技術は、とにかく基本がとてもしっかりしているらしい。だからこそ、限られた能力でも様々な事態に対応できるのだとか。その基本を体験し、ほんの少しでも身に付けることができれば、大いに役に立つことは間違いない。

 私はあまり接近戦が得意じゃないから、まずは土台をしっかり固めたいのだ。打鉄弐式は射撃戦型だけど、特化型じゃない。適正距離だって中距離くらいだ。近付かれることはいくらでもあるだろうし、その時に攻撃を凌げなければ話にならない。さらにもし反撃までできるくらいになれたら、戦術の幅が飛躍的に広がるだろう。

 

 ……まあさすがに、それは高望みし過ぎかな、うん。いずれはそこまでできるようになりたいけれど、そのための時間は全く足りない。今はとにかく、最低限の防御を身に付けないと。

 

 私の考えは、井上さんに対して失礼だとは思う。でも訓練を繰り返して少しずつできることが増えていくと、次第に勝ちたい、と思うようになったんだ。

 だから、失礼を承知で頼みに来た。井上さんの技を盗ませてください、と。

 そんな頼みに、井上さんは無表情のまま、頷いて答えてくれた。

 

「……構わない……」

「あ……ありがとう……」

 

 織斑くんからは、断られることはまずないと言われていたけど、やっぱり実際に言うとなるとちょっと怖い。怒られたらどうしようと思ってしまう。でもそれは、杞憂だったみたい。

 

「それじゃ……明日、お願いします……」

「……応……」

「朝早いからね~。早めに寝るんだよ~」

「…………」

 

 井上さんがジト目で本音を睨むけど、効果はない。本音は相変わらず夜更かし常習者みたいだ。たまにすごく早く寝るけど。

 

「……うん。ありがとう、井上さん……お邪魔しました」

「…………」

 

 しかし本音の言うことは間違っているわけではないし、時計を見るとそこそこ遅くなってしまっていたので、今日はもう帰ることにした。井上さんは帰りの挨拶をする私を、小さく手を上げて見送ってくれた。

 ……本音は手だけじゃなく、着ぐるみの尻尾も振って見送ってくれた。どうなってるんだろうあの着ぐるみ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 そんなことがあった翌朝。IS学園の広いグラウンド、その片隅で、己は簪と打ち合っていた。

 

「やぁっ!!」

「っ……!」

 

 広い間合いと、遠心力の乗った重い一撃。その内側に踏み込めば、待っているのは変幻自在の連撃。それらに遮られ、懐は遠く、辿り着くのは容易ではない。

 

 ……これで接近戦が苦手とは恐れ入る。実に見事な、薙刀捌きだ。

 

「せぇ! やっ、はぁ!!」

 

 思えば、長柄武器を扱う者は周囲にいなかった。一夏と箒は刀、鈴はそれより短い青竜刀、シャルとラウラは更に短いナイフだ。セシリアに至っては接近戦でも銃を使うので論外である。一応楯無会長が突撃槍を使うが、あれはIS用であって生身で扱う物ではなく、そもそも彼女とは最初の一回以来手合わせをしていない。

 そんな中で、簪の振るう薙刀は新鮮だ。柄だけでも自身の身長を優に超える大型武器を、体格に似合わず巧みに操っている。無論、刃身を柔らかい素材で覆った練習用だが、それでもそこそこ重量がある。まともに食らえばただでは済むまい。薙刀は女性用の武器というイメージが定着しているようだが、本来は戦場で活躍した強力な武器なのだ。

 

「やぁぁぁああっ!!」

 

 普段の態度からは想像もつかない、凛とした気迫。長い柄を存分に使い、てこの原理で素早く重い攻撃を放つ。柄を持ち替えることで間合いにおける死角をなくし、刃に気を取られれば石突が襲い掛かってくる。身体を軸に振るわれる薙刀は常にこちらの斬撃を阻み、まさに攻防一体だ。

 

 ……面白い。が、もう一歩、と言ったところか。

 

「疾……!」

「あ!?」

 

 袈裟切りに振り下ろされた薙刀の峰に、逆袈裟の一撃を叩き込む。打ち落としだ。

 長く重い薙刀は勢いに乗れば無双の威力を誇るが、その分崩れる時は大きく崩れ、立て直しも難しい。現に簪は前のめりになり、薙刀は両手ごと大きく下げられ、上半身が完全に無防備だ。

 対する己は、薙刀の峰を打った反動で素早く木刀を斬り上げる。首に打ち込み、一本――と、考えていたが。

 

「くっ!」

(……ほう……!)

 

 簪は崩れた体勢を立て直すのではなく、崩れる勢いのままに身体を回転させた。その際に身を屈めて己の一撃をかわし、薙刀を引き戻しつつ石突による突きを放って来た。

 

 素早く、かつ適切な判断だ。名家の娘として武術を嗜んでいるというより、跡取り候補として叩き込まれたのだろう。苦手だと言っていたのは、比較する相手が楯無会長しかいなかったからではないだろうか。そうとしか思えないほどの、見事な技の数々。一夏や箒ですら手こずるだろう。

 これは、楽しめそうだ。

 

「ふっ!」

 

 一気に息を吐き出し、踏み込んだ左足を軸にして回転する。己の脇腹を狙って突き出された石突をかわし、簪の正面を通って背後まで回り込み、回転の勢いを乗せて横薙に木刀を振るった。

 

 カァン!

「く、ぅ!」

 

 良質な木同士が打ち合わされることで、高い音が響く。簪は水平になっていた薙刀を立たせ、木刀を防いでいた。不自然な体勢で受けたせいか踏ん張りが効かず吹き飛ばされるが、簪はそれを利用して距離を取った。いくら距離を詰められても戦えるとはいえ、己の剣が届く距離は避けたいと見える。

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

「…………」

 

 技術、判断力、どちらも申し分ないが……惜しむらくは体力の無さか。動きに無駄が少ないのでかなり消耗を抑えられてはいる筈だが、それでも補いきれないほどに基礎体力が不足しているようだ。今も既に、呼吸を乱し始めている。

 普段の運動量が少ないからだろうが、本当に勿体ない。本格的に鍛えれば、良い使い手になるだろうに。

 

「…………」

 

 簪は切っ先を己に向け息を整えようとしているが、それを悠長に待つ気はない。訓練が成り立つ程度に手加減はするが、容赦はしない。息が乱れているのなら徹底的に追撃し、休ませずに体力を使わせる。

 

「ふぅ、くっ、はぁ、はっ、ぜぇ……!」

 

 打ち合うたびに、薙刀の速度が落ちていく。滝のように汗を流し、肩で息をし、動きは精細を欠いている。

 ……限界が近いな。

 

「は、ああああっ!!」

「……っ!」

 

 それでも簪は、最後の力を振り絞って唐竹を仕掛けて来た。先ほどまでの疲れ果てた様子から考えれば鋭い一撃だが、最初の頃に比べれば明らかに遅く鈍い。その一撃に切り上げを合わせ、薙刀を弾き飛ばす。

 これで、詰みだ。得物を失い気力も尽きたのか、へたり込んだ簪に木刀を突き付けた。

 

「ま……参りました……」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「なんだ、簪さん、かなり強いじゃないか」

「そ、そうかな……全然、歯が立たなかった……けど……」

「それは僕たちも同じだけどね……」

 

 そう言いながら、スポーツドリンクを手渡してくれたのはデュノアさん。一応笑顔を浮かべているけれど、なんだか苦笑に近い気がする。

 

「格闘はそこそこ自信あったんだけどなあ。何やっても通用しないんだよね。ちょっとショックだったよ」

 

 デュノアさんはさっきまで織斑くんと打ち合いをしていた。その右手には、練習用の刃を潰した大型ナイフを持っている。ナイフで防御をして、投げや関節技で制圧するのが生身での戦闘スタイルらしい。

 

「俺なんかもう、随分前に開き直っちまったよ。ムキになっても今は勝てない、って。それよりも、いつか勝てるように鍛えた方がよっぽど良い」

 

 織斑くんが肩に担いでいるのは竹刀だ。それも普通の竹刀よりも長く、しかも重い。剣道の試合じゃ使えないけど、普通の竹刀だと軽くて物足りないので作ってもらったとか。

 ……本当は木刀を使いたいけど、それで打ち合った場合、当たると大変なことになるので使えないそうだ。

 

「でも簪さんもすごいよね。失礼だけど、あんまり運動得意そうなイメージがなかったから意外だったよ。それを差し引いても十分強いし」

「あ……ありがとう……」

 

 今日のトレーニングに来ている専用機持ちは、私と井上さんの他にはこの二人だけ。みんな部活の朝練とかで参加できない日は結構多いそうだ。

 ……良かった。デュノアさんは話を聞いてくれる人だ。篠ノ之さんや凰さん、オルコットさんは、いきなり襲い掛かってくる危険性があるそうだから。

 

「それで、井上さん……どう、かな……?」

 

 さて、いよいよだ。先ほどの打ち合いでも、ずっと私の動きの細部まで見続けていた井上さん。一体どんなアドバイスをくれるのか。

 

「……走れ……」

「……え」

「…………」

「…………」

「「………………」」

 

 もの凄くわかりやすかった。

 

「うーん……俺から見ても、やっぱり目立つ短所はスタミナ不足かなあ」

「なんていうか、完成度は凄く高かったよね。武器も違うし、アドバイスできることは少ないと思うな……」

「……ええ、と……」

 

 な、なんだか予想より誉められてる気がする……でもスタミナ不足は確かに自分でも感じたし、走り込みとかしないと……。

 

「……走れ……」

「う、うん……わかった。でも……どれくらい……?」

「……倒れるまで……」

「……え゛」

 

 一瞬なんの冗談だろう、と思ったけれど。井上さんはどう考えても、冗談を言う人ではない。何より目が本気だ。怖い。

 

「――走れ」

「は、はぃ!!」

 

 静かなのに言い知れぬ迫力がある井上さんの言葉に、反射的に返事をする。そしてそのまま、疲れ切った体に活を入れ足を動かした。

 

「ぜひー、ぜひー、ぜひーっ……!」

「……遅い……」

「は、はひぃぃぃ!」

 

 平然と追いかけてくる井上さんから逃げるように、私は死に物狂いで走り続けた。それこそ、本当に倒れるまで。そんな私たちを見て、織斑くんとデュノアさんは苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 ……助けて。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 出来れば今朝の内に箒をタッグに誘いたかったのだが、箒は朝の鍛練には来なかった。部活が忙しいのだろう、己個人としては少々寂しくもあるが、しかし良いことではある。人生で一度きりの高校生活だ、出来る限り青春を謳歌すべきだ。

 

「……箒……」

「む? どうした、真改?」

 

 そして朝の鍛練で会えなかったとなれば、次の機会は昼休みになる。それなりに大事な用件だ、僅か十分しかない通常の休み時間に切り出すのはどうかと思ったのだ。

 いつものように皆と食堂へ行き、席に着く。皆と言っても、セシリアと鈴は今日、偶然にも同時にクラスの日直であり、業務があるのでここには居ないのだが。全く、なんだかんだ言いながら、色々と一緒に行動する二人だ。

 

「……タッグマッチだが……」

「ああ、私は楯無さんと組むことになった。今朝剣道場に来て誘われてな、色々と教えてくれるそうだ。一夏を鍛えた手腕を見れば、彼女の教えに間違いはあるまい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………はて。今、なんと?

 

「何せあの歳でロシアの国家代表、更には自分の手で専用機を完成させたと言うじゃないか。才能、技術、知識、練度、経験……どれをとっても申し分ない。単純な戦力以上に頼もしい存在だよ。ふふ……お前との対決を楽しみにしているぞ、真改。くれぐれも手を抜くなよ? まあ、お前に限ってそんな心配は無用だろうがな、ははは」

「……お……応……」

 

 ……箒の笑顔が眩しい。心算や思惑など一切無い、ただ純粋に己や一夏たちと戦えることを心待ちにした、美しい笑顔だった。それに比べれば、打算にまみれた己の考えのなんと汚らわしいことか。

 

「……た……楽しみ……」

「そうだろう。急遽企画されたとは言え、公式戦だ。それでお前に勝てれば……記録だけでなく、私自身にもその勝利が刻まれるというものだ。ふふふ……今から気が昇ってしまうな、はははは!」

「……………………」

 

 ……この調子で、己のパートナーについて訊かれてはたまらん。箒は己と戦うことを純粋に楽しみにしているようだし、楯無会長は己のパートナーに向けるつもりのようだが……そのパートナーが、己はまだ決まってないのである。

 

 ……いや、計画自体はあったのだが、たった今崩れ去ったと言うか……。

 

 とにかく己は、箒が笑っている内に急いで昼飯を片付け、食堂を後にしたのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 ……当てが外れてしまった。だがいつまでもそれを惜しんでいるわけにもいかない。急ぎ別のパートナーを探さなければ。

 とは言え、それはもう決まっていると言っていい。鈴である。セシリアという選択も捨てがたいのだが、初めに決めた優先順位に従うことにしよう。

 

 というわけで、放課後になってすぐ、己は二組を訪れていた。

 

「あら、井上さんじゃん。どしたの?」

「……………」

 

 扉を開けてすぐ、金髪の、見覚えのある少女が話し掛けて来た。確か鈴のルームメイトの、ティナ・ハミルトンだったか。

 

「……鈴は……?」

「あ、あの子に用? ほら、黒板消してるよ」

「…………」

 

 言われた通り目を向ければ、茶色のツインテールを元気良く揺らしながら飛び跳ねる少女の姿が。鈴だ。身長のせいで上まで手が届かないのだろう。

 ……大変失礼だが、その姿は玩具に飛び付く猫のようで微笑ましい。クラスメイトが手伝おうとしないのはそのためか。数人が頬を緩めて、鈴を眺めていた。己ももう少し眺めていたいところだが、そうもいかない。近付いて行くと、足音に気付いたのか鈴が振り返った。

 

「あれ、シン? 珍しいわね、よそのクラスに来るなんて。何か用?」

「……タッグマッチだが……」

「ああ、例の。ふふん、敵情視察ってやつ? あたしはセシリアと組んだわよ。ちょっと気に食わないけど腕は確かだし、アイツの援護があればあたしも思う存分暴れられるしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………なんだと?

 

「本音から聞いたわよ。アンタ箒と組むんでしょ? 超攻撃的コンビねえ、アンタらしいわね。けどそう簡単に流れは――」

「…………」

「……え、ちょっと。箒と組むんじゃないの……?」

「……箒は、楯無会長と……」

「……え゛」

「…………」

「…………」

「「……………………」」

 

 ……さて。少し整理してみよう。

 現在学園に在籍している専用機持ちは、一年生八人、二年生二人、三年生一人の計十一人。二年生の専用機持ちの一人は楯無会長で、もう一人は三年生の専用機持ちと仲が良く、タッグマッチ開催が決まってすぐにタッグを申請したとシャルから聞いた。

 残るは一年生の八人。一夏と簪が組み、箒と楯無会長が組み、シャルとラウラが組み、そして鈴とセシリアが組む。

 

 残るは一人。即ち己である。

 

「「………………………………」」

 

 この瞬間。

 

 己のパートナーとなる相手は既に残されていないことが、判明した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 井上真改、タッグマッチにまさかのぼっち参戦決定!

 この報は瞬く間に学園中を駆け巡り、全校生徒、教師までもが驚愕した!

 だがただ一人、他とはまるで違う反応を示す者がいた!

 

 織斑千冬である。

 

「ぷ、は、あはははははははは! あは、あははははははははははははっ!!」

「………………………………」

 

 教員室の椅子に腰掛けたまま、器用に腹を抱えて爆笑する千冬。その前に立つ真改は、もうなんとも形容出来ない目で千冬を見下ろしている。

 

「ば、馬鹿者、くは、今私の視界に入るな! わ、笑いが止まらんだろうが! ……ぷ、く、あはははははは!!」

「…………………………………………」

 

 身内ネタに弱いのか、千冬は笑い続ける。その光景の有り得なさに、教員室にいる教師たちはすわ台風でも来るのかと戦々恐々としていた。

 

「く、ふふふ……げほっ、ごほっ……ふぅ。全く、学生の時でもここまで笑ったことはなかったぞ」

「…………」

「くくっ、まあそんな顔をするな。悪気があったわけではない」

「……どうだか……」

 

 笑い過ぎて出てきた涙を拭いながら、千冬は足を組んで真改に向き直る。

 これでようやく話を始められると、真改は苛立ち混じりの溜め息を吐いた。

 

「さて、一人残った者はどうすればいいか、だな。勿論決めてある。専用機持ちが十一人では割り切れないことは分かっていたからな。お前と違って」

「…………」

 

 ここぞとばかりに追撃を仕掛ける千冬に、真改の目がどんどんスゴイことになっていく。千冬は全く気にしないどころか、むしろそれを楽しんでいるが。

 

「この場合、あぶれた一人は少々不利になる。大会はトーナメント形式で進むが、一回戦で負けた二組……その四人の内一人を選びタッグを組んで、六組目として参加することになる。

 事前に訓練出来ない、即席のタッグ……しかも相方は既に一度負けていて、消耗している。形式上、必然的にシード権を得られるが……それを差し引いても、優勝を狙うのは難しいだろうな。まあ選ばれた相方からしてみれば、敗者復活戦のようなものだ。チャンスが増えるのだから、文句は言わんだろうさ」

「…………」

 

 なるほど、と真改は納得した。そしてそれならば、真改としてはそれほどの苦にはならない、とも。

 どの組が初戦敗退しても、四人の内最低一人は普段から共に訓練をしている者が含まれる。連携には問題ない筈。消耗も、本音の力を借りれば機体の修復と補給は十分に可能だ。体力だけはどうにもならないが。

 

「お前としては、満足な戦いが出来ればそれでいいのかもしれんが……この大会は訓練を兼ねている。相方を置いて一人で突っ走るなよ。

 ……いや、この心配は、お前には無用だったか」

「…………」

「しかし意外だったな。まさかお前があぶれるとは。私はてっきり、更識の姉がハンディキャップとでも言って買って出ると思っていたんだが……そうか、奴は篠ノ之と組むか」

「…………」

「まあ、これも良い機会だ。お前に追い付こうと必死に足掻いて来た馬鹿者共の成長を、特等席からじっくりと眺めていろ」

「……了解……」

 

 聞きたいことを聞き終え、真改は教員室を去った。その背中を優しげな眼で見送ってから、千冬がぽつりと呟く。

 

「……そうか……奴がぼっちか……く、ダメだ、思い出したらっ……く、あははははははっ!!」

 

 またも笑い始める千冬。その声は廊下に出たばかりの真改の耳にもバッチリ届いていた。

 

 その後、アリーナに現れた真改は、その場に居合わせた幼なじみたちを模擬戦でボコボコにしたとかなんとか。

 

 

 

 

 




結局原作と同じ組み合わせになってしまった……ぼっちが一人いるけど。

まあ一人でいるからぼっちって言うんだけどねwwwwww



笑えねえ

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