IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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 最近お腹がふっくらしてきたので、健康のため自転車通勤することにしました。定期を解約したお金でちょっといい自転車買いました。
 毎朝片道20キロの道のりをせっせと自転車漕ぐ私。ああ健康的。少しずつ細くなっていくお腹が嬉しい。ご飯も美味しいし、いつもよりたくさん食べても大丈夫。

 そして汗だくだく。会社に着くころには足ガックガク。着替えが増えて洗濯が面倒なことになった。突然の雨で会社に放置されるチャリ。仕方なく電車で帰る。定期解約したせいで残金がみるみる減っていくSuica。せめて梅雨と夏終わってから始めればよかった。


第87話 人形劇

「何機だ!? 敵は何機居る!!」

「確認中……敵性反応、全部で……二十四っ!!」

「にっ……!? 馬鹿な、国を滅ぼせる数よ!? どうやってそれだけの数を揃えたの!?」

「そんなことは後だ、今は事態の収束に全力を注げ! 生徒と来賓を避難させろ、最優先だ!」

「戦技教官、総員IS格納庫へ! 着いた者から装着し、迎撃に出てください! 道中、封鎖されている扉は……構いません、全部ぶち抜きなさい!! 指向性爆薬の使用を許可します!!」

「了解! みんな爆薬は持ったな!! 行くぞォ!!」

「敵が向かってるのはアリーナだけ!?」

「はい、各タッグの控えているピットに向かっています!」

「敵機の形状を確認、以前襲撃して来た無人機の発展型と思われます! 四種六機ずつ!」

「フォーマンセル、六チームか……厄介なっ……!」

 

 突然の襲撃を受け、教師たちの間で指示と情報が飛び交う。混乱せずに各々の役割を果たすことは流石と言えたが、それでも余りに事態が急過ぎた。

 

 なにせ、この襲撃は。

 

 国とIS学園、両方の防空網に、全く反応がなかったのだから。

 

「完全に後手だな……くそっ!」

 

 連続発生している襲撃事件により、防空網は数段強化されていた。そしてそのたびに、それを更に上回るステルス能力で奇襲を仕掛けて来る。

 間違いなく、この「敵」は国家と学園を上回る技術を持っている。だというのに、襲撃はいつも中途半端、戦力の逐次投入だ。それが愚策であることは分かっている筈。

 

 これでは。

 

 これでは、まるで――

 

「すまない、遅くなった!」

「織斑先生!」

 

 戦場さながらの様相を呈する管制室に、凛とした声が響く。世界最強(ブリュンヒルデ)、織斑千冬が到着したのだ。

 IS学園内で緊急事態が発生した場合、作戦指揮の全権は一時的に千冬に移譲される。単純な戦力としてもさることながら、その類い希な戦闘センスは部隊運用においても遺憾なく発揮される。そして皆がそれを知っているため、千冬の指示となれば従わない者はいない。

 何より、千冬の覇気に満ちた声には、聴く者を奮い立たせる力がある。

 

「タッグマッチ参加者との通信は?」

「途絶えています、ジャミングを受けているようです! 発信源は……が、学園内!? 大変です、学園の防衛システムの一部が乗っ取られていますっ!!」

「ち……一機でアリーナを掌握するんだ、これだけ居れば当然か……」

 

 忌々しげに呟きながら、千冬の思考は高速で打開策を導き出す。

 出来るのならば、その策を取りたくはなかったが――そんなことを言っていられる状況ではない。それに、感情を抜きにして考えれば、その策以上に確実で迅速な策は思い当たらない。

 

「急いでシステムの復旧を――」

「無駄だ。我々の技術とここの設備では、恐らく不可能だろう」

「し、しかし、このままというわけにはっ……」

 

 防衛システムの奪還は必要不可欠だ。それが為されなければ、事態は一向に改善されない。不可能となれば、もはや「詰み」の状態である。

 当然、それは千冬にも分かっている。

 

「手段は問わん、探し出して連絡を取れ! 第三アリーナに居る筈だ!」

「な……い、一体誰にです!?」

 

 だからこそ彼女は、僅かな希望に縋るのではなく。

 

 反則技とも言える、鬼札(ジョーカー)を切ることにしたのだ。

 

「決まっている――

 

 

 

 ――如月重工、社長にだ!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 男は怒号と悲鳴が響き渡る観客席に居た。

 背もたれを軽く倒した椅子に深く腰掛け、足を組んでいた。

 観客席を覆う遮断シールドの向こう、四対二で繰り広げられる戦いを眺めていた。

 

「へえ、あれがダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの噂のコンビネーション、〔イージス〕か。倍の数を相手にノーダメージだなんて、大したものだねえ。防御が完璧だからこそ、反撃も容易い……てことかな」

 

 周囲の喧騒をよそに、男は紅茶を一口飲む。その芳醇な香りと豊かな味わいに舌鼓を打ち、まるで映画でも観るように、眼前でおこなわれる戦闘を楽しんでいた。

 

「お、あれもかわせるのか……さすがに当たると思ったけどねえ。む? これは、今度こそ……おおっ、またかわした! いやあ、すごいすごい! 実に見事なものだねえ、ふははははっ!!」

「――如月重工社長の、如月様ですね?」

「……うん?」

 

 盛り上がっているところに声を掛けられ、しかし素直に振り返る。そこにはスーツ姿の見慣れない女性がいた。しかし手に通信機を持っていることから、男――如月社長は、女性がIS学園の教師であることに気付く。

 

「そうだけど、何か用かな?」

「来賓の方にこのようなことをお願いするのは、非常に心苦しいのですが……あなたの力をお借りしたいのです」

「え? いいの?」

「このようなこと、大変失礼であることは重々……え?」

 

 女性は一瞬、耳を疑った。断られる可能性が高いとすら思っていたのに、返って来たのは喜色に満ちた声と笑顔。そこに得体の知れない不気味さを感じた。

 まだ用件すら言っていないのに、この男はその内容を知っているかのように、快諾したのだ。

 

「うん? 学園のシステムを奪還して欲しい……ってことじゃないの?」

「は、はい。その通り、ですが……」

「ただそれをやると、少なからず学園のシステムに侵入することになるから、一応自重してたんだけど……いいのかね? やっちゃって」

 

 女性は恐怖した。目の前に居るこの男が、とても人間とは思えなかった。

 世界でもトップレベルのファイアウォールを持つIS学園の防衛システムを、すんなり掌握した「敵」。その底すら見えない力を前にして、この男は――

 

「……織斑先生(ブリュンヒルデ)から言伝です。

『あなたは学園のシステムなどには全く興味がない。だからこそ、任せることが出来る』

 ……どうか、お願いします。学園の防衛システムを奪還し……可能であれば、「敵」の素性を明かす、手掛かりを……どうかっ……!」

「……うふふふふ。いいよ、学園の依頼があるんなら、思う存分やってあげようじゃあないか!!」

 

 深々と頭を下げる女性は、もはや如月社長の視界に入ってはいなかった。如月社長は懐から携帯電話を取り出し、いずこかへコールする。

 

 高性能の通信機すらまともに機能しないジャミングの中で、さも当然であるかのように、電話は繋がった。

 

『社長。また私に黙って「仕事」ですか。今日は出社されるご予定だったと記憶しているのですが』

「いやあ、開口一番辛辣だねえ児島君!」

 

 通話相手は、如月社長の秘書を務める男、児島。感情の感じられない平坦な声で、フットワークが軽すぎる社長を諫めるが、無論効果はない。

 

「それよりも、IS学園から依頼だよ、児島君! 高度なサイバー攻撃を受けて手も足も出ないから、手伝ってほしいとのことだよ!」

『そうですか。では、準備します』

「テンション低いねえ児島君!」

 

 むしろなんでこんなにテンションが高いのか。如月社長の様子に気圧されながらも、女性は不思議に思う。

 

「待ちに待った第一回戦、第一ラウンドの始まりだよ! 宣戦布告はとうに済ませている、何も遠慮することはない! いっちょう派手に、ぶちかましてやろうじゃあないかっ!!」

『わかりました。社の総力を以て、叩き潰します』

 

 通話を終えた社長は、腹を抱えて背中を丸め、全身で笑いを堪えた。そうしなければ呼吸困難になりかねないほど、楽しくて仕方がないのだ。

 

「うふ、うふふふふ……あなたには言ったよねえ、束博士。僕は勝利のために、殺意を持って行動すると。あなたにとっては牽制のジャブのつもりかもしれないけれど、僕はそれに対してさえも、渾身のカウンターを狙わせてもらうよ」

 

 背中を丸めたまま上げた顔、その眼がギラリと光り。

 

 戦い続ける無人機を、睨み付けた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 第三アリーナの通路。Bピットを目指して、四機の無人ISが進んでいた。

 その四機は、基本のフレームはほぼ同じだが、装甲やスラスター、武装、追加装備等により性能を変化させ、部隊として機能するよう造られていた。その姿はかつてIS学園を襲撃した無人機と似た印象でありながら、人間女性のようなフォルム――まさに戦乙女と呼べるカタチに洗練されている。

 

 右腕が銃剣付きのビームライフル、左腕が物理シールド。武装を最小限にすることで、機動力と防御力を両立した機体――強襲型。

 

 両腕が連射可能かつ高威力の大型ビームカノンになっており、広範囲に強力な制圧射撃を続けることが出来る機体――支援型。

 

 小型のビーム兵器を持ち、両脚の関節とスラスターが一つずつ増設され、通常のISとは一線を画す機動が可能な機体――奇襲型。

 

 全身を隠すほどの左腕の大盾と、右肩に直接繋がった巨大なビームカノン。圧倒的な射程距離と命中精度を持つ機体――狙撃型。

 

 総じてゴーレムⅡと名付けられた、四機一組の無人機部隊である。

 

『――――』

 

 それらは一糸乱れぬ動きで、通路を飛ぶ。学園内のマップは全て入力されている、迷うことは一切なく、標的目掛けて飛んで行く。

 

 ――が。

 

『――――?』

 

 しかし突然、その動きがピタリと止まる。想定外の事態が発生したからであった。

 

『――――』

 

 ゴーレムたちにより掌握されている学園の防衛システムに、何者かが侵入している。そしてゴーレムたちがファイアウォールを突破するよりも早くプロテクトを書き換え妨害し、さらにはサイバー攻撃の経路まで追って来ていた。

 

 放置すれば、作戦失敗どころか――自らの創造主にまで到達するかもしれない。

 

『――――』

 

 ゴーレムたちは優先目標を変更し、転進した。一刻も早く、妨害の元を断たねばならない。

 幸い、その居場所は早々に見付けることが出来た。妨害をしている者たちは学園の外に居るようだが、その指示を出している者はこのアリーナに居る。通信を隠そうともしていなかったため、探知することは容易かった。

 

『――――』

 

 通路を進み、角を曲がり、観客席まであと数秒。そして観客席に出れば、機械特有の精密射撃と躊躇のなさにより、目標は一瞬で殺害されるだろう。

 

 ――観客席まで、無事に辿り着ければ。

 

「――不通」

『――――!?』

 

 ゴーレムたちが、歩みを止める。その視線、無機質なセンサーが見つめる先には、一人の少女が居た。

 

「……進みたくば……」

 

 たった一人。当然、展開されるISも一機。四対一という、敗北など考えられない戦力差。

 なのに。その筈なのに。その計算に、間違いなどない筈なのに。

 

 何故、勝利という解答が、導き出せないのか。

 

「……その首を、置いて逝け――」

 

 そしてゴーレムたちは、知ることになる。

 

 機械には、決して辿り着けない領域があるということを。

 

 生涯を掛けて、たった一つを磨き続けた狂人のみが至れる極致を。

 

 文字通りに、その身に刻みつけられることになる。

 

 井上真改という、剣鬼によって。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ちぃ……なんなのよコイツら!? いきなり出て来てっ!!」

「それに、なんだか以前見たことあるような気がしますわ……!」

「ああ、あの忌々しいお人形さんねっ! 性懲りもなくぶっ壊されに来たってとこかしら!」

「いいでしょう、なら望み通り、全て焼き尽くして差し上げますっ!!」

 

 鈴とセシリアは、第二アリーナ内でゴーレムたちと戦っていた。数で勝る敵を相手に、お互いの背後をカバーし合いながら攻撃を繰り返す。

 

「でぇりゃあ!」

『――――』

 

 渾身の力を込めて振り下ろした双天牙月は、強襲型の盾に阻まれる。丸みを帯びた表面が重厚な刃をいなし、その隙に右の銃剣が振るわれる。

 

「こん……のぉ!」

 

 首を狙った斬撃を上体を逸らしてかわし、いなされた双天牙月の重さを利用して回転、後ろ回し蹴りを放つ。強襲型がその蹴りを退がってかわしたところに、再び双天牙月を逆袈裟に叩き込んだ。

 

「たぁっ!!」

『――――』

 

 強襲型は、その一撃を銃剣で受ける。頭上に翳した銃剣、その銃口が自分の頭を向いていることに気付き、鈴は慌てて後退する。

 

「くっ……味な真似してくれんじゃない!」

 

 本来遠距離武器である銃火器で、近距離戦闘をこなす。シャルロットとの戦闘経験がなければかわせていたか分からない、強力な戦術であった。

 

「でもね……どれも、中途半端なのよっ!!」

 

 盾の扱いなら、シャルロットの方が遥かに上手い。射撃技術においてもラウラ、セシリアとは比べ物にならず。接近戦で言うのなら――話にもならない。

 

「この凰鈴音を、舐めるなぁぁぁああっ!!」

 

 ビームライフルを連射する強襲型に突撃を仕掛ける鈴。放たれる熱線はバトンのように高速で振るわれる双天牙月に撃ち落とされ、身体まで届かない。一気に距離を詰めた鈴は、遠心力を存分に乗せ、さらには機体ごと縦に回転させて、唐竹の一撃を叩き込む。

 

「だぁりゃあああああっ!!」

『――――!』

 

 甲龍に可能な最大威力の斬撃は、それを受けた銃剣に食い込み刃の半ばまでを断ち切った。だが、銃身を歪めるまでには至らない。衝撃を分散する構造になっているのだろうか、これでは銃としての機能は奪えていない――そう考える間もなく、龍咆を零距離から連射し双天牙月を引き抜いた。強襲型が、左腕のシールドで殴りかかって来たからだ。

 

「ラフファイトもこなすってわけね……セシリアっ!」

「言われなくとも!」

 

 鈴がシールドを受け止め、強襲型の動きを止めた瞬間。強襲型の背中に、六条の閃光が突き刺さる。セシリアのブルー・ティアーズ・スバル、そのビットから放たれたレーザーだ。

 一つ一つが巨大な砲身となったビットのレーザーは、スターライトmkⅢと比べても遜色ない威力を持つ。その一斉射撃を受けたとなれば、防御力に優れた強襲型といえど大ダメージは免れない。

 

「とどめぇっ!!」

「待って、鈴さん!」

「!?」

 

 体勢を崩した強襲型を一息に撃破しようとした鈴だが、セシリアの声に止められる。その瞬間、眼前を光の豪雨が通り過ぎた。

 セシリアに抑えられていた支援型が、ビットが離れた隙を突いて強襲型の援護に向かったのだ。

 

「うわっ!? あっぶな……」

「まだです! 次、来ますわよ!!」

「ああっ、もう!!」

 

 見れば、奇襲型も鈴に銃を向けている。威力は低いが、それでも連続で受ければ危険だ。変幻自在の機動力により、いつどこから撃たれるのか読みにくい。他のゴーレムたちに気を取られれば、何度でも不意打ちを受けることになる。

 

「墜ちろっ!!」

 

 龍咆を奇襲型に向け、連射する。威力よりもとにかく多く撃ち、少しでもダメージを与えようという狙いだった。だが奇襲型は、通常のISよりも関節が一つ多い、鳥類のような脚部に装着された大型スラスターにより、まるで空中でジャンプするかのように急加速した。狙いを外し舌打ちをする鈴に、再び強襲型が襲い掛かる。

 

「こいつ……! さっきからベッタリ張り付いて来て、ウザったいのよっ!!」

 

 もはや強襲型の役目は明白だった。鈴に他のゴーレムの相手をさせないこと――つまり、文字通りの「盾」である。元々対多数に優れたブルー・ティアーズは抑えきれないと判断し、即座に鈴を標的に定めたのだ。

 セシリアの援護によりどうにか包囲されることは免れているが、しかし強襲型に常に射程距離に捉えられているため、自由に動き回ることが出来ない。強引に突破しようにも、シールドは分厚く破るのは容易ではなかった。

 

「鈴さんっ!」

「わかってるっ……ての!」

 

 そして脅威なのが、高出力ビームの高速連射――支援型による制圧射撃だ。威力、弾数共に凶悪なその射撃は、直撃すればひとたまりもない。僅かでも動きを止めれば即撃墜となりかねないのだ。

 だからこそセシリアは優先的に支援型を妨害していたが、数で勝り性能でも劣らぬ相手をいつまでも抑えてはいられない。隙を突いての散発的な攻撃しかさせていないのは流石と言えるが、倒せなければジリ貧だ。

 

 強襲型だけでも倒せれば、一気に形勢逆転出来るだろう。だが鈴だけでは押し切れず、セシリアはそちらまで手が回らない。次第に、少しずつ、焦りが生まれ――

 

(……待って)

 

 鈴は、見落としていた。重大なことを。

 

(コイツら、四機いたはず)

 

 そして、慌ててアリーナ内を見回し。

 

(あと一機は……どこっ!?)

 

 見つけた時には既に、鈴にはどうしようもない状況になっていた。

 

「っ!!」

『――――』

 

 視線の先に居るのは、最後の一機、狙撃型。腰から二本の補助脚が伸び、一時的に四つ脚となって砲を構えている。

 左腕のシールドは大きく、隠せていないのは砲だけだ。その砲は、右肩に直接繋がった、本体の全長を優に超える巨大なビームカノン。その砲口から漏れ出る光の量が、直後に放たれるであろう一撃の威力を物語る。

 

 即ち。当たれば、死ぬ。

 

『――――』

 

 機械であるゴーレムには、躊躇も容赦もない。当たると判断すれば、その瞬間に発砲する。

 そして今、四本の脚によりしっかと固定された機体は、巨砲を構えていながら微塵の揺らぎもなく。

 照準は寸分の狂いもなく、鈴を捉えていた。

 

『――――』

 

 ISを操縦者ごと蒸発させる、超高温の熱線は。

 

「――視えていますわよ」

 

 暴発し、狙撃型の右半身を粉微塵に吹き飛ばすことで、その威力を見せ付けた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「このセシリア・オルコットの目が届く場所で、狙撃ができると思いまして?」

「カッコつけるのはいいけど、流石にヒヤッとしたわよ今のは……」

 

 見るも無惨な有り様になり沈黙する無人機。それを若干引き気味に眺める鈴の横に、長大な砲身――ブルー・ティアーズ・スバルのビットが浮かんでいる。その砲口は、たった今撃ち抜いた狙撃型へと向けられていた。

 

「で? 狙ってたの? 今の」

「当然ですわ。あのような見るからに防御の固い敵に対して普通に攻撃していたのでは、日が暮れてしまいますから」

 

 正面からの攻撃に対しほぼ全身を分厚い盾で守っていた狙撃型の、唯一と言っても良い隙。それは、ビームカノンの砲口だ。

 鈴を狙うということは、鈴からも狙えることでもある。とは言え、それは理論上は可能というだけで、生半可な難易度ではない――のだが。

 

「脚を止めて、しっかりと体を固定すれば、確かに射撃は安定するでしょうが――それでは撃ってくれと言っているようなものですわ。身動きが取れないのなら、いくらシールドで守っていてもただの的です。そんなもの、ほんの僅かに、ほんの一瞬でも射線が通れば、わたくしには十分過ぎますわ」

「あっそー。そりゃすごいわねー」

「もうちょっと感心してもよくはありませんか!?」

 

 素っ気なさ過ぎる態度の鈴にセシリアが怒る。しかし鈴としては、別に驚くほどのことではないのだから、こんな反応になるのも当然である。

 

 何度も喧嘩して、何度も共闘した。鈴がIS学園に来てからは、敵に回したことも味方に付けたこともセシリアが最も多い。セシリアには何が出来るのか、それを鈴は知り尽くしているのだ。

 ビームが発射される瞬間に砲口を狙い撃ち、チャージしたエネルギーを暴発させる程度の芸当が、セシリア・オルコットに出来ないわけがない。

 

「さーてそれじゃあ、残りは三機ね」

「ええ。この様子だと、他の皆さんのところにも行っているでしょうし……」

「さっさと片付けて、援護に行くわよ」

 

 早々に一機撃破した二人であったが、それはただ相性が良かったからだ。残りの三機は、いまだ強敵として立ちはだかっている。一機墜とされ警戒を強め、一層厄介な相手となっているだろう。

 

「……やっぱりあの盾、アイツがウザいわ。ちょっと叩きのめしてくるから、その間残りの奴らを近付けさせないで」

「わかりましたわ。……ところで、鈴さん」

「なに?」

 

 しかし二人は、慎重に、堅実に攻めるつもりなどなかった。とにかく一秒でも早く全機撃墜し、仲間の下へ駆けつけ――そこに居るであろう無人機たちも、全て破壊するつもりであった。

 それくらいには、怒っているのだ。

 

「近付けさせないのはいいですけれど……別に倒してしまっても構わないのでしょう?」

「片方は残しときなさいよ。アンタもう一機墜としてるんだから、それで半々でしょ?」

「なら、お急ぎくださいな。わざわざ待って差し上げるつもりはありませんから」

「ほー、言ったわね。じゃあ速攻片付けたら、あたしが全部貰ってもいいってことよねっ!!」

 

 更に言えば、相手は無人機だ。人が乗っているのなら多少の手心は有り得たかも知れないが、無人機相手に情けをかける道理は微塵もない。徹底的に破壊し尽くすことは、もはや決定事項である。

 

「あたしのダンスはちょっと荒っぽいわよ! お行儀のいいアンタに付いて来れるかしら!?」

「鈴さんこそ! わたくしの華麗なステップに遅れを取らないよう、精々頑張ってくださいな!!」

 

 双天牙月を振り上げ突撃する鈴。

 ビットを飛ばしスターライトmkⅢを構えるセシリア。

 迎え撃つは、三機のゴーレム。

 

 怒りに燃える少女たちと心無き人形たちの戦いは、激しさを増していくのだった。

 

 

 




何気に鈴とセシリアって、能力的に相性良いと思うんですよね。攻撃が見えない鈴の龍咆と、数で翻弄するセシリアのビット。適性距離もグッド。ちゃんと連携取ればかなーり強いんじゃないかと。まあ個人的にそう思うだけですが。

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