残念、嘘予告だ(ごめんなさい
世界最強にして女性にしか扱えない兵器、ISの操縦を学ぶためのIS学園の入試会場に、どういうわけか、二人の男子がいた。
一人は日本人らしい黒髪黒眼、中肉中背で中々に整った顔立ちの少年。手に持った紙と睨めっこしながら、あーでもないこーでもないと、ぶつくさぼやいている。
そしてもう一人は、少年と呼ぶのが憚られる、250センチはあろうかという長身を、岩の塊のように鍛え上げた巨人である。
「迷っちまったなあ、イィィチカァァァァッ!!」
「うるせえよ!? こんなところでそんなことを大声で言うな、この単純馬鹿!!」
「ハッハー!」
日本人の少年は織斑一夏。そして大柄(どころの話ではない)な少年(?)はヴァオー。
「オレの名前はヴァオーだ! よろしく頼むぜぇ、みんなぁぁぁ!!」
「やかましい! お前は普通の声量で喋れんのか!?」
「そいつは無理ってモンだぜ、千冬さぁぁぁぁん!」
「織斑先生と呼べ!」
「ハッハー!!」
振り下ろされる出席簿。普通にやっても届かないのでジャンプする姿がちょっとラブリー。
「わたくしを知らないですって? このイギリス代表候補生にして入試首席、セシリア・オルコットを!?」
「悪ぃなあ、オレぁ人の名前覚えるのが苦手なんだ!」
「んなこと胸張って言うんじゃねぇよ!」
少女たちとの出会い。
「こ、のっ……! 決闘ですわ!!」
「上等だぁ!! 分かり易いのは、嫌いじゃあないぜぇ!?」
そして(何故か)戦い。
「これがヴァオー君の専用機、〔グレディッツィア〕ですっ!」
それは異形だった。
操縦者の少年(?)に合わせたのか、高さ四メートルはあろうかという巨躯。
隙間なく施された白い
武装は右腕に巨大なバズーカ、左腕に二門、両肩に三門ずつ、計八門もの六連装大型ガトリングガン。
この怪物を見た誰もが思った。
これはISではない、要塞だ。
「あら、逃げずに――ってなんなんですのその機体!?」
「見りゃあわかんだろうが! オレの専用機だぜぇ!?」
「そんな巨大なIS、見たことも聞いたこともありませんわ!」
「ハッハー! 細けぇこと気にしてるとハゲるぜぇ!?」
「ハゲ……!? レ、レディになんてことをおっしゃいますのっ!?」
少年にはデリカシーなどない。
「くっ、なんという弾幕……! ですが、この程度で墜ちるわたくしとブルー・ティアーズではありませんわ!!」
「ハッハー! 望外だぁ! 悪くないぜ、セシリアァァァァァッ!!」
あるのはただ、無尽蔵の弾薬と、無限の闘争心のみ。
「久しぶりだなぁ、リィィィン! 相っ変わらず小せぇなあ!?」
「うっさいわね!? アンタがデカ過ぎんのよ、この単純馬鹿!!」
幼なじみとの再会。
突如乱入した敵。苦戦する親友。閉じ込められ、手も足も出ない自分。
だが、そんなことは関係ない。愚かな自分はただ信じ、行動するのみ。
「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
「そうだぜ、イチカァァッ! オレのダチなら、きっちり決めろぉぉぉぉ!!」
「馬鹿野郎が……んなこと言われたら、是が非でも気合い入っちまうじゃねぇか!!」
弾丸が届かぬのなら、せめてこの声を。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
「ハッハー! 嫌われたモンだなぁ、イィチカアァァァ!!」
「うるせえ、ぶん殴るぞてめえ! 今明らかにそういう雰囲気じゃねぇだろ!?」
「な、なんだ貴様!?」
軍人すらビビらせる威圧感。
「織斑君のグループに入れて〜!」
「デュノア君、よろしく!」
「私は織斑君と!」
「デュノア君で!」
「織斑君!」
「デュノア君!」
「織斑君!」
「デュノア君!」
「オレもいるぜぇぇぇぇ!?」
「「「「「「「「いや、生身でISより大きい人はちょっと……」」」」」」」」
「そりゃあないぜイィィチカァァァァッ!!」
「俺に言うなっ!」
大は小を兼ねないこともある。
「じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか」
「なんならオレのを貸すぜぇ、イチカァァァ!」
「そんなデカいので練習になるか!?」
「あはは、二人は仲いいんだね」
もう一度言おう、大は小を兼ねないこともある。
「ねえねえ、第三アリーナで専用機同士が模擬戦してるよ!」
「ほんと!? 誰と誰?」
「片方はわからないけど、もう片方はすごく大きかったから、多分ヴァオー君だよ」
「「「……え?」」」
三人は同時に思った。
何だろう、嫌な予感がする。
「このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前では、実弾兵器など無力だ」
「ハッハー! なら止めてみせろぉ!! 弾ならまだまだ、腐るほどあるぜぇぇぇぇ!?」
「え、ちょっ、おま、いくらなんでも多すぎ――」
毎秒百発の大口径ガトリングガンが八門、合計毎秒八百発。
故人曰わく、数は力なり。
「あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
「落ち着けぇ、イチカァァァ!!」
「……お前に言われると、なんか落ち着いたな」
「そりゃオレを馬鹿にしてんのか? ……とにかく、白式はもうエネルギー切れだ。このまま行っても死ぬだけだぜぇ?」
「じゃあどうすんだよ。あの偽物野郎が先生たちに制圧されんのを、黙って見てろってのか? ……冗談じゃねえ。あいつは、俺がぶっ飛ばさねえと気が済まねえ」
「んなこたぁ分かってるぜぇ、イチカ。エネルギーがねえなら、オレのを分けてやる。グレディッツィアはこのガタイだ、白式のエネルギーくらいなんともないぜぇ!!」
姉を真似る黒いISに、生身で挑もうとする親友を支える。その身体は、伊達に大きい訳ではない。
「白式は展開出来た。……そっちは大丈夫か? ヴァオー」
「ハッハー! 当っっったり前だぁ!! 誰に口聞いてやがんだよぉ!!
――まだまだ行けるぜ、イィィィチカアァァァァァァッ!!!」
「……ったく、頼もし過ぎるんだよ、お前は――!」
その巨躯は、仲間を守る城壁であり、災厄を打ち砕く鉄槌である。
自らの信じる「強さ」が敗れ、少女は少年に問うた。「強さ」とは、なんであるかを。
少年は答えた。「強さ」とは、自らの心の在り方だと。
その答えを聞き、少女は、もう一人の少年にも問うた。「強さ」とは、なんであるかを。
少年は答えた。考える素振りもなく、初めから、答えは決まっていると言うように。
――胸を張って、少年は、答えた。
『「強さ」だあ? んなモン、オレが知る訳ねえだろうが』
『オレは戦うしか能がねぇんだよ。他のこたぁ、なーんも、出来ねぇんだ』
『だからせめて――なんのために戦うのか、誰のために戦うのかくれぇは、自分で決めてぇんだよ』
『まあそれも、言うなりゃ自分のためだけどなあ、ハッハー!』
『だからオレは戦ってる。「強さ」だとかなんだとか、そんなモンはどうでもいいんだよ』
『人間なんざぁ、いつ死んじまうかわかんねぇからなあ。だからいつ死んでも悔いが残らねぇように、オレぁオレに出来ることを、いつだって全力でやってるだけさ』
『だからオレは戦ってるのさ。なにせオレぁ、戦うくらいしか能がねぇ、単純馬鹿だからなあ!! ハッハー!!!』
一切の迷いがないその答えを聞き、少女は思う。これもまた、ひとつの「強さ」の形なのだろうと。
「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」
「……嫁? 婿じゃなくて?」
「おいおいラウラァァァァァッ! オレにはチューはねえのかよおぉぉぉっ!!?」
「え、だって届かないし……」
けどやっぱり大は小を兼ねないこともある。
臨海学校。
黄金の太陽、青い海、白い砂浜、色とりどりの水着に身を包んだ年頃の少女たち、そして戦艦と見紛うほどの巨躯。
「うぅぅぅぅみぃぃぃぃだぁぁぁぁぁっ!!!」
「うるせえええぇぇ!? 海なのに山彦が返ってきそうだぞ!?」
「ハッハー! 上手いこと言ったつもりか、イィィィチカァァァァァ!?」
「だからいちいち叫ぶんじゃねぇよっ!!」
「……お前ら。旅館では静かにしろよ、頼むから」
教師はなにかを諦めた。
「この料理旨ぇなあぁ!!」
「だからいちいち叫ぶなっ! 騒ぐと千冬姉が――」
「私は言ったぞ、旅館では静かにしろ、と。そうか口で言っても分からんかそれなら仕方ない。今から砂浜をランニングしてこい。50キロほど。砂浜は良いぞ、足腰が鍛えられるからな」
「そうだなぁ、ちょっくら行ってくるか、イィチカァァァ!」
「走るのかよ!? ていうか俺を巻き込むなあ!!」
単純馬鹿には冗談も脅しも通じない。いろんな意味で。
「久しぶりだなぁ、束さぁぁぁぁん!!」
「久しぶりだねぇ、ヴァーくぅぅぅぅん!!」
「……なんだこれ」
感染しました。
そして事件は起きる。
洋上を高速で移動する敵機を討ち取るべく、少年と新たな「力」を手に入れた少女が飛び立つ。
「きなくせえなあ。なんかある気がするぜ」
「どうしたヴァオー。やけに静かだな」
「……ホウキ」
「うん? なんだ?」
「帰ってこいよ」
「? 妙なことを言うヤツだな。心配せずとも、私と一夏なら問題ない。紅椿もあるしな」
少女は気づかない。巨躯の少年が、何を案じているのか。
そして、その不安は現実となった。
「白式と紅椿、第四世代型IS二機を相手にして、難なく勝利、か……どこぞの首輪付きを思い出すなあ、メルツェル」
「ヴァオー? 何を言ってるの……?」
「なんでもねぇよ、シャル。……さあ行こうぜぇ! イチカの弔い合戦だあ!!」
「一夏は死んでいない!」
「縁起でもないこと言ってんじゃないわよ!」
「ハッハー!」
そして巨躯の少年と少女たちは戦いに赴く。
傷付き倒れた仲間のために。
「くそ、これほどとはっ……!」
一度は追い詰めた。
しかし敵は真の力を顕し、反撃の牙を剥く。その圧倒的な力に、次々と倒れていく少女たち。
「ダメだ、このままじゃ……!」
戦うと誓った。しかし絶対的な力の差に、心が折れそうになる。
されど忘るるなかれ、戦っているのは少女たちのみに非ず。
巨躯の少年もまた、己の存在意義を賭け、戦っているのだ。
かつて守れなかった戦友たちに、報いるためにも。
「どこ見てやがる!! てめえの相手は、このオレだあぁぁぁ!!」
「ヴァオー!?」
戦うと決めた。
こんな自分を必要だと言ってくれた友を、守れなかったから。
こんな自分に付き合ってくれた友を、守れなかったから。
――こんな自分と共に笑ってくれる友を、守りたいから。
それだけが、戦うことしか出来ない自分の、たったひとつの、願いだから。
たとえ腕がもげようと。
たとえ足が千切れようと。
たとえ眼を灼かれようと。
たとえ心臓を抉られようと。
他でもない、自分のために。悔いなど無いと、笑いながら逝くために。
この命、尽きるまで。
――戦い抜くと、決めたのだ。
「ヴァオー、無理だ! 退がれっ!!」
だから、それは聞けぬ。自分は少女たちを守るために、ここにいるのだから。
「退がれだあ? 相手見てモノ言えよ。オレにそんな頭のいいこと、出来る訳がねぇだろうがああぁぁぁ!!」
だから、安心して欲しい。
これが、これこそが、巨躯の少年の望みなのだから。
「ハッハー! まだまだ行けるぜ、ホウキィィィィィィ!!」
少年が目を覚まし、新たな力を手に戦場へ駆けつけた時。
ただ一機、白い装甲が、不破の城壁の如く堅牢さでもって、敵の前に立ちふさがっていた。
「わりい、遅れたな」
「ハッハー! もうちょい遅けりゃ、オレが見せ場を独り占めしちまってたぜぇ!?」
「そいつは良かった。ならまだ、俺の分も残ってるってことだよな」
「くれてやるぜぇ、イチカ。後ろは気にすんな、流れ弾は全部吹っ飛ばしてやるからよぉ!!」
「はっ、マジで頼もしいぜ、ヴァオー!!」
巨躯の少年は、自らの全身を覆う装甲に感謝した。
負けられぬ戦いに赴く親友に、深く貫かれた胸を、見られずに済んだのだから。
(……目が霞んできやがった……へっ、ここまでか。だがまあ、どうにか守れたみてぇだし)
残された力を振り絞り、少年と少女たちの顔を、その瞳に焼き付ける。
――ああ。これはなかなかに良い、冥土の土産だ。
「悔いはねぇ。……楽しかったぜ、イチカ」
そう、悔いはない。
何故ならばこんなにも、安らかな気持ちで逝けるのだから。
――こうして。
かつて友のために戦い、友と散った男は、今度こそ友を守り切った誇りを胸に、二度目の生を終えたのであった。
ヴァオー設定
とにかくデカい。某狂戦士並にデカい。
グレディッツィア=カブトムシ→ヘラクレスってことで。
ISとか抜きにするとめちゃくちゃ強い。刃○の世界でもやってけるくらい。自転車でダンプ轢ける。
地元の「超大盛り○○、○分以内に食べきったら○千円」とかやってる店には必ず「ただしヴァオー、テメーはダメだ」の但し書きがある。